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勇者ササタニ

「あった、ここよ。微妙な魔力を感じるわ。」

岩山を進んだ先の洞窟の中に、ひっそりとダンジョンの扉はあった。

「こんなところにダンジョンがあったとは、情報がない、慎重にいこう。」

俺も勇者として様々なダンジョンを攻略して来たが、大半はフェイクのダンジョンばかりだ。それでも、ダンジョンに眠る財宝や、もちろん魔導石を破壊しなければならないという使命感から、ダンジョン攻略はやめられない。今日も魔法使いのエリア、兎の獣人のウィッピーとの3人のパーティでダンジョン探索に来た。俺は、勇者ササタニだ。

「何をぶつぶつ言っているのササタニ。」

「いや、いいんだ行こう。」

階段を降りて中に入る。薄暗い石造りのよくある迷宮のようだ。エリアが手をかかげて魔法で光をつける。

「ウィッピー、何か変わったところは?」

兎の獣人は夜目がきき、五感に優れているためダンジョンの探索には重宝される。

「うん、特に気なることはないかな。あ、ちょっと待って。」

ウィッピーは通路の先に駆けていき、壁に耳をつける。

「おい、気をつけろよ。」

「羽ばたく音? オオコウモリかな。」

オオコウモリか、オオコウモリはそこまで危険な生物ではない。俺1人でも苦にならないだろう。

「気を抜くなよ。おい、ウィッピー1人で先に行くな!」

兎の獣人は自由人が多いといわれるが、彼女を見ていると納得してしまう。

「きゃああ!」

言ったそばから叫び声が上がる。

「大丈夫か?ウィッピー!」

ウィッピーに何か液体がかかり服が溶け始めている。酸か!肌に触れた程度ならエリアが治癒できるはず。

「すぐに服を脱げ!エリア、治癒魔法を頼む。」

「いや、服はもう、全部溶けちゃった…けど、体はなんともないかな。」

ウィッピーの白い毛に覆われた体が露わになる。彼女の顔が徐々に紅潮するのがわかった。

「エリア、見てやってくれ。」

「うん、本当に体はなんともないみたい。服は完全に溶けちゃってるけど。」

服だけが溶けた?どういうわけだ。酸の力が弱くて体までは到達しなかったのだろうか。

「あー、どうする?一旦服を買いに街まで戻るか?」

俺はウィッピーから目を背けながらそう提案した。

「平気だよ、エリアのマントを巻きつけておけば。ここから街に行くのは手間がかかりすぎるって、私たちお金もないんだし。それに、ササタニは私の裸なんか見慣れてるじゃん。」

「ちょ、ちょっとササタニ!それどういうこと!」

「嘘をつくな嘘を!」

やれやれ、ウィッピーはいつも俺を困らせてくる。

「危なくなったらすぐに帰ろう。」

俺たちはそのままダンジョンを進むことに決めた。ダンジョンの1階は、単純な迷路のようだ。こういう時ウィッピーの聴力は非常に役に立つ。オオコウモリの音を感知して、巣を避けることができるし、音の反響から道の先が行き止まりかどうかもわかるのだ。普通の人間にはとても真似できない。彼女のおかげで1階の迷路は簡単に突破することができた。



