王子と王様
時は少し先のぼり 会場
「白氷!?」
アレスが動いたタイミング、完全に油断していたクロムはそんな声を上げた。
自分を一瞬で倒した憎き目標が、為すすべもなく外に放り出される姿を見てしまったのだからそんな声をを上げるのも仕方のないものというものだろう。
だがクロムはすぐに切り替えた、流石の彼もいつまでもぼーっとしているほど馬鹿ではない
すぐさまアレスを取り押さえるべくアルスのいる所に向かう
「何やってんだよ兄貴、なんで親父を殺そうと!?」
クロムが目にしていたのは今まさに心臓を穿つ寸前のアレスである
すぐさまアレスに向けて炎を放つと同時に炎を纏わせた蹴りを放つ
「...なるほど、腕を上げたようだなクロム。しかし周りをよく見ない所は、成長していないな」
パチンッと指を弾くアレス、するとクロムの周りに光が浮遊し始めた。
「これは...まずい!!」
咄嗟に魔力でガードする、光が輝きを増しやがて
ボンッ!
と音を出し爆発した、これこそアレスの能力・光球操作である
光球操作は魔力を注げば注ぐほど輝くというもの、しかしこれだけでは殺傷能力はない。
だがアレスは魔力を許容量を超えるまで注ぐことで明かりになるだけの能力を攻撃に転じることに成功したのだ
「クソッ、痛え!」
「...すまないな、できれば家族は傷つけたくはないのだが」
はあ!?なおさらなんで親父を殺そうと!?兄貴は俺達に優しかった、養子である俺ですら差別することなく平等に接してくれた、そんな兄貴がこんなことするはずが...
「クロム、長年の付き合いであるお前の表情を見ればわかる、『ならなぜこんなことを』だろう?...まあ一言で言えば「復讐」だな」
復讐?温厚な兄貴が?そういやぁ昔、一度だけ、世話になった人がいるって言っていたな。それのことか?
クソ、情報が無い。俺の頭じゃあ何もわからない、ああもう面倒くさい!わかんねえんだったら直接聞きだしてやる
「兄貴、詳しいことは俺にはわかんねえ。だから俺の得意であるコレでで、あんたを止めてやる」
拳を前に出し握る
「...そうか、できるものならやってみろ!」
俺は今目の前で繰り広げられている戦いをじっと見ていた、兄弟同士が殺し合いをしている。
それも俺のせいで
俺はこんなこと望んでいなかった。
クロム、アレス、マルス
あまり、いやほとんどあったことのない息子達だが、愛していないわけではなかった
確かに義務的に子を作った、でも俺の子だ。俺の子なら愛しても良いはずだ、王としてでは無く父として
あの時、アリスに捧げるはずだった愛を息子に...
だが俺は、仕事で忙しい。アリスの捜索もある
だから俺は息子達に贈り物を送ったりしていた、かつて俺がアリスからブローチを貰ったように、同じことをすれば多少は愛している証明になるだろうと思ってのことだ
息子が俺に復讐か、好きにすると良い。俺には抵抗する気力も無い。
「うおおらぁ!!」
勢いをつけて兄貴を殴る、殴り返されてまた殴る
勢いはつけているが俺の方がダメージは多いだろう、だが俺は諦めない。兄貴が前を向けるように、俺が!殴って説得する!
「グッ...!?」
「オラオラァ!どうしたぁ!さっきまでの勢いが無いぜぇ!?」
目の前の弟は捨て身で攻撃する、そのせいで私も手加減する余裕がなくなってきた。
一度距離を取る、これ以上は危険だ
「もう諦めろクロム、これ以上やると死ぬぞ」
「はっ!それがやめる理由になるかよッ!」
そう言いながら殴りかかる、が疲労しているからか隙だらけだ。
そこに光球をぶつけ弟は吹っ飛ぶ、しかしまだ立ち上がる。
「なぜだ」
「あぁ!?なにが」
「お前は父親を助ける義理は無いだろう、あれは薄情なやつだ。証拠もなく侍女を処刑した!、唯一愛していた女性すら信じることもしなかった臆病者だ!そんなやつは苦しんで死ぬべきだ!!」
「...」
そうだ、私はそんな恥知らずを許すことはできない、あの人を殺したアイツが憎い。
あの人の仇をうつのだ
それが手向けになるはずだから
「...なるほどな、それが復讐の理由か」
「そうだ、だからそこをどけ。私はお前を殺したくない」
「...質問の答えを言おうか、兄貴。まず俺は養子だってこと、知ってるだろ?」
「ああ、お前は巡回していた警備兵が見つけたと、そして身寄りがなかったことを憐れんだ王国最強、もとい「騎士団」第一席が王に頼み養子にしてもらったと聞いた」
そんな話は知っているあの時の私も家族が増えて喜んだ、だがそれがなんの関係があるのだ。
「その話な、嘘なんだ」
「...なに?」
「俺は警備兵に拾われたんじゃない、親父に拾われたんだ」
「は?」
なんで、だってアイツは薄情で冷酷でろくでもない奴なはず...
そんなこと、そんな慈愛があるようなことするわけがない、だが弟が嘘をついているようには見えない。その目は本気だ、本当の事を言っている
「信じられないか?でも本当だ、拾われたあの時、俺は親父から抱きしめてもらえた。もう大丈夫ってな、それからというもの俺は親父のことを尊敬しているし、薄情なんて思ったこともない。俺の愛する家族の一人だよ」
「...わかった、助ける義理は確かにあったな、だがそんな話今更聞かされたとしてもそいつが私の恩人を殺したことには代わりはない、故に殺す」
「ま、そうだよな。でも少し迷いが出たよな?それに隙もな!マルス!!」
「何!?」
クロムが叫ぶと魔術が発動した、すると地面から鎖が出てきてアレスの体を縛り付ける
「グッ!?」
「かかったね、兄さん」
マルスは魔術師ではない、しかし知識だけはあったので多少時間がいるが魔術を扱うことが可能である
クロムがマルスが何か準備をしていると最初に気付いたのは光球に吹き飛ばされたときのことである、何を準備しているのかわからなかったが、攻撃の類では無いと今までの付き合いからわかっていた。
「...はぁ、してやられたな。良いだろう認める、お前たちの勝ちだ」
「今はそんなことどうでも良い兄貴、復讐をやめてくれ。」
「それはできん、そいつは罪を償わせねばならん。死をもってな」
たとえ愛をもってたって、やったことは戻せない、殺した人はもう戻らない
そうでなくとも、今更戻れるものか。
「...兄貴、俺はなあんたに前を向いてほしいんだ。復讐はいつまでたっても後ろ向きで歩くもの、俺はあんたの先が見たい。だから...頼むよ...兄貴...」
「!」
久々に見る弟の泣きそうな顔、そうか私は...家族にこんな顔をさせるほど堕ちてしまったらしい
ふと思い出す、あの人の言葉
『強くなりなさい、大切なものを守るのなら心も体も強くなければなりません』
私は...私は、その言葉も守れず...
なぜ忘れていたのだろうそんな大切なことを、約束したのにそれを破った、私はどうすればよかったんだ?
守ろうにもその約束した人を殺した奴が生きているなんて許せる訳がなんて無い
でも、これ以上家族を泣かせたらだめ...だな
「...すまない二人共、私が悪かった...」
そう言い、項垂れるアレス。
元々彼にはこの復讐に無意識でだが思うところがあった、その上普段気丈な弟にここまで言われてしまった、その結果彼にはもう復讐しようとする思いは燃え尽きていた。
「ほら親父、和解しろとは言わねえ。けどあんたの考えていることを俺達に教えてくれ、そしたら多少は関係をよくできるはずだ」
そう言って笑うクロム、このままいけば皆仲良く出来る未来が待っていると彼は信じていた。
だが...
「そう上手い話にはならないよねー」
そう誰かが言った瞬間、アルスの心臓が剣で貫かれた。それだけではなく次々に足や腕も刺された。血を吹き出し王は倒れる
「テメェ!なにしやがる!」
クロムは距離を詰めるが、ローレンスに蹴られ後方に吹き飛ばされる
「ごめんねー悪いとは思っているんだけどねー」
そうは言ってはいるがこの男、ローレンスは全く悪いとは思ってなさそうな声で言う。
実際、悪い事をしたと1ミリも思っていない
「は、白氷は?白氷はどうしたんだ?!」
マルスは半ば錯乱状態で言う、だがマルスは薄々察していた
「んー?殺したよ」
ニヤリとしながらそう言うローレンス
「ざけん...じゃねぇ!」
後方に吹き飛ばされたクロムはその言葉を聞いて本来もう動けないはずの体を無理矢理動かした、その闘志は自分を簡単に倒した女がそう簡単にやられる訳がないというものに起因する
しかしローレンスがこちらに来てしまっている以上、本当に死んだのではという発想がどうしても脳裏にチラつく、だからその闘志は所詮見た目だけのものなのだ。
「あの女がぁ!お前なんかに倒されるかってんだぁ!」
そう言うのと同時に今出せる全ての炎をローレンスにぶつける、しかしどれも当たることはない。
「無駄だよぉ、君を瞬殺した白氷を僕は倒してるわけだから、君なんかの攻撃が効くとでも?」
嘲笑うかのように言うローレンス、全放出したクロムだが魔力が尽きてしまい、その場に倒れる。
だがまだ起きあがろうとしているのが目に止まったローレンスはどうせなら殺そうと思った。
こういうタフな奴は後々厄介になると経験から学んでいたからだ
そして倒れているクロムに剣を向ける、邪魔者はいなくマルスも戦意喪失している。
ローレンスはついに自分の復讐が終わることに対して自分の怨敵が倒れていることに対して気持ち良さを感じた、しかし同時に虚しさを感じた。
だがそれはここから生きて出られた時に考えようと切り替え、クロムの息の根を止めようとして...
ガキンッ
剣と剣が触れ合う音がした、クロムがその発生源を見る
「お、お前は!」
そこに居たのは、殺したと言われていたアリアだった




