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「ど、どうして……」
ベッドに横たわる領主がか細い声をあげている。
私は領主の姿を見てとても驚いた。だって……この前ユギを連れて行った時からそんなに時間が経過していないのにあまりにも弱っていたから。
元々領主は武闘派として有名だった。だからこそそもそもの話、こんな風に簡単に軟禁をされてしまうようなタイプでは全くない。
それなのにこういう状況に陥っているというだけでも――おかしいことなのだ。
こんな状況がまかり通ってしまったのはきっと、何かしら理由があるだろう。もしかしたら何か盛られたのだろうか?
私は幼いころから、毒耐性も身に着けるために色々試していた。だってお母さんがそういう風にした方がいいと言っていたから。
お母さんとお父さんの子供であることは、それだけ危険な目に遭うこともあるから。
だから私はこういう風に何かが盛られた時にどうにかすることが出来るけれど、普通はそうではないらしい。
魔力量が多い生物はそういう毒物にもどうにでも出来たりするのよね。
領主はそこまで魔力量が多くなかったのかな? まぁ、毒に対して耐性をつけるのは大変だしね。それに毒の種類って本当に数え切れないほどあって、それらすべてをどうにかするのって難しいもの。
それにしてもユギの顔を見て顔を顰めているのは――おそらくユギのことをこういう貴族社会のいざこざに出来れば巻き込みたくなかったからなのかな。
こんな現場に飛び込まれると、ユギが危険な目に遭うからとそう思っているんだろう。
私はそんな領主ににっこりと笑いかける。
だってね、ユギは領主の態度を見て色んなことを考えて、領主に近づくのを一瞬躊躇してしまっていたみたいだもの。やっぱりユギにとって血の繋がった父親の立場である領主は特別なんだろうなって改めて思ったの。
それにあまりゆっくりしすぎても駄目な状況だから、早急に領主救出作戦を終わらせないといけないしね!
「ユギはあなたのことをとても大切に思っているんだよ。少なくとも死んでほしくないなと思うぐらいにはね」
ユギは恥ずかしがって否定するかもしれない。それでも彼が領主のことを特別に思っていることは確かなことなのだ。
此処で領主が亡くなったら――ユギは絶対に後悔する。悲しむだろうし、もっと話したかったと思うだろう。
亡くなってしまえばそこで終わりで、もう二度とその人に対して何かをすることは出来なくなってしまうのだから。
「……しかし」
領主は震える声で何かを言おうとする。
だけどゆっくり話している暇などはない。
領主のことを抱えようとして――彼が魔法でこの場に固定されてしまっていることが分かった。
こういう拘束系の魔法なんて領主相手に使うものでは全くない。こういうのって罪人とか以外に使うのはどうかと思うんだけどなぁ。
そもそも領主相手にこういう行動を起こすのって、国に対する反逆のようなものだわ。ばれたら結局制圧されるもの……だというのにこういう行動を起こしたのはばれないと思っていたのか、それとも何も考えていないのか。
そのどちらかからかな?
少なくとも王族はそのような反逆を許すほど甘くはない。
「なんだ、これは」
ユギは拘束系の魔法など見たことがなかったのだろうなと思う。
私はこういう魔法についても学んでいるから知っているけれどね!
「拘束系の魔法だよ。領主が身動き取れないようにと、後は弱らせるためかな?」
私がそう口にすると、ユギの顔が歪む。明らかに悪意を持って行使されている魔法だもんね。ユギ的には見ていて嫌なものなのだろう。
「ちょっと壊すね」
私はそう口にすると、すぐさま魔法を壊すために魔力の元に思いっきり魔力を流す。
――こういう魔法を壊すのには、色んな手段がある。技術的な方法での壊し方と、魔力を思いっきり込めて壊す方法との二種類がある。
時間をかければ正しい方法で壊したりもできるけれど、今はそんな暇はないからね。
それにしてもこうやって魔力を思いっきり込めるのって結構楽しんだよね。幼い頃は私の膨大な魔力量を制御出来なかったりしていた。だけど今の私はそういうのもちゃんと出来るんだよ。
上手く魔力制御が出来ない状態でこんな風に魔力を込めすぎると暴発するからね。
そして私の魔力によって――その場に充満していた魔力と、領主を拘束していた魔法が拡散する。
「よし、これでいいね。領主のことを抱えてそのまま、ずらかるよ」
私がそう口にすると、ユギ達が頷いた。
――そして私達は領主を抱えてそのままその場を去ることになった。
もちろん、その最中に妨害は沢山あったけれどね。領主はボロボロの状況で、ちょっとしたことで死んでしまうほど弱っているのに――構わずに向かってくるのには何とも言えない気持ちになった。
領主が死なないように気を遣いながら逃げるのは少し大変だったけれど、上手くやったよ。




