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「ご招待ありがとうございます。ヤージュ・フロネア、まいりました」



 私はにっこりと目の前に居る領主へと笑いかけた。



 ユギの話を聞いた私は、ユギの願いを叶えたいと思った。だからこそこの場にユギを連れてきている。

 ちなみに領主だけにきてもらうようにお願いした。領主はそれを断ることも出来たわけだけど、フロネア伯爵家の娘である私の意見は聞こうという思考になるのか快く承諾してくれた。



 こういう時、フロネア伯爵家の娘って肩書は便利だよね。

 ユギにも私がフロネア伯爵家の娘だというのは伝えたよ。凄く驚いていた。ユギのあんな顔を初めて見たから私は面白くて仕方がなかった。



 私は自分の家の影響力とか、特別さとか、そういうのを理解しているつもりだけどユギがあまりにも挙動不審過ぎて……本当にお母さんとお父さんって凄いんだなって実感したよ。

 あくまで私が凄いわけじゃなくて、お母さんとお父さんが凄いだけなんだけどね。それでも私が娘だからって便利な面は色々ある。





「よく来てくれた。この領地での暮らしはどうだい?」

「とても充実したものです。楽しいですよ」



 私は領主の問いかけに、にっこりと笑って答える。



 それにしても後ろに控えている、顔を隠しているユギが自分の血の繋がった息子だとは気づいてなさそう。

 フロネア伯爵家の娘である私ならば護衛一人ぐらい連れてくるという認識なのかも。

 領主はユギの存在をどれくらい認識しているんだろうか。ユギのことを知っているのか、知らないのか。それでいてユギと対面しても何も反応がないのかな。私はそんなことを考えてしまう。




 ……流石に、ユギの存在のことを知っていたらもっと反応を示すと思うんだけどなぁ。

 領主はそこまで血の繋がった相手に情がないタイプには見えないし。というか寧ろユギを悲しませるなら私は目の前の領主に対して怒りを口にしてしまうかも。




 しばらく世間話をする。



 ユギは大人しくしてくれているけれど、気配的にも領主に話しかけたそうにしている。ユギがこんな風にいつもと違う様子で、驚き、楽しい気持ちになる。

 ユギの違う一面を、こうやって沢山見れるんだなぁ。もっと他の、見たことのないようなユギのことを見られるようになるのかな? 

 領主と話して、ユギの将来は変わるのかもしれない。





 少なくともユギは……領主と話すことを目標にしていたように思える。自分の血の繋がった父親がそれだけ特別なのだろう。




 私が同じ立場だったらどうしていただろうかというのを思考してみる。

 私は両親や兄妹に囲まれて生きてきた。正直父親が居ない状況というのが想像が全く出来ない。ただ私は居なかったら居なかったで、人生を楽しむんだろうなと思う。会ったことない父親が居たら、それを気にすることもなく、会えたら会えたでいいかなとそんな風に割り切ると思う。

 だけどユギにとっては父親は本当に特別な存在なんだろうな。

 そういう部分を考えると、ユギと私って本当に全然違うな。




「個人的に話したいことがあるので、執事や騎士を下げる事って出来ますか? あ、でも私の同行人はそのままで」



 私はそう言って、領主のことを見る。



 領主はその申し出に驚いた顔をした。それでいて周りは警戒しているようだ。

 私が領主に何かするかもって思っているのかな? そんなことするわけないのに。そもそも領主に対しては、ユギの父親なんだなっていう関心しかないんだけど。それに私が領主に何かして得られるメリットも何一つないし。




 そんなことを考えている間に領主は執事たちのことを下がらせてくれた。私自身に対する信頼というよりも、フラムス家に対する信頼があるからであろう。私がお母さんとお父さんの娘じゃなかったらこんな風にお願いを聞いてもらうことも出来なかったはずだから。



「それで……内密な話かい?」



 領主が探るように私を見ているのは、何の話であるか全くぴんと来ていないからだろう。何か大変なことなのではないかとか、色々考えていそうな気はする。

 ある意味大事ではあるとは思う。だって血の繋がった息子であるユギとの話だし。




「私がというより、この人が領主に用事があるんです」

「……君が連れてきた彼が?」

「はい。あなたにとっては青天の霹靂かもしれないですが、私がこうして食事をしに来たのも彼が話したいって言ってたからなんです。そうじゃなかったら私は断ってましたから」



 私はそう言って、ユギの方へと視線で促す。顔を見せてしゃべり出すことを期待して。

 ユギは思いっきりが良い時は、思いっきりが良い。というよりやると決めたことをやる方だと思う。



 私はそういうユギの性格も面白いなと思っているのだけど、今は躊躇している様子だ。それだけやっぱり領主に対して思う所が色々あるんだろうなぁ。

 でも私が面白いと思っているユギならば――きっとちゃんと話すだろう。逃げたりなんて

しないはず。



 そう思いながらじっと、見ていると――ユギは意を決したように隠していた顔を露呈させる。

 顔を見ても領主はユギが誰か分かっていないらしい。



「……初めまして。俺はあなたの息子です」



 ユギはまっすぐに領主を見て、ただそう言った。

 領主はその言葉を聞いて固まっていた。



「息子……?」

「はい。ドリエルという名前に心当たりはありませんか?」



 ユギがそう口にすると、領主の目は見開かれる。ユギが出した名前は、お母さんの名前かな? 流石に領主も心当たりがあったみたい。


「ドリエルの……!?」



 そしてそんな風に、領主は声を上げた。


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