とんでもなく『ヤバい奴』
「葵ちゃん、これからよろしくね。勉強とかいろいろなところで分からないところあったらなんでも聞いてね。これでも俺、大学生だし」
「ありがとうございます」
「あ、俺にも敬語じゃなくていいよ。肩苦しいでしょ?」
「え? あ、ああじゃあタメ口で。ありがとう」
家に着いてから一番に話しかけてくれたのは長男の、しゅ、しゅう、柊真さん! だった。
とても優しそうな人だった。
……兄妹かぁ。
これまで、想像したこともなかった。私には、父親がいなかったから。
和也さんは優しい。だから少し安心した。でも、まだ分からない。人は、怖い。すぐに人を突き放す。
信頼を積み重ねていたとしても。
「葵姉〜」
「葵姉!?」
後ろから声をかけられた。謎の呼び方と共に。
「え? だって、葵だろ? で、姉ちゃん」
そう言いながら私を指指す。
「そっか。葵姉かぁ」
「嫌?」
……うわっ!!!!!
四男の確か……祐希くん。は、上目遣いでこちらを見てくる。身長は私よりも少し小さい。
……かわいすぎ〜〜!!
なんだ、この攻撃は。しかも、瞳をうるうるさせている。
「全然嫌じゃないよ!」
「そう? 良かったぁ」
……何なの、この子!?
中学一年生ということだから、別に幼くはない。でも、この可愛さは……。
……破滅級。
「ちょっと祐希、葵ちゃんが困ってる。ごめんね、葵ちゃん。祐希、ちょっとこういうところあるから」
「あ、い、いいいいえ」
……こういうところってなに!? 家族も頷く女たらしって意味!?
「あ、そうそう。父さんが葵姉のこと呼んでたよ。二階の一番奥の部屋だって。それ伝えにきたんだよ。柊真兄は早とちりなんだよ」
「はいはい、ごめんね」
……和也さんが?
「ありがとう、伝えてくれて」
祐希くんが頬を膨らませて「ふん!」とそっぽを向くのを見ながら私は二階に向かった。
……可愛すぎる。
ずっと眺めていたいと思いながら。
「ここが葵ちゃんの部屋ね! どう? 結構広いでしょう」
「わっ! すごい。……でも確かに、勿体ないほど広いね」
そう。そうなのだ。この家、広すぎる。
何だかんだスルーしてしまったが、和也さんは一体何の仕事をしているんだろう。
豪邸と言ってもいいほどの大きい家なのだ。
この家は、お母さんと相談して買ったらしいが、お母さんにたんまりお金があるとは思えない。
「和也さんって何の仕事してるの?」
何か大企業などに入っているのだろうか。
「ん? 仕事? 僕はデザイナーだよ」
「デザイナー!?」
「うん。あ、しかもね、『LIP×chandelier』の副社長をしているんだ」
「副社ちょ……!!」
とんでもない発言に口をあんぐりと開かせてしまった。
「……そんなすごい人がお父さんになるなんて。お母さんどんな手使ったの……」
「あはは。葵ちゃんはおもしろいね。彩乃さんは可愛らしいだろう? 出会った頃に一目惚れっていうかなんというか」
「そんな適当な理由で再婚を……あ、適当とか言ったら失礼か。ごめんなさい」
和也さんは笑いながら「いいよいいよ」と手を振る。
「確かに、少し勢いが良すぎたかもね」
「お母さんの勢いに押されただけでしょうからお気になさらず」
「あはは! まあとりあえず、この部屋、好きにしちゃっていいから。荷物はもう置いておいたからね。手伝えることあったらなんか言ってね〜」
「はーい」
和也さんが部屋からいなくなるのを見届けると、私はため息をついた。
「やるか」
……ふう。綺麗になった。
だいたいの荷物が整えられたことに安堵する。
あまり、片付けなどは得意なタイプではない。
飲み物を取りに行こうと一階に降りる。
前に。
……わっ! 確か、次男のこ、こ、洸! 睫毛長っ。顔ちっちゃっ! 顔のパーツ全部そろってる! 足細! 長!
洸が現れた。といつか、部屋が隣らしい。高身長イケメンというのはこれかと理解した。
「あ、えっと」
「……」
すっ
……ええぇぇぇ。
彼は、黙って通り過ぎた。
……いや、こんなことある?
場面を見れば合っているかもしれない。
兄妹の私たちが、部屋で会った時に挨拶をし合うのは異質だ。
……でも、さ。会ってから間もないんだよ?
「あ、あの! どうして、平然といられるの?」
「……なに」
「え? だから、どうして平然としていられるのって」
「その質問に答えることに俺は利があるのか? あるなら今から三秒以内に答えろ。三、二、一。はいじゃあばいばい」
……ええええええええぇぇぇぇぇぇぇ。
兄となった彼は、とんでもなく『ヤバい奴』でした!
私は洸が好きです。これからクールキャラとして萌えさせたいと思います。