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「ユギ、今日は何する?」
「そうだな、今日は……」
ユギが実の父親である領主と会話を交わしてから、数日が経過している。ユギは領主と会話がかわせて満足がしたみたい。
ユギは領主に対して思う所は沢山あるみたいだけど、それでも以前よりは――気持ちに余裕が出来ているように見える。
心の内にあったもやもやとした感情が少なからず払拭されたのかなとそう思っている。
ユギがね、少しだけ前より柔らかい表情を浮かべるようになったの。私はそんなユギの新たな一面を見れたことが嬉しくて仕方がない。
人はこうやって変化していくものなんだなって、そんなことを考えているだけでも面白い。
私がユギにまとわりついていても嫌そうな顔とかしないし、寧ろ私のおかげで領主と会話を交わせたからと前より私に心を許してくれているようには見える。
私がやったことなんて、領主と合わせる機会を作っただけだ。それも私自身の力というよりも、私がたまたまフロネア伯爵家に産まれたからってだけだしね。
それにしても心に余裕が出来ているユギは、戦っている最中も――なんだかすごく落ち着いている。のびのびしているというか、そういうのが私はいいなぁと思った。
「ユギ、ほら見て。この魔法、綺麗じゃない?」
「綺麗だし、派手で凄いなと思うけれど魔力の無駄遣いじゃないか?」
私が魔物相手に魔法を派手に使って、それをユギに見せびらかすと呆れたようにそう言われる。
「全然、問題ないよ。というか、私は魔力量が多いからこの位は問題がないんだよー」
「……そんなに魔力量多いのか?」
「うん。私はお母さんに似ているからね」
「《炎剣帝》に似ているか……」
「うん。私には姉や兄が沢山いるよ。全員ね、凄いんだよ。自分のやりたいことをちゃんと決めているんだよ。皆ね、戦う力を持っていて、普通の令嬢とか子息とは違う感じ。でも私が一番両親の戦う才能は受け継いでいるんだよ。この位は特に問題ないかなって感じ」
にこにこしながら私が言うと、ユギは考え込む様子を見せる。
「そうか、無理をしていないならいい。……そういえば自分探しのためにここにいると言ったが、何か見つかったのか?」
ユギは少なからず、領主と話した後から私に関心を抱いてくれているように思える。こうやってユギが私のことを聞いてくれるようになったのが嬉しい。
「んー。特には。あ、でもユギと一緒に居るのは楽しいから、一緒がいいなぁ」
「……そうか」
私の言葉を聞いて、ユギは何処か照れた様子を見せている。
私は本心からの言葉を口にしている。ユギはこれから先もきっと、私が想像しない姿を見せてくれるんじゃないかなって。
そういう期待を私はしている。
きっとこの先もユギと一緒に居たら面白いのだろうなと、私はそう思っているから。
「ユギはお父さんと話すことを目的としていたけれど、この後はどうするつもりなの? この領地から去る?」
「あー……まだ決めてない。ただ領主……父親とはまだ話したいとは思っている。これから先も関わりつづけはしたいとは思っている。だからどうしようかなって。このまま領地から出て行ったら……俺はもう二度と会わないようなそんな感覚だから」
「んー? 別に今去っても、かかわりは続けられると思うけれど」
「いや、だって俺の存在って父親の正妻や子供からしてみたら邪魔だろう。俺と父親が関わることを嫌がっているわけだろうし。……そうなると、結局関わると迷惑かけそうだなって」
ユギはそんなことを口にして、難しい表情を浮かべている。
私はそういう感覚がよく分からない。正直、正妻の子とそれ以外の子だからと分ける意味も、それだけ嫌がる気持ちも……別にいいじゃんって思っちゃう。
ただ領主の奥さんはユギのお母さんとユギのことは嫌がっているのは確かだろうけれど……どのくらいのレベルなんだろう?
ユギが現れたら何か問題が起こるとでも危惧しているのかな?
領主と執事とのやり取りを見た限り、奥さんの家の力は強そうだし。
領主だってユギのためにって、奥さんや子供のことを蔑ろにしてまで何か起こそうとはしないと思う。
ユギはユギで、いきなり領主が変なことを言いだしたら断ると思うし。
そうなると特にユギが親子として領主と関わっても私的には何も関係がないように思える。
「領主がユギとこれからどうやって関わっていきたいかというのは私にはわからないけれど、ユギにとって嫌な方向に行きそうだったら私も手伝うからね。権力面でも、武力面でも私はどうにでも出来るしー」
「……フロネア伯爵家だもんな」
「うん。使えるものは使っていいよーってお母さんとお父さんには言われているから、どうにでもするよ」
私がそう言ってにこにこと微笑めば、ユギは呆れながらも頷いた。
――そのまま私達は領地でのんびりと過ごす予定だったのだけど、問題が起きた。
それは突然、領主が錯乱したなどという噂が出回ったからだ。




