流 『次元の狭間』 刑地
状況は依然として不利ではあるが先程エピックさんがロマリスに傷をつけてくれたお陰で、ロマリスの攻撃は鈍っていた。
しかしそれでも、少しずつではあるが押されている。こちらの体力は有限、あちらの権能は無限なのだから当然だろう。
だから早くこの状況を打開しないとならないのだけれども、中々決め手に欠ける。
そこらにあった石ころを投げる、結構な勢いがあったはずなのだが避けることも防ぐこともせずモロに受ける、しかしそよ風に当たったかの如くスカした表情を保っている。そもそもの肉体強度が高いのだろう、おそらく今持っている手札の中では剣で斬る以外では傷もつけられないだろう。
アリアがタイミングを伺っていると、突如ロマリスが体制を崩した。流刑地の崩壊の影響で丁度ロマリスの足元が崩れたのだ。
その隙を見逃す訳も無く、アリアは全力で走り斬りつける。
結果として肩から心臓を斬れた。
「お見事、しかし残念でしたね」
ロマリスはまだ動く左腕でアリアの左腕に触れる、するとアリアの腕の中から無数の武器が飛び出してきた。そしてアリアの左肩から腕はズタズタに引き裂かれ崩れ落ちる。
自分の体が見るも無惨な事になってはいるがアリアは表情を動かさず、効いてませんよと言っているような表情だが、その心はめちゃくちゃ痛がっていた。
「しかし驚きましたよ、貴女が主人公の類とは」
ロマリスは離れそうになる体を元の位置にくっつける、すると接着剤で物を直すかの如くピッタリと治った。対してアリアは腕から血が止まらない、止血しようにも目の前に敵がいるのだからそれは難しい。
「主人公?」
激痛が走りながらも無表情で気になった事を聞く。出血多量で死にそうなりながらも聞く胆力は大したものだろう。
「おや?知らなかったのですか。では、教えてあげましょう。主人公とは、世界の中心と言うべき存在です。中心だからと言って一人だけとは限りませんがね。主人公になった存在は世界からの祝福を受け、その者にとって都合の良い展開が起きやすくなるのですよ。先程の崩れで私が隙を晒したのもソレの影響ですね」
確かに先の展開はあまりにも都合が良すぎた。思えば、今までもそうだった。行列ができるほどの人気店に行った時に丁度空いていたり、クロムをいじめたい時にバッタリ会ったり、エピックさん...はあまり会えなかったけれど、つまりそういうことなのだろう。
「ま、権能で殺すことができるんですけどね。だから貴女は絶体絶命、という訳です。」
アリアの足元から生み出された武器が飛んで来る。それを避けれはできるが血が大量に流れ出る、死がもう目前まで迫っていた。
アリアは相変わらず無表情を貫いているが内心はかなり焦っていた、死にたくない、それは恐怖からの思いではない。
まだ何も成せていないから。何かを遺したいと思うのは、それは命あるものの本能のようなものだろう。
(私はまだ死ねない!私は誰かにこの思いを継承したくない、私自身が為す事に意味があるんだ!)
だがそんな思いには世界は答えない、権能によってアリアは死の運命に紐づけられてしまった。
結末は、いくら主人公であろうと変えられない。
「ならば私が変えよう」
遥か遠き地に居る『騎士』は剣を抜き、そして斧を取り出す。二つを組み合わせ、大剣へと変形させる。
その矛を天に向けて、虚空に向かって一閃。
その威力は大地を揺らすには十分過ぎた。そして時空間を超えてアリアの目の前の空間の『次元』を斬った。
その技の名は、何の捻りもないシンプルなものであり『次元斬』という。
アリアは突如現れた『次元』の裂け目に吸い込まれる。お陰でロマリスの攻撃は空振りに終わった。
ロマリスは突然邪魔が入った事に苛立ちを隠せなかった、折角存分に戦えると思ったのに...
だがすぐに、これはこれで良いのではないか?とも思った。
彼女は別の次元へと跳ばされた、そしてきっと傷を治して戻って来るだろう。なぜならば彼女の目には闘志があったから、自分と同じく飢えている者だから。
戦いの高揚感、勝利への渇望、無意識ではあるだろうがそれらが見受けられた。ならば待とう、いくらでも待とう。
私達は同類だから、きっと熱く戦いを終わらせれることができるだろう。
嗚呼、楽しみだなぁ。
その空間はとても不思議な所であった。星空に照らされた草原なのだが周りは明るく、また何も無い。
いやただ一つ、ポツリと木製の椅子があった。
アリアはその光景に見覚えがあった、流刑地に来る前に来た、儀式をした場所である。
あれはもしかしたら、ここを模したものなのかもしれない。
いやそれは今はどうだっていい、今すぐに止血をしなければ死んでしまう。
(あれ...?)
目の前が歪む、どうやら時間が経ちすぎてしまったらしく、体が限界を迎えようとしていた。
意識を手放してしまう直前にアリアは魔術で炎を生み出して切断面を燃やし、無理矢理止血をする。ここでは魔術を使えるようだが限界状態のアリアではこれが精一杯の抵抗である。
そして彼女の意識は暗転した。
このままでは彼女は死ぬが、『騎士』はその状況を予見していた。
「やれやれ、なんだってここに来なきゃいけな...」
男は死にかけのアリアを見つける。こんな所で純粋な生命体に会うなんて久しぶりだ、稀に裂け目から迷い込んでしまう者はいるのだが、彼女もそうなのだろうか。
いや、タイミングを加味すればきっと『騎士』の采配だろう。
すぐにでも助けたいところだが、迷う。
なぜならば彼女は白い髪だから、どっかの阿呆に塩を送ることになるのではないかと思ったので放置する選択肢もあったのだが、すぐにそれは打ち消される。
(これは、マジかよ...)
アリアのすぐそばにあった剣を見て、それに秘められた気配に気付く。そして迷い無くアリアを助ける事にしたのだった。




