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 お母さんはしばらくこの領地に居るらしい。お父さんからちゃんと許可はもらったんだって。

 お母さんは領主の妻たちをさっさと捕まえて役人に渡していた。お母さんはなんてすごいんだろうって本当にそればかり思う。



 ……私はお母さんと比べると全然だなぁと思うと、少しだけ落ち込んでしまう。

 私って英雄の娘で、お母さんに似ていると言われていも全然だなぁと何とも言えない気持ちでいっぱいなのだ。



「一先ずはこれでよくて……、そこの領主はそのうち治るとしてー。跡継ぎ問題はどうするのかなって感じだね」



 お母さんは呑気である。にこにこと笑って、今日も元気だ。



 《炎剣帝》がこの街に居ることは噂になっていて、領主の館の周りにはその姿を一目見ようと人が集まっている。領主が錯乱したと噂され、大変な状況になっていたこの辺境の地。

 ――領民達は暗い顔をずっとしていたけれども、今は、表情が明るくなっている。



 お母さんは凄いなぁとそう思ってならない。一人いるだけで、こんなにも場の雰囲気が異なるのって、お母さんがそういう人だからだ。



「跡継ぎ問題……」

「ええ。だって正妻とその息子は今回の件で罪に問われるでしょ。だからこそ誰が跡継ぎになるかって問題だよ? ユギくんは領主の息子でしょ? 継ぐ?」



 お母さんは軽く言いすぎだなぁ……と私はそんな風に思う。



 いや、確かにさ、ユギは領主の息子で、この領地を継ぐ権利はある。とはいえ、ユギはこれまで平民として生きてきたのだ。

 いきなり貴族の領地を継ぐなんてことになったら、大変だろう。だって貴族と平民って明確に違いがある。貴族から平民になるのも、平民から貴族になるのも――どちらもとても大変なんだもん。

 私はユギが大変な思いはしてほしくないなと思っているけれど、本人が望むならそれを応援したいなとは思った。






「えっと……庶子の俺が、そんな簡単に継げるんですか?」

「継げるよ? というか少なくとも私は認めるから、そしたら皆、文句言わないよー。文句言う人間は黙らせればいいんだよ?」



 お母さんは本当にそれだけの力がある人なのだ。お母さんが一言いえば、この国では基本的に許される。この国にずっと貢献してきた英雄騎士だからこそなんだよね。

 お母さんが認めた相手だとどういう存在であったとしてもきっと領主になることを許されてしまう。それだけの実績がお母さんにはあるから。




「……考えさせてもらえますか?」

「もちろん、いいよー。私はしばらくこの領地で遊ぶから、その間に決めてね!!」




 お母さんは特にユギに対して無理を言ったりはしない。お母さん自身はのんびりとしている方だから、どれだけ時間かけてもいいんだろうな。ただあまりにもお母さんが此処にいたら、お父さんが寂しがっちゃうからあんまりそれだと困るよね。




 ユギがしばらく悩んでいる間、私もその選択をするのを待つことにする。

 その間、私はお母さんやユギと一緒に魔物を討伐して遊んだり、模擬戦をしたりをよくしている。

 やっぱりお母さんと一緒に戦うのは楽しい。



「楽しいね」




 お母さんも楽しそうに、にこにこしている。



 こうやって身体を動かすことが、お母さんはとても好きなのだ。私は子供のころからずっと、お母さんが鍛錬をしている様子を見てきた。

 その洗練された動きを見ているだけで私は見惚れてしまいそうになる。私も戦いの中で生きている人間だから――お母さんの凄さはよく分かるんだ。



「私は、まだお母さんには勝てないなぁ」

「仕方ないよ。私に勝てる人なんてそうそう居ないからね」



 模擬戦をして、お母さんに勝てることは全くない。私だって鍛錬を全く怠ってないのにな。




 いつかお母さんに勝てる日が来るのだろうかとそんなことを考えている。




 ――私はお母さんに勝てたら嬉しいなと思うけれど、そうなれなくても私がやりたいことを出来ればいいなってそう思っている。




 ただ相変わらず、私が何をしたいのかというのは明確に決まっているわけではない。ただこの辺境の地で暮らすのは楽しくて、ユギと一緒に居られるのも嬉しいなと思っているのは事実。

 どうなんだろう?

 私はユギが領主を継いでも、継がなくても……それでもきっとユギを見ていたら楽しいんだろうなとそんな気持ち。

 ユギはどっちを選ぼうとするんだろうね? 





「ねぇ、ヤージュはユギくんが領主になったらどうするの?」

「どうするって?」

「フロネア伯爵家に戻ってくるのか、それとも此処に居たいと思っているのか」



 じっとお母さんに見つめられて、私は少し考えてしまう。


 フロネア伯爵家に戻るか。うん、私は全然そんなことを考えてはいなかった。けれどそうだよね。私は自分探しのためにこうやって此処にいる。だからこの先、これからどうするのかは私が決めなきゃいけないこと。




「……私は出来れば残りたいかなぁ」


 私の正直な感想はそれだった。



 でもあれか、ユギが領主になったら一緒に魔物討伐とか行けなくなったりとかするのかな。

 それは少しだけ寂しいかもしれない。  


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