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異世界の魔法、全部まるごと解析します!

この作品は私がとある作品を考えていたときにたまたまラノベの魔素の正体を思いつき、それを元に様々な魔法を物理や科学で説明しよう、という企画を元に作りました。

なので研究以外の部分はそれがわかりやすくなるような展開を作品内では行っています。もちろん、なるべく不自然にならないように努力はしたつもりです。ちなみにこの章では属性魔法に対しての考察が中心です。

また、一応恋愛展開も丁寧に作りました。お楽しみいただければと思います。

役目孝二は大の研究好きな男だ。

大学に入って研究室に配属されてから寝食を疎かにするほどのめり込むようになっていた。かといって必ずしも望んだ成果が上がっているわけでもなく、むしろ失敗ばかりでデータとして取れるような失敗でさえないことも多い。

それでも彼をそこまで駆り立てるものは何か。それは未知のものを研究し、世界の誰も見たことのないものを発表したいという欲求だ。失敗に失敗を重ねても成功という一つの道にたどり着ければ良いという考え方の持ち主である。


そんな孝二は独り暮らしをしていた。研究の徹夜帰りでろくに食べないまま帰宅したのもあったが、この日は最悪で食べ物のストックが切れていた。泥のように眠った彼に待ち受けていたのは空腹地獄。ベッドから立とうにも力が入らなかった。スマホもバッテリーが切れていて助けも呼べなかった。数日後彼は遺体となって発見された。


その頃。

勇者が魔王軍と調停を結び、平和になったとある異世界では

文化の発展を積極的に推し進めていた。異世界の勇者ということもあり文明のレベルが中世からはだいぶ進歩して日本の明治時代レベルになっていた。

そんな折、勇者は現代に送還されることになった。

神との契約を果たしたためだ。

しかし、王であるフェイムは

「ようやく色々発展してきているのになぜ帰還するのか?」と勇者に説いた。

勇者は

「下地は作ったのであとはこの世界の人間が果たすべきであり、かつ私におんぶに抱っこではすぐに文明は衰退するでしょう。」

「私はそもそも学問に関して詳しいわけではありません。復興に関して言えばかつての経験があるので、様々なスキルが活用できます。しかし、これから必要なのはこの世界に合わせた学問です。異世界は魔法を想定した学問も入れる必要がありますが、私の世界にはありませんでした。これから必要なのは魔法に関する研究です。この世界を学ぶ上で魔法の解明は避けて通れず、発展には必要不可欠です、ですから私以外の人物が必要かと思われます。」と答えた。

フェイム「それはつまり別に賢者を召喚すべきと?」

勇者「その通りです。ではもう時間ですので帰還します。」

勇者は光の束となって消えていった。

この国、アトワースは勇者の知識を使って発展していた。勇者が消えることは大きな損失であり、時間的な余裕はなかった。

賢者召喚はすぐに執り行われた。魔導士によって召喚の魔方陣が作られ、そこに現れたのが、役目孝二だったのだ。


神「あなたの魂を異世界に転生します」

「あなたの願いを最大限叶えましょう、研究に適したスキル、言語理解を与えましょう」

その言葉が聞こえたと思ったらいつの間にかいつもの部屋ではなく、王城らしき建物にいた。

フェイム「賢者よ、呼び掛けに応じてくれたか!」

孝二「あなたは一体?ここはどこですか?」

フェイム「ここはアトワースという国で、私はその国王、フェイム3世である。賢者よ、この国では勇者が平和をもたらして学問などが盛んになっておるゆえ、その手助けに呼び出したのじゃ」

孝二「で、その手助けを押し付けた勇者さんはどこに?」

フェイム「すでにそなたがいた世界に帰ってしまった。だからこそすぐに呼び出したのじゃ」

くそ迷惑すぎる。いくら異世界転移でももっとマシな召喚とかあっただろ。そう思っていたとき、

「勇者曰く、そなたには研究の才能があると聞いてきた」

「それだけで呼び出したんですか?もっと研究の最前線でやってる人とか呼び出せなかったんですか?」

「すでにそなたは死んでいるからここに呼べたのだ。勇者殿は生きている上に特殊な条件がついていたから期限があった、じゃがそなたはもう死んでいるため向こうには戻れない。だから私達に協力して欲しい。」

「地球で死んでいる研究者なんていくらでもいたんじゃ?」

「魂が彷徨っているという条件下ではそなたしかおらんかった。日数の関係じゃな。」

神様の言葉はとりあえず王様とやり取りできてるので、言語理解とやらはあるのだろう。でも研究に適したスキルってなんだ?

「とりあえずそなたのステータスを見よう。そなたもステータスオープンと言えば開くはずじゃ」

いやいや当たり前に言ってるけど、そんなゲームの世界でもないんだから、と思っていた。

とりあえず試してみたが開く気配はない。

当たり前だ、異世界に来たらすぐに異世界に適応できるのは物語の中だけの話。

王様は見れているようなので、了承を得て見せてもらうことにした。

「魔力がそなたにはないみたいじゃな、せっかく『分析』のスキルがあるのに見れないのは本末転倒じゃ。」

というか魔力を持たないって地球人なんだから普通では?

「まぁ、勇者殿はそういう事態も想定に入れておったわ。魔物の血肉を数回に分けて摂取すれば魔物の魔力を徐々に取り込んで使えるようになると。」

どういう仕組みだ、それ。そもそもなんで勇者はそういう事態が想定できるんだよ。経験談なのか?

とりあえず魔法とか魔力とか、研究するにはうってつけではありそうだが、とてつもない底なし沼になりそうな予感しかしない。

「で、肝心の魔物の血肉ってあるんですか?」

「あるわけなかろう、あと、一時間程度経つと死んだ魔物から魔力が抜けきってしまうから新鮮さが大事らしい」

地球人、運動音痴な俺にできることでないことはすぐに分かった。

「護衛を連れて狩りに行けば良い、ここに候補を連れてこい」

そう言うと候補らしき人が3人、なぜか全員女性で全員が全員金髪の美女だった。

「女性のほうが基本的に魔力が上だから魔法騎士は女性が多いんじゃ。」

「そなたの研究には当然魔法が使える人間が近くにいたほうがいいから、基本的な属性は使える人でかつ腕の立つ者を連れてきた。」

なぜ女性が優遇されてるかは置いといて、王様に紹介してもらった。魔法騎士団長リーナ、隊長リーゼ、リーラだそうだ。

名前から分かる通り3人は姉妹だ。エルバンド家という貴族出身らしく、3人とも魔法学園を主席で卒業したらしい。

とりあえず団長のリーナさんにお願いして魔物のいる平原エリアまで行ってみた。

(ちなみに移動は馬車移動。揺れを軽減できる装置は勇者のおかげでついているようだ。なのでそれなりには楽だった。)

現れたのはウサギの魔物、ホーンラビット。岩の魔法『ストーンバレット』で瞬殺だった。調理もお願いし(彼は絶望的に調理も下手なのだ。)焼いてソースをかけたものを食べてみる。ソースはおいしいが魔物特有?の苦味というかエグみがあり食べにくい。調理中も現れた敵も瞬殺してる辺り楽に対処できる相手なのだろう。

何回か食べるうちに体の中に流れるものを感じた。これが言ってた魔力だろうか。

相変わらずまずいが、なんとか調理を変えてごまかし食べる。

リーナさんが「魔力を感じたらスキルを使ってみましょう、スキルを唱えてみてください」『分析』

「対象を選んでください」

なんだこれ、とりあえず自分と言ってみる。

役目孝二 年齢24 男

レベル1 攻撃3、MP4、防御2、素早さ1、魔法3

スキル(分析)(言語理解)

と出た。魔物の肉を食ってようやく物語の主人公と同じスタートラインに立てたと思うと考えものだが。

いや、待てよ。

対象ってなんだろう。リーナさんでもいいのかな?

対象にはできませんってなった。理由を聞くとレベル差が違い過ぎるとスキルの対象範囲外になるとか。

まぁ今レベル1だしね。

リーナさん曰く属性魔法を使うには魔素と魔力を調整して発動するらしい。魔素ってなんだ?地球では聞かなかったワードだ。

勉強と研究が彼の人生のほぼ全てなので、ラノベの異世界ものに度々出てくるこのワードは彼には初耳だったようだ。

魔素なんてものが大気中にあるというらしい。濃度が濃いと毒になるとか。魔素が濃い部分は魔物も強くなり、植物もよく育つとか。

でも、地球にはそんなものはないし、もしあるのだとすれば何か別の元素なのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

そこで彼は大気に『分析』を使うことにした。

その結果

窒素78%、酸素20%、アルゴン0.9%、二酸化炭素0.03%

これは間違いない、地球と全く同じだ。

考えてみれば異世界帰りの人間が魔力やスキルが使える設定は山ほど存在するし、某魔法使いの小説も大気は少なくとも連続の状態(同じ地球上にある)で魔法をバンバン使ってる。

もちろん彼はこのことに気づいていないのだが、少なくとも異世界人が呼んでいる魔素とはこの中の元素のうちのどれかなのだ、ということは分かったのだ。

彼はこう考えた。「酸素は燃焼に必要だからこれ自体が魔素の

可能性は極めて低い(火属性魔法)、アルゴンは希ガスだから触媒にはなっても反応には直接関与しない(魔素とは魔法の元であり、触媒となって反応を促進したりするものと定義されている)、二酸化炭素も同様の理由で外れる(火属性魔法)、だから魔素とは窒素のことだ。」

窒素は先ほど書いた通り、78%も大気中に存在している。人間の体内にアミノ酸が必須なのはあまりにも安定な窒素分子ではなく、反応で得られる窒素原子が必要なためである。

窒素分子N2は非常に安定な分子である。だがN自体には様々な反応が存在する。

彼は、異世界人は魔法を使ってこのN2分子を分解したりして様々な現象を引き起こしているのではと考えた。

それを聞いたリーナさんは「窒素ってなんですか?」と素朴な疑問が帰ってきた。魔法使いには元素とかの意味がわからないのだという。科学の代わりに魔法が発達してるぶん、火がつく現象でさえ全部魔法だと思っていたらしい。

どうやら科学は全然発達してないようだ。とりあえずその日の出来事を王様に報告したのだが、

「すまん、すごいことをもうしたのは分かるが何がどうすごいのかがわからん。」

「えっとですね、私がいた地球上と気体の成分が同じってことはわかりましたか?」

「スキルの効果なのだからそこは疑ってないしまだ分かる。窒素が色々反応だのがよく分からん。」

とりあえず反応に関して分かる例を出さないと納得しなさそうだ。

「木は燃えますよね?」「そうじゃな。」「木には炭素という元素が入ってます。それが空気中の酸素と反応して熱と光を発生する現象が炎であり火です。」「え?そうなの?」「そうです。」

「じゃあ、そなたが言う窒素が反応して色々とは魔法もまたその仲間というかそういうことなのか?」

まぁ、一応そういうことらしいし頷いておいた。魔法も間違いなく科学現象の一つなのだ、ということは分かった。詳しいメカニズムはこれから解明するとして、めちゃくちゃ楽しい研究になりそうだ!


さて、1日経ったところで俺はまた例の草原エリアに来ていた。

もちろん護衛のリーナさんも一緒である。

俺の関心はあるものに向かっていた。それは

「どうして魔物の血肉で地球人の俺が魔力を入手できたのか」

「そもそも魔力とは何なのか」

である。

あと、団長さんなのに護衛してていいのかと聞くと

「賢者様は最重要で守って欲しい」と王様から言われてるらしく、当面は魔法騎士団をお休みして護衛任務に当たってくれるようだ。基本的に平和なので護衛は一名でいいらしい。あと本人曰く複数人相手も平気でこなせるからと言うのもあるとか。

話を本題に戻そう。

とりあえず今日もホーンラビットを調理してもらって食べたところ、MPが1上がって5になったところでこれ以上は上がらないということが判明した。まずいのを我慢した割には微妙な結果だ。

とりあえず0からMPを上げるために食べると言う方法は間違っていないらしい。とりあえず0から魔力を得る方法は分かった。

まぁ、おそらくゲーム同様ステータスを上げるにはレベルを上げる必要があるのだろうが、そこは追々やるとしよう。

レベル自体の正体もよくよく考えてみれば謎だったりするし。

さて、次に魔力とは何かである。

地球では実現できなかった現象をいとも容易く発生させる力もといエネルギーってこと位は分かる。

そもそもどうやって魔法を発動してるんだ?と考えたとき、とあることを思い付く。『分析』「対象を選択してください」

「魔力の流れを選択」

隣で護衛してるリーナさんに尋ねる。

「今、もう一匹倒してもらえませんか?」「わかりました」

すると、彼女の周りの魔力が外に漏れなくなった。

「魔力が漏れなくなりましたがどういうことです?」

「魔力があるうちはレベル差を感じ取ってほぼ襲ってこないので。スキルで見えるのはすごいですね」

すると、ホーンラビットが横から飛び出してきたが彼女は気にせず瞬殺した。このとき魔法は発動しようとするとき彼女の中の魔力と外の魔力が集まってるように見えた。発動時は魔力は直線の軌跡を描き、数分程度は残るようだ。

「なるほど、魔力発動時には外の魔力と体内の魔力を合わせて発動するんですね。」「そうです。」魔法学校を主席で卒業しただけはあり、それは知っていたようだ。

ではなんで発動時に周囲の魔力は集まってくるんだろうか?

