慌て者
宜しく御願い申し上げます!
雲の上には、なにも無かった。 いや、白いドレスを着た女の子だけが居た。 長いスカートの薄布が陽の逆光に透けながら、ひらひらと旗のようになっていた。
蝶のように宙を舞っている、そう思った。思ったけれど、そうであるという確信は持てないのであった。 しかし、やはり彼女はわたしの欲情を誘うかのように踊り狂っているようであった。 息も絶え絶えになりながら、岸壁の縁の、彼女を隈なく眺められる位置にまで移動することが出来た。 そして、そのまま眺めていようと思ったのだが、白いドレスを着た女の子はわたしかろ逃げるようにすっと、立ち去ってしまい辺りには彼女の甘ったるいような体臭だけが残されたのであった。 その臭いだけではとうてい飽き足らないわたしは慌てて彼女の後を追って走った。彼女を追って周囲も見ずに走っていったら、死んだ。 より高い雲の上に脚を踏み出した途端、そこには雲の実態はなく、わたしの脚を支えるべき何ものも存在せず、ただ、棒のように落ちて死んだ。下界まで、間はないだろう。
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