『影刃』
「ふい〜死ぬかと思った、いや死んでるんだけどね」
街から脱出したエピックは近くの森に潜伏していた。
「......出てきなよ覗き魔さん」
木の影に視線を向ける、すると奥から音もなく人が歩いてきた。灰色の軍服に軍帽そしてその上に灰色のマントを着た男が腰にかけたロングソードに手を置きながら影から出てきた。
「その軍服とその色、エリウ帝国執行部隊のさらにエリート『影刃』だな?」
『影刃』と呼ばれた男は軍服の襟を直す。沈黙は肯定しているということだろう。
アリアの居る王国の西側に隣接しているエリウ帝国は覇道をゆく事で有名だ。その国力は凄まじく、一対一なら負ける事は無い。着実に領土を広げている帝国だがある二つの国は避けていた、一つは神が降臨した国そしてもう一つはここ王国である。
王国を狙わない理由は単純明快『騎士』がいるからだ。
「我らの事を知っているとはな、さすがは騎士団といった所だ」
「驚いた、帝国はもうそんな所まで知っているのか」
『影刃』は目を閉じ、淡々と話す。
「...私がここに来るだけの価値はあったな」
その言葉でエピックは自身がやらかした事に気付いた。カマをかけられたのだ
「なるほどやられたよ。その情報はくれてやる、これは僕のミスだ」
「いいや一概にあなたの失敗というわけでも無いだろう。あなたはあの盲目の化物に殺され生き返った、私がその隙をついただけの事。普段のあなたならばこの程度、掛かる事は無かった」
エピックは頭をフード越しに掻く。先程の失敗を反省している、そして少しだけ発生した苛立ちを消すための行為だ。
「で、君はどうする。おそらく弱体化しているであろう騎士団の者を捕らえるかい?」
「無駄な挑発はよせ。『騎士』が居て、手を出す訳無いだろう」
「へぇ?随分と高い評価じゃないか」
「当たり前だろう、アレは間違いなく世界最強だ。だからこそ我ら帝国は今まで手が出せていない、そしてそれはこれからもだろうがな。戦闘力、指揮能力、魔術や能力に対しての理解も深い。正直に言って攻略は不可能だな」
フッ、とエピックは笑う。それは嘲りではなく騎士が褒められていてなんだか嬉しくなったからである。
「ま、そうだな。アンタらの評価は正しいよ、どうやら思っていたほど帝国は馬鹿じゃないらしい」
「...今代の皇帝は若いが賢い、柔軟な発想と侮らない性格、何より引き際を弁えている。もしかしたら世界征服も可能かもしれないな。話は終わりだ、ここでの任務は完了したので帰らせてもらおう」
そういって『影刃』は背を向け立ち去ろうとする。
「帰るのは構わないが皇帝に伝言を頼まれてくれないかい?」
「何?」
『影刃』は足を止め振り返る。
「近い内に、騎士団が話をするとね」
「......」
「そう警戒しないでくれ、別に粛清するとかそういう話じゃない。帝国、王国、騎士団、全てに利益がある良い話だよ」
窓から街を見る、この街は大きな街で建物はどれも高くまた装飾が凝っている。その中でも一際目立つ建物が時計塔だ。時刻を知らせ太陽が真上にくるタイミングで音がなる仕組みだ
「ふーむ、アレが時計塔か。...なんか空が神々しくないか?」
時間帯は夜のはずなのだが街の真上だけまるで太陽があるかのような明るさだ
「天将...ここにいるということでしょうか」
「なんじゃろ、なんでか知らんが碌でもない奴ということはわかるのう」
「とりあえず、あそこに向かいましょう。一応私も冒険者ですから、依頼されたら責任を持って遂行しましょう」
玄関に出る、正影は鎖を連れて行こうとしたのだが、鎖は丸まって動かない。指でつついてもうんともすんとも言わない
「どうしたんでしょうか?」
「...多分じゃが、使命を終えたのじゃろう。...」
「正影さん?」
急に静かになる正影に困惑するアリア
「あーお前さん、すまんのだが先に行っててくれんか」
「いいですけど、どこに行かれるのですか?」
「ただ野暮用が出来ただけよ、すぐ追いつく」
「...わかりました」
アリアは走り去った、何がしたいのかは察したので何も言わないことにする
「優しい娘じゃのう、さて」
正影は手で地面に穴を掘り始めた、そしてある程度の大きさに掘ったら次は鎖を穴に埋めはじめた
「たとえ生きていなくとも中々どうして、あのままにはできんよなあ」
この鎖は自分だ、使命を果たせば自分もこの鎖のように動かなくなり、魂はどこかに行くだろう。
自分は孤独に死ぬのかもしれない、ああそれは嫌だな。せめてこの鎖のように自分を弔ってくれる人が居てくれることを願う




