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「ヤージュ様、彼は弱っていますが命に別状はないかと」
「なら、良かった」
私達は領主のことを助けた後、街の外れの方にある家で一旦隠れている。
医者に関してはフロネア伯爵家の方で手配したので、信頼が出来る人だ。それにしても領主はぐったりしていて、命に別状はないと言われても大丈夫だろうかと心配になる。
それにしても短期間でこれだけの状況に陥るなんて本当に何をされたんだろうとそんな気分。
私はこういう風に誰かが意図しないとに、危険にさらされたりするのを見ると嫌だなと思う。
それと同時になんというか、私は実家を出るまで守られていたんだなと実感したりもする。貴族として生きていればこういういざこざに遭遇することって少なくない。
それでも私は貴族で生まれて、生きてきたけれど――話を聞くことはあっても実際に目にすることなんてほとんどなかった。
こうして領主の窮地に立ち会ったのは本当に偶然で、私が気まぐれに他の領地に顔を出していたら手遅れになっていただろう。
……ただ私がユギを領主の元へ連れて行ったからこそ、こういう状況に陥ったのかもしれないと思うと少しだけ申し訳ない気持ちにはなる。とはいえ、私が会わせなくても遅かれ早かれ問題は起こっていた気はする。
ユギは顔を顰めている。まさか領主がこんな事態になっていると思わなかったからだろう。
「ユギ、領主は問題ないよ。だからもっと安心してくれて大丈夫だよ。少なくとも私がフロネア伯爵家の名に誓って、ちゃんと保護するから」
私がにっこりと笑えば、ユギは頷く。
心ここにあらずと言った様子を見ていると、領主に対してこんなことを行った人を許せないなというそういう気持ちでいっぱいになる。
この街外れの一軒家に関しては、領主の妻やその一派にばれることがないようにはしてある。領主がこういう状況でなければ早急に危険な街をさっさと去るのだけど。
それが出来ないので今、この場にとどまっている。
もしかしたら領主の居場所を勘繰られて奪還するために強行手段が行われるかもしれない。その際にはどうにかしないとね。
お母さんとお父さんへはまだ私からの連絡は届いていないかもしれない。
ただその間に既に両親を慕っている人達は徐々に私の力になろうと集まってくれている。なんだろう、英雄として周りから好かれている彼らはこうやって娘である私の力になろうとしてくれていて、本当にありがたい話だなと思ってならない。
私がお母さんとお父さんの娘じゃなかったらこんな風にユギを助けられなかっただろうな。
少なくともお母さんやお父さんなら私が困っていたら人を寄越してくれるだろうし、それまでは待ちかな。私一人で領主を奪取しようと向かってくる人たちをどうにか出来るかもしれない。ユギも一緒だし、他にももう既に此処に辿り着いている人達もいる。
それに声を掛ければ街の人達だって力にはなってくれるだろう。とはいえ下手に巻き込んで多くの血が流れることになるのは嫌だと私は思っている。
街で当たり前のように暮らしている人達に関しては戦う力を持たない人も多い。
そういう普通の人達が武器を手に持って、反乱を起こすことはないわけじゃない。でもそういう時って、大抵誰かしらが亡くなってしまったりすることも多くあるのだ。
流れる血は少ない方がいい。
仮にこの後問題が解決したとしても誰かが亡くなったり、怪我をしたりしてしまったらしこりとして残ってしまったりするもの。
だから私はそういう判断をした。
ユギが私の決めたことを受け入れてくれてよかったなとそうは思っている。だってユギが納得しなくてそのまま領主の問題を解決しようと突き進んでいこうとするならば、もっとややこしい事態になったと思うから。
ちゃんとご飯を食べた方がいい、と判断をして私はご飯を買ってきてもらった。
パンをもぐもぐと食べながら、どのくらいでフロネア伯爵領から人がやってくるかなとそればかり考えている。
私やユギの姿は領主の救助作戦の際に気絶させた人達から見られているので、あんまり外には出ないようにしている。
変装して情報収集ぐらいはたまにしているけれど、見つかったら面倒だからね。
「ユギ、美味しいでしょ?」
「そうだな」
ユギはほとんど領主の傍にいつもいる。領主は体調を崩して、ほとんど眠っている。今、自分の身体を回復させるための期間なのだ。
領主が身体を回復させるのが先なのか、それともフロネア伯爵家から人が来るのが先なのか。
どちらか分からないので、一旦待ちの時間である。
――そうして待つことしばらくして、事態が動いた。
領主が此処でかくまわれていることを知られてしまって、襲撃を受けた。
まさかこんな風にすぐに場所がバレるなんて思っていなかったから驚いてしまった。それに向こうも本気で魔法を使える人も沢山いた。