発動しようとするとき、彼女の体内魔力は一時的とは言えだいぶ高まっていた。それに対して集まる方向に魔力は移動する、、

つまり、魔力は高いほうから低いほうに移動するわけではなく、低いほうから高いほうに移動するエネルギーだと考えられないか?

そう考えればとりあえず現象の説明はできる。

でも、こんなエネルギーって地球でもなかったっけ、、

待て、方向こそ逆だが言ってることはまんま位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)の説明そのものだ、ということに彼は気がついた。位置によって魔力もまた変化する。

魔力は距離に対して離れれば離れるほど弱くなる。

これもまた原理こそ不明ではあるが、物理現象の一つに過ぎなかったのだ。魔力とレベルにもおそらくというかかなり密接な関係が伺える。リーナさんに再び尋ねてみた。

「レベルが高くなると魔力の量は大きくなるのですか?」

「そうですね、大きくもなりますし、濃くなるとも言われています。」

「基本的なことをもう一度言いますが、レベルが上がるとステータスが上がるんですよね?」「そうです。レベルが上がるごとに筋力とか魔力の量、受けるダメージもだいぶ変わります」

つまり、レベルとは魔力の器の値を可視化したものだ。器が大きくなればなるほど、身体にも影響があるということだ。

ちなみに防御に影響があるのは体内魔力が受けた攻撃に対して自動的に防御をするかららしい。

リーナさんが突然こう言った。

「そうだ、魔力を操れるようになったんだし、魔力操作の訓練を今ここでしましょう。レベルを上げないと賢者様の研究にも支障が出るでしょうし。」

言われて体内魔力の流れを操作してみることにした。

しかし魔物を食べて急造の魔力では体内の流れを感じるにはだいぶ小さい。なかなかコツがつかめない中、

「とりあえず魔力をちょっと渡してみるのでそれで感覚を掴んでください」と左手の薬指をこちらの手に触ってきた。大きな魔力を感じるが若干気持ち悪い。

彼女曰くこの訓練で肉体強化とかができるようになるらしい。

とりあえず渡された魔力をもとに流れを操作してみる。

「脚に魔力を流して走ってみましょう」

魔物は大丈夫なのか?と思ったがさっきとは違って彼女は魔力を放出してるので近くにいる限りは大丈夫そうだ。

走ってみる。今まで地球では考えられないほどのスピードが出ている。元が運動音痴なので走るスピード自体は地球の速い人位だが、確かに速くなっている。しかし、魔力とスタミナがすぐに切れてへばってしまった。

「訓練は続けますがわざわざここでやる必要はないですね、明日からは新兵の訓練場でやりましょう。」

地獄のランニングと魔力操作の時間がこれから始まっていく。


王様フェイムのもとに戻ってきたのは夕方、とりあえず魔力に関する報告を行った。しかしやっぱり似たような流れになったので位置エネルギーに関して説明を行った。

「物はなにもしない限り上から下に落ちますよね?」「うむ」

「上にある物は下に置いてある物体に対して高さぶんだけの位置のエネルギーを持っているのです。それが下に落ちるとき落下という運動に変わります。しかし運動する時に使うエネルギーは位置が持っていたエネルギーと同じです。これを力学的エネルギーの保存と言います。」「位置エネルギーの説明なのになんかややこしくなってないか?」

確かにそう思ったが、大事な性質なので話さないといけない。

王様は退屈そうに聞いていたが、兵士が失礼します、と割り込んできた。

兵士は耳元で囁くと王様は上機嫌になった。

「聞け。王太子妃アーミアが懐妊したそうだ。『スキャン』のスキルで確認したところ男の子だと言うことだ。私もだいぶ嬉しいが、正式に後々発表することになるだろう」

これには周りにいた兵士達も大喜びだった。跡継ぎができたのだ、喜ばしいことだとここにいた誰もが思った。

ただ1人を除いて。

「妊娠するってことは女性は胎児のぶんの魔力も一緒に背負う必要がある、だから女性は男性よりも魔法や魔力の扱いが上手いのか?」

隣にいたリーナさんに聞いてみた。

「妊娠すると魔力ってどうコントロールするんですか?お腹の中の赤ん坊に魔力が集中するのはまずいんですよね?」

「確かに妊娠中の女性は魔力のコントロールは気をつけてます。その通り魔力が集中すると死亡する可能性が高いです。(でもこんなときにそんなこと言わなくても、、)」

なるほど、異世界人は魔力のある世界で生きてきたから扱いも分かっているわけだと思った。そして女性のほうが魔力が高いのは自分と赤ん坊を守るための異世界における進化だったというわけだ。

「王様、女性のほうが魔力が高い理由、今の妊娠のお話から推理できましたよ」「本当か?」

「女性は男性と違って妊娠、出産がある。これは男性以上にお腹に気を配る必要があり、魔力のコントロールもできなければ流産してしまいます」「確かに」

「異世界の人は常に魔力がある状況で生きてきた。だから女性が魔力が高いように進化したほうが色々と都合が良かったというわけです」

「賢者殿は素晴らしい、たった2日でこれだけ解明してしまうとは、、」

スキルのおかげもあるだろうけど、普通に知識があればこれくらい導き出せそうなものだけどな、と内心彼は思っていた。


所変わって。

孝二の活躍はいい風にばかり見られていたわけではなかった。

例えばこの国の宗教、サンタム教の面々である。

太陽信仰自体は地球にも大昔から存在したが、この異世界であってもそれは同じだった。

彼らは既存の価値観、既存の考え方を大きく無視するような勇者や賢者の考え方を嫌っていた。

ただ、勇者に関しては色々規格外な強さを持っていた。魔王軍をたった2日で完全に無力化し、降伏させた。

文明を発展させる勇者は嫌いではあるものの、人口が増えるように調整し、信者が増える方向に行くのは決して悪い面ばかりではない。

しかし賢者はどうだろう。既存の考え方の破壊を地で行くような行為しかしていない。しかも報告を聞いても理解が追い付かないような理論ばかりと来た(科学技術が進歩していないのでベースの考えが非常にレベルが低い。)。

「どうします?司教様」

「我々の考え、教えを全て塗り替えるようなら容赦せず暗殺しろ。」

「御意」

こうして孝二は宗教から目をつけられることになる。


訓練場に籠って早1ヶ月。だいぶ、体力、魔力、筋力も伸びてきた。

レベルこそ上がっていないが、だいぶステータスは変わった。

レベル1 攻撃8、MP15、防御6、素早さ5、魔力10

毎日新兵と混じっての特訓。魔力切れで何回も倒れたりもした。

「やっと攻撃魔法を教えても問題ないステータスになりましたね」

そう語るのはリーナさんだ。レベル1でも前回のステータスはだいぶ低いほうらしく、主人公に並んだと言う考えはただのうぬぼれだったようだ。

彼女が教えてくれるのは炎属性の魔法、『ファイアーボール』。

初級魔法のこの魔法はどの新兵も最初に通る道らしい。

とりあえず魔法を発動するためにはイメージが大事だとか。

まず火の玉を魔力で発生させてそれを飛ばして攻撃する。

イメージができないと魔法ができないと言っているが、火の魔法は早い話が燃焼反応だ。そして魔素の正体が窒素であることも俺は知っている。

俺はこうイメージした。

「大気中の窒素分子を分解して急激に大気中の酸素と反応させる。そして、その反応を球状に留める」

できた。しかもなんかリーナさん曰くめちゃくちゃ大きいらしい。

俺はそれを訓練場にある的に向かって投げた。的は粉々に破壊された。

「すごい、初めてなのにそんな威力になるなんて!」

MP消費はこの魔法は3らしいのだが、なぜか俺は3倍の9消費していた。どうやら威力制御ができてないらしい。

「そこは魔力操作を続ければ調整も効きますよ、それよりようやく魔物を倒す術を手に入れたんですから明日は草原エリアに行きましょう!」

俺の魔法使いとしての生活はここから始まった。


翌日。

またしても草原エリアにやってきた。

ちなみにここにはホーンラビット以外の魔物はいないらしい。

護衛のリーナさんには魔力の遮断をお願いして、遂に俺自身が戦うことに。

まずやってきた1匹をファイヤーボールの射程圏内まで誘き寄せて当てる。ちなみに昨日動く的に当てる練習はさんざんやったのでなんとかぶっつけ本番でも形になった。(動く的は訓練場に普通にあった)

魔力が5発ぶんしかないので次々と来る敵を倒しつつ、倒した魔物の肉を調理して食べてMPを回復するの繰り返し。

ちなみに魔物の肉には上限を上げる効果だけでなく、失った魔力

を回復する効果もある。マナポーションの成分は魔物から抽出されたもので、それを魔力を遮断する瓶に入れて持ち運びできるようにしているらしい。

夕方にはレベルが8まで上がっていた。

ステータスはこんな感じ。

レベル8 攻撃19MP45防御12素早さ11魔力24

魔物を倒すとレベルが上がるって言うのはいかにもゲームっぽいけど、『分析』スキルによると、魔物の体内に流れていた魔力が死んだときに倒した生物に流れ込んでいるようだ。これがゲームで言うところの経験値の正体らしい。ちなみに魔物を食べて得られる魔力はその残りカスのような物らしい。だから経験値は全く入らないとか。

王城に帰還すると王様に報告した。

魔力に関する情報がさらに分かったことでなんとなく全体像が見えた気がするが、まだ一属性、しかも初級魔法しか使えていない自分では説得力の欠片もない。どんどん使える魔法を増やす必要がある。

俺は与えられた仮住まいに帰宅するとすぐに横になって寝た。


「賢者のレベルが上がり、魔法を習得したとか」

「このまま放置すればいずれ暗殺もできなくなります」

「では明日奴が草原エリアに来る前に先回りして奇襲しろ」

「御意」

知らないところで暗殺計画が実行に移されようとしていた。


「護衛してる間に嫌な気配がしたな、、」

私はリーナ·エルバンド。賢者様の護衛だ。

ここ1ヶ月ほど王城と賢者様の仮住まいの往復の間に尾行がついている気配を感じていた。

今日の尾行が巻き散らしていた感情は殺意にさえ近いものを感じた。賢者様を敵対視するグループの仕業か。心当たりはいくつかあるが、今はそんなことはどうでもいい。

あのお方は魔法の研究で間違いなくこの世界を良い方向に変えていってくれる人だと私は確信している。とは言え放置して賢者様に何かあったら大変だ。

魔法騎士の寮にいる妹のリーゼとリーラと相談しよう。

一応便宜的には私1人が護衛になっているが、実際には3人とも賢者様の護衛である。ただ隊長と団長が両方抜けてしまうと魔法騎士団への影響が大きすぎるので隊長である2人が私の穴埋めを頑張ってくれている。

