プロローグ
私にとって、両親も姉や兄たちも全員眩しい存在だった。
私の家族は凄くて、いつだってキラキラしていた。貴族家にしては、うちの家は特別な家系だった。
それは両親が英雄と呼ばれる存在で、国内外の王族貴族から特別視されている家であることからも伺えた。
「ヤージュは、大きくなったら何になりたいの?」
幼い頃、お母さんにそう問いかけられたことがある。
私は全然ぴんと来なかった。
自分がどうありたくて、何になりたいのか……。私にはそれが明確には決まっていなかった。
お母さんはいつだって、自分のやりたいように行動する人だった。
お父さんはいつだって、お母さんが第一で、領地の内政を一生懸命やっている。
一番上の姉であるマリ姉は魔法の研究職をしながら、初恋の相手と結婚をして奥さんをやっている。
二番目の姉でマリ姉の双子の妹のメリ姉は魔法の研究職をしながら、こちらも好きな人と結ばれて幸せそうだ。
一番上の兄のラト兄は騎士をしている。奥さんであるペネちゃんにとってラト兄は王子様みたいだったと聞いたことがある。フロネア伯爵家を継ぐ予定で勉強中でもある。
二番目の兄であるソル兄は幼いころから冒険者として旅をしていて中々帰ってこないけれど、時折帰ってきた時はいつも私を可愛がってくれる。
三番目の兄であるマヒ兄も騎士をしていて、一年ほど前に同じ騎士の後輩と結婚した。
四番目の兄のガジュ兄はこれから商人兼冒険者になるのだと楽しそうにしている。
私の家族は、皆やりたいことを決めて、それを叶えている人ばかりだ。
私はヤージュ・フロネア。
《炎剣帝》マリアージュ・フロネアと《光剣》グラン・フロネアの末っ子の娘である。
私は両親から戦いに関する才能を受け継いだ。
姉や兄たちよりも、私はお母さんに似ているって言われる。顔立ちも、強さも、性格も……。でも私はお母さんほど能天気ではいられない。
お母さんは本当に何も考えていなくて、自分がやりたいようにただ行動を起こしていて――、それでいて成功している人だ。それでいて英雄にまで至ったのがお母さんだ。
もし今が戦時中であったならば……私は戦闘能力だけはあるから、もしかしたらお母さんのようになれたかもしれない。だけど……、今は平和だ。
私は平和なことが良い事だとは思っている。
だってお母さんやお父さんから聞く戦争の話というのは、悲しいことが多い。
誰かが亡くなって、悲しい思いをする人が多くて、憎しみが連鎖していく。
お母さんとお父さんのことが私は大好きだけど、二人のことを憎んでいるような人も多くいるらしい。
私もそういう人たちに遭遇して、大変だったこともある。
私達姉弟は英雄の子供だからこそ、狙われることも多いから。
将来のことに悩んでいた私は、お母さんに進められて辺境でしばらく過ごしてみることにした。
ただお母さんとお父さんの子供であることは言わないようにして過ごすことにする。