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右拳

「あの、当店はわたし一人……」


「あの僕こんな年なんですけど今まで女性と一度もお付き合いしたことがなくて、幼馴染のジョニーにも馬鹿にされて、ジョニーの妹のアンナにもさすがにないわとかも言われて、僕としてはとても誠実に誠心誠意女性に対応しているつもりなんですけど、食事とか誘ってもぜんぜんうまくいかないし、誘ってきてくれても次いつ会いましょうかって切り出したら、はははなんて流されて終わってしまうし、悔しくて悔しくて辛いよって思って、木こり友達のタクトに相談したらお前はいつもいやらしい本ばっかり見てるから…」


「あの…」


「ああでもいやらしい本を見ているのはこれは僕の有り余る性欲を沈めて、女性に大してですね、極めて紳士的に振る舞うために、その猛り暴れまわる内なる衝動を押さえつける必要あるからでして、っていってもいつもいやらしい本を僕に供給してくれるのはタクト本人で、ってそれはいいんですけど、そもそもタクトだって素人童貞のくせに僕に対してマウントをとってくるんですよ、ホント頭に来てですね」


「あの~~」


「僕だって本気を出したらやってやれるって思うんですよ、ただ僕の家にいつも毎朝牛乳を届けてくれるケイコちゃんって子がいるんですけど、その子は僕が牛乳を受け取るたびに僕に微笑んでくれるんですよ。僕の弟にじゃなくて、僕にですよ、これってぜったい僕に気があると思うんですよね、もっとも彼女の名前しか僕にはわからないんですけど、彼女もきっとそうで、僕が名前しか知らない彼女にこれほど気持ちが高ぶっているのだから、彼女もそうなのかもしれないなーなんて笑、ちなみに彼女は胸がすごく大きくて、ゆったりした服の上からわかるくらいなんですよ」


「あの~~~~~~~」


「それでもやっぱりタクトにマウントとられるのは癪なんですよね。僕にはケイコちゃんがいるからタクトよりは少しは”上”の存在だとは思うんですけど、やっぱり”上”の存在であるからには、いろいろ体験もしてみなきゃな~wなんて思い始めてですね、そしたら僕の家は街のハズレにあるんですけど、わざわざそんなとこまで来てタクトが噂しに来たんですよね、なんでも下町で新しくエッチなお店ができるとかなんとかって」


「……」


「しかもなんとデカチチの女の子がサービスしてくれるとかで、僕としてはこういうお店に来ることはケイコちゃんっていう存在があるから本当に申し訳ないんだけど、タクトの”上”の存在、”魂レベルが高い”状態の僕としては、彼よりも先にデカチチを体験しておかなきゃ、ちょっとメンツが保てないかなーなんてwいや、ほんとにケイコちゃんには申し訳ないし、もしケイコちゃんの事知ってたら絶対秘密にしてくださいよ…」


 やばい、まじでぶん殴りたくなってきた。いや、我慢よ。我慢よ。あたし。


 ーーー10分経過


 我慢、我慢、我慢、我慢、我慢。


「……で、僕の相手をしてくれるデカチチの人はどこですか? まさかすすきちゃんしかいないなんて言わないですよね、”魂レベルが高い”僕としてはやっぱりケイコちゃんレベルのデカチチじゃないと、豊満なクリームパンに包まれて天国の如き悦楽を求める僕には、すすきちゃんみたいな絶壁は」


 ーーーーーカチン


「いきなりオラァッ!」


「ぶへぇッッッ!」


 あたしの右拳(ストレート)が青年の左頬に炸裂して、青年は美しい時計回転で椅子から転げ落ちる。ドドドンッと板床に叩きつけられる音が店に響く。やっちまった!…けど!けど!心は雲ひとつない青空の下で昼寝をするくらい爽やか! あたし、親父すすき、17歳!この歳にして開業、そしてはじめてのお客さんを殴り飛ばす!とんでもない羅刹に成り下がってるのに、心はこんなに晴れやかなんて!ふっしぎ~♡


「なっ、なにするんですかぁ!いきなり!」


 床に転がったカスがなんかほざいてる。睨みつけて威嚇してやる。


「あ”?」


「ひぃぃぃぃっ」


 殴られた左頬をさすって完全に萎縮して生まれたての子鹿みたいに震えてやがる。シチューにしてやろうか?あ?


「お前、さっき『なんでも下町で新しくエッチなお店ができるとかなんとか』って言ってたよな」


「えっ、はっ、はひぃ、えっ、このお店じゃなかった? えっ?」


「この店のどこが水商売する店なんだよオイッ!」


 やばい怒りでめっちゃ早口になっちゃった。


「ひぃぃぃっ、すみません、すみません、すみません、でも表にデカチチとか書いてあるし」


「それはあたしの名字だよ」


「そんな馬鹿げた名字が」


 ギロリッ。


「ひいぃッ、そんなあまり一般的でない名字があるんですね、僕が悪かったですすみません」


「はぁ…、で、その噂とやらはどんくらい広がってんの?」


 椅子にかけ直して足を組む。この噂、というか勘違い?広まってたらほんとに厄介なんだけど。


「いっ、いや僕もタクト、あのっ、友人から聞いただけで、それ以外は」


「ふーん」


 青年の表情を伺う。完全に恐怖に精神を支配されたようで、何かを企むとかウソを付くとかそういった様子はない。彼は純粋に己の性欲とマウント欲に従った結果ここにたどり着いたに違いない。良くも悪くもね、はぁ…。


「あのっ、それじゃあこのお店はなんの…?」


「はぁ、一応看板にも書いてたけど、あんたそれどころじゃなくて気づかなかったみたいだね。もうそのままよろづ屋だよ。なんでも屋ってやつ」


「なんでも…?」

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