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「ヤージュ・フロネア様」




 私はその日も、いつものようにユギについていったり、魔物を倒したり、自由気ままに興味があることを行ったりと大忙しだった。やりたいことは沢山あって、だけれどもそれは明確に将来のやりたいことではない。




 突発的に何をしたいかならすぐに答えられるのに……一生を通じてどう生きていきたいかって難しいよね。

 それが分からなくて、自分探しの真っ最中だから――やっぱり私の家族って凄いなって思っている。それにユギだってそう。私はユギが実際に何をしたいのかは分からないけれど、明確な目的があるみたいだもん。



 目標を持っていたり、未来に対する希望を抱いていたり――、そういう人たちって皆がキラキラしている。

 どんな些細なものでも、そういう何かを持っている人って本当にいいなって。



 そんなことを考えながら歩いていたら、人の気配がした。

 どうやら私の後ろをついてきているようだったので、人気のない場所へと向かった。




 そこに声を掛けられた。




 私は家名をこの街で大々的に言っているわけではない。ここはフロネア伯爵領からは離れているので、私の顔を把握している人などほとんどいないはず。

 それに私はフロネア伯爵家の末っ子で、他の姉や兄達よりはずっと名前が広まっていないから。





「誰?」



 私は突然話しかけてきた男性に、ただ問いかける。



「ご当主様からの手紙です」



 そう言って一通の手紙を渡された。



 その手紙にはこの街を治めている領主の家紋が描かれている。私がこの街に滞在していることは領主には伝えてあるので、それで接触をしてきたようだ。一度だけ挨拶はしていたけれどそれ以降、私からも領主からも特に交友を持とうとはしてなかった。





 やっぱりフロネア伯爵家の私の話を聞きたいと、そう思ったのかもしれない。

 私は手紙を受け取って、一瞬悩んだ。

 その表情を見て、領主の遣いは「お返事は後からで問題ありません。また会いにきます」と一言声をかけられる。そのままその男は去って行った。



 私はその手紙を手に、一旦宿へと戻った。



 宿のベッドに寝転がり、手紙の中身を読んでみる。そこに書かれているのは丁寧な食事の誘いだった。





 挨拶をした際、あんまり手紙を書くのが得意じゃなさそうという印象を持ったけれど、どうなんだろう? これは代筆なのかな。貴族だと手紙とかを書く際に何かあれば代筆を頼むこともあるもんね。

 お母さんはあんまり手紙とか書かないんだ。会いたくなったらそのまま会いにいったりすることの方が多いもん。そもそもお母さんは本当に親しい人にしか手紙なんて出さないしね。

 当主はお母さんだけど、実務を行っているのはお父さんだし。




 お父さんは字も上手くて、手紙もよく出していたっけ。私は全然、出してなかったなぁ。フロネア伯爵家の方針としては、自由に好きなようにすればいいだしね。

 お母さんは伯爵家当主という地位をそこまで重要視もしてなくて、そもそも誰も継がなくても気にしないと思う。まぁ、ラト兄が継ぐ予定ではあるけれど。




 そういうこともあって私は本当に自由に生きてきた。社交界になんて出てないし、魔物討伐とか、騎士達に混ざって模擬戦をしたりとか、あとはお母さんがぶらぶら散歩しに行くのについて行ったりとか。

 いつもそういうことばかりして過ごしてきた。

 だからこうやって私個人宛に貴族から手紙をもらうのも珍しい。





 なんだか不思議な気分。




 正直に言うと、領主と一緒に食事をすること自体は問題はないし、構わないことだ。だけれど、私は身分を隠して此処にいるので下手に領主と接触してフロネア伯爵家の娘だからって騒がれたりするのは嫌だなって思う。




 挨拶をした時は領主と、その配下である執事たちの前でだったけれど……、確か奥さんとか子供もいるはずなのでその人たちが話しやすいタイプかもわからない。

 一応調べた限りは……ちょっと問題児っぽいけれど。あとは私より少し年上みたいだから、領主夫人の方が私とその子供を親しくさせようとかしだすかもしれない。未婚のフロネア伯爵家の娘って、それだけで周りから狙われるというか……私なんて社交界に全然出てないのにそういう話来てたってお父さんが言ってたし。




 うん、後々面倒なことになっても困るし、一旦今回は断ろうかな。

 食事をするにしてもこの街を去る時に最後にするぐらいにしておこう。




 そんなことを一人で決断する。




 さっさともう決めたので、その日は食事を摂って眠った。睡眠というのは大事なんだよ。

 寝不足だと本来の力を発揮できなかったりするから。でもちゃんと気配は感じ取れるようにはしてる。

 お母さんとお父さんもそうした方が良いと言っていた。

 眠っている間に襲われるなんてことも、一人で旅人として過ごしていたら当然起こりうるからって。




 私は今の所、危険な目には合ってないけれどそういうのあるって聞いたもん。




 そんなことを考えながらねむりについたその日、驚いたことに侵入者が居たので捕縛して騎士に付き出した。どうやら私が領主の遣いに接触されたことを目撃していた冒険者の男らしかった。

 ……あんまり周りに気配はなかったはずだけど、やっぱり街中で接触されると完全に誰にも見られないって難しいことだよね。

 その捕縛した男には余計なことを広めたりしないようにと脅しつけておいたのでおそらく問題がないはず。




 さっさと断って、これ以上の接触はしないようにと言っておかなきゃ。



 なんて私は考えていたのだけど……、



「ヤージュ……」



 次にユギに会った際に何故かとても深刻そうな表情を浮かべていた。



「どうしたの?」



 何かあったのかなと心配して問いかける。

 ユギにこんな表情をさせているのは誰なのだろうか。原因を探ってどうにかしたいなと呑気に考えていたら予想外のことを言われる。



「お前、あいつと関わりがあるのか?」



 そんなことを問いかけられたが、私にはユギがいう“あいつ”が誰なのか分からなかった。


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