目覚め
スノードロップをいけた花瓶を床頭台に飾ると、仄暗い雰囲気だった病室が少しだけ明るくなる。メアリーはよしよしと頭を撫でて褒めてくれた。
「シーツも替えたし、そろそろ行こうか」
「はい」
シュナは換気していた窓を閉め、そっとセルムに掛けられている布団の足元を整える。背が高いセルムの足は布団ギリギリだ。
「ん…」
「え?」
セルムの眉間が深くなり、薄らと目が開いた。セルムの血の気が引いて青白くなっていた頬に赤みが差し始める。
シュナは慌てて退室しようとしているメアリーに声を掛けた。
「メアリーさん!セルムさんの意識が戻って来たかも…!」
「まさか!」
致命傷を負って死を待つばかりと判断され積極的な治療がされず、鎮痛ポーションのみの対症療法だけで済まされていたセルムが意識を回復するなど、あり得ないことなのだ。メアリーは踵を返し、恐る恐るセルムの顔を覗き込む。
当のセルムぼんやりと辺りを見回しながら「ここ…どこ…?」とまるで寝惚けているかのように呟く。
「セルム!目を覚ましたんだね!」
「メアリー…さん?と…シュナちゃん?俺、ワイバーンと戦ってたはずなのに、なんで寝てるんすか?」
「あんた、ワイバーン討伐中に大怪我して棺桶に片足突っ込んでたんだよ!」
「大怪我?なんともないけど…」
セルムはむくりと起き上がり、不思議そうにメアリーとシュナの顔を交互に見つめる。何ともないなんて…と言いかけたメアリーは病衣からのぞく腕の切り傷なども綺麗さっぱり消失していることに絶句した。
「…包帯を取らせてもらうよ!」
メアリーは有無を言わさずに手早く顔面の半分を覆っていた包帯を解くと、そこにはなんの傷もない碧眼のセルムの顔が現れる。
「こんな回復の仕方…あり得ない」
「そんなに酷かったんですか。うわ、包帯にめっちゃ血付いてますね」
まるで他人事のように驚くセルムの回復ぶりに呆然としたメアリーだったが、しばらく何か考えこんだ後にシュナに向けて話し出した。
「シュナちゃん、なにか特別なことをしたかい?」
「いいえ、メアリーさんを手伝って、お花を摘んできたくらいです」
シュナは首を振って、スノードロップの花瓶を指差す。
「他に何かした?」
「お祈りしたくらいで、特別なことはなにも…」
「それだ!」
シュナにはさっぱりわけがわからなかったが、メアリーはシュナの手を握って幼子によくよく言い聞かせるように語り始めた。
「私の予想だとシュナちゃんのギフトは『祈祷師』だよ」
「祈祷師?」