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私の住んでいるジェネット王国は、国土面積が広い。私はフロネア伯爵領や王都には行ったことがあるけれど、それ以外の場所はあまり足を踏み入れたことはない。
お母さんとお父さんに連れられて、魔物討伐に行くことはあった。あとは一人で周辺の魔物討伐を行ったりもしていた。
でもこうやって辺境の地にやってくるのは初めてだった。
家族から離れて、一人で、こうやって此処にいるのも初めてで私は落ち着かない。
だけど、楽しい気持ちも感じている。新しいことに対するドキドキと、これから何が起こるのだろうかという楽しみでいっぱいなのだ。
「ふんふんふ~ん」
私がヤージュ・フロネアだと知らない人たちばかりの場所。
私はお母さんに似て、見た目が普通なのでこういう場所では埋没しやすいからいいと思う。だって姉や兄のように見た目がキラキラしていたらとてもじゃないけれど、こうやってのんびり過ごすことも出来なかっただろう。
私は宿屋に泊まりながら、魔物討伐を行う。
私は考えることよりも、ずっと戦い続ける方が好きだ。
剣や魔法で戦うこと。
それは私がずっと幼いころから行っていたことだ。お母さんは私がどんどん戦うことを覚えたことを喜んでいた。それで沢山のことを教わった。
魔物を倒して、解体をてきぱきと済ませる。
一般的に危険だと言われている魔物だろうとも、私にとっては倒すことはそこまで難しくない。
こういう感覚は、姉や兄たちは感じないらしい。そういう部分も私がお母さんに似ていると言われる所以のようだ。
フロネア伯爵領も魔物が多い地域だ。お母さんはいつも楽しそうに、魔物を狩ったりしていた。フロネア伯爵領にはお母さんやお父さんに憧れて人が沢山集まっていて、戦うことが出来る人が沢山いる。
この辺境の地はフロネア伯爵領と似ているけれど、違う。
それは生息している魔物だったり、暮らしている人の性質だったりが違う。何だか気性が荒い人たちが多いようには見える。
フロネア伯爵領だとお母さんとお父さんって絶対的な存在がいるけれど、この地では辺境伯がそう言う立場にあたるらしい。
私が魔物の素材を売りに冒険者ギルドに向かうと、声をかけられる。
「ヤージュちゃん、また魔物を狩ってきたのかい? それにしてもそれだけの腕があるなら冒険者になればいいのに」
「んー。それはいいかなって」
私は冒険者ギルドには所属せずに、ただ解体した素材を売っているだけだ。
冒険者ギルドは、ソル兄とケーシィちゃんが所属している。だから冒険者ギルドのことはそれなりに知っていたつもりだったけれど、実際にギルドに素材を売ったりしていると噂で聞いているのとでは全然違うなと思う。
なんていうか、華やかなだけじゃない。
私はフロネア伯爵領では騎士達とばかり交流を持っていた。彼らは規律がちゃんとしている。というか、変なことを行ったらお母さんとお父さんに問答無用で処罰されるからね。
だけど冒険者達っていうのは、自由というか、荒くれものがそれなりに多い。
私の見た目が侮られる方なので、最初は絡まれた。
……なんか、私って凄く大人しく見えるみたい。
背もそこまで高くない方なのだ。だから私はよく絡まれるのだ。
でも全部、どうにかした。
力づくで黙らせたら、皆、私に絡まなくなったから。
こういう風に力を示したら、とても分かりやすい。
こうやって自分の手で魔物を倒し、解体し、稼ぐことは楽しい。
実家にいた頃も自分でお小遣い稼ぎはしていたけれど、それとはなんか違う感覚になる。
自分で全てを対応しなければならないことって、大変だなと思う。
私がお母さんとお父さんの娘だと知らない人しかいないから、ぼったくりを行おうとする人もいるんだよね。そういう経験もフロネア伯爵領ではありえないから、楽しい。
私は魔物を狩って、解体したものを売った後は宿へと戻った。
「お帰りなさい。ヤージュちゃん」
宿に戻ると、おかみさんがそう言って私を迎え入れてくれる。
辺境でどの宿に泊まるかも自分で選択したのだけど、それまでにも色んな宿は見た。
でもセキュリティ面が不安なものだったり、態度が悪かったりしたからやめておいたの。しばらく過ごす場所は快適にしておきたいもん。
宿に戻った後に嫌な気持ちになったりするのは嫌だなと思ったから。
だからこうやってゆっくり過ごせる場所を見つけるのは大事だったのだ。
お母さんも、そういう環境って大事って言ってたし。
そういうわけで私の辺境生活は、まだまだ始まったばかりである。