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罠の魔術師(3)

5階までのダンジョンの説明を受けた私たちは、隠し通路を通り、ダンジョンの管理室へと着いた。ダンジョン内と同じような石造りの部屋には、テーブルと椅子、部屋の奥にはベッドがあり、壁に並ぶ本棚には大量の書物がおかれていた。生活感はあまりない。椅子に座って休むように促される。

「コーンさんは、ここで生活しているんですか?」

「いえ、ここは月に2、3回訪れるくらいです。このダンジョンはフェイクですから、そんなに目を光らせる必要はありませんし、助手のゴブリンが管理にきてくれています。」

魔導石や、魔王の遺物を守っているような重要なダンジョンでは、基本的にダンジョンの製作者がそのダンジョンの周辺を離れることができない。当然、魔導石を守るダンジョンを作れることは最大の名誉なので断るものはいないが、責任も重大だし、大変な仕事だ。

「ねえ、早く服ちょうだい。替えの服あるんでしょ。」

そういえばサナはまだ私の上着を羽織っているだけだった。

「サナ、まだそんな格好してたのか。」

「うるさい!私のせいじゃないでしょ!」

「でも、その格好も可愛くていいよ。」

「可愛いわけないでしょ!ていうか普通に寒いのよこれ!」

コーンさんが棚から服を取り出し、少し大きいかと裾をナイフで切ってサナに渡す。

「ご飯にして今日はもう休みにしましょうか。」

「7階の説明を受けていませんが。」

「7階は私の魔法による罠があるフロアで、ダンジョンの勉強にはなりません。もしあなたたちがいる間にあの階までいける勇者がいれば、どんなフロアか分かります。その時説明しましょう。」

「ご飯なーに?」

服を着て、機嫌を取り戻したサナが無邪気に聞く。

「オオコウモリの香味焼きです。」

「まさか、このダンジョンの?」

「ええ、地産地消です。ちなみに香草は5階の魔植物の中でこっそり育てています。私が作りますので、2人は休んでいてください。」

「お手伝いしますよ。」

「いえ、1人でやるのに慣れていますので。」

研修に来ている身なのに申し訳ない。サナはもう勝手にベッドに寝転んで休んでいた。こいつ…、まあコーンさん喜びそうだしいいか。



「美味しい!!」

「何よりです。」

サナは食べる前はダンジョンに住んでいるオオコウモリなんて食えたものじゃないとぶつくさ文句を言っていたが、いざ食べると手のひらを返した。実際、私は子供の頃オオコウモリはよく食べたのだが、こんなに上手く味が引き出されている料理を食べたのは初めてだった。

「コーンさんは、魔植物への造詣も深そうですが、1人でダンジョン製作を行っているんですか?」

ダンジョン製作は様々な知識が要求されるためグループでやることの方が多いが、コーンさんのようにこだわりが強く1人で全てをこなしてしまう魔人もいる。

「そうですね。1人が性に合います。」

これだけのダンジョンを1人で作れる者はそういない、やはりコーンさんから学べることは多そうだ。

「…私は、かつて魔導石のダンジョンの製作を担当していました。」

「え!?そうなんですか。」

「ええ、担当中はその情報を誰にも言えないので知っている者は少ないですが。しかし、魔王軍総統が視察に来た際、私の罠は全て看破されそのダンジョンは不合格の烙印を押されました。私はあの時、罠だけのダンジョンを作ることの難しさ、1人でダンジョンを作る限界を見ました。だからこのダンジョンは私の実験場でもあるんです。」

「実験場?」

「人間が油断して罠にかかりやすくなるのはどのような状況かというのを今は研究しています。このダンジョンは単調な迷宮を繰り返すうちに人間の精神と体力がどれだけ疲弊するのかというところを見ているんです。その他にも、2階の罠は、勇者たちが入るたびに微調整をして、人間が油断しやすいタイミング、どのような罠を連続させると効果的なのか、などを見ています。」

なるほど、そういう意味があったのか。

「私はね、ダンジョンの面白みとはやはり罠だと思うんですよ。罠というのはそれを看破できるかどうかのダンジョンを通じての心理戦なのです。この戦いに勝つこと以上の楽しみはない。だから罠への理解をもっと深めて、あの総統でも驚くようなダンジョンを作りたいと思っているんです。1人でね。」

「素敵です、そういうこだわり、匠って感じでかっこいい。」

「せっかく優秀なんだったら、さっさと誰かと組めばいいじゃない。」

さっさとご飯を食べ終えたサナが口を挟む。

「サナさんのような可愛い女性となら組んでもいいんですけどね。」

「いやよ私は! あんたみたいな変態じじいがそういう冗談を言っても本当に気持ち悪いだけだから。」

「サナ、言い過ぎだから。明日から、私たちは何をしたらいいんですか?」

「ああ、難しいことをする必要はありません。オオコウモリの餌やりと、監視甲虫の繁殖だけしてくれれば。あとはこのダンジョンの作りや、罠の維持方法などについて深く解説しますよ。」

監視甲虫は、ダンジョンの様子を見るのに使われる虫だ。つがいで視野を共有している特殊な虫で、片方をダンジョン内に放ち、片方をこの管理室のような場所で飼育することでダンジョンの様子を把握できるのだ。彼らの視野を映像化できる魔道具が開発されたことによって、10年ほど前からこれが可能になった。繁殖方法は、やや面倒だがそんなに難しいことではない。そのくらいの簡単な仕事でコーンさんの指導を受けれるとは、この研修期間は素晴らしい1年になりそうだ。

「はー、仕事めんどくさー。」

サナのつぶやきが聞こえる。



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