囚人とゴースト
アリアはとにかく学園内を探索していた。
犯行現場に直接出向いたりしていたが、やはり何も見つからなかった
「うーんやはりなにもないですね」
まあそこまで期待していた訳では無い、魔術を上手く扱うのなら痕跡を完璧に消すことぐらいはできるだろう、そして魔術師は術式を加工してオリジナルの魔術を生み出すこともできるから私、いやどんなに魔術に長けている者でも直接見ないことには魔術の効果はわからない。厄介ですね、魔術師って。まあ私も使えるのですが、あまり手の内を明かすことはしたくないので使いませんが。
さて、これからどうしようか、あの事件の関係者が黒幕だとすると、関わった人物の情報を調べるのだけれども、しかしこれは王が狙い、なおかつあの事件の関係者が恨みを持ったという推測の元とした調査であり、この推測が根本から間違っていれば徒労に終わるわけだ。
...いろんな可能性を考えるのはこの場合悪手かもしれない。
「おや?そこにいるのは白氷か、調査を頑張っているようで何よりだ」
む?金髪か、名前なんだっけ。あ、ある?アレス?でしたか?
「はい、まあ頑張っているといっても成果はあまりないですけどね」
「いや、手伝ってくれるだけで有り難い。戦力が増えるのは良いことだからな。白氷、お前も父のパーティーに来るのだろう?もし襲撃があったときにお前という存在は切り札になる、どうか父のことを守ってくれ、あぁ怪しまれるといけないから遠くで、の方が良いか」
「そうですね」
「あ、でも私一応平民なんですけど参加できるんですか」
「そこは大丈夫だ、俺達が話をつけておいたからな。文句が一つも出なかったのは流石白氷だな」
おや意外、貴族というのはプライドの塊と聞いていたがそうでもないのだろうか?それとも王子の圧というやつかな
「そうだ白氷、どうか父に会っても誤解しないでくれ。無口で無愛想だが本当は悲しい人なのだ」
「......わかりました」
「あ」
「あ」
アレスと別れて数時間後、赤髪クロムとバッタリ会ってしまった
「なにか?」
「なんでもねぇよ!ただの偶然だ」
偶然にしては今日はよく王子達と出会う、今日は厄日というものだろうか?
「なんだよ、そのうんざりとしたツラはよぉ」
「別に?なんでもありませんよ。ただ普通だった日が最悪に変わっただけです」
「...テメェ」
ついついイジメてしまう、反応がいいと揶揄いがいがありますね
「まあ良い!ここで会ったのはただの偶然だが、お前に伝えたい事がある」
伝えたいこと?なんだろう、もう一度決闘の申し出?なんにせよおそらくこの男は負けず嫌いだから勝負を挑んでくるはず...
「悪かった、失礼な真似をして」
「えっ」
予想外の反応で困惑する
「要件はそれだけだ、じゃあな」
「...ちょっと待ってください、素直に認めるんですか?自分が愚かだったって」
「そうだ」
「......そうですか、いえ引き止めてすみません」
「ああ、それじゃまたな」
.....なんだか私が嫌な奴みたいになってしまった。
いや辞めよう、それについて考えるのは。
嫌な奴と思ったけど、結構良いところあるんですね。
太陽が地平線から現れた頃、コンコンとノック音が聞こえる。しかしまだ眠いので一度は無視する。だがまだ音は響く。
仕方ないので不機嫌ながら出ることにする、もしかしたら顔に出ているかもしれない。
「おはようございます、アリア殿。おや、起こしてしまいましたかな?しかめっ面は似合いませんよ」
やはり顔に出ていたらしい、いやそんな事はどうだっていい。
「わたしに.....なにか..用ですかぁ?」
眠くてウトウトしながらも用を聞く。
さっさと終わらせてベットにインしよう。
訪ねてきたのは老兵だった。右手にハルバードを携えていて、特に珍しくもない普通の兵士といった格好だった。だが老兵は他の者から一目置かれるだろう、なぜならばその年まで生きていることは強者の証なのだから。
老兵はアリアにとある場所について来てもらいたくここにやってきた。アリアは寝間着から制服に着替えて用意してあった馬車に乗り込む。
移動中の馬車の中、色々と事情を聞いてみた。
「私をどこに行かせたいんですか」
「牢屋です」
「何もしてません」
「ほっほっほ、収容ではなく面会ですよ」
実に紛らわしい、この老人は私をからかっているのだろうか。
「では誰と面会を?」
