星が動く時
「...こんな所ですかね」
そう呟いたのは部屋の掃除を終えたアリアである
襲撃事件から約二年、アリアは卒業を迎えようとしていた、家が第一だったアリアも二年も経てば愛着も少しはつく。だから隅々まで掃除していた
そんな時、コンコンと扉を叩く音がした
「はい」
扉を開けるとそこには赤髪が特徴であるクロムが居た
「...よう...その、ちょっと外に出ねえか?」
クロムとアリアの関係性は二年でかなり変わっていた、その要因は毎日のように行われていた決闘、もとい修行である。
意外にもアリアはそれに付き合っていた、自身の暇つぶしとクロムが強くなることによって降りかかる面倒事を勝手に解決してくれるという思惑があったためである。それによりクロムは殺る気のアリア相手に10秒は耐えれるぐらい強くなった、手加減して瞬殺ではなくなったので大きな成長を遂げたと言えよう。
学園内を歩く二人、今学園は卒業間近ということもあり生徒達がいつも以上に騒いでいた。そして卒業前に起こるイベントといえば...
「何ですかこれ」
教室の前を横切ったアリアは普段自分がいつも座る場所に大量の手紙が置いてあった、そうラブレターである。アリアはその性格関係なく美貌だけで大体の人間は惚れてしまうのだ。本人はあまり実感が無い
クロムが手紙を持ち上げ読み上げる
「なになに...『アリアさん、中庭の大きな木の所に来てくださると幸いです』、『貴族であるこの私と恋人になる権利を上げよう、勿論了承してくれるな?校舎裏で待っているぞ』、『ははははは!愉快犯Eだ!面白そうな事を他の奴らがしていたので僕も手紙を書いてみたゾ、ところで何でみんな手紙を出しているんだ?』
『アリア、貴女を愛しています。叶わぬ恋だとしてもそれでも言わせてほしい、だから食堂に来て欲しい。皆の前でこの思いを伝えたい』etc......なんだこりゃ!?どいつもこいつも身勝手過ぎるだろ!?てか一人変な奴居たな!?」
「はあ全くです、というか愉快犯Eってまさか...いやそんなわけが...いやでも私があの人の...」ボソボソ
「あー始まったか、エピックのことになるといつもこうだよな。...羨ましいな」
「何か言いました?」
考え込んでいたのでその言葉を聞き逃すアリア、普段は鈍感系主人公のように聞き逃すことは無いアリアだがエピックのことになると暴走するようだ
「いいやなんにも」
「そうですか、えい」
その掛け声と共に積まれた手紙が燃え盛る
「お前!?学園が燃えちまうだろうが!」
「あ、そこなんですね指摘するの」
手紙が灰になったのを確認したアリアは炎を消す、火を出したのは一瞬だったので燃え広がることはなかった。最も魔術の制御は完璧なのでそもそも燃え広がる心配はないのだが
「そういえば何で私達歩き回ってるんですか?」
今の所何か要件を話す素振りは無い、だが何の目的もなく連れ出すとは考え辛い。
「そう...だな...いややっぱ何でもねえわ。うん理由なんて無い、ただ...お前とここを歩くのも終わるんだなと思ってな」
しんみりとした雰囲気で言うクロム
「なんですかそれ気持ち悪い」
しかしアリアそんな雰囲気お構いなくぶち壊す
「なっ!?お前は空気読めんのか!?」
「貴方の空気なんて読みたくないですね」
「お、お前ぇ...」
グギギとなるクロム、二人はとある日を境にこんな調子でじゃれあっている、とても初対面が戦いだったとは思えないぐらい仲良くなったのだ。
「まあでも、少しは寂しく思いますよ」
「はっ?」
アリアのつぶやきに固まってしまうクロム、それも仕方の無いことだ、アリアは今まで今のようにデレた?ことは無い、返ってくる言葉はいつも辛辣な言葉なことばかりだ
「なに呆けているんですか、行きますよ?」
「お、おう」
まだ困惑しながらも返事をする、彼女の表情は相変わらず無表情だが
(少しはコイツの記憶に残れたってことか)
そうクロムは思った
