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今日も私はユギについて回る。
ユギはいつも、淡々としている。どんな魔物に遭遇しても冷静だったりする。よっぽど強くなりたいという思いが強いのだろう。ユギはいつだってどこか冷静で、あまり感情を表すことはしなくて。
だけど、見ていてとても楽しい。
「ユギはやっぱり強いよねー」
「……はぁ、お前、それ本心でいってるのは分かるが、いう相手は気をつけろ。嫌味に聞こえる」
「なんで?」
「なんでも何も……俺は結局まだお前にちゃんと勝てたとは言えない」
「えー? でも勝ったことあるじゃん」
「……あれはお前、連戦だったんだろ」
「あははっ、確かに魔物と戦った後だよ? でもさ、それでもユギは模擬戦とはいえ私に勝ったんだよ? それだけでも十分誇るべきだよ。それにね、戦いの中ではそんな言い訳なんて一切通じないんだよ」
私はユギに向かって、そう言って笑いかける。
そう、ユギとの模擬戦はあれから何度も行っている。その中で確実にユギは成長しているのだ。それでいて驚くことに私に勝てたことがあったの!
確かに私は魔物の相手をした後だったよ? でもね、そんな私に勝てたことって凄いことなんだ。
私は昔から家族やフロネア伯爵家に仕える騎士達と戦ってきた。お母さんやお父さんに勝つのは出来ないけれど、私はそれ以外の人達には負けることが全然ないってぐらいには実力をつけていた。
本当に私と同年代で、これだけ強いのって本当に凄い。
「お前、その辺達観しているよな……」
「それはそうだよ。私は戦争とかに実際に行ったことはないけれど、その話は沢山聞いたことあるもん」
お母さんとお父さんからそのあたりの話はちゃんと聞いていた。特に私は戦うことがとても好きで、強くなることも楽しんでいて……お母さんに似ているから戦場についてもいつか行くことになるかもだからって色々教わったもん。
あとはお母さんとお父さんが英雄だからというのもあって、私達兄妹は狙われることも当然あった。子供を人質にとれればお母さんとお父さんのことをどうにか出来るなんて思っている人たちも世の中には居たのだ。
英雄って立場は凄く華やかなものに見えるけれど、そういう面で大変だと思う。大切な人が狙われることになるからね。
私達兄妹は両親や周りに守られて、幸いなことにすくすくと育ったけれどそういうことはあり得ることなの。お母さんとお父さんを恐れて近隣諸国は大人しくしている部分も大きいって周りも言っていたし。
そもそも戦場だと、負けるということは死に直結するもの。
だからこそ、私がどういうコンディションだったかなんて関係ない。負けて死んだらそこで終わりだし。
でもなんか、幾ら連戦の後とはいえユギに負けたのは悔しいからもっと強くなりたいと思った。
ユギと出会ってから、なんだろう……あんまり見かけない対等な立場の同年代の子っているんだなって嬉しかった。
身分とかそういう話ではなくて、強さ面での話。
きっとユギのことをお母さんに紹介したら、嬉しそうに笑ってくれるんだろうな。……そんな想像をすると、楽しくなってきた。
ああ、でもそういう風にユギをお母さんに紹介するとなると、ユギからもっと信頼を得ないと駄目な気がする。
「そうなのか」
「うん。ねぇ、ユギ。もっと強くなりたいなら少し遠いけれど、お母さんとお父さんに見てもらうといいと思うよ」
「……お前より強いんだっけ」
「うん。本当に凄いよ。私にとっての小さい頃からの憧れ」
私がそう口にすると、ユギに眩しいものを見るような目で見られた。
家族のことで何かあるんだろうなとやっぱり思う。自分からはユギの家族について聞くきはない。だから目があって、にっこりと笑いかける。
そうしたら、呆れたような顔をして……、
「そうか。俺は父親とは会ったことはない」
そう呟いた。
「あったことない?」
「ああ。……直接会話を交わしたことはないんだ」
私がユギが自分のことを話してくれようしたのが嬉しかった。少しは私に話しても大丈夫だって思ってくれた証だろうから。
それにしてもお父さんと会ったことがなくて、会話を交わしたことがないってどういう状況だろう?
言い方的にお父さんが亡くなっているわけではないと思う。寧ろユギの表情を見ると、とても複雑そうで……何か思う所が沢山あるんだろうなと感じた。
それもきっと良い感情などではなくて、悪い感情。
ユギはお父さんのこと、嫌いなのかな?
私の家は家族仲が良いからその気持ちはわからないけれど、そういう風に家族に複雑な感情を抱いている人っているもんね。
ユギはそれ以上は何も言わなかったし、私も聞かなかった。




