殺人鬼の棲む街
そこは雨が降っていた。そこで目覚めると同時に死の匂いが強烈に漂ってくる、思わず顔を顰めてしまう。そして辺りを見渡すと大量の死体と武器が散らばっていた。
死屍累々たる有様だが、そんな中ただ一人だけ死体ばかりの場所に立っていた。
後ろ姿ではあるが女であると分かった、長髪で黒髪、右手には黒い刀身で刃紋が紫、特徴的な刀を持っていた。
この女が何者なのか、それを直接問いただそうとした。
恐れはなかった、そればかりか懐かしさを感じる。
まただ、また懐かしさ。
あの武士にも懐かしさを感じるしこの女にも感じる、会った事がないのにもかかわらず。最近はずっとこうだ、不思議な事ばかり。
女に近づこうとしたその時、視界が暗転した。
「お、目覚めたようじゃな」
目を開ける、見知らぬ部屋に居てベットに寝かされていた。視界には武士と黒鎧、手を伸ばせば届くほど近くに自分の大切な剣が鞘に納められそっと置かれていた。
「これはどういう状況ですか?」
まるで意味がわからない、この二人は敵対していたはず。
「あーそれなんじゃが、カクカクシカジカ...」
「なるほど、理解しました」
どうやら私は暴走したところをこの二人によって止められたようだ、暴走したとはいえ負けたのは少しムッとしそしてすぐにキレる己の未熟さに辟易する。
ふと見ると黒鎧、いやフレドが頭を抱えていた。
「なんで?」
思わず敬語を外してしまったフレド、いやいやいやおかしいだろ。意味の分からん単語を話していただけなのに何故伝わっているのか理解に苦しむ。
「なんでって分からんか?」「分かりませんか?」
「だっておかしいでしょう!?私がおかしいのかこれは?」
しばらくカクカクシカジカで何故伝わるのかというどうでも良い言い合いが三十分続いた。
「カクカクシカジカはカクカクシカジカじゃろ!」
「そんなふざけたもんで内容が短縮されてたまるかよ!」
「僕は何を見せられているんだ?」
絶賛観察中のエピックこと僕は三人のギャグのような言い合いを双眼鏡越しに見ていた、勿論盗聴もしているから内容はバッチリ把握済みサ!
いやなんだよコレ、見ている分には面白いが早く話を進めてくれないと物語が進まないじゃないか。これじゃあ彼らとの進行度に合わせるのが難しくなってしまう。
ぐぬぬぬ、こうなったらあまりやりたくはないが直接干渉をして...
「何しているんですか師匠」
「うお!?なんだ少年じゃないか」
エピックの背後に現れたのは少年とは程遠い、騎士の格好をした男だった。かなり年季の入った銀のフルプレートアーマーを着ており、背中には一本の何の変哲もないロングソードを背負っていた。
「うお!?ってなんですか、師匠なら気付くでしょうに?」
「いやあ、ついつい興奮しちゃって周りが見れてなかったよね。失敬失敬」
「全く、昔からその癖は治りませんねえ。まあそれも師匠の良い所でもあるけれども」
「え?どうしたの、君が素直に褒めるなんて気持ち悪い...」
「流石に酷くないですか?」
などと冗談を言い合っていた、いつもの風景である。
「まあそれは良いとして、なんでいるの君」
騎士は普段はとても忙しいはずなのだが......サボったのだろうかと思うエピック、そんな思考はお見通しなのか騎士はすぐに理由を述べる。
「仕事が一段落したので、師匠の推しているアリアを見てみようと」
「ふーん...あの子、君の目から見てどう思った?」
さっきまでのふざけた雰囲気から一転、真面目な口調で話す。
「いやー混ざりすぎでは?いちにーさん、三つ混ざっている。どうやってあんなのが生まれたんです?」
「あんなのって言うんじゃねえ!」
「ぐべぇ゙」
騎士はエピックからのドロップキックをくらった。騎士は死んでしまった!