アリアとクロムは既に暗くなった街を歩いていた、夜だというのに活気は激しい。流石は王都といったところだが実はその大半は冒険者である、王都には冒険者協会の本部がある。故に高ランクの冒険者が本部でしか取り扱っていない高難度の依頼を求めてこの王都に来るのだ。
人気のない街の外れに来た二人、特段ロマンチックな雰囲気は流れていない
「そういえば、貴方は卒業したらどうするんですか?」
「なんだいきなり、というかお前が俺の将来を気にするとは珍しい」
「...ただの暇つぶしです」
「そうかよ、まあ俺は政治とかよくわかんねえから冒険者になるわ」
冒険者になる条件は年齢が15になれば身分関係なく冒険者として活動することができる
「仮にも王子が国を放って良いんですか?」
「まあ良くはねえな、ただマルスが優秀だからな。それに俺は王家の血が流れているわけじゃねえ、だから俺がどっか行っても文句は言われねえさ」
「そうですか」
「そういうお前は将来の事を決めてんのかよ?」
「そんなの決まっているじゃないですか、家に帰ります」
アリアの行動理念は昔から決まっている、家でゴロゴロして過ごす、である
「そ、そうかよ」
クロムは困惑する、人よりも別格の力を持ちながらも誇示しようとせず目立たずに生きたいというアリアのその性格はクロムには理解は困難だ。いや、アリアはその人とずっと暮らしたい、という願望があるのをクロムは気付いている、だがそんな事を認めたくないので目を逸らしてしまっている。
「ちょーーーーと待ったーーー!!!」
叫びながら誰かがスライディングして二人の前に現れた
「お、お前は...いや誰だよ」
「エピックさん!」
「やあ、お二人さんデート中失礼」
「「違います!・違げえよ!」」
「ふう~熱々ぅ」
そうエピックが言った瞬間クロムが叩き落とされる
「満足しました?」
「すいませんでした」
「はじめましてクロムくん!僕はアリアちゃんの保護者のーーーエピックぅ!です」
最後の部分だけスンとなって言うエピック
「あ、えっ、あークロム...です」
そのエピックの変わりように戸惑い、思わずなよなよっとしたような挨拶を返してしまう。
そして観察する、顔は闇で覆われていて見えず、魔術を使っているのか声は男とも女ともとれるものだ、手には黒い手袋を、体格は男か女どちらかといわれると女よりだ、しかし確証は持てない
「まあそんなに緊張せずに、身も心も燃やしていこう」
「燃やしたら死ぬだろ!」
「君は炎系男子でしょ?なら行ける逝ける!」
「ふざけんな、体はともかく心燃やしたら廃人になるわ!」
「灰だけにってね」
「やかましいわ!」
そんな茶番が繰り広げられている横でアリアは顔には出てないが明らかに不機嫌そうにしていた
久しぶりに会えたのに、別のやつとイチャつくなんて
バシバシと背中を叩かれながら話している二人を見てそう思う
「おっと放置して失礼アリアちゃん、本題にレッツゴーしようか」
「まあ結論から言うと、アリアちゃん君には冒険者になってもらいたい。」
「...冒険者」
「おやあまり驚かないね?」
突然言われたにしてはアリアの態度は落ち着き過ぎている
「まあ剣を渡されたので薄々そうなのかなと」
「さっすがアリアちゃん賢い!」
アリアをヨシヨシするエピック、アリアは先程の不機嫌が無くなり嬉しそうな雰囲気になる。
「...で、なんで冒険者になってもらいたいんだよ?普通の保護者なら愛しの娘には安全な所で過ごしてもらいたいんじゃないのか?」
誰だってそうだろう、娘を危険な場所に放り込むなんて普通は絶対しない
「まあそうなんだけどね、...アリアは自分の出生の秘密、知りたくないかい?」
「...エピックさんは、知っているんですか?」
「ん、まあね、でもこれは僕がどうにかできる事じゃないんだ。この件に関しては君次第だ」
さっきまでのふざけた雰囲気は無くなり、真面目な口調で告げるエピック。その様子からは、この話がとても重要なことであるとわかる。
「なんだよそれ、なんで教えてやらねえんだよ!コイツの母親を不幸にした奴を知っておきながら、見逃すってのかよ!ふざけんな!」
クロムは怒る、これは自身の義父であるアルスの事を考えてしまったからである。アリスを不幸にしたソイツはまたアルスも不幸にしたから。
