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私はユギの傍によくいるけれど、それぞれ別行動していることはそれなりにある。
その時には、周りの人達にはよく心配される。私はユギの良い所を沢山知っている。
だから――ユギのことを悪く言われると、嫌な気持ちになる。
「分かった? もうユギのことを悪く言わないでね? 私の前でいうなら、もっと許さないからね?」
私の目の前には倒れ伏す男たちが居る。
私が幾ら本気でユギと一緒に居たいのだといっても信じていない愚かな人達。
寧ろ私という将来有望そうな存在を囲い込みたいと思っていたみたい。実家に居た頃も、そういう人たちは多かった。
私が……侮りやすく見えるから。
他の兄妹たちに比べると目立たないからといって、幼い頃は特に私ならば懐柔することが出来るのではないかとそうやって勘違いする人いたからね。
そもそも私がね、誰かに騙されるなんてそんなことはない。というか騙されたらそれはそれで、騙される私に隙があったというそれだけもの。
どうしてそんなことも分からずに、“私のため”なんて口にするのだろう。
うん、良い迷惑。
お母さんとお父さんもこういう人たちに絡まれることはそれなりにあったと言っていたなぁ。
「わ、分かった」
「うんうん。ちゃんとわかってくれるならいいよ。それにしてもユギは冷たく見えるかもしれないけれど、悪く言われるような人間ではないからねー? ちゃんとそのあたりも周りに広めてほしいな」
ユギは周りからの評判を気にしない。
自分がどういわれていようが、そんなことに時間を割こうとはしないだろう。
だけどさ、ユギと一緒に居ればいるほど私はユギがそんな風に悪く言われるべき人じゃないって思う。
なんというか、私自身のことはどういわれようとも勝手に言えばって思う。あまりにも嫌な風に思われたらぶちのめして訂正させる。
うん、そうなんだけどなんだろう、ユギのことを悪く言われるのは嫌かなーって。
「は、はい」
「ユギは優しいからね? 私がついていくのも心配してくれるし」
ユギはなんだかんだ心配性で、他人に対する思いやりのある男の子だ。
本当に冷徹な人間なら、出会ったばかりの私のような存在を心配したりなんてしないだろう。
「それにユギはとっても強いから、あなたたちのことをどうにでもすることなんてきっと出来るんだよ? ユギが興味なさそうで良かったね?」
ユギは強い。
私と一緒に遊べるぐらいには強いというだけでも凄いことなの。
フロネア伯爵家には猛者が沢山集まる。それはお父さんとお母さんの強さに惹かれた人たちがどんどん来るから。
英雄である両親は少しでも戦い方を学んでいる人たちからしてみると憧れだからね。
そんな人たちの中でも、同年代で私と戦える人って全然いないんだよ。それなのにユギは私と戦えるし、私が力を見せても恐れたりなんかしない。
私の強さを見て驚いてはいたけれど、ただそれだけ。
私のことを英雄の娘だって知った上で、私の強さを受け入れる人は結構いる。それは私が二人の娘だからそれだけの強さを持っているんだって勝手に受け入れて、納得する。
でも私が誰の娘か知らない状況だとこれだけの力を持っていることに恐れたり、警戒したり、そういう人の方がずっと多いのだ。
でもユギは自然体で、ちゃんと私の目を見て話してくれて、ただのヤージュという少女でしかない私に普通に接してくれる。
うん、よくよく考えてみるとそれだけでも凄いことだよね。
実際にさ、私が今とっちめた男たちも――私に恐怖したような視線を向けているの。
得体の知れないものを見ているかのような視線。私に殺されてしまうのではないかという恐怖。
……まだ私は力を見せるとはいってもこれまでは此処までとっちめたことはなかった。だから向こうからすると私は少しだけ強いだけの女の子でしかなかったはずだ。そんな私がこれだけ力を見せつけて、怒った様子だから怖いんだろうなとは思う。
「私が言いたいことはそれだけだから、もう去っていいよ? というか、去って?」
言いたいことを言いきった私はこの男性達に対する関心はないので、そう告げる。
そうすれば慌てた様子で、痛む体を起こして彼らは去って行った。なんというか情けないね!
あの男たちから、私の噂は広まったりするかな? あることないこと噂しだしたらもう一回とっちめよう。
流石にこれだけ脅しつけたから、ユギが冷たい人間ではないというのも広めてくれると思うけど、どうなるかなー?
「今日はユギに会えるかなー?」
ユギのことを考えていると、ユギに会いたいなと思った。
ユギとは毎日会えているわけではない。会える時にあって、一緒に行動をしたりする。特に約束なんかを毎回しているわけでもない。
ユギは私が誘ったら一緒にご飯を食べてくれたりもするかな?
でも断られたらちょっとショックかも? なんてそんなことを思った。