「そうですなあ、一言で言うなら『狂人』ですかな。狂人と言ってもアレは特別な能力を持っているようで、貴女とは接点が無いはずなのですが何故か名指しで話がしたいと言いやがりまして。知らないはずの情報を何故か持っている。おれ...いや私も長年生きてきましたが、アレほど恐ろしいヤツは居なかった。アレは間違いなくこの世界の者じゃありません」
ついに明日、私の復讐が果たされる。この機会を待って待って待ち続けてようやく実現可能な計画になった。
王はあの事件から人間不信になった、それ故に王は護衛を他人に任せずに隠れている、そして王は保険として17年前あの方からの贈り物であるブローチに魔術を施した。その魔術を長い間観察し解析した結果、代々王家がいつか来る神との戦いに備えるために貯蓄した魔力を利用した絶対防御の魔術だ。
しかし、媒体であるブローチは所詮魔道具でもないただの装飾品だった物だ。付け入る隙はある、ブローチに入っている魔力、術式を上回る負荷をかければ良い。そのための誘拐した人間だ
さて、共犯者は上手くやれるだろうか、それは共犯者の力量に期待するしかあるまい。
...アリアか、まさかとは思うがあの方の...いや今は関係はない、しかしできるだけ傷つけないようにしておこう。
悲願が達成される時は近い、必ず殺してやるぞ臆病者が
連れて来られたのは王城の裏手側、老兵が草むらに手をのばし何かを操作する。すると城の壁に扉が現れる。驚きなのが扉を隠していた魔術を全く感知できなかったことである。それはつまり仕掛けた者はとんでもなく凄腕な魔術師であるということだ。
ここにいる者はそれほどまでに特異ということの証明だろう。
扉をくぐり、階段を下ったその先には一つの牢があった。暗闇に包まれていてよく見えないが、鉄格子の幅からして一人を収容しているにしてはかなり広い。
沈黙がこの場を漂う、気配を感じず本当に誰かいるのか分からない程に静かだ。
老兵はアリアの思っている事を察したのか、ハルバードを鉄格子に当てて音を出す。
「.........ン、あァ゙?やア、久しぶりだネ戦斧」
「毎日会っとるだろうが」
「これハ失礼((笑))そしテハジメマシテまたハおはよう、アリア。ワタしは「物語を語るものとモウします」
暗闇から、見えない彼はそういった。
「あなたが私をここに?」
「えゑ、わたしとワタシが呼びました、ヨビコミました。」
姿は暗くて見えないが、そこにいる者は異質だとそこにいるのは世界の歪みだとわかった。だが妙に親近感を覚えるのは気のせいだろうか、まるで彼と私が同類みたいな...
「くⅨ九、わたしが何ナノか気にしナいで下さい。それハ貴女とハ関係ありまセん。わたしハ歪み、わたしハ読み手、わたしハ部外者。あア、これヲ『自由』と言うノかもしれまセん。わたしハ『自由』の舞台装置!ソう思っていタだきたいデす。」
「相変わらず何を言ってんのかわかんねえな、おっと失礼わかりません、だ」
確かに私にも理解はできない、だが既視感がある。あの人も、時々こんなふうに変な事を口走っていた。
「理解できないなら、無理に理解する必要はありません。自己紹介は終わったので早く本題に入ってください、リッドさん」
「さスが思い切りガ良い。ま、モう目的ハ達成しまシたがネ」
リッドがそういった瞬間、階段の方からコツコツと誰かが下る音が聞こえる。ふと老兵の方を見ると、とても驚いた表情をしていた。
「ソう!わたしハ貴女とカレを出会わせル舞台装置に徹しタのです。彼は最高ノ情報屋、幽霊ノ如きそのカレの名は『ゴースト』。そのマまの、分かりやすイ名前デしょう。」
現れたのは黒のシルクハットに紳士服を着た、茶髪の男だった。
「急に呼び出されたと思ったら、これが目的か」
「悪イとハ思っているヨ」
「ならば手早く済ませよう、今は忙しいのでな」
ゴーストはアリアの方を見て、ついてくるように促す。どうやらお互いに無駄を嫌うタイプのようだ、大人しくついていく事にする。
「結局お前は何がしたかったんだ。」
「ナに、物語ヲ円滑に進めタだけだヨ」
老兵はポリポリと頭を掻く。彼にはリッドが理解できない、『戦斧』を引退した後に暇つぶしとして看守をしてから30年。そのうちの25年はリッドの専属看守、それだけの年月を経た彼らは親友と言えるだろう。だがやはり真に理解はできない。まあ、そもそも老兵は物語にそこまで興味は無いので理解する気が無いというのが実情だろう。
「俺にはとんとわからんが、ま、せめてアリア殿の旅の成功を祈っておこうかね」
「なラば、わたしはアリアに未来からノ言葉を贈ろウ。『■■■。自由■■き、■せに■■なさい』」