「ああ、そうだね。酷い話さ、でもクロムくん、君はそうやって間接的にアリアを否定するのかい?」
「なんだと?」
「君はあの二人を不幸にしたソイツさえ、そもそも居なければ、そう思っているだろう?」
「そう...ぁ」
そうだ、と言おうとして気付いた。それはアリアに対しての否定、ソイツが居なかったらアリアも居ないことになる。
アリアだってそんなことはわかっているはずだ、しかしその事を伝えるにはあまりにもアリアがあんまりにも憐れである。
「...すまねえ」
アリアに対して頭を下げる、どうやら完全に頭は冷えたようだ。
「...別に、気にしてません」
少し言い淀む、どう見ても気にしている様子だ
「さて、じゃあ本題に戻ろうか。君はどうしたい?強制はしないよ、全ては君の選択次第、君の手の中だ」
...考える、自分はどうしたいのか
確かにお母様の人生を台無しにしたクソ野郎を見つけ出して殴りたい気持ちは、ある
しかし、しかしだ
自分に果たしてそんな資格は有るのか考えてしまう
だって私はそのクソ野郎から生まれたのだから、私も同類なのでは?なんてそんな考えは昔から嫌というほどしてきた。
そうして出した結論は、実は昔から決まっていた
「もちろん、そのクソ野郎をぶん殴りますよ!」
私が同類?資格が無い?そんな考え、とうの昔に霧散している!責任を取らせてやるのだ、その命をもって償わせる。
お母様が亡くなったあの時から、決めていたんだ。
でもそれはそれとして甘えたいゴロゴロしたい
「...そうか、それでこそ君だ」
安堵したようで、それでいて悲しそうな声だった。
「本当に良かったのかよ」
「なんですか、まさか私を心配しているんですか」
「......」
目を逸らすクロム
「はぁ、私はそんなに脆くないですよ、そういう心配なら私に勝ってから言ってください」
「...そう、だよな。悪かった、もっと信用すべきだよな」
「は?貴方からの信用なんてされたくないですね気持ち悪い」
「はぁ!?テメエ表出ろや!今日こそボコしてやるぜ!」
「良いでしょう、身の程をわきまえさせてあげます」
すぐに喧嘩に発展する二人、その光景を微笑ましく思うエピック
「まさしく、喧嘩するほど仲が良い、だね」
二人の邪魔をしては悪い、だからエピックは早々にこの場所から離れた
「あ、エピックさんが消えてしまった...貴方がいちいちキレるからですよどうしてくれるんですか」
「ああ!?知らねえよんなもん、元々はお前が...」
喧嘩は朝まで続き、最終的にはクロムがボコボコにされた
「おおアリア会いたかったよ!急にどうしたのだ俺を呼び出して」
とても嬉しそうで、アリアを抱きしめようとしているのは、今や元の陰鬱とした雰囲気は無くなり笑顔になったアルスである。
「そうですか」
そう言いながらアリアはアルスのじゃれつきを避ける、一応は他人なのだからもう少し距離感を見直して欲しいものである。
「つれないな...まあそこも愛らしい」
「はあ、貴方はなんでそこまで私に甘いんですか」
「それは勿論、アリスの形見だからな、ならば実質俺の子だ、なんなら今からでも養子に...」
「しませんよ気持ち悪い、貴方に毎日甘えられると疲れますし」
嫌とは言わないアリア、彼女も色々と複雑な感情をアルスに抱いていた。
応接室、その空間で二人、しかし気まずさは無い
「うっ、それはすまない。ついつい感情が暴走してしまってな、...さて世間話はそこまでにして」
「世間話なんですかこれ」
「気軽に話せる雑談でしょ?」
「気軽...いやもういいです」
ソファに座りため息をつくアリア、どう見ても呆れている様子だ
「...私は冒険者になります」
「冒険者...そうか、本当に...」
「あまり驚かないんですね」
「知っていたからな、エピックそう名乗った者からの情報だ」
「そうですか」
エピックさん、今頃何をしているんだろうか。会いたい甘えたい
でもこれからは冒険者として活動するのなら会える機会が減ってしまう...
「俺はそれに...いや何も言うまい、アリアが決めた道なのだろう?なら俺は応援するだけだ」
何か言いたげな顔をしながらも、それでも応援するというアルス
彼は過去、確かに間違いを起こした、しかしだからこそ今は自身の役目を全うしようとしている、今からでも良い父親になろうとしている
だからアリアは、本来なら伝える必要のない報告をしたのだろう、この父になったであろう人に自らの道を知ってもらいたかったのだ。
「お母様は、最後まで貴方を愛していましたよ」
お母様が話す内容は、いつも惚気話だった、お母様は好きだけど流石に少し呆れていた
私は理解ができなかった、なぜ自分を殺そうとした相手を愛していたのか
ああでも、今なら理解できる、この人はとても愛が深いのだ、真摯に愛してくれる。だからお母様はそこに惹かれたのだろう、誠実で優しいこの人に
「ぁ...そうか、そうなのか、あんなことをした俺をまだ...」
「はい、いつも惚気を聞かされて大変でしたよ」
「ハハハ、それはすまなかった、..........ありがとう」
「...礼を言われるほどのことはしてませんよ」
夜の学園、皆が寝静まった頃、アリアは屋根に登り、星を見ていた
他の輝く星々よりもなお一層輝く一つの星を見る
そこで違和感を覚えた、あの星はどこか...
「な〜にしてるの、アリアちゃん?」
「エピックさん、いえ星を見ていたのですが、何か違和感が...」
「アリア、だめだよ」
「え...」
初めてのことだった、エピックはアリアに対してはデレデレだ、だがこんなに冷たい声は聞いたことがなかった。
「なんてね!大丈夫、怒ってなんてないよ、ただ、それを暴くのはまだ早い」
「は、はい...わかり、ました」
動揺を隠せず、言葉がタジタジになる、アリアの中は不安と恐怖が渦巻いていた
何かをやらかしてしまったそれでエピックさんに嫌われるかもしれないそれは嫌だそんなことになってしまったら生きていけない生きる理由がなくなってしまうでも嫌われたままはもっと嫌だそんなことは死ぬよりも恐ろしいことだ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、嫌いにならないで...
「...」
心中を察したのかエピックはアリアを抱きしめる
「大丈夫、大丈夫、嫌いになんてならないよ」
「...本当ですか?ずっと好きでいてくれます?」
思わず泣いてしまう私、ああ恥ずかしい、愛している人の前で泣いてしまうなんて
「うん、約束するよ」
その言葉を聞いてエピックさんの体に顔をうずめる、その時に横に視線が行き星空が見える、今夜はどこか星が少し近いように見えた。
「その...さっきのは、忘れてくださると、嬉しいです...」
照れた顔で言うアリア、やはりさっきのことは恥ずかしいようだ
「う〜ん、やだ☆」
「ええ!?なんでですか!」
「えーだって可愛いんだもん、あんな姿滅多に見られないよ、ふへへへへ」
「むー」
「ははは、可愛いねえ、もう少し見ていたいけど、もうこんな時間だ、早く寝なよ」
「...わかりました、じゃあまた、おやすみなさい」
「はいおやすみ」
アリアは窓から自分の部屋に戻っていった
「...なんとか誤魔化せたかな」
危なかった、本当に、バレたら何もかもがズレてしまうからな
秘密はいずれ暴かれるもの、しかし今では無い