「いや死なないですよ」
「ちぇ、ナレーション付けたんだから死んどけよ」
「暴論が過ぎる」
とそんな訳で少年で暇つぶしをしていたらどうやらアリア側の話が終わったようで、また双眼鏡を携えて見守ることにするのだった。
ついでに騎士も流れで見ることになった。
「なあお前さんこの街の噂を知っとるか?」
「なんですか、それ」
話題転換として切り出された噂話。もちろん噂なんて基本興味の無い私は知っているわけもなく聞き返す。
「儂もな詳しいことは知らんのじゃがな。何でもこの街には正体不明の殺人鬼がいると聞いてな、まあお前さんは強いから心配無いとは思うが、一応警戒しといてくれ」
外を見るともうすっかり夜だったので二人とは一旦別れることになった、折角の縁ということで明日また一緒に行動する予定だ。
眠くなるまでの間、趣味の星見をするために宿の屋根に登る。街を見る、月明かりに街が照らされ夜にも関わらずほのかに明るい。
そういえばエピックさんから月に関する話を聞いたことがある。
何でも月はこの世界の状態を表し、満月は一番良い状態とのこと。詳しい事は言ってくれなかったけれど、月が完全に黒になった時が世界の終末とだけは言っていたっけ。
宙を見渡すと月のある方向の反対には世界を見守る星がある、あれは『滅星』と呼ばれるもので夜になると白い光を放ち一際目立つ。
でも星と呼称されているが雲よりも手前にあるからもっと別の何かでは?とも思う、しかしこれはまだ駄目らしいので深くは考えない。
ともかく、星は綺麗だ。私はエピックさんの影響からか綺麗なもの、儚いものが好きだ。それが地獄までの過程に存在したとしても、それはやはり綺麗なものなのだから。
エピックさんは先程の二つとは別に浪漫なるものを愛しているが、正直私にはそれがわからない。どうして無意味な行為にかっこよさを見出すのか、理解しようにも私には無理だった。エピックさんの言うことは全て理解したいのに...
「ふぅ」
今日はもう寝よう、これ以上考えても仕方がない。
アリアは部屋に戻りベットに入った。
「で、なんで私達は同じ部屋なんですか」
アリアと別れた二人は何故か同じ部屋で寝泊まりすることになった。
「こうした方が安いんじゃしええじゃろ」
「プライバシーって知ってます?」
「ウハハハ、漢ならこれぐらい耐えんか!」
バシバシと黒鎧の背面を叩く正影、とても鬱陶しいのだが協力関係を築いた以上好感度の下がるような行為はしたくない。
なのでもう気にしないでおく、それ以上に気になった疑問を口にする。
「こんな時でも甲冑は脱がないんですね」
「フン、それはお互い様じゃろ。鎧のまま寝る気か?」
お互いにこれから寝るという時でも装備は脱がない姿勢に呆れていた。勿論どちらにもそうする理由はある。正影は甲冑がなければ現世に留まれない、フレドは自身の存在に関することなので両者脱ぐことはできないのだ。
「なんだか今まで旅をしてきて、出会った実力者は大体顔を隠しているヤツが多いのぉ」
正影はふとそんな事を呟く。強い者は仮面を被ったりヘルムだったりフードだったりが多いと思うのは気のせいだろうか。
「強さにはそれなりの理由がありますからね。復讐や悲しみ、見たくもない真実。そんな傷を隠し自分だけの秘密にするために、己という存在を仮面で誤魔化したいものですから」
それを聞いた正影はなんとも言えない感情になる。楽にするために介錯をするべきか、それとも苦しみ足掻き続けそれでも希望を見させ続けるか。その者にとっての最善は何かは正影には分からない。
「まあ顔を隠すのは自分を守るための手段の一つというわけですね」
じゃあ、と正影は言う。
「お前さんは後悔をしているのか?」
フレドは一瞬固まり、そして答える。
「ええ、私。私達のような秘匿者はすべからず後悔ばかりしていますよ」
そう言った声は、平然としていた
ように聞こえた。