「暗いわね。今光をつけるわ。」

1階は薄暗いがまだ人間の目でダンジョン内を見れるだけの明るさがあったが、2階は何も見えないほどに暗い。

「待てエリア。」

こういう暗闇には明かりに反応して襲いかかってくる魔物が潜んでいたりする。しかしエリアはすでに魔法で明かりを灯していた。

「ササタニ!」

ウィッピーが叫ぶ。俺はすんでのところで暗闇から飛んできた矢をつかんだ。

「ヒュー、危ねえ。」

俺のスキルは超反応。反射と同時に即行動をすることができる。このスキルがなければ俺の体は今ごろ矢に貫かれていただろう。

「魔向石だな。エリア、ここでは魔法を使わないほうがいいかもしれない。」

「ごめん、気抜けてたかも。」

「いや、仕方がない。ここから引き締めて行こう。」

冗長な迷路を歩かせて気が抜けたところに、つい魔法を使わせたくなる暗闇。よく考えられている。

「ウィッピー、周りには何もないか?」

「うん、大丈夫だと思う。」

ランプに火をつけ、あたりを見回す。ダンジョンの構造はさっきの階とあまり変わらなそうだ。

「引き締めて行くぞ。」



「ねえ、この迷路1階と全く一緒なんじゃない。」

2階のダンジョンは巧妙に多くの罠が設置されていた。ウィッピーの5感と俺の超反射でなんとか切り抜けられたが並の勇者たちならあの階を突破するのは困難だろう。そしてたどり着いた3階は、大した罠はなく、たまにオオコウモリに出くわすだけの1階と同じただの迷路。2階では、よく作り込まれたダンジョンだと思ったが、これを見ると途中で面倒になって手抜き工事をすることになったようにも思える。やはりこのダンジョンに重要なものは隠されていないのだろうか。

「ササタニ!宝箱があるよ!」

ウィッピーの呼ぶ方に行くと無骨な木製の箱がある。

「ミミックか?」

「生き物の音はしないね。匂いも、中身は何か金属かな。」

「よし、どいてくれ。」

俺は剣を抜いて箱の側面を斬りつけ鍵を破壊した。剣を蓋の間に差し込み、思い切り箱を開ける。

中には黄金に輝くゴブレットが入っていた。当たりだ。この瞬間があるから勇者はやめられない。

「エリア、確認してくれ。」

「うん、…呪いとかはかかってなさそうかな。すごい、これ本物なら500万ディルはくだらないわ。やっと最近の貧乏生活から解放されるのね。」

「ああ、もう少し探索を続けよう。このイージーさでもっとお宝が見つかるならお得だぜ。」

そのまま探索を続けたが、4階も同様なオオコウモリだけがいる迷路だった。

「やっぱフェイクかな、このダンジョンは。あまりに作りが雑すぎる。2階までは真剣に作ったけど、予算がなくなってあとは突貫工事で同じような迷路を並べて終わりにしたんじゃないか。」

「魔族にも予算とかあるのね…。」

魔族の中にも生活がある。当然そういった制約はあるはずだ。

うだうだと言いながら迷路を進むうちに、5階への階段にさしかかる。

「この階も同じようなら引き上げようか。お宝も手に入ったしな。」


そう決めて下りた5階のフロアも、4階までとはあまり変わらない見栄えである。

「少しだけ見て引き上げようか。」

少なくとも純金のゴブレットという成果は得られた。十分だ。しかしこのフロアはさっきまでの階に増して陰鬱としている。足元には植物の蔦が蔓延っていた。

「…なんだろうこの植物は。」

「ちょ、ちょっと! 何このツタは、足に絡みついてくるわ!」

気づくと俺の足にもツタが絡みついている。

「落ち着けエリア!まだ魔法は使うな。」

さっきのように魔法を使うと起動する罠があるかもしれない。

「いえ、使うわ。これはウィーディでしょ。ウィーディは風に弱い、だったら!」

エリアが大きく手を振ると俺たちの周囲に竜巻のような風が巻き起こる。魔力に反応してやはり飛んできた鋼鉄の矢は、その風に弾き飛ばされて俺たちに届くことはなかった。

「流石だエリア!お前はやっぱ最高の魔法使いだぜ。」

「そ、そんなことはまあ、あるかもしれないけど。」

エリアは得意げな顔を見せる。

「エ、エリアー!ちょっと風、強すぎるかも。」

あ、ウィッピーの纏っているマントがめくれそうだ。思わず視線が向かってしまう。が、なんだ、意識が、飛びそう、な。しまった、これは、わ、な…か。




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