不穏な影
王子に絡まれるとは私も運がないな。いやこの場合必然というべきだろうか。私は優秀なので疎まれるのは仕方のない事。
とまあ、自画自賛をする私だけれども別に優越感に浸ることはない、これは私が上には上がいることを知っているからだ。今の私は天才なんて呼ばれているがそんなことは全く無い、私では勝てないものがいるとわかっている。
慢心こそ敗北の原因と幼少の頃から身にしみている。
どんなに弱そうでも決して油断してはならない、常に別の可能性を考える。
そう教わった。
入学してから半年と少しが経ったが何やら学園内が騒がしい、聞けば失踪事件が多発しているとのこと。
私には関係のない事と思いたいが、さっきからずっと嫌な予感がする。前を見ると王子の一人金髪2が近づいてくる!
すぐさま身体を後ろに向けて逃げようとしたが、誰かとぶつかってしまった。
ぶつかったのはローレンスだった。
「あ、ごめんアリアさん!ぶつかっちゃった!本当にごめん!」
ローレンスは軽く謝ってササッと何処かへと消えてしまった。
「あ、白氷!やっと見つけたよー、実は君に頼みたいことがー」
「うるさい消しますよ」
「あっ、えっ、えっとごめん?」
少し、ほんの少しだけイラッときた私なのだった。
またしても学園長室に通された私。
まだローレンスに苛つきがあるまま、おそらく高級であろうソファにドサッと飛び乗るように座る。どこからどう見ても不機嫌とわかる態度だ。
「おほん、久しぶりですねアリアさん。元気でしたか?今の所目立った問題を起こしていないようで私は大変喜ばしいですよ」
目立った問題...、一般的には王子とのいざこざは結構な問題のような?
「王子の件は?」
「それは大したことではないです」
「おかしいな、王子なのに威厳なくない?」
マルスは少し落ち込んだ。
たしかに威厳がないですね王子達
「ほ、本題に入ろうか。白氷も知っているだろうが最近失踪する者が多すぎる、しかし兄さん達が調査をしているが犯人の足取りが全く掴めない、だから神童である白氷の力を借りたい。協力してくれたら報酬も用意することを約束しよう」
もちろん協力してくれるね?と言った目で見てくるマルス。
「報酬とは具体的にはどういった物でしょうか?」
報酬がなんなのか分からない限りは協力はできないですよ、ちゃんと誠意を見せてくれないと。
目を輝かせながらマルスを見つめる。
マルスはその整った顔にドキッとする、意外にもがめついんだなとも思っていた。
「うーん、おいおい決めるじゃ駄目かい?」
「駄目です」
しっかりと言質を取っておかないと後で逃げられてタダ働きということもあり得る。納得をしないと了承は絶対にしない。
「じゃあ無料食事券...とか?」
「やりましょう」
「...え?」
「なんですか?」
マルスとしては断られると思っていた、冗談のようなものだったのだがまさかこれでいけるとは思いもよらなかった。
「ええと、それじゃあそれで頼みます」
チョロいと思われてしまっただろうか、まあ別にどうでもいいか。
正直、報酬に関してはなんでもよかった。私はタダで働かせられるという記録を作りたくなかっただけだから。もしそういう記録があると舐めた態度で接してくる奴がいるかもしれない、それは非常に不愉快なので事前に対策する。
もう一つ協力する理由がある。それはこういう厄介事は関係ないと思っているほど関わることになってしまう、とあの人が言っていた。なんでも主人公はそういうものだと、まあ主人公うんぬんはあの人の冗談だとしても、厄介事に関しては私もそんな気がする。
なのでさっさと終わらせて、平穏な生活をしたいという思いがある。
「...やはり師匠の娘だから変人ね」ボソッ
聞こえてますよ学園長、よし帰ったらエピックさんに報告してやろう
「じゃあ協力してくれるということで、まず情報共有をしておこう、黒幕は魔術師である可能性が高い。能力ではなく魔術に特化していると考えている、能力を使った後の特殊な魔力が浮いてなかったからね。さらに、魔術を使ったのにも関わらず痕跡がほぼない、かなりの使い手だよ。」
魔術師...能力に頼らず本来起こりえざる事象を起こす者か
魔術は術式などの構築を自力でしなければならず能力に比べて使いがってが悪いが、使いこなせれば能力以上に工夫でき汎用性が高い、しかしやはり難易度が高いから魔術師は希少である。