しかし、今日のあれは見逃すことはできない。

明日もしかしたら襲撃があるかもしれないからだ。

「で、相談って何?お姉ちゃん」

「賢者様に尾行がつけられてる。それ自体は珍しいことでも何でもないが、今日の尾行は殺気のような物を飛ばしていた」

「なるほどね。むしろちゃんと実行するときほどそういうのを出さないようにするのが真の尾行なり暗殺者って感じがするけど」

「焦っていてそういうことに余裕がないのだろう、おそらくこちらが尾行に気付いていることさえ知らないかもしれない。」

騎士団なら尾行されているときの対処方法は当然学ぶし、尾行がついているかを確認するのは初歩中の初歩だ。

「で、どうするつもり?」

「焦っているなら明日が勝負だろう。明日は3人で賢者様を護衛する。」「騎士団はどうするの?」

「訓練は取り止める。不穏な動きをしている連中がいる以上、待機して動きがあれば証拠を抑えに行くと伝えておいてくれ」

了解した、と二人から返事が来た。何事も起きなければいいが備えは大事だ。「ところで、賢者様のことどう思ってるの?」

「え?」まさかここでこんな質問が来ると思ってなかった。

「お姉ちゃんって騎士団にいる間も男の人と浮いた話ひとつも出ないから、全くタイプが違う賢者様はどうなのかなって」

確かに騎士団の男たちはなんと言うか力が正義みたいな感じでむさ苦しいし、それでいてみんな私より弱いからそういう対象には入れてなかったんだよね、、

確かに賢者様、孝二さんはそういうタイプの人ではありません。

研究に夢中で研究に関してはまるで子供のように熱中されるような方です。それでいて、研究とは直接関係のない訓練とかをしっかりこなす方で魔力切れとか起こしても弱音の一つも吐きません。確かに変わった方ではありますが、まだ異性として認識したことはないと思っています。

「たしかに変わったお方ですが、ときめくとか異性としてとかそういう感情はありませんね」

「ずっとそばにいて全くそういう感情って起こらないの?」

「あの方は研究一筋で私のことを意識してると感じたことは一度もありませんから」「そうなんだ」

妹2人はそれ以上聞いてくることはありませんでした。

明日が果たしてどうなるやらと考えながら眠りにつきました。


翌日。

騎士団の皆さんの様子が騒がしい。何かあったのだろうか。

「今日って何かあるんですか?」

「いいえ、でも今日は護衛は妹達2人も入れて3人です」

おかしい。護衛が増えるなんてさすがに何かありますよって言ってるようなものだ。

「大丈夫なんですか?今日の予定はやめたほうがいいんじゃ?」

「全力でお守りしますので予定通り行きましょう」

不安だ。不安しかない。何か襲撃があるってことなのだろうか?

馬車に乗りながらそんなことを考えていた。

もしかしたらと着く直前に『分析』を発動して襲撃者、暗殺者と選択したら10人ほど待機していた。

「待ち伏せでしたね、しかし全員どこにいるかはわかります」

魔法騎士団長に若くして登り詰めただけはあり、冷静にリーナさんは呟く。

「馬車を降りないでください、私達で決着を着けます」「ファイアーストーム」炎属性の上級魔法で隠れていた敵に攻撃する。草原の隠れる場所が消えて敵が現れる。

リーナさんがメインの攻撃でリーゼさんとリーラさんが俺の乗る馬車の護衛だ。

暗殺者達は魔法で攻撃する者と剣で近接攻撃をしようとする部隊に別れた。

しかし彼らと彼女とはレベルが違いすぎた。戦闘面でも、実際の「レベル」でも。

「魔法障壁」敵の魔法攻撃は全てこれでいなされ、近づこうとする部隊には弾速の速いストーンバレットで反撃。死角から攻撃しようにも彼女は1人ではない。リーラさんとリーゼさんが魔法を発射して死角を消す。

姉妹揃ってのコンビネーションになす術なく無力化され、10分も経たないうちに全員捕縛された。

「『影』達に犯人の身元を伝えたので今頃騎士団が拠点に捜索に入っているはずです。」

影とは隠密魔法を使う集団のことらしく、護衛は1人だと今まで思ってきたのだが、実はそうではなく数人が警備対象の回りに待機してるということらしい。魔法世界にも忍者や諜報部隊のような者がいるようだ。


一方、騎士団はサンタム教の教会に捜索に入っていた。

軒並み幹部陣は捕らわれ、書類などが押収され計画は事実であることが発覚、関与した全員が死罪となった。


草原エリアでは事件があったものの、犯人達を連行して以降は普通に戻った。3名体制も連行時に解かれ、リーナさん1人(+影)で護衛に戻った。

火属性の魔法を使って魔物を仕留める訓練をしていたとき、ふと疑問に思った。N分子は燃焼反応をして以下の物に変わる。

N+O2=NO2

でも火属性魔法を使ったあとで大気を調べてもNOx(窒素酸化物)が増えている様子はない。これは本来おかしなはずである。

火属性魔法には何か同時に別の反応が起きているのでは?

そう考える。

燃焼とは端的に言うと酸化反応である。

つまり、逆の反応である還元の反応が起こって元のN2分子に戻っている、と考えられる。

窒素元素が入ってる分子で還元に使われるのはアンモニア(NH3)

である。なので魔法によって、窒素分子N2は燃焼に使うNの原子と、酸化した有毒気体であるNO2を還元するために使われるアンモニアが同時に生成し、まず燃焼反応が起こって火の魔法が発生して、その後大気中の生成したアンモニアによって還元反応が起きて元の窒素分子に戻る。これが火属性魔法で起こっているメカニズムの全てである。ちなみにアンモニアができる反応は地球では特殊条件下でかつ触媒を入れて生成している。これをハーバー·ボッシュ法と言う。この方法は科学肥料の大量生産に貢献し、ノーベル化学賞を受賞した歴史的な価値のある反応である。

その反応は、N2+3H2→2NH3である。

これを聞いたリーナさんは「魔法を作った人は有毒な気体が出ないように改良して魔法を作っていたんですね!」と目を輝かせていた。ちなみにここで出てきた窒素酸化物NOxは酸性雨等の原因になる人体に有毒な物質である。


夕方、王様に事件の経緯の説明+考察の発表をした。

事件は3人の活躍によりスムーズに解決したとされ報奨金等が贈られた。

火属性魔法の工夫については「先人の工夫が現代になってようやく明るみに出てきたその功績は大きい、これからも研究に励んで欲しい」と言われた。お褒めの言葉はシンプルに嬉しい。

その夜、俺は考えていた。

魔法を作り出した人物は科学反応、もとい物理工学を知っていた人物なのではないかと。

窒素を自在に操るだけでは、先ほどのような矛盾は解決することは不可能だ。そして、窒素分子が大気中の大部分を占めていることを確実に知っている人物が作った、ということは間違いない。

俺は今火属性魔法のメカニズムを解明しただけに過ぎない。

魔法には無限とも言えるほどの種類がある。

全てはまず不可能としても、ある程度主要な魔法に関してはメカニズムを解明したい。王様の言う魔法の発展にはメカニズムの解明は急務と言えるレベルで必須だ。

まだまだ頑張らないと。


翌日。俺は新しい魔法の練習を始めた。

相談した結果、風属性の初級魔法『ウィンドカッター』を習得を目指すことになった。

風属性魔法はイメージがしやすく、ファイアーボールより簡単らしい(ファイアーボールを先に練習するのは攻撃魔法として使いやすいからとのこと)。

確かに魔素の正体を知らなかったとしても大気を操って攻撃する魔法だから、イメージは簡単なのだろう。

でも、大気だけでそれなりに切れ味が出るような攻撃は難しいと思われる。現にリーナさん曰く「誰でも習得自体はできるけど威力に関しては実践レベルまで上げるにはかなりの練習が必要」らしい。(ファイアーボールは発動して当てることができればそれなりの威力は保証されている)

こういうとき、どうイメージすればいいだろうか?

大気は気体分子の集まりだ。温度だって分子の運動がマクロ的に激しいことを人間としては温度が高いとして観測しているだけに過ぎない。

窒素を操ると言うことはその分子のエネルギーや運動量も魔法で自在にコントロールすることができる。

もう一つ。威力を上げるためには物体を貫通するほどのエネルギーとか運動量が必要になる。分かりやすい例で言えば銃の弾丸だ。あれは質量こそ小さいが速度が物凄く速いから人を殺傷できるほどの威力になる。

物体の運動量pは物体の質量mと速度vの乗算で表される。

p=mv

つまり分子一個一個に対して高い運動量を与えれば、高い貫通力を得られるはずだ。

カッターと言う位だから面としてダメージが与えられるようになればいい。

分子を一個一個の点とすれば面を求めるには積分をしてあげればいい。つまり

∫mvdv=1/2mv^2となる。

これをイメージとして発動してみる。つまり分子に運動量を与えてカッターの形に加工して訓練場の的に打ってみる。

するとファイアーボールのとき同様またしても的は粉々になった。これには見ていた一同驚愕である。

「威力が高いウィンドカッターなんて1ヶ月位は必要だと思ったのですが、賢者様ははるか上を行ってますね、、」

リーナさんはこう言うが、たかが2種類魔法打てた位では強い魔物には勝てない。今は平和だから街には魔物や魔王軍の脅威こそないが、いざ実戦となれば彼女のお荷物になることは間違いないのだから。

それから何回か練習を重ねて安定した威力が出せるようになった。とりあえずステータスを確認しようと『分析』を発動すると習得魔法と分析以外にある項目がステータス欄に追加されていることに気がついた。

それが固有スキル『全魔法適正』である。この説明によると、

全ての系統の魔法を後天的に習得することが可能で、かつ全ての魔法において超級まで習得可能なスキルらしい。

リーナさん曰く「初級の属性魔法はどの人でもだいたいは習得することが可能ですが、特殊な魔法は一般の人には習得不可能です。さらに超級までちゃんと使いこなせるともなればほんの一握りの魔法使いしかいません。」だそうだ。

賢者として様々な魔法を使ったり、研究したりする上でこのスキルは必須だ。俺の願いとやらを神様はどうやら叶えてくれたようだ。でも、気になることが一つ。

魔法にはどうして適正が存在するのだろうか。

確かに全ての人間が全部使えたらこの世界は大変なことになることは容易に想像はつくが、個性としてランダムに適正は行き渡るらしい。親から子への適正の移動も必ずしも全てではなく、親が使える魔法も子供が使えないことも普通にあるとか。

それって生活に関わる魔法なら不便じゃない?と思ったが、リーナさん曰く「勇者様が魔道具を作って魔力がある人であればほぼ生活に支障がなく暮らせるようにしてくれた」らしい。

とは言え、魔道具は高額で必ずしも国民全員に行き渡っているわけではなく、今も不便な生活をしている人も一定数存在してるとか。魔法のメカニズムの解明は魔道具作りにおいて非常に重要らしく、研究の成果が公表されるのを心待ちにしている人も多い。

(賢者の研究は現在はまだ発表できる段階にないとして孝二が発表を控えるようにしているため)

ともかく、話を適正の話に戻そう。

魔法は魔力を使って魔素(窒素)を媒介(または材料)として発動する。これはリーナさんに確認したし間違いない事実だ。

ただ、火属性魔法と風属性魔法ではそもそも同じ魔素でも使い方がまるで違うことは上の説明でも分かる通りだ。

もちろん、他の属性もまるで性質が異なるので扱い方が全然変わる。同じ包丁でも突くのと切るのでは全然違う場所を使うように。

だから個人の魔力の質によって扱いやすい魔法と扱いにくい魔法が存在していたとしてもおかしくない。例えば火属性魔法は得意だけど、全然性質の変わる水属性や氷属性はまるで扱うことができないという人は沢山いるらしい。新兵に炎属性のファイアーボールを教えるのは火属性は古くから生活に欠かせない魔法だから親から遺伝している可能性が高いためだ。もちろん一部にはファイアーボールが使えない新兵もいるらしいが、そういう人達は大概すでに他の魔法の適正を持っていることがほとんどだ。

その魔力の質のことをこの世界においては適正と呼び、神様が授ける物以外はランダムで適正を持つようにできているようだ。

つまり、異世界で無双する主人公が持つスキルなんかは基本的に神様から与えられた物がほとんどで、この異世界で生まれる人はそのスキルを持たずに育つために格差が生じるのだ。

俺が持っている『分析』、『全魔法適正』が神様から与えられたスキルである。でも、攻撃系統のスキルでもないし、知識に補正がかかっているわけでもない。だから戦闘力自体はほとんど他の住人と変わらないはずだ。

(知識があるのと分析によるメカニズムの解明によって魔法の威力が大幅に上がり、かつ、全ての魔法とは時空魔法や転移魔法、アイテムボックス、錬金術などのこの世界においては伝説級の魔法さえも含まれているので、実はある程度まで戦えるようになれば物語の主人公同様に無双していけるのだが、彼はそのことにまだ気がついていない。)


その日の夕方、王様に研究の成果と風魔法の習得を報告した。

また全適正があることを報告すると「ということは様々な属性を習得して役に立ってこき使っても大丈夫ということだな?」

と言われた。賢者の使い方それでいいのか、、

適正の話は異世界の住人と召喚した人間を差別することになるので、基本的に発表はしないという方向で固まった。適正があること自体はなんとなく感覚で知っているので、それ以上は必要ない、とのこと。

突然、思い出したかのように王様が言った。

「そろそろアレの季節なのでは?」兵士が答える。

「ああ、忌々しいアレのことですね。」

俺はリーナさんに尋ねる。

「アレって何ですか?」「アレって言うのは魔力嵐のことです。毎年この時期になるとやってきて迷惑をもたらす存在です。」

魔力嵐とは、地球の台風同様に季節が来ると暴風雨や強風をもたらすものである。ただ普通の台風ならまだいいのだが魔力嵐は一味違い、周辺の魔力がほとんど使えなくなるという大きな特徴がある。魔力だけでなく魔道具も一切使えなくなるので、これが来ると生活が非常に不便になる。王城などは嵐対策は万全にしてあるため問題ないが、市民の生活には死活問題となる。そのため、この時期は魔力遮蔽を施した建物を避難所として活用をしている。

魔力遮蔽とは、周囲に魔力が漏れ出ないようにする処置のことであり、ポーションやマナポーションの瓶には欠かせない処置である。地球でも静電遮蔽という処理が存在するが、その魔力版である。

話を戻そう。つまり魔力嵐が接近してくる間は魔法が使えなくなってしまうので、訓練等もお休みになってしまうらしい。

とりあえずメカニズムの解明ができれば発生したとしても被害を軽微に抑えることができそうだな、と俺は思っていた。

しかし、事態は急速に動くことになる。


今まで観測史上最大クラスの魔力嵐、沖合いにて発生する。

その一報が入ったのが翌朝だった。

幸い距離がまだ離れているので今まで通り魔法が使えるが、明日にもなればほとんど使えなくなる。

魔力嵐は魔道具を使えなくするだけでなく、その内部魔力さえも吸収して二度と起動できなくしてしまうらしい。

せっかく勇者が頑張って普及させた魔道具が一斉に使えなくなれば被害金額が甚大なものになることは容易に想像がついた。

さらに台風同様建物への被害も甚大になることも予想された。避難所の魔力遮蔽が壊れてしまったら、その内部の魔道具も壊れてしまいさらに生活が困難になる。対策は急務だった。

去年は勇者様が来る前に何とかしたらしいが、その勇者はもう地球に帰還済みだ。

魔力嵐を上陸させてはならない。させれば相当な被害になる。

何とかできるとすれば俺の知識しかない。科学の知識の乏しい異世界人に対処方法を考えることはまず不可能だと思われる。

対処方法と思われるのは2つ。コースを逸らさせるか、直接魔力嵐を消滅させるかのどちらかしかない。

でもコースを逸らす位なら消滅させることを考えるほうがマシだろう。情報によればかなり巨大な渦になっているようだ。これを全く被害がないように誘導なんて難しい。

でも台風を消滅なんて聞いたことがない。前世の日本でも台風は逸れるのをお祈りするか直撃の被害が少ないようにするしかなかった。

でも、魔力嵐は台風と魔力の渦の合体である。つまりどちらかさえ止めてしまえば消滅する。

魔力は低いほうから高いほうに移動する。それによって渦が発生している。それが低気圧の回転方向と重なっているので威力が上がっていると考えられる。

魔法を使えば少なからず魔力の残滓が発生する。これを利用できないか?つまり、残滓を魔力嵐に引き寄せさせるのだ。

低気圧はその言葉通り周りより気圧が低い状態である。消滅させるにはつまり、魔法を使って意図的に高気圧を作り出す。

高気圧と低気圧は普通は混じり合うことはないが、魔力嵐の中では強引に混じり合うことになる。これで低気圧でなくなれば、推進力がなくなって魔力嵐は霧散する。

高気圧を作るのにうってつけなのが昨日習得した風魔法だ。風魔法を使って気圧を上げて高気圧を作り出す。ただ、1人で打ったところで魔力嵐が消えるほどの威力になるはずがない。騎士団や魔法使いなどが協力しなければならない。

ここで解決方法を何とか見いだした俺は王様に相談した。そして騎士団や魔法使い達の全面協力が得られることになった。

海岸に一同が馬車に乗って向かう光景は壮大だった。

海岸にたどり着くと、海の向こうは真っ黒な積乱雲が広がっていた。

あまりにも近くに行き過ぎれば魔力嵐の影響下に入りそもそもの風魔法さえ打てなくなってしまう。

全員が到達するのを待って作戦を説明した。

「ここにいる全員で一つの高気圧を作ります。風魔法を発動する班とそれを維持し魔力嵐にぶつける班に別れましょう。時間をかけすぎれば魔法が発動できなくなります。チャンスは一回です。」

そして作戦は開始された。

「テンペスト!」「ウィンドストーム!」「ウィンドカッター!」

声が響き渡る。維持班は数人しかいないけれど、みんな高位の魔法使いだとか。「魔法を維持し続けるのもかなり大変なんです」

とリーナさんは語る。

徐々に魔力嵐に発動した風魔法が吸い寄せられていく。

そして黒い渦に魔法の残滓を残した高気圧が入っていく。

数分すると、黒い雲は消えて晴れ渡った空が見えた。

俺たちの勝利だ。魔力嵐を消滅させた。

海岸に歓声が響き渡る。そして俺は、、

「賢者様、バンザイ!」と胴上げをさせられていた。

地球の野球監督みたいな経験をするとは思っていなかった。

「これから大変になりますよ」「えっ?」「だってあなた様は作戦を考えて共に実行して魔力嵐を消滅させた実績ができたのですから。しかも来年以降のことまで考えれば、その功績は計りしれません。」

確かに。被害が甚大になるから必死になって思いついたから頑張っていたけど、これめちゃくちゃ有名になっちゃうやつじゃないか?「とりあえず王様に報告しましょう。」「そうですね。」


王様に報告をすると「素晴らしい功績だ、明日そなたは表彰することになるから覚悟しておくと良い」と言われた。

うん、ヤバい予感がする。誉められて嬉しいのは確かだけど、それ以上に胃が痛くなりそうな予感がプンプンする。

仮住まいにリーナさんと共に帰ろうとすると、

「賢者様、ありがとうございました!」

「賢者様のおかげで救われました」

「サインしてください!」みたいな感じで完全に取り囲まれた。

ヤバい、もう影響が出てる。これ家に帰れるのかと思っていると

「すいません、邪魔なので取り囲まないようにお願いします」

とリーナさんが無理やり人の固まりに道を空けて進む。

彼女がいなかったら家にすら帰れなかったことを考えるとゾッとする。彼女は帰ったその後も家を囲まないように注意していた。

この世界に来てはじめてこんなに人の注目を集めることになったんだ、と思う。でも、やっぱり自分は魔法の研究や考察をしてるのが一番性に合ってると感じる。


リーナです。魔力嵐消滅から賢者様の生活が大きく変わってしまいました。今や賢者様は街では知らない人はいない英雄になったのです。

寮に戻った私はあまりの人の多さにぐったりしていました。

「入るよー」「どうぞ」

入ってきたのはリーゼとリーラ、妹二人です。

「お姉ちゃん、相当疲れてるみたいだけどどうしたの?」

「賢者様が街で相当有名になったせいで人に取り囲まれてその処理に追われてた」「それは可哀想だね」

「でも、まぁ無理ないよね、魔力嵐って基本的に消せないと思ってたし。」そうです。魔力が一切使えなくなるのでどう足掻こうが無理と思うのが当然なのです。

それを賢者様や勇者様は真っ向から消滅させた。勇者様はどうやったかはわかりませんが、賢者様のやり方なら来年以降また発生しようが確実に対処が可能なのです。

「お姉ちゃん、どうするの?賢者様、これから確実にモテモテだと思うよ?」

確かにそれは否定できません。でも、護衛の身分ですしどうこう言える立場ではないと思っています。

「それは仕方ないよ、賢者様がそう望むなら私にはどうしようもできないし」

ちなみにこの国では異世界らしく王族以外でも一夫多妻が認められています。まぁ賢者様は色恋沙汰に対してだいぶ無関心なお方だというのは常に傍に居て感じることではありますが。

「違うよ、お姉ちゃんの気持ちが私達は聞きたいの」「え?」

「だから、これからもずっとそばにいたいのかどうかって話」

それは、、

「それは勿論、ずっとそばにいたいよ」

「なら、お姉ちゃんは賢者様、いや孝二さんのことが好きなんだね。」

妹二人から言われてハッとしました。いつの間にか私は賢者様のことが好きになっていたようです。

ずっとそばにいる男女が恋愛感情を抱くことがあるようですが、私もその1人だったようです。

「気持ちを伝えるべきだよ、これからどうなるかわからないんだし。」確かに賢者様と私の未来は明日以降、王様の発表次第では引き裂かれかねません。そうなったとき自分がどうしたいのかは考える必要がありそうです。妹2人が帰ったあと、

「賢者様とこれからも一緒に魔法の研究がしたい」

と思いながら眠りにつくのでした。


翌日。

王様からの表彰が行われる日。

俺は何が起こるのか心配でたまらなかった。それは表彰だから悪いことは起きないんだろうけど、緊張感が半端ない。

しかも、魔道具によって全国に中継されるというではないか。

これで緊張しないほうがおかしい。

覚悟を決めて式に臨む。

王様からの発表が始まる。

「賢者役目孝二。貴殿はこの国史上最大規模の魔力嵐に対して、対処方法を考えて、騎士団や魔法使いと共に魔力嵐を消滅させることに成功した。もし上陸を許せば、死者は勿論、経済への影響も計りしれないことが予想でき、多くの命の危機を未然に防いだこと、また、来年以降も再現可能な対処方法であったことから魔力嵐の被害を半永久的に無くすことができるのは非常に功績が大きいと判断し、ここに貴殿を表彰することとする。」

「まず始めに、貴殿の功績として名字である役目姓を持って貴族に昇爵する。基本的には成果による一代限りの貴族ではあるが、子爵相当の権力を持つものとする。それで、貴族になった以上、家を持たないのはまずいので、かつて処刑したサンタム教の司教が持っていた屋敷を貴殿に与えるものとする。また執事やメイドは追って選出する予定となっているので、そのつもりで。

また、貴殿には多くの縁談が既に王城に届いているが、貴殿の研究の妨げになる可能性が非常に高く、貴殿がそれを望まないことも十分承知している。なので、今まで護衛として仕えてきた魔法騎士団長リーナ·エルバンド殿との婚約を今ここに発表する。

それに伴い、リーナ殿は団長の地位から賢者殿の専用護衛になり、魔法騎士団長は妹のリーゼ殿が昇格することになる。ちなみに結婚式は3カ月後を予定している。」

いやいや、情報量多すぎ。

貴族?屋敷にリーナさんとの婚約?

とりあえず式の途中なので返事をしなければ。

「ありがとうございます。謹んでお受けいたします。」

「では、これにて表彰を終了とする。」

王様からとどめに

「今までの給金をまとめてこれを機会に支払うことにする」

と言われたけど、完全に心ここにあらずの状態だった。

いきなり異世界で貴族になって、しかも政略結婚のおまけつき。

リーナさんに恋愛感情がないかと言われれば微妙ではあるけれど、すぐに彼女を愛せるのかというのは甚だ疑問だ。

王様曰く「貴族にしなければリーナ殿と婚約できないから」という理由らしい。あと、貴族の役目である領地の経営についてだが、「研究をするのであればその役割は免除する」とのこと。

とりあえず仮住まいは数日後までに引き払う必要があるらしいので準備をしなければならない。当分魔法の研究ができなさそうなのが悲しい。


この国の王様であるフェイム3世である。

とりあえず、賢者殿に箔をつけることができたのは良いことじゃ。護衛のリーナ殿は最近明らかに傍目から見ても賢者殿との距離が近くなっておったし、縁談があの後めちゃくちゃ増えたのも事実じゃ。だからこの際結婚でくっつけることにした。

賢者殿にはこれからも魔法の解明を進めてもらわなければならない。気を引き締めてもらいたいものじゃ。


リーナです。

賢者様の横で聞いていましたが、途中の婚約の話が出たとき、私の顔は真っ赤になっていました。

嬉しいと同時に王様に思いがバレていたのが分かってしまったからです。式が終わった後も護衛はしているのですが、まともに賢者様の顔を見ることができません。

今回は色々発表もあり、私も賢者様も国中の注目の的になってしまっています。なので隠密の魔法を私と賢者様にかけて、家まで送ることにしました。

送ったとき賢者様が「予定がついたらリーナさんの実家にご挨拶に行こうと思っています。」と言われたとき、本当に婚約したんだと実感しました。

私の実家は辺境で魔物からの防衛や、領地の保全などを行う貴族の家庭です。跡継ぎにはクロード兄様がいらっしゃるので、私が家を継ぐ必要はありません。だからこそ魔法騎士団長になれたのですが。

私も婚約したことで大きく立場が変わり、騎士団の寮はもう使えなくなって、賢者様の家で妻として暮らすことになります。

それ自体は嬉しいのですが、これから荷物を片付けたりするのが大変だと思うのが嫌です。

部屋で休んでいると、やはり妹たち二人が入ってきました。

「よかったね」「ありがとう」

「でもリーゼはこれで団長だから大変じゃないの?」

「お姉ちゃんに比べれば大したことないよ。団長としてみんなを引っ張ってきたところは見てるから。貴族の妻の役割が嫌で騎士団に入ったのに貴族に逆戻りするの嫌そうかなって。」

確かに私は長女なのにそういうことが嫌で騎士団に入って訓練してきましたが、でも好きな人と一緒にいられることに比べれば大した問題じゃありません。

「それも運命だと思うよ。神様はそういうところも見て判断してるんじゃないかと私は思うの。それに、役割自体は騎士団にいた頃と変わらないのもあるし」

王様が言った通り、私は賢者様の専用護衛+妻になりました。

つまり、賢者様が研究をしている間は今まで通りなのです。

「まぁ、頑張って欲しいと家族として思っているよ。応援してる。」

2人の励ましを得て頑張っていこうと決意を固めた私でした。


その頃

???「あの魔力嵐が消されただと?」

???「はい、どうやら賢者とやらが作戦を立てて消滅させたとか」

???「今我々はおおっぴらには動けぬ。だから災害に見せかけて人類側に被害を与えようとしたのだが、ん?賢者?勇者ではないのか?」

???「どうやら情報によれば勇者はすでに元の世界に帰還したとか。」

???「なるほど、なら作戦の立てようはある。勇者が帰還したと言ってもまだ勇者側の駒として働いている連中が大勢いるが、少しずつ復活の準備をせねばなるまい、、」

???「御意。我らの時代を取り戻しましょう。」


数日後。

俺達二人は新居に住むための準備に追われていた。

片付けは勿論、部屋の準備、メイドさんの選定や執事さんへの挨拶などである。ちなみに前の仮住まいは研究に専念できるように王様から配慮がされていた。食事も帰ってくれば作ってあるし、片付けも帰ってきたら完璧に行われている。研究をしてなかったらニート一直線の生活だ。

研究自体は外で行うものだけでなく、家の中でも行っている。

今までの研究をまとめた論文を書く作業をしたりしている。

ただ、まだ全ての属性に関してやっているわけではないため、まだ出せる状態ではない。少なくとも全部の属性に関して書く必要があるので、書ける範囲で少しずつ進めている。

話は戻って、ようやく住める準備が整った。

バタバタしてたけど、リーナさんの実家に行くのはちゃんとしなきゃいけない。

没収したという司祭の屋敷はかなり大きかった。地球なら間違いなく豪邸と言えるレベルである。宗教でも権力を持つとここまで豪華なものになるものかと思った。

サンタム教は太陽信仰で普段の生活を慎ましやかに、誠実に生きれば太陽神様のお恵みがあるという宗教だ。だから、司祭の屋敷は思いっきり矛盾している。

おそらく敵対視された最大の理由は火属性魔法の解明だ。

彼らは太陽神さまの加護の力によって発動するものとしていたのだ。それが明確に別の原因で発動するなんて言ったら面白くないだろう。ちなみにこの国では6割程度の人がこの宗教を信じているが、特に信仰の制限もないので焦ったのは上層部だけのようだ。

さて、家に入るとまさに豪邸の内部にふさわしい家具や装飾品がどんどん出てくる。特にこだわりはないのでこのまま使うが、前の人間がどれだけ豪華な生活をしていたかが伺える。

リーナさんも「実家でもこんなにキラキラしてませんよ、、」とドン引きしていた。

さて、この家の新しい執事さんに挨拶しよう。

名前はアトラさんというイケメンよりの男性だ。年齢は見た目30代って言ったところか。

「はじめまして、賢者様、アトラと申します。この家を任されました執事です。よろしくお願いいたします。」

「こちらこそよろしくお願いします。」

「賢者様の研究に役に立つだろうと中庭に魔法の練習ができる設備が用意されていますよ。」

王様のサポートが凄い。前の家もそうだが研究に集中できる環境ができている。

早速中庭に行ってみると、訓練場と同様の的だったり、家に被害が出ないように壁が設置してあった。

「これで家ならいつでも研究できますね」「そうですね」

「とりあえず、お二人はご夫婦となられるのですから、寝室にご案内します。」

寝室に着くとやはりと言うか、キングサイズのベッドがあった。

「今日から寝られるようにしてありますのでどうぞ」

また、地球同様のお風呂や、キッチンなどの設備もあり、ここに関してはあまり異世界という感じはしなかった。

家を案内されてる間にいつの間にか夕方になっていた。

すでに夕食が作ってあり、二人で一緒に食べることになった。

リーナさんと二人で食べること自体は初めてではないが、向かい合ってテーブルで食べることははじめてだ。

「お風呂に一緒に入りませんか?」「いやいや、婚約早々ですしまだ早いです。こちらも心の準備がいります。」

いきなりの発言に戸惑う俺。さすがに婚約数日で初めての同居でお風呂に一緒に入るのは早すぎる。

お風呂に別々に入った俺達は寝室にいた。

「明日から研究を再開するんですか?」「そうですね、新しい属性の魔法の研究がしたいです。」そう言うと疲れていた俺は一瞬で眠りについてしまった。リーナさんは残念そうにこちらを見ながら「おやすみなさい」と声をかけて自分も眠りについたようだ。


翌日。今日はせっかく家でできるので二人で魔法の研究をする。

「今回は何の魔法を習得するんですか?」

「ストーンバレットですね」「それはもしかして?」

「そうです、リーナさんが最初に使っていた魔法です。だから夫婦にこれからなるので最初にこれが使えるようになりたいなと、、」

お互い顔が真っ赤になっている。さすがに婚約を王様に大々的に言われて意識しない程鈍感ではない。それにストーンバレットの反応機構は明らかに前の火や風とは違う。だから気になっていたのは事実である。とりあえず見てるメイドさん達が微笑ましい視線を送っていたので、ちゃんと研究をしよう。

彼女の発動を『分析』を通して見る。するとあることに気がつく。「この岩はどこから出てきたものだろうか。」

火のように大気から出てきているわけでもなく、風のように大気を操っているわけでもない。突如として、彼女の周りに鋭い岩が現れて標的を貫く。何度見ても、岩は何のとっかかりもなく現れる。もちろん、地面がえぐれて岩の形になって生成しているわけではない。ここが草原エリアではなく家の中庭なので材料と思われる石も明らかに有限であるから、そうなったとしても分かるとは思うが。

「これは召喚魔法の一種だと思います。」そう答えたのはリーナさんだ。召喚魔法とは遠くの空間からその物体(生物)を呼び出す魔法の総称らしい。俺には考えが全く浮かばなかった。

そもそも地球には召喚魔法なんていうものがないから、物語の中にしかないものだと思っていたのだ。でもここは物語でもある異世界なので、ちゃんと存在しているらしい。

要約すると、別の空間にある岩をこの形にして召喚し、その後発射する、という魔法がストーンバレットなんだとか。

色々突っ込みどころはあるが、まずこの岩の出所はどこなんだろうか?が第一だ。そしてこの魔法を発動したあと、この岩がなくなった部分はどうなるのか、という話だ。魔力がある限り発動できるらしいが、そんなに打ったら普通に考えたらそこの材料の岩がなくなるであろうことは容易に想像がつく。とりあえず彼女に「なるべくたくさん打ってください」とお願いした。中庭が岩だらけになったけど、打てなくなる気配はない。彼女のMPは相当なもので100発以上は確実に打っているのに疲れ一つ見せない。

さすがはこの国の魔法騎士団長と言ったところか。元ではあるが。すると、あることに気がつく。昼食休憩で中庭を離れたときだった。

戻ったときさっきまで岩だらけだったはずの庭は跡こそ残っているものの、一切岩はなくなっていたのだ。これは一体どういうことだ?と疑問に思っていると、

「召喚魔法は時間制限があってそれが切れると元の場所に戻ると聞いたことがあります。」とリーナさんが呟く。

そもそもこの魔法は岩を発射して相手にぶつけるのが目的であって、岩を貯めること自体が目的ではない。

だから、不要になった岩は邪魔でしかないのだ。

炎魔法のときを考えると、魔法を作った人間はいかに効率よく、無害になるように魔法に作っていると考えられる。

だから余計なもののことは考えなくて済むように魔法にすでに組み込まれていると考えたほうが現実的だ。

で、火属性魔法のとき同様、召喚の逆反応が起きるように仕組まれていると考えられる。つまり一定時間経つと元あった場所に逆召喚が行われて、元に戻るのだ。

物理科学とはおおよそ思えない現象であるはずなのに、起きていること自体は科学の反応と逆反応に対応している、そんな現実を俺は今目の当たりにしている。

「召喚魔法の一部とは言えメカニズムをまたもや解明したのですね!」とリーナさんは大喜びだが、イメージがしにくい召喚魔法はだいぶ習得には苦労した。

まぁ、いざ習得するとまたもや凄い威力の魔法になったのだが。

ちなみにどこから生成されているかの謎はわからないままだ。


夕方、王様に新しい魔法の報告を行った。わざわざ王城に行かなくても済むように新しい家には報告用の魔道具が置いてあった。

地球の電話感覚で使えるアイテムなのでこれからも活用することになるだろう。

まぁ魔法がストーンバレットだったせいでさんざん二人の間のことを茶化されたのはだいぶイラっときたが、まぁ相手が王様だしめったなことは言えない。横にいたリーナさんは本当に報告の間下を向きっぱなしでまともに俺のことが見れなかったようだ。

「とても恥ずかしいです、、馴れ初めみたく言われるのは。実際当時は好印象でも好きだったわけでもないのに、、」

そういうことか。確かに本人からしたら好きになった瞬間でもなんでもないのにあることないこと言われるのは気分が良くないだろう。というか、俺もそうだけど、リーナさんもだいぶ俺のこと好きなんじゃないか?

昨日の反応と言い、今日と言い、彼女は正直な反応をしている。恋愛は色々思惑が絡んでよくわからんと俺は常々思っていたけど、リーナさんはとても素直だ。

とりあえずこういうのはちゃんと告白して関係を作っておかないとまずいということは分かる。今日の夜、寝る前でいいか。

「明日はどういうご予定ですか?」

リーナさんがおそらく場の空気を変えるために聞いてきた。

「明日は引き続き中庭で魔法の研究かな。次は水属性を研究したいですね。」

「それなら初級の魔法は『ウォーターボール』ですね、一緒にやりましょう。」

やはり彼女は一緒にお風呂に入りたがったが、告白もあるのでそれどころではない。男にとって彼女の実家に行くより緊張する瞬間なのだ。もう婚約していて、十分相手からの好意が伝わっているとは言え、変なことは言えない。恋人をすっ飛ばして夫婦になるっていうのが心のハードルを上げてる最大の原因だな。

風呂に入った後、覚悟を決めて寝室に向かう。

「どうしたんですか?顔がすごく真剣ですけど」

「リーナさん。もう婚約してて、夫婦になることがほぼ決定していますけど、僕から告白を一切していないのはまずいと感じたので、今から告白します。あなたのことがたった1ヶ月の間とは言え、大好きになりました。とても正直で優しくて、それでいて頼りになるし、すごく強い。おまけにとても美人で僕にはもったいない位です。だから、ちゃんと今から付き合ってもらえませんか。」

「はい、よろしくお願いします。」リーナさんは涙を流しながらそう答えた。

「ところで、僕のどこが好きになったんですか?」

「そうですね、訓練をしてたときあなたは全然手を抜かずにきちんと訓練に取り組んでいました。あのメニューは新兵でも音を上げるほどのきついメニューです。そのひたむきさに興味を持ちました。あと、兵士の人たちと全然タイプが違うところも惹かれるポイントでしたね。」

なるほど、男がたくさんいるはずの環境にいた彼女が惹かれたのはそこにいないようなタイプの人間ってことだったわけだ。

「でも、一番惚れたのはあの魔力嵐の対処ですよ。あれで優先して指揮を取って、作戦を考えて実行して成功に導く。あんなの近くで見ていて惚れないと思いますか?」

まぁ確かに。ちなみに夜のほうはご両親に挨拶するまでは遠慮してもらうことにした。怒られるのは怖いし。彼女がめちゃくちゃやる気なので結婚式まで我慢はと聞いたけど無理だった。地球の貞操概念が異世界では通用しないようだ。


翌日。朝起きると彼女の姿がいない。

どこにいるのだろうと執事のアトラさんに聞くと「奥様は中庭で魔法の練習をしてますよ」とのこと。というか奥様呼びはなんか恥ずかしいな、まだ結婚してないし。内定ではあるけど。

とりあえず中庭に行く。そこには必死にウォーターボールを練習するリーナさんがいた。

「この魔法は久しぶりに使うので教える前に慣れとこうと思って」とのこと。とりあえず朝食を食べてから始めるように言う。

「昨夜の告白、非常に嬉しくて少しでもお役に立ちたかったんです。」とリーナさんは言う。またもやメイドさん達の微笑ましい目線が集まるが、今日は今日で魔法の研究があるのでさっさと食べて中庭に移る。

『ウォーターボール』の発動を見てみるとやはり空気中の水分が一ヶ所に集まって発動しているわけではなく、召喚魔法を使って発動しているようだ。そもそも大気中の水蒸気なんて季節によってだいぶ密度が変わってしまうのでそんな不安定な要素を魔法に組み込んだりはしないようだ。

召喚魔法は魔素を材料として使うわけではなく、触媒として使う。つまり、魔法自体を起きやすくするために使われるのだ。

触媒とは、科学反応が起きにくい条件下にある物質をそれを通して反応させることで反応速度を早めるが、自身は反応の前後で変化しないものを指す。具体例を上げるとするなら白金(Pt)が有名である。ちなみに大気中の触媒としては78%も占めることもあり、窒素が代表として起用される。ただし、普通は窒素は有名な触媒ほどは科学反応を促進したりはしない。ただ、魔法に関しては不明ではあるが、ほとんどの書物はリーナさん曰く「魔素が触媒として使用されているの表記しかない」とのこと。つまり、基本的には魔法に関しては窒素を触媒として機能していると考えるのが自然である。

召喚魔法もイメージが固まったので発動してみると、めちゃくちゃ大きな水球ができていた。最初のファイアーボールと比べても2倍近くは大きい。「メカニズムが分かると賢者様の魔法はかなりパワーアップするようですね」とリーナさんは頷く。

しかし、あることに気づく。なんと魔力切れを起こしてしまったのだ。あの騒動以降忙しくしていてまともに魔物と戦っていなかったせいでレベルが8のまま止まっていたのだ。

そのため、大規模な魔法は発動さえできない状況にあることに気付かされた。そう、次以降は普通威力で打てるけど最初は無駄にでかくなりがちなせいで余計にMPを消費する。結果魔力切れが起きたのだ。

気がつくとリーナさんにベッドに運ばれていた。

「大丈夫ですか?」「ああ。だけどさすがに次は今のレベルのままだとまずいな、魔力切れならともかく発動すらできない可能性が高い魔法がおそらくこれから出てくる」「そうですね」

「なら、実家に来ませんか?」「え?ご挨拶って意味じゃなくて?」「そうです。うちの家は魔物から領地を守る貴族の家系です。幼い頃から貴族であっても魔物と戦う術を身につけて来ました。だから騎士団に入って魔物と戦う決断をしたんです。」

「なので、ホーンラビットよりも強力な魔物がわんさか出ます。今の賢者様ならなんとかなると思うんです。」

え?俺彼女の実家に挨拶に行くだけじゃなくて修行も一緒にするの?凄いことになってないか、これ。

「明日からこの家を離れて私の実家でしばらく練習になりますね、あ、王様への連絡は大丈夫です、うちにもあの魔道具はありますので。」準備万端かよ、、逃げ場なしだな。

なら覚悟を決めよう。

「分かりました。頑張りますから護衛お願いします」

「勿論です、専用護衛であり妻ですから」

久しぶりのレベル上げ。どこまで習得した魔法が使えるかが鍵になりそうだ。


リーナです。明日から賢者様は私の実家に泊まり込むことになりました。なので久しぶりに実家に連絡を取ることにします。

「どなた?」「リーナです。」

「あら、リーナじゃない。聞いたわよ、賢者様と結婚するんだよね?それでどうして連絡をしてきたの?」

「明日、賢者様と一緒に実家に帰ります。」

「あら、賢者様が挨拶に来てくれるのね、お母さん嬉しいわ。でもその感じ、それだけじゃなさそうね。」

「明日から賢者様が魔法の研究のために実家の領地にいる魔物を退治しにきてくれます。私は妻として護衛として付き従う予定です。」「なるほどねぇ、、」

「それで賢者様の研究ってどこまで進んでいるの?ほら、現在研究について知ってる人はごく僅かだから」

「現在は4属性まで研究とメカニズムの解明が行われています。火、風、土、水です。」

「それでどうして賢者様は魔物を退治にしに来るの?」

「賢者様はまだ魔力の総量が少ないのでレベルを上げる必要があるからです。」

「魔力嵐を解決したって聞いたから魔力の量なんて気にしなくても平気だと思ってたけど違うのね。」

「でも、とりあえずあなたが結婚できてよかったわ、孫の顔も早く見たいわね。」「お母さん!」

恥ずかしくなって切ってしまいました。賢者様は研究一筋で、あまり性的なアプローチは興味がなさそうですが、、

とりあえず今日もお風呂に誘ってみます。

「今日はお風呂一緒にどうですか?」「しょうがないですね、いいですよ」なんとまさかのOKが出ました!

根気強く誘った甲斐がありました。

「それで、どうして今日はお風呂OKしてくれたんですか?」

裸の状態で質問します。賢者様も若干目のやり場に困ってます。

「まぁ、これから夫婦になるのにいつまでも裸の付き合いがダメって言うのは寂しいですけど、リーナさんの場合は色々と急過ぎたんですよ、同居初日と告白しようとしてる日に一緒に入ってはこっちの精神が持ちません。」これは確かにその通りですね。

「もう手を出してもいいんですよ?」「まだそっちは待ってください、子どもが出来ることをそう簡単にOKしちゃいけないんですよ、、」なんて言うか、賢者様はすごく真面目です。本当に愛してくれているって言うのが伝わってきます。

「でも、下のほうはそうではないようですけど?」「美人さんがあんまり下ネタ言っちゃダメ!」変な人ですね。

当然ベッドに入っても別々に寝ます。私はちょっと寂しいです。


翌日、馬車に乗って彼女の実家に向かう。

エルバンド家は彼女が言っていた通り領地が魔物が発生するダンジョンに近く、接している森からも強力な魔物が出る。

彼女曰く、地表の魔素が濃いからと理由らしい。確かに窒素は植物の成長を促進する栄養になる。それで食物連鎖によって強い魔物が生まれやすくなるというのは納得である。

話は戻って彼女の実家に到着した。確かにうちの屋敷程は大きくないけど、十分豪邸と言えるほどの大きさはある。

門番さんに話を通して中に入るとリーナさんのお母さんが出迎えてくれた。

「賢者様ですね。噂は聞いています。中にどうぞ」

家の中に入ると、大広間に彼女の家族が勢揃いしていた。

「紹介しますね。こちらが父であり、ここの領主であるボールです。先ほど出迎えたのが母のリズです。そしてこちらが兄のクロードです。あと、兄嫁のマイナさんと長女のリットです。」

なんだろう。女性の頭文字にリがつくのが伝統なんだろうか。

「よろしくお願いします。」

「この度はリーナと婚約したくださって光栄です。魔道具で表彰式の様子を見ていましたが、実際見るとさらに素晴らしく見えますな。」父親のボールさんからのお褒めの言葉にやや照れる。

場所を移動してちゃんと挨拶をすることにする。

「改めて、リーナさんと婚約してあと2カ月後に結婚式を行うことになりました。本当は決まった時点でご挨拶に来る必要があったのですが、研究で訪問が遅れたことをお詫びします。」

「いえいえ。王様が決めたことですし突然来るのは難しいことは理解しています。ですが、娘との様子を見れば愛し合っていることは一目で理解できます。どうぞリーナを幸せにしてあげてください。」

「ありがとうございます。必ず幸せにします。助けられることも多いでしょうが、彼女に危機が訪れるのであれば夫として必ず守ることをここに誓います。」

とりあえずイベントの一つである両親への挨拶は終わったが、、

「では、孝二さん、魔物狩りに行きますよ。」

「今からか、、というか賢者様とは呼ばないんだ。」

「挨拶も済みましたし、プライベートでは名前で呼ぼうと思って。」照れ隠しか顔がちょっと赤くなってる。可愛い。

すると人がいないはずの方向からくしゃみがする音が聞こえた。賢者としての仕事をこなすときはリーナさんだけでなく、影の皆さんも万が一に備えて護衛する。その一人だろう。

とりあえず、仕事をしよう。

強力な魔物が出ると言う森に徒歩で向かった。


森に着いた瞬間にフォレストウルフが3体、いきなり手荒い歓迎だ。「落ち着いて対処しましょう」とリーナさんは言う。

噛みつきにかかった一体をファイアーボールで処理し、様子を伺っている2体には弾速の速いストーンバレットで倒す。

とりあえずいきなり襲いかかってくるのは心臓に悪い。動物の姿をした魔物を倒すのはホーンラビットで多少慣れたとは言えやや後ろめたい気持ちがあるのは否めない。

しかしもっとやりにくい相手が来てしまう。

ゴブリンだ。ファンタジー世界ではお馴染みの魔物だが、色は緑色とは言え人型の魔物だ。遠目に見るだけならともかく、群れで襲ってくるなら倒すしかない。

5体ほど倒してゴブリンは不利と判断し森の奥に逃げていく。

ある程度の知能は持ち合わせているのがゴブリンなどの人型魔物の特徴らしい。とは言え人間に近い形の敵を倒すのは気分が悪い。若干吐きそうになったので介抱してもらうことになった。

「大丈夫ですか?」「ちょっと気分が悪くなっただけ、とりあえずは大丈夫。」彼女は鎮静化の魔法をかけてくれた。

「私も最初はきつかったですが、魔物とは言葉が基本的に通じないので倒す他ありません。」とのこと。

まだまだ奥に進むと、気配を感じる。なんだ、この嫌な予感は。

巨大な生き物の気配だ。どこから?と思っていると、

「レッドベアです、気をつけてください!」と警告が。

名前からして熊らしいが、魔物なので地球のヒグマより大きい。

4メートル前後ある巨体が目の前にいた。

「ぶっつけ本番ですが、物理障壁を覚えてください!」とのこと。爪で引っ掛かれたら一撃死するほどの衝撃らしいので防御魔法がないと話にならないらしい。しかも人間より走るスピードが速いので一度会ったが最後倒すしか生き残る道はない。

リーナさんもさすがにこの魔物には静観はできず戦うようだ。というか戦うために防御に専念できるように覚えて欲しいとのこと。俺は頑張って障壁をイメージする。

物理障壁は要するに物理攻撃に対しての衝撃を防ぐ盾だ。

巨大な魔物相手には通常の装備の盾では役に立たない。だから障壁を使うのだ。で、攻撃の基本は前述べた通り運動量が大きな比重を占めているので、これを0ないし近くにする。そしてかかる力を逃がしてあげることで障壁としては良い感じになる。

だから、ってもう敵の攻撃が来てる!急いでイメージ通りに展開してみる。ガキンという金属音のような音と共に爪の攻撃を防いだ。しかしもうひびが入ってる。強すぎだろ、、

属性魔法で攻撃している護衛の皆さん方だが、敵の毛皮が厚いらしく大したダメージになっていない。完全に標的は攻撃しない俺になっている。ただ、接近戦はレッドベアの力が強いこともありやや無謀気味だとか。

障壁をもっと厚く?いや、ダメージを入れないとまずい。このままではじり貧だ。魔力はいつまでも持たない。守っている俺もダメージを入れる方法、、炎で壁を作ればいいのでは?そう考えた。魔法世界だから自由な発想が効く。さらに岩の壁で物理障壁を支えてより頑丈にする。

『ファイアーウォール』『ロックウォール』

攻撃しようとした敵の身体が毛皮ごと焼ける。さすがにターゲットをリーナさんに変更しようとした(影は隠密魔法で分からなくしているので敵目線は二人しかいない)レッドベアだが、この一瞬を逃さない。敵の身体に直接ダメージに与えられないなら窒息させて倒してしまえばいい。つまり、

『ウォーターボール!』敵の顔が完全に水で覆われた。相手にぶつけることが目的ではない。さっきも言った通り窒息が目的だ。

リーナさんや影の皆さんも狙いに気づいたようで水球を消そうとする敵の腕や脚を魔法で拘束し、完全に抵抗できなくなってレッドベアは絶命した。

やった、倒したと思った瞬間俺の意識は途切れた。

気がつくとまたもや傍にはリーナさんがいて、俺は寝ていた。

「レッドベアを倒して一気に大量の魔力が賢者様に入ったので魔力酔いをしてしまったのでしょう。」

ステータスを見るとなんとレベル30まで上がっていた。それは倒れてもおかしくないはずだ。俗に言う「レベルアップ酔い」現象は内部魔力の量に比べて外部の流入魔力が非常に大きいときに発生するようだ。

「しかしとっさによく窒息なんて思いつきましたね。」

「敵にダメージが入らないならこうするしかないと必死に判断したからかな。」「夕食ができてますよ、一緒に食べましょう。」

夕食を家族全員で食べる。倒したレッドベアの肉も出てきていた。非常に肉が美味しい。これは魔素を豊富に含んでいるかららしいのだが、俺の読みではこの魔素の正体が窒素だから、旨みの元であるアミノ酸が多く含まれているからではないかと考える。人間はこのアミノ酸を使って窒素原子を取り込んでいるのだ。

疲れたのでお風呂は別々、、なわけはなく夫婦で一緒に入ることになる。夕食を食べている間に徐々に身体に魔力が馴染んできたのもあるが、性欲がヤバい。体力は生命力そのものだ。それが大幅に上がるということは生存本能である性欲も大幅に増すのだ。

もうすでに彼女を襲ってしまいそうになっているのでさすがにベッドまでは我慢することにした。

「お風呂でしても良かったんですよ?」「いや、実家って言っても人の家でしてお風呂を汚してしまうのはまずいだろ。」

そう、疲れていたのもあって俺達は最初に入ったのだ。

いくらなんでもそんなことをしたら大迷惑極まりない。

「愛してますよ、あなた。」「俺もだ。」

こうしてベッドで散々愛し合ったあとは疲れて寝てしまうのだった。


リーナです。ようやく孝二さんはしてくれました。

魔法学校で習ったことは沢山あるのですが、私が通っていたのは貴族の女子のみが通う魔法学校でした。貴族の女性はお世継ぎを産むことが大事な役目の一つです。なので夜の営みに関する魔法もちゃんと教わっているのです。

特に主席で卒業した私はとある特別な魔法を教わっていました。

当然行為中にそれをかけていたので妊娠がほぼ確実なのです。

ちなみに多くの生徒が学ぶのが避妊の魔法と、着床しやすくなる魔法です。


翌日早朝。裸の状態だから普通に寒い。

とりあえず服を着て部屋を確認すると彼女の姿はない。

家の中を捜索すると彼女はキッチンで全員ぶんの料理を作っていた。「どうしたの?」「たまには私が料理を作ってもいいかなって。」確かに家にいるときも実家も基本的には調理はメイドさんのお仕事だ。でも彼女はくそまずいホーンラビットの肉を何とか食べれるレベルに持っていけるほど調理が上手い。

それなら確かに好きでやることも十分考えられる。

「リーナの料理を久しぶりに食べたよ、腕を上げたかな」とお義父さんのボールさんもご満悦だ。「ところで森でレッドベアが出たってことは森で何かが起きている可能性もあるな」と真剣な話に戻る。領主である以上何かあったら大変なのは分かる。

「とりあえず冒険者ギルドに調査を依頼する。そちらも気をつけて探索を進めて欲しい。」

物語ではお馴染みのギルドだけどようやく登場したかという感想。研究ばかりの俺とは関わりがなかった組織って印象だ。

というわけで朝食を終えて早速森に行くことに。


少し森を進むとゴブリンがまた現れた。

レベルが上がったこともあり、ほとんどが瞬殺。

レッドベアとの命懸けの戦いをしたことで、かなり吹っ切れた部分がある。いくら守ってもらってると言っても、あそこで窒息が思いつかなかったら二人とも死んでいた可能性もある。

だからこそ守るべき妻が傍にいるなら、襲ってくるのは敵でしかないと思えるようになったのだ。

しかしゴブリン達は昨日と違って退く気配を見せない。

何かおかしい、そう思っていると上位種らしき奴らが現れた。

ゴブリンアーチャー、ホプゴブリン、ゴブリンメイジというらしい。「これはさらなる上位種がいる可能性が高いですね」

とリーナが言う。つまり、『巣』が近くにあるということだ。

とりあえず現れた上位種どもはストーンバレットで倒した。遠距離攻撃できるやつの基本は認識される前に倒すことだ。

巣を探すため、全員が隠密をかけて捜索をする。リーナに一度かけてもらったので、コツはつかんでいたからわりとすぐに習得できた。ちなみに上位種も隠密中に倒している。

「あんまり言いたくはないのですが、ゴブリンはオスしかいないので人間の女を拐って妊娠させて数を増やしています。つまり、巣があると言うことは被害を受けた女性がいると言うことです」

昨日イチャイチャした後に聞きたくなかった話だな。

とにかく、領地の住人が被害を受けているなら放っておけるはずない。すると、建物らしきものを発見した。ゴブリンは知能はそこまでではないが建物を作って雨風を凌ぐ知識位はちゃんとあるらしい。なのでここが巣なのだろう。

「いました!キングです。あいつを倒せばあとのゴブリンは烏合の衆です。」一際大きい、体長2メートルはありそうな巨体。

あれがゴブリンキングというらしい。通常ゴブリンとかは瞬殺が可能だが、やつは色々規格外らしい。

「昨日の方法を使いますか?」「いや、あれは口呼吸している魔物じゃないと意味がない。必ずしも魔物は全部口呼吸とは限らない。」レッドベアは体格自体が熊と同じなので、口呼吸だと確信できた。でも、ゴブリンみたいなやつは地球にはいない。だからうかつに隙を作ってしまうのはまずい。そもそも魔物は全て呼吸をしているという発想を捨てる必要がある。

なぜならゴブリンを解体したとき、肺がなかったのである。

呼吸は酸素を使って細胞の老廃物を出すために必要であり、赤血球が酸素を循環することで老廃物が外に排出される仕組みになっている。そもそもだが、血液の赤色は大部分を占める赤血球の色でできている。しかし、ゴブリンの体表面は赤の補色の緑色である。つまり、赤血球を使っていない可能性が高い。だから呼吸をしないと言うことになる。魔物と魔素が関係しているとされていることを考えると、魔物の中には窒素を使って呼吸以外の方法で活動できるようになっているものがいる、と考えられるのだ。

長くなったが、奇襲でもウォーターボールの作戦はなしだ。でかくなっているとは言え肺がないのでは意味がない。

しかし、当然心臓は存在する。となれば考えは一つ。

ある程度上位の魔物は隠密を見破ってしまう。キングもその一体だ。上位の魔物は敵が物理的か、魔法を使って隠れて凌ぐという方法に慣れてしまっているためだ。

つまり接近戦や魔法の弾幕はバレる。

俺は水や土属性を通じて召喚魔法という便利な魔法があることを知っている。リーナの剣を借りて、召喚魔法を使う。すると、

ゴブリンキングの胸に剣が突き刺さってそのまま絶命したのだ。

これを機に一斉に全員で攻めてゴブリンの巣は壊滅、女性5名を巣から救出した。

水や土はどこかわからないけれど、別の場所から適当に水や岩を持ってきて、召喚魔法によって引き寄せて発動する。

でも、その場にあるものを任意の位置に持ってくることだってできるはずだ。だって、逆の反応ではその場所にあるものを別の任意の位置に戻すことができるのだから。

つまり、土や水とは逆の「逆召喚魔法」で剣を使ってゴブリンキングの胸に座標を指定してぶっ刺したというわけだ。これでは隠密を使われてるし、どこから飛んでくるかわからない。

リーナからも「さすがに公表したら貴方も含む要人がいつ死ぬかわからなくなるのでやめてください」と言われた。まぁ確かに。

でも、影の人達は姿を現してまで大喜びしていたのは印象的だった。忍者が必殺仕事人になっちゃうからあんまり使わないで欲しいんだけど、、

しかし、ここでこの魔法を習得した影達が後に大活躍することになることを俺は知らない、、


助け出した女性5名は当然心が病んでいた。

意志に関係なくゴブリンの子供を孕まされ続けたのだから。

さすがに可哀想すぎるなと思う。忘れたくても絶対に忘れられないのだから、と思っているとリーナが

「忘却魔法をかけましょうか?今までの記憶全部忘れてしまいますが、トラウマがあるよりはマシだと思うのです。死にたいと思うような記憶なら全て忘れてしまいましょう。」

女性たちは無言で頷いた。リーナは忘却魔法をかける。

更に、「散々ひどい目にあったのですから」と魔法をかける。

どんな魔法?と聞いたが「女性だけの秘密です。」としか言わなかった。

ちなみに彼女たちの名前は『分析』スキルで把握済みなので、忘却したとしても問題ない。すでにお義父さんが実家に返す手立てを取ってくれている。実家がない女性はここでメイドとして住み込みで一から指導するそうだ。

さすがにこんな女性たちを見て性欲云々なんてものはないので、普通に寝ることにする。

「明日は普通に戻ってくださいね、女性達もまた記憶を失くしたとしても立ち上がろうとしていたのですから。」

「わかったよ」キスだけして寝る。


影の一人です。はじめまして。

普段は賢者様と元団長のイチャイチャタイムを常々見せつけられて来ましたが、賢者様が逆召喚魔法という非常に隠密向きの魔法を開発してくれました。

水系統は隠密使いには必須事項なので、逆召喚魔法はほぼ全員が使うことができます。(海などの任務では水がないと困るのです)

これを王様に報告すると「影全員ができるようにして、王国の危機を未然に防げ」と命令が入りました。

王太子妃アーミア様のご出産もあと3ヶ月といったところですから、気を付けなければいけませんね。


翌日。ゴブリンキングの出現という事態もあり、エルバンド家全員が態勢を整えていた。この森に一体何が起きているのか、、

ちなみに妹さん二人も故郷の非常事態にすでに戻ってきていた。

「とりあえず3チームに別れて行動しよう。リーナと賢者殿は前と同じチームで、私とリズ、リーラのチームと、クロード、マイナ、リーゼのチームに別れよう。孫はメイドさん達にお願いすることにしよう。」とボールさんから作戦の提案があった。

ちなみに家族全員魔法が使えて、冒険者ランクでもかなり高いランク相当の実力を持っている(赤ちゃんは除く)。

勿論、領主一家が探索するほどなので冒険者達も引き続き探索している。話を戻して全員その作戦で納得したので、リットちゃんだけメイドさん達に預けて出発した。


森に入るとすでに嫌な気配がする。

何かがこっちに向かって突進してきているのだ。

「あれはメタルシープです!」リーナがそう叫ぶ。

金属の身体と金属の羊毛を持つ魔物メタルシープ。剣で切りつけても折れたりしてしまうので物理攻撃はほぼ通らないとか。

とにかく動きを止めないと轢き逃げされてしまう。車並みのスピードで金属のボディが突進してきているのだ。

とりあえず全員で物理障壁を使ってなんとか止める。

止められたメタルシープはこちらに敵意剥き出しだ。

「とりあえず壁で覆って逃げられなくしましょう。」と俺が作戦を説明する。全員でロックウォールを出す。六方を囲まれ敵は逃げ場がない。

「どうやって倒すんですか?」「金属の身体を持っていても魔物だって生き物。つまり絶縁破壊をすれば倒すことができます。」

リーナがよくわからないと言った顔をしている。

「絶縁破壊とは、土とかの絶縁体の容量以上の電圧を流すことで急激に電気抵抗を下げて大電流が流れる現象を指します。」

「つまりは雷属性の魔法を使うのですね、しかし私含め誰も雷は使えないのですが、、」なら俺が頑張るしかないのか。

「もう壁が壊れます!早くしないと逃げられます!」と影の一人が叫ぶ。もう隠密の意味ないだろ、と思いながらもイメージを開始する。

人間は微弱な電流を使って細胞を刺激して筋肉等を動かしている。つまり人間内部には常に微弱な電流が流れていることになる。だから体外に魔法として放出するとき電流を大幅に増幅してあげれば良い。電流を増幅する装置として有名なのがトランジスタだ。多くの電化製品に使われているこの部品によって電流は数100倍程度増幅される。だから魔法でこれを再現し、雷を作る。

そして、増幅した電気を召喚魔法で敵の頭上に配置して発射する。これが雷魔法の仕掛けだ。

「ギガボルト!」とりあえず大きな電圧と直訳ではあるが放つ。

壁ごと破壊されたあとに残っていたのは体毛が焦げたメタルシープの死体だった。

「すごいですね!」とリーナが驚く。ただ、大きな音と光が出たせいで、3チームに別れていた家族が合流することになった。

「何事かと思いましたよ、それにしてもメタルシープですか、この辺では見ない魔物ですね。」やはり何かが起きている。と思ったその時、大きな赤い魔法が打ち上がった。

「あれは信号魔法!しかも赤は緊急を表します。その地点に急いで向かいましょう!」とボールさんが叫んだ。


とりあえず全員でその地点を目指す。そこは森の中の開けた場所だった。

そこには大怪我をした冒険者達といびつな姿をした魔物がいた。

「あれはキマイラです。非常に強力な魔物でSランク指定されている魔物です。」リーナが言う。「とりあえず怪我人は回復魔法が使えるうちの女性陣に任せます。クロード、リーナ、リーゼは戦闘に回り、リーラは周りの別の魔物への警戒を。」ボールさんが指示を飛ばす。

その姿はライオン、ドラゴン、山羊の頭を持ち、蛇のしっぽ、獅子の胴体にドラゴンの翼を持っていた。

「キマイラは氷が弱点だ、氷属性で攻めろ!」とボールさんが指示する。確かにドラゴンは爬虫類モチーフの生き物だから変温動物の性質を色濃く持っているはずだ。

蛇もそうだが、変温動物は寒くなるととたんに動けなくなって死んでしまう。恐竜が絶滅したのも隕石の落下が直接の原因ではなく、気候変動による急激な温度低下が原因と考えられている。

その頭部、翼、しっぽを持っているのだから間違いなく弱点だ。

しかし俺は氷属性の魔法を知らない。なんでこうも出てくる魔物たちは俺の知らない魔法ばかりを要求してくるんだろうか。

イメージすればスキルでなんとかなるだろ、って思っているかもしれないがしている間は完全無防備だ。だから知らない敵に隙を晒すという一番やってはいけないことを犯すことになる。

「危ない、キマイラの魔法が来てます!」とリーナが叫ぶ。炎魔法だったのでロックウォールで防ごうとするが完全には防げず負傷する。

「大丈夫ですか?」とリーナは回復魔法をかける。痛いのはあるが、この隙に氷魔法を、、「その前に魔法障壁を使えるになりましょう」と冷静にリーナが返す。イメージは彼女が前使っていたのでできている。物理障壁の運動量の代わりに魔力を分散させる壁が魔法障壁だ。

「魔法障壁」とりあえずこれで時間は稼げた。その間にも皆さんは氷属性で攻撃はしているのだが、いまいち効いていない。なぜならアイスニードルとか直接攻撃する魔法ばかりだからだ。

変温動物には直接氷をぶつけてやるよりも身体全体を冷却してやったほうが効率がいいだろう。

冷却するならアイスウォールだろうが、当然氷なので脆い。

だから破壊されないようにしなきゃいけない。でも濡れていれば

一気に気温が下がる。そこに身体全体に氷属性の攻撃を与えればダウンするはずだ。

「皆さん、一旦氷属性の攻撃はやめて水属性で攻撃してください!」「どういうことだ?」「キマイラは物理攻撃も魔法攻撃も強い魔物です。ただ単純に氷属性攻撃を直接当てるのではなく、水を当てて体温を下げたところに氷を当てるのです。」

キマイラは弱点が氷だと言うことを本能的に知っているようで、向かってくるアイスニードルなどの攻撃を魔法や脚などで相殺している。

あとおそらくだが、氷魔法自体が弱い。ダメージが当たっていても少ないのだ。おそらくイメージが水の氷でイメージしているからだろう。でも、俺はすでにもっといいものを思い付いていた。

魔素が窒素であると言うことを知ったときから、本来の氷魔法はこっちだろうと予想を立てていたのだ。

俺が氷魔法として使っていると考えたのは液体窒素。魔素である窒素を魔法で無理やり状態変化させて作る。このときの温度はマイナス196℃にも達するのだ。水の氷よりもずっと威力が高い。

これを雷と同様に敵の頭上から降らせる。

「フロストプリズン!」氷の檻という意味だ。

皆さんの水魔法によるサポートもあり、一瞬にしてキマイラは動かなくなり、絶命が確認された。

「な、何が起きたのですか!」とボールさんは興奮気味だ。

「皆さんの氷とは違うイメージをした結果ですよ。」

「え?氷って水からできる氷ではないんですか?」とリーナが入ってきた。「氷という意味では確かにそうです、でも冷凍するならもっといいものがあるんです、しかも身近にあるものでできるんですよ。」「え、なんですかそれ?」「液体窒素です。」

みんなポカンとなる。窒素が魔素であることは研究成果を話すときに説明はしてある。しかし液体窒素の性質は説明していなかった。上記の説明をすると、

「今までの魔法は実は劣化で、本来はこっちだったってことなんですね。」リーナがそう言う。少なくとも魔法を作った人間は魔素である窒素の性質を完璧に理解して作っている。なら当然本来の氷魔法はこっちの可能性が高い。

また気絶しそうな位身体が気持ち悪い。魔力酔いだ。完全に一人で倒したわけではないが、Sランクのキマイラを倒したのだ。

当然「経験値」も多いはずだ。で、とどめを刺した俺が一番経験値が多い。『分析』で見るとなんと50までレベルが上がっていた。MPに至っては700を越え、魔力も600まである。「賢者」という「職業」の補正らしい。この「職業」の謎もいずれ解明したいが手がかりが少なすぎるので今は放っておこう。

他に強そうな魔物はいなかったので、怪我人の治療を終えた家族一行は帰宅する。無事な冒険者は引き続き捜索するようだ。キマイラがいたとなれば、夜通しでも何か起きないか見張る必要があるらしい。その役目は冒険者に丸投げするとボールさんは言っていた。まぁ確かに領主とその家族の仕事ではないな。


その深夜。予想通りと言うか体力のせいで性欲が上昇していたのでリーナと致していた。そんな中、誰かが部屋に入ってくる。

「賢者様、赤い信号魔法が森で灯りました!」

思いっきり裸の状態で影が入ってきたのものだから「来ないで!」とリーナが叫ぶ。非常事態でも見せるわけにはいかない。

すぐに影は退出し、俺達は急いで服を着る。

そろそろ転移魔法が使えたらいいなと思っている。何回も行ったり来たりするのは非常に面倒だし、非常事態には一刻一秒を争う。さすがにMP切れはこのレベルでは心配しなくて良さそうだし、今、この瞬間が使い時だ。

「リーナ、ちょっと待って。」「何?急ぐんじゃないの?」

急いでイメージを作る。

転移やワープは地球には存在しない概念だ。しかしそれは人間という大きな質量を持つ生き物だからだ。量子の世界では平気でそれは存在する。

トンネル効果という現象がある。波動関数がポテンシャルの壁を抜けていく現象である。分かりやすく言うと波は壁を越えることなく通過すると言うことである。そして、物質波という概念があり、非常に質量が小さければ、物質もまた波として扱うことができるのだ。

言いたいことは現在のマクロの状態(人間)では無理でも、ミクロの状態に分割できれば、壁を超えて光速cで移動することができるのだ。ちなみにc=3.0✖️10^8(m/s)である。

(実際転移魔法を使う際身体がバラバラになるという描写がある作品があることから、あながち間違いではないだろう)

つまり、分子レベルに一旦分割して光速で移動し、一瞬で再構成すると言う魔法が転移魔法だと思われる。

このイメージで行けるか。おそらく場所はあそこなはず。

「手を繋いで。」「え?」繋いだのを確認して「転移」。


転移魔法は成功していた。そして予想通り、戦闘が行われていた。昨日の森の開けた場所にいたのは、、

「ドラゴン!しかもあれはアンデッド化している?」

冒険者達が光魔法で照らしていた先にいたのはアンデッド化したドラゴンだった。普通のドラゴンでさえ非常に強いのにアンデッド化したことでさらに厄介になっていた。

まずほとんどの魔法が効かない。そして、物理攻撃も聖属性攻撃を付与しないとダメージが入らない。アンデッドは呪術によって操られている場合がほとんどだ。つまり外部からの魔力だけで動かされている。

ただ、リーナは聖属性付与ができた。

「ホーリーエンチャント!」影の皆さんの武器に聖属性がかかる。ここで全員があの逆召喚魔法を使ってドラゴンに攻撃を仕掛けた。ただ、暗殺用の武器でありダメージは少ない。そもそもドラゴンの身体が大きく、そして鱗が硬い。リーナが魔法を掻い潜り接近して剣で切りつけてはいるが、いかんせん硬すぎる。

ここは聖属性か?いや違う。物理的ダメージも既存の魔法も効かない相手だ。試しにキマイラを一撃で倒した氷を試してみたが効いていない。

どうすれはこの魔物を倒すまたは消滅させられるか。

え?消滅か。魔法のあるこの世界なら行けるんじゃないか?

しかし、生半可な消滅魔法ではダメだ。身体がでかすぎる。

ここでとある存在を思い付く。宇宙の黒い穴、ブラックホールだ。強い重力によって光すら抜け出せない存在。それほどの力を出してあいつを消すためにはどうするか。風魔法は気体を操る力をもって攻撃する。でもここでは気体を操る力のみを使う。敵の頭上にすっぽり身体が入るほどの真空空間を作る。中に入ったら超強力に引き寄せる力で身体はバラバラになる。

アンデッドは身体が残っていれば動くと言うが魔力の方向がバラバラになってしまう細切れ状態ではろくに動かすことは不可能だ。そもそも今もなお聖属性で攻撃し続けても奴は倒れる気配さえ見せない。やるならこれしかない。とりあえず巻き込まないように避難させないとまずい。リーナに声をかける。

「俺の声を響かせることはできるか?」「できます。」

リーナは拡声の魔法を俺にかける。

「今から危険な魔法を使います!全員私の後ろに移動して障壁を展開してください!」

全員が森に待避して障壁を展開する。

「ブラックホール!」闇属性の超級魔法だと後に発覚するが、消滅魔法を召喚魔法を通じてやつの頭上に作る。

狙い通り、やつはなす術なく吸い寄せられた。頭上では防ぎようがないからだ。そして目論見通りやつはバラバラになって動かなくなった。さらに開けた場所には魔道具らしきものが埋めてあり、ついでに吸い寄せられてバラバラになった。

「これは、、」「おそらくこれは魔吸いのお香です。魔力だまりを作り意図的に強い魔物を呼び寄せます。」原因はこれか。

「おそらくこれは魔族側にいる何者かの犯行だ。」とボールさんは言う。人間と魔族はしばらく戦争状態にあった。そこで呼び出されたのが勇者だ。勇者は魔族側を無力化して降伏させた。ここでほぼ全員を殺さなかったことで、恨みを買いにくくしたのだ。

そして、文明を導入したことで、人間側はもちろん、魔族もまた大きな恩恵を受けた。これに反対する勢力もいたが、大多数の賛成派によって鎮圧され以降大きな動きは見られなかった。

ドラゴンはその強さ故に勇者によって調停者として見張るように命じられ、どちらか一方に肩入れすることを禁じている。

つまり、反対派ことかつての魔王路線を継承するものが動き出したのだ。おそらく魔族に気付かれにくいこの森で戦力を呼び寄せ、利用しようとしたのだ。ただ、たまたま俺が寄ったことでその企みは阻止された。ただ俺が来るのを知っててあえてこの森にしたのではとリーