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ゆめ色の住人  作者: 空超未来一
第1部 - 第1章 ゆめってなんだろう?
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ドリームダイ部の現実(2)

「いやあ、今日も天さんカッコよかったなぁ。輝きすぎてて直視できませんでしたもん」

「暁だってすごく輝いてたよ?」

「え、うそ。ときめいちゃうんですけど……。ちなみにどのあたりが輝いてました?」

「……『空気読めや』?」

「ツッコミじゃねえか!」

 ツッコミをほめられても嬉しくないんすけどと心の中でツッコんだ。

 暁と天馬が楽しく会話しているのはドリームダイ部の寮にある浴場だ。男女兼用ではあるけれど、そのぶん湯船はそこらの銭湯くらいに大きい。男子高校生が五人浴槽に浸かっても余裕があるほどだ。

 総計百を超える縣高校にはもう一つ大きな特徴があった。

 それこそ部活単位で生活する、通称『部活寮』である。

 部活動の時だけ部員と顔を合わせるのは本当に部活動といえるのか。縣高校の創立者の発案により、部員同士で生活を送る『部活寮』制度が施行された。

 部活動には野球部のような大規模団体からドリームダイ部のような小規模団体が存在する。寮の種類はその部活動の規模に合わせて振り分けられている。

 大規模団体には団地のように大きな建物群が与えられる。対照的に、小規模団体はファミリー向けの一軒家で過ごすことになる。

 寮費は各団体で均一。つまり、いい物件に住みたいのであればもっと部活動に打ち込んで発展させろということだった。

「ふう……いいお湯だなぁ」

「ですねぇ……」

 ちなみに『部活寮』の建物は学外のすぐ隣に密集している。縣高校は住宅街に囲まれているため、意外と大きな問題はない。

 ドリームダイ部も規則にならって一軒家に住んでいた。

 部員は二年生の天馬・恋衣、それに一年生の暁・叶の四人だけだ。

 部が成立するためには最低三人必要なのでギリギリ崖っぷちの状態である。

 天馬は湯煙の立つ湯船からお湯をすくいあげパシャッと顔にかけた。真似るように暁も手で作った桶にお湯をためて顔を洗う。

「それにしたって今日も依頼人がきましたね。俺たち、明晰夢を研究する部活なのに」

「これもドリダイの活動内容なんだよ」

 不満をぶつける暁を天馬がなだめた。

 暁のいうように、ドリームダイ部は明晰夢について研究を重ねる部活動だ。決して生徒の悩みにこたえるようなお悩み相談部ではない。

 暁は入部して以来、ずっと疑問に持っていた。

 彼が唇をとがらせているのを見て天馬は柔らかい笑みをこぼす。

 仕方のない後輩だなとばかりに、こんな話を始めた。

「僕の先輩から聞いた話なんだけどね、ドリダイはもともと夢占いを扱う『占い部』だったらしいんだ」

「そんなの初耳なんですけど!」

「今まで話す機会がなかったからね」

 天馬ははにかみ話を続ける。

「夢占いを扱うもんだから色んな生徒さんを占っていたそうだ。占いなんて一種の相談室のようなもんだろう? 長年たくさんの悩みを聞いているうちに、ドリダイはある種『お悩み相談』の意味合いをもったらしい。一時期はそっちがメインになったこともあるそうなんだよ。というか、今もそうなんだけど」

「だから今でも悩み相談の依頼が来るんですね」

「そういうこと」

 天馬の話を聞き入れ、なるほどなと首を縦に揺らした。

 しかしそうなると新たに一つの疑問が浮かび上がってくる。

 暁はお構いなしに生じた疑問をぶつけた。

「だとしたら、いつから『ドリームダイ部』になって明晰夢を調べ始めたんですか?」

「それは…………」

「……あ」

 しまった、と言い終えてから後悔する。

 さきほどまで笑顔だった天馬の表情に影がかかったからだ。何か言いたくない、もしくは思い出したくない過去があるのかもしれない。

 先輩の天馬はとても優しい。それはもう形容しがたいほどに優しかった。

 それ故に人一倍傷つきやすく暗い過去を持っている。

 ときたま、暁は彼のこういう場面に遭遇した。

 明るい雰囲気から一転して鉛でも飲み込んだような重苦しい空気が流れる。

 あわてて話題を変えようと試みるが、それより先に天馬が口を開いた。

「……ごめん、大したことじゃないんだけどね…………かいつまんで言うと恋衣の影響で明晰夢を調べるようになったんだよ」

「あ、あぁ……なるほど」

 無理矢理な笑顔を浮かべる天馬の意図を汲んで会話を続ける。

 同時に天馬の発言を飲み込んで胃の中の鉛が跡形もなく消えていった。

「恋衣先輩なら花は水を与えると育つんだよって言われた時くらい簡単に納得できます」

「ふふっ、でしょ?」

 天馬の表情に再び光が戻る。

 塔野恋衣。彼女を知らない生徒はいないといってもいいほどに、恋衣は有名だった。

 真っ白な髪の見た目が異質ということもあるが、それ以前に彼女は誰もが認める天才であるのだ。

 少し前の新聞にこんな記事が掲載された――――『天才少女、夢の世界を開拓か』

「俺、その新聞を見てこの部活に興味持ちましたもん」

「あの時はすごかったねぇ……。部活に入りたいっていう人が軽く百人を超えてたよ」

 半年前の春を思い出しては感慨にひたる。

 暁たち一年生が入学する直前の出来事だった。

 ドリームダイ部で研究を重ねていた恋衣がとある装置を完成させたのだ。

 それこそが“夢の世界へとダイビング”することのできる世紀の発明品。

ドリーム住人ダイバー』と呼ばれる機械だ。

 それを使用することで、他人の夢の中へと潜ることが可能になる。

 使用方法はいたって簡単。『マザースキャナー』と呼ばれるコードの繋がれたヘルメットを夢に潜られる側がかぶり、対を成す『ダイバースキャナー』を夢に潜る側が装着する。あとは両方ともが眠るだけである。

 すると『マザースキャナー』をつけた人の夢の世界に『ダイバースキャナー』をつけた人が潜れるのだ。

 この発明にあらゆる脳科学者が賛美を送った。

 いくつもの研究機関から引き抜きの声がかかったのだが、

「恋衣先輩、全部断ったんですよね? 俺、ニュースで見ました」

「そうなんだよ。すごいよね、あいつ」

 恋衣はすべての誘いを蹴ってこのドリームダイ部に残る道を選んだ。

 彼女曰く『……ここでやりたいから』だそうだが、本心を知る者は誰もない。

 この話から派生して暁はあっと思い出した。

「そういえば、俺と天瀬さん以外の入部申請も全部断ったんですよね?」

「ここだけの話、一人一人の顔をチェックして『……君、失格』って直接死刑宣告してまわったんだ」

「鬼畜過ぎる…………」

「恋衣だから仕方ないよ」

 幼なじみである天馬ですら苦笑いを浮かべた。

 そうだとすればどうして俺と天瀬さんは入部できたんだろうと首をかしげる。

 才色兼備の天瀬さんは別として、自分にはこれといった特技も、将来の夢もないのに……。

 考えているうちに、自分には何もないんだなと改めて思い知らされた。

 ありきたりな悩みではあるが、彼には将来の夢がない。

 誇らしげに胸を張れるような特技もなければ生きる目的もない。

 スマホをいじっては衣食住を繰り返すだけの毎日。

 俺はいわゆる悪い意味での『最近の若者』代表なんだと自虐的にため息をつく。

「……どうしたの暁。いきなり黙り込んで」

「い、いやっ! 何でもないですから!」

 パシャパシャと水しぶきをあげて必死に否定した。

 こんなことではダメだと明るい話題を探し始める。

「……おっ」

「ん?」

 今までの会話の中で面白そうなものを拾った。

 もっとも天馬にとっては触れられたくない話題かもしれないが。

 暁は意地の悪い顔を浮かべ目を細めながらこう問いかけた。

「天さんって、恋衣先輩のことが好きだったりするんですか?」

「ぬはああああっ! な、なにいってるのっ!?」

「ちょっ、いきなり立ち上がらないでください! 俺の目の前でブラブラさせないで!!」

「ぼ、僕が恋衣のことが好きだなんて、そそそそそんなこと!!」

「うわぁああッ! 近いって! ゾウさんが近いってぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!?」

 超至近距離でブツをブラブラと揺らされ思わず絶叫する。

 結局、その日の風呂は二人の叫び声で幕を閉じた。


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