だがこの学園内で魔術を使いこなせるのは、私と学園長もかな?それ以外は見た限りでは居ないはず。となると外部からの侵入者と言うことになる、しかし私の眼を欺ける者が居ないとも限らない。
これは苦労しそう。
「私から質問があります、マルスさん。」
「なにかな?学園長」
「私とアリアさん以外にも魔術を使える人はいるのでしょうか、また攫われた生徒の魔力反応は感知出来ませんか?学園には結界が張ってあるので許可なく外には出られないはずです。」
質問する学園長、彼女は魔術を扱えるが犯人の候補からは外されている。彼女ならばそもそも立場を使えばこんな事件を起こすことはないからだ
「一つ目の質問に答えると、僕達ではなんとも。魔術は本人から出来ると言われないと分かんないからね。二つ目、感知は出来ないだ。僕も兄さん達もやってみたけど何だか変な感じだ、捻じ曲がるような感覚がして魔力感知はあてにならない。つまり黒幕の正体、被害者の場所は一切不明なんだ、情けないことにね。」
「...そうですか、いえありがとうございます」
私はそこで一つの可能性を思いついた...思えば失踪事件が起きたのはアレの時期が迫ってきた頃からだ、私も詳しくは知らないがクラスの奴らが話していた内容はたしか王が一年に一度顔見せだかなんとか。もしかしたら犯人はそれが狙いなのではないかと、この国の王は昔ある事件がきっかけで表に顔を出さなくなったらしいし。それ関連の可能性もある
いや、確定といってもいいだろう。王が公に出るのなら、そこを狙うのは必然だ。
暗殺はできないだろう、王の所在は王国最強の騎士と呼ばれる者しか知らないらしいし。その騎士も今は「騎士団」の方の任務でこの国にはいないとのこと、故に場所がわからないので暗殺は不可能ということだ
「学園長、黒幕の狙いは王なのでは?」
「王?ああ!顔見せのパーティですか!しかし何故そう思って...あの事件の関係者が犯人ということですか。なるほどそれなら可能性はありますね」
「はい、しかし私はその事件の詳細を知りません。教えてもらえますか?」
そう私は昔あった事件をよく知らないのだ、王都に来る前、そういった事はできる限り調べたが情報がなかったので知ることが出来なかったのだ。
「あ、それ僕も聞きたい。父上はその話をする事を固く禁じているから僕も知らないんだよね」
「...それ私、王から処罰されません?」
心配そうに言う学園長、正直この人が何されようが知ったことではないので大丈夫だと言っておく
「あははは、大丈夫バレなかったら犯罪じゃないよ」
「う、王子がそれを言うんですか...はぁわかりましたそれなら話しましょう。あの事件のことを」
「おい、大丈夫なのかこの計画?」
二人の男の一人が不安そうに言う。これは賭けに出過ぎなのではと。
だがもう一人の男はそれを否定する、これは賭けではなく確定した要素と。
「フン、そうか。ならば信じるぞその言葉。それはそうとまだ人の数が足りん。もっと増やせんのか」
もう一人の男、復讐者はこれ以上目立つべきではないと考える。そして復讐者は気付く、誰かに見られていることに。
「おっと、気づいたか」
「何者だ?どうやってここに来た?」
取り乱すことも無く冷静に言う男。しかし困惑はしている、この場所は特殊な結界が張っており通常の手段ではこの場所にこれないはずだから。
「それに答える義理があるかな?まあ安心しなよお二人さん、君たちの計画の邪魔はしないさ。」
飄々という得体の知れない者、何を考えているか分からず男は内心恐怖を覚える。
「なに?貴様、何が目的だ」
「いやぁね?ただの興味本位で見に来ただけ。わざわざ妨害する必要もない。だって君たちの計画はどっちにしろ失敗するからネ」
「....」
復讐者は何も言わない、ただ紫の外套の者を観察するだけである。
「じゃあそろそろ帰るよ、せいぜい頑張って」
そう言って紫の外套は闇に消えた。
「どうする?計画を見直すか?」
復讐者は言う、変更はない。
彼にとっても先程は想定外のものだったが邪魔をしないというのは本当のだとわかった。なので変更は無い
「そうか、では俺はそろそろ戻る。色々準備があるからな、お前も怠るなよ」
言われるまでもない、ついに復讐の機会が巡ってきたのだ。復讐者に驕りはなく、復讐者に慢心はない。