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破滅を敬おうの会

三人の黒鎧を見てアリアはすぐに悟った、この三人は強い。特に赤いマフラーをしているリーダーと思しき黒鎧は別格の強さだ、アリアは少し考えてリーダーは武士に任せることにする、アリアは自分の実力を疑っていないが安易に慢心や楽観はしない、そう教えられてきた。

そしてリーダーには今の自分では勝てないと分かった、だから引き受けるのはリーダー以外の二人だ、今は確実に数を減らすことが先決だろう。

「二人は引き受けます、貴方は赤いのを」

「ああ!?儂はもうヘトヘトじゃい!そんな儂に強いのを相手にせえってか!?」

「そうです」

そう言ったと同時に魔術を使い壁を形成する、上手く二人と一人に分断ができた。いや黒鎧が何もしなかったことから敢えてそうさせたのかもしれない。

「さてまずは...貴方達はなぜあの爺様を狙ったのですか?」

「......」

何も言わない二人の黒鎧、ゴーレムのような物なのか意思を感じられない。

「答えないつもりですか、まあいいです、叩きのめして吐かせてやりましょう」



「ふう〜、やっと一息つけるわい、一人だけならなんとかなるからの〜。でだお前さん達は儂に何のようかの?全く三人がかりで襲ってきよって、儂は大したもんもっとらんわ!」

「...いえ、貴方の装備品はとても稀有な代物です」

キョトンとする武士、まさか返事が返ってくるとは思わなかった。

「なんじゃい、喋れたのか」

「はい」

武士は腕を組み、不機嫌さを醸し出す。

「ふん、それなら最初から喋れい。...ひとまずまあいいだろう、それにしても儂の武具が稀有?おまえさん方は儂について知っているのか?」

「いえ、貴方の事は全く存じ上げません。我々『破滅を敬おうの会』は...」

「なんじゃ?その阿呆みたいな名前は」

「.........話を戻します。我々は貴方から主である破滅龍の威光を感じました。故に奪います。」

「あぁ!?なぜそこでその発想が出でくるんじゃ!?ええい、もうよい!お前さんをぶちのめして儂は帰るわい!だが斬る前に、名乗れい!」

名乗りの文化はとっくに廃れてしまっているはずだが黒鎧は驚くこともなく応じる。

「破滅龍が右腕フレド」

「桑名の刀工、千子正影(まさかげ)

正影は刀を構える、と同時に黒鎧の騎士フレドも剣を構える。

「ふん!」

突きを放つ、フレドはそれを避け意趣返しなのか同じように首を狙う。しかし正影は刀を素早く返し剣を弾きそのままお返しと言わんばかりに首を穿とうとする。首を狙い続けているのはお互いに意地になっているからだろうか。

フレドは足を使い刀を弾いて後ろに下がった、そしていつの間にか拾った石を正影に投げつける。それを焦ることなく刀の柄を使い打ち落とす。

その隙を狙ってフレドは正影を斬りつけるが正影はなんと肘と膝の間に挟んで刃を防ぐ。更にそこからお互いに洗練された剣技を出し合う。正影は堅く強く、フレドは軽く速くとそれぞれ特徴が出ていた。しばらく斬り合い続け、やがて距離を離し態勢を持ち直す。

「童にしてはやるようだな」

「貴方が思っているより私は長く生きていますよ」

「ならばもう少し感情を殺さんかい」

「...ふむ、私もまだまだ未熟のようだ」

正影はフレドの剣に焦りを感じていた、何か事情があるようだが。しかし当のフレドは戦う気満々であるからして話を聞けそうではない。

「はあ、仕方あるまい。お前さんを一旦伸してから話を聞くしか無いのお」

正影は刀を鞘に納め、居合の構えをとる、そして目にも止まらぬ速さで刀『葬魂』を一振り、斬撃を放つ。魔術能力の類ではない、純粋なフィジカルによるその攻撃はフレドの意表を突いた。

「なんと...」

少し反応が遅れたが斬撃を弾いているフレドも大概であろう。

「驚いたじゃろ?「華契(はなちぎり)」って言うんじゃが」

「......一つお伺いしても?」

フレドは明らかに動揺した声色で問う。

「なんじゃい」

「その技は、誰から教わったのですか?」

どうやらフレドは華契は初めて見た訳では無いらしい、驚いたのはまさか使うとは思いもよらなかったからであろう。

「別に誰に教わった訳では無い、身体が...いやこの鎧そして刀が覚えているんじゃろう。儂はな霊みたいなもんじゃ、偶然魂がこの鎧に入ってしまっての、戦うときはこいつらの記憶頼みじゃ。まあ儂は元々はただの刀鍛冶じゃから仕方あるまいよ」

「...なるほど、しかし偶然と言いましたがそれは違うでしょう。その鎧に入れたのは、貴方があの方と縁があったということでしょう」

「はあ?...あーー、まさか......なるほどな。立派になったもんじゃなあやつも」

「.........」

フレドはフリーズした、どうやらそれは相当ありえないことだったらしい。

「って儂ら戦闘中に話すぎじゃよな、隙あり!」

正影が放心状態のフレドに斬りかかる、が流石にそこまでうまい話はなく刀と剣がぶつかり合い鍔迫り合いが起きる。

「...どういった関係かはこの際良しとしましょう、私にはやらなければならないことがあるので貴方の物はいただきます、我が主に逢う為に」 

「そうか、だがこれをやるわけにもいかん。これは儂を繋ぎ止める楔であり儂には果たさねばならん約束がある。しかしお前さんにもやるべきことがあるのじゃろう?...ふむ、ならば提案があるのじゃが」

正影はバックステップし距離をとる。

「儂がお前さんについて行く、というのはどうじゃ?」

「貴方に得が無いのでは?」

「ふん、儂はな暇なのじゃよ。その時が来るまで、正直儂はすることがない。だからお前さんについて行った方が暇つぶしになりそうだからじゃ、納得したか?」

「...なるほど、では提案を飲みましょう」

フレドはあっさりと鞘に剣を納める、この一戦で主への疑問が次々と湧いてきた彼だったが考えても答えの出ない疑問をすぐさま捨てて未来の方向へと思考を切り替える。

「む?えらく思い切りの良いのだな」

「まあ貴方を襲ったのは八つ当たりの部分が大きいですから、もう落ち着きました」

ちなみに落ち着いた理由だが、拮抗した戦いでフレドの心は久々にこれまでの心労を忘れられるほど集中できてスッキリしたからである。

「そうかい、ふぅいーー、あー疲れたわい」

こうして二人の戦いは結果的に平和的に終わった。


少し時を遡り

アリアは割と危険な状況に立たされていた、その訳だがやはり二対一というのが大きいだろう。

二人の黒鎧は魔力量はそこまで大きい訳では無い、しかし技量に関してはアリアよりも遥かに上だ、それに

(まだ何か隠している?)

隠していると言っても一人だけならまだなんとかできそうな気がする、しかし二人なのが厄介なのだ。二人のコンビネーションは素晴らしいものであり的確に隙を突いてくる。そういった隙をアリアは魔術で誤魔化してきたがそれは無限にできる訳では無い、それに誤魔化すといっても少しずつ傷が身体に出来ていく、着実にダメージが蓄積しているのだ。

「チッ」

思わず舌打ちしてしまう。

後ろそして前からの同時攻撃、後ろは氷で防ぐことが出来た、しかし剣での真っ向勝負では黒鎧には優位を取れずまた魔術を使わざるおえない、このままではジリ貧である。

(くっ!もう少し真面目に剣術を習っておくべきでした!)

幼い頃エピックさんに『剣をやってみないかい!!』と言われやってみたものの、あまり興味がなく魔術の方に傾倒していたことが災いした、しかし良い教訓にもなった。帰ったらエピックさんに教えを乞うてみよう、なんてことを気楽にも考えていたら。

カンッ!

アリアの剣が弾かれ地面に突き刺さる、致命的な隙を晒すことになった訳ではあるがアリアの場合はその限りではなかった。

アリアの持っていた白い剣は愛しのエピックから贈られたもの、剣術にあまり興味の無いアリアでも毎日毎日手入れをするぐらい大切にしていた。そんなものを粗雑に(自分基準)扱われたとなるとアリアがキレるのは必然的であった。




「ん?」

「ぬわあ!?なんじゃいこれはぁ!?」

先程戦いを終えた二人は恐ろしい気配を感じとった、アリアが分断する際に造った氷の壁の向こうからでも分かる死の匂い。濃密で大量の魔力が辺りに溢れ出て周辺の生命が魔力過多で終わろうとしていた。

「ふむこの気配...まったく厄介ですね、どこの世界でも」

「愚痴を言っている場合か!このままでは儂らはともかく、近くの街達が確実に滅ぶぞ!」

「...二人の反応はありますが...少々まずい状況のようです」

言っている内容に対してフレドはまるで心配していないようだった。

「まあ良いでしょう、では早速二人でアレを始末しましょう。確かに魔力量は絶大ですが、それだけです。初めての共同作業ということで頑張りましょう」

淡々と物騒な事を言うフレド、しかし正影はあまり良い反応はしなかった。

「...お前さん、あの娘を殺すつもりじゃろ?」

さっきの言いようといいこの態度、明らかに殺意が感じられる。あるいは虫を踏み潰すような単純作業としか感じていないのか。

「それが何か?」

フレドからするとアリアは赤の他人だ、他人がどうなろうが普通は気にしないだろう。そしてそれは正影にも言えるはずだが。

「そういう訳にもいかんよ」

他人ではあるが、しかしアリアは他人である正影を助けた。ならば恩を返すのが筋というものだろう

「...わかりました、では貴方の言う通りに」

二人は壁を壊す準備をする。フレドは少しの呆れを、正影は気合を刀に入れた。



「あちゃー、参ったね。...どうしよ」

エピックは遠くから双眼鏡でアリアを観察していた、そうしたらなんといきなりアリアがキレて暴走状態になっていた。ジャンクフードを食べて油断しまくっていたエピックはアリアの様子を見てむせてしまった。

周囲の街も心配だがそれ以上に彼らがアリアを殺してしまわないかが懸念点だ。

(そうなった場合...最悪、本当に最悪始末...いやできるかねアレ)

エピックの心労は尽きない。



氷の壁を壊したフレドは横たわっていた二人の様子を診る。どうやら多量で濃密の魔力にあてられ体が動かなくなっていた。この二人は実は人ではない、隠密に特化した偵察型の人形騎士である。人形故魔力で動かしている関係上、今のように多量に浴びせられると回路が乱れ動かなくなってしまう。元々戦闘用ではないのでそのあたりが脆いのは仕方ない。

「おいおい、こりゃあどういう状態じゃ?さっきとは随分と変わった気配をしとるのぉ?」

正影はアリアを見て疑問を吐露する。初めて見たときは冷たいながらもしかし奥底では優しい心を感じた。妄想で語っているのではなく、正影には本当に見えるのだ。感情の色、心の起こりが。それは鍛冶師として、武器の心に長年寄り添ってきたからこその能力だろう。

そしてその能力で今のアリアを見ると、感じられるのは赤と灰色。怒りの感情と寂しさである。何に怒っているのか、何故寂しいのかは分からないがそんな感情を抱いてしまった女の子を死なせるわけにはいかない。漢ならば誰であろうと泣いている者を見過ごせない。

(これはジジイの考え方なんじゃろな。ま、今更己を変えることなんてせんがの)

正影は刀を抜く。殺すためではない、未来ある若者を活かすためだ。それが老人に出来る唯一の事だ。

一方フレドはあまりやる気はなかった。白髪の彼女は確かに他と比べ特異に感じられたがそれだけだ、そんなやつは沢山いる。珍しくも無いものを生かす必要性が感じられない。しかし助ける事に同意してしまったので仕方なく、そう仕方なく助けるのだ。



正影は飛んできた炎の球、雷の槍、氷の塊、土の棘、闇の波、光の柱の悉くを斬る。何も特殊な事はしていない、ただとてつもなく速く斬っているだけ。

しかしそれは暴走したアリアを意地にさせるのには十分だった。さらに多くの魔術が正影に向かってくるがやはり全てを斬る。

そしてその隙にフレドは力を貯める。勿論気絶をする程度にだ。

その魔力の揺らぎをアリアは感じ取った。このままでは負ける、アリアは怒りのままに封印された能力の一端を無理やり引きずり出す。

召喚(サモン)〈竜騎士ゲオルギウス〉」

呼び出されたのは盾と槍を構えた黄金の騎士である。フルフェイスなので唯一の特徴は兜から剥き出したドラゴンのような角であろう。

フレドはそのゲオルギウスと呼ばれた騎士に最大限警戒をする。この騎士は召喚者より圧倒的に強い。普通ならば召喚者が弱かったら召喚された者は従うことはないのだが、目の前に実例がいるのだからなんとも複雑な気分だ。それにこの騎士、大昔何処かで見た覚えが......

(いやそんな事はどうでもいい。問題はコイツをどう処理するのかだ)

アリアを守るように前に出た。見立てでは攻撃力はそこそこ、そして防御特化のタンク職。自分よりは弱いだろうが近しい実力を持っている。そもそもタンクとアタッカーで比べるのは間違ってはいるが。

正影はなんとか殺さずに仕留めようと奮闘しているが難しそうだった。ならば自分が切り崩すしかない。

集中。

己の全てを攻撃力に変換する。相手も全てを防御に回している様子だった。

達人同士の勝負は長期化するか一瞬かだ。この場合決着は一撃だった。

「《狂化》《殺意》《暗黒の灯火》」

「《不落》《不屈》《星光の城塞》」

両者互いに魔術や()()()でバフをかける。準備は十分、後は力のぶつけ合いだ。

「『死音の刃(ハデス)』」

フレドが放ったのは触れるものに死を与える斬撃だ。効果に対して見た目は地味、ただ剣を上から下に振るだけ。変わったのは剣の軌跡が漆黒になったのみだ、だからこそ恐ろしい。

「『光の塔(センチネルオブライト)』」

ゲオルギウスは体を黄金に光らせる。元聖騎士たる彼の実力は今でもトップクラスだ。しかし今回は相性が悪かった。

光の塔(センチネルオブライト)』は一定時間あらゆる攻撃の完全無効化。その間動けないなんてことはなく、攻撃も可能だ。

しかし概念までは防げない。

『死』という概念をその身に通されたゲオルギウスは即死は抵抗(レジスト)するも片膝を着き、鎧の隙間から血を吐き出す。

そして即座に距離を詰め、まだアリアを守ろうとする騎士の喉を突き刺しトドメを刺した。彼は消滅した、だが召喚された者は倒されても本当に死んだわけでは無い。元居た場所に帰還したのである。

フレドはアリアの視線が正影に向いている隙に攻撃しようとしたが、ゲオルギウスを倒す為に全力を出してしまったので力が出せない。アリアの視線がこちらを向く。絶体絶命の状況、だがこれで良い。

何故ならば正影が既に近くまで来ているのだから。

「フンッ!!!」

正影は思い切りアリアの頭に拳骨を食らわせた。

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