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ゆめ色の住人  作者: 空超未来一
第1部 - 第2章 理想の彼女は最強
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紳士ゴリラくんの苦悩(2)

「ここが……」

「はい。夢の世界です」

 深々と生い茂る木々たち。ここはどうやら森林らしい。

 無数の葉のすき間からこぼれる光を見上げている黒の姿に暁は新戦さを覚えていた。ドリームダイ部のメンバーとしかダイブしてこなかったのだから当然だ。

 あの後シャバーニを部室へと運びさっそく夢の中へとダイブすることになったのだが、どうせなら黒が直々に部活を体験しろという流れになった。

 それに加えてシャバーニの性格なら暁が適任だろうということで暁と黒の二人で夢の世界へとダイブした。

 ――――はずだった。

「……あのさ、一つ聞いてもいいか?」

「はいっ。なんですかあかつきさんっ?」

「なんでお前がいるんだよ!」

「えへへへーっ」

 暁の隣でにへらにへらと笑みを浮かべているのはこの世界にいるはずのない明夢だった。

 『ダイバースキャナー』を使って夢の中へと潜り込んだのは暁と黒の二人だけ。

 そもそも『ダイバースキャナー』は二つしかない。三つ目がもうじき出来上がるとは恋衣から聞いたことがあるがまだ完成していないはずだ。

 だから、ここに明夢がいること自体おかしい。

 しかし……。

「わたしは夢の世界の住人ですから、誰の夢でも行き来できるのですよっ!」

 屈託のない純粋な笑みを浮かべてそう答えた。

 この少女ときたら本当に夢みたいに掴みどころのないやつだ。

「源くん。この子はいったい何者なんだ……?」

「……俺たちにもさっぱりです」

 何はともあれ出発しないことには始まらない。

「とりあえず、歩き出しましょうか」

「その前に一つ。俺たちの目標は何か教えてくれないか?」

「鏡ですよーっ! か・が・みっ!」

「鏡だと?」

 場違いな単語に黒が不信感を覚える。

「そうですね。歩きながら説明することにしましょう」

 暁は足を進めながら夢の世界のことを少しずつ教えていった。

 この世界は夢を見ている人の心の状況を表したものであること。

 そのどこかに宝箱が存在していること。

 宝箱の中にはその人の本心を映す鏡が入っていること。

「どれもこれも信じられないような話ばかりだな」

「けど実際、これで色んな人の悩みを解決してるんです」

「それがドリームダイ部の活動か」

「はい」

 腕を組んで空を仰ぐ黒。

 するとどこからか、


『あなただけを見つめてる、俺には知らんぷり、やらないか』


 いい男の歌声が流れてきた。

 同時に周りの景色がする。

 周りの木々は蜃気楼のように揺らいで消え、あたり一面が商店街のように姿を変える。

 ただし現代のような様式ではない。江戸時代の城下町、だろうか。

 けれど、それとはまた異なった部分が目立つ。

 建物が木造ではなく石灰造りなのだ。遠くを見渡せば白く大きな宮殿がある。建物に関していえば中世のヨーロッパに近いのかもしれない。

 この曖昧な世界観がここは夢の世界なんだと囁きかけてくる。

「すごいな……一瞬にして景色が変わったぞ」

「これが夢の世界なんですよ。鏡に近づいてる証拠です」

「うっはーいっ! 白い街だーっ!」

 バッと大空に手をかかげ胸いっぱいに息を吸いこむ明夢。

 暁もつられて空気を味わったが、これまた海辺っぽい独特の塩っ気が鼻孔をくすぐった。

 夢なのに五感が働いているのはおかしいのだけれど、夢なんてそんなものなのだろう。

 現実と違うようで同じなのだ。

「それにしてもたいそう賑やかな街だな」

「声が聞こえないことに関しては違和感に感じますけどね」

「まるでサイレント映画を見てる気分ですねっ!」

 歩みながら街並みを見て回る三人。

 この世界において夢の住人とは意思疎通をはかることができない。

「」

 明夢が夢の中でしきりに話しかけた時と同じように、すれ違いざまに多くの人が声をかけてくれた。

 だが、何を言っているのかはわからない。声が届かない。

 ここでふと、暁の頭の上で電球がぴかっと光った。

「なぁ、明夢。もしかしてお前、何言ってんのかわかる?」

「はいっ! もちろんですっ!」

 前を歩いていた明夢がこちらに振り返りにぱっと笑う。

 まさか本当にそうだとは思わなかった。

「ちなみに何て言ってるんだ?」

「カッコイイね君。うちの事務所に来ない?」

「典型的な詐欺の勧誘か!」

「うそですっ」

「うそかよ!」

「流れるようなやりとりだな」

 二人の漫才チックな会話に黒は思わず目を見張った。

「本当はですね、この街にようこそって言ってましたよっ」

「勧誘じゃなくて歓迎はされてたのか」

 深く考えるとますますこの世界のことが分からなくなる。

 夢の世界に論理を求めること自体間違っているのかもしれない。

 それから再び、彼らは先へと進んだ。両脇に並ぶ石灰造りの建物が続いてく。

 八百屋があれば魚屋もあり、はたまたファッションセンターしましまなんてものもあった。

 中世の時代がモチーフなんじゃないのかよと暁は独りでにつぶやく。

「源くん」

「なんですか会長さん?」

 首だけをこちらに向けてきた黒がどこか怪訝な顔つきでこんな質問を投げかけてきた。

「お前、ちゃんと道は分かってるんだろうな?」

「え? 道なんて知りませんよ?」

「冗談だろおい」

 黒の顔面から血の気がサッと引き、みるみる青ざめていく。

「どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたも、それじゃあ目的地にたどりつけないだろ!?」

「問題ないですよ? なぁ、明夢」

「はいですよっ!」

 道が分からなくては目的地にたどりつけない。黒のいうとおりだ。

 けれど、暁たちに焦りは一切見られなかった。

 そのわけを端的に伝える。

「俺たちが進む道って実は一本しかないんです」

「……はぁ? 何を言ってるんだ。俺たちは色んな道を通ってきたじゃないか」

 矛盾する暁の発言に黒が抗議する。暁はいいやと首を振った。

「それも一本のうちなんですよ。なんていうのかな……」

「お化け屋敷なんて例えはどうでしょうっ? 用意された道を進んでいく感じは近いんじゃないですかっ?」

「それいいかもな。うーん…………要するにRPGみたいなもんですかね。決められたストーリーを進めていく。景色の変わるその道を俺たちは進んでるだけなんです」

「……理解しがたいな」

「しょうがないですよ。夢の中ですから」

 スッキリ腑に落ちたわけでもなさそうだが、しぶしぶ受け入れてくれたらしい。

「そろそろですかねっ、あかつきさんっ?」

「うん。もう少しで景色が変わって宝箱のところに――――」

 たどり着くんじゃないか。

 その台詞は――――突如として吹き荒れた暴風の中に消えていった。

 ドンッ!! と彼らの目の前に何者かが降り下りてきたのだ。

 凄まじい衝撃が大地を揺るがし砂煙を巻き上げる。

「な、なんだッ!?」

 顔を腕で覆い、吹き上げる砂煙の中を覗き込む。


 ――――生まれる世界を間違えたバケモノが、そこにいた。


 最初は毛深い大男だと思い込んだ。

 迷彩服の半パンのみを身に付けたその男の全身は真っ黒な体毛で覆われていた。筋骨隆々の姿はプロレスラーや海外のアクションスターを連想させる。

 ただし、一か所だけ異質なのだ。

 それが男を人間と呼べなくしていた。

「ゴ、ゴリラ……?」

 首から上が完全に獣のそれだった。人類の初期段階・ホモサピエンスとも違う獣じみた顔つき。それはゴリラのような、たまたオランウータンのようだ。

 いわばゴリラを擬人化したような感覚。いや、どちらかというと人間とゴリラのハーフと言い表したほうがいいのかもしれない。

 突如として降ってきた獣人が暁たちをその瞳に映す。

 その目は殺気に満ち溢れていた。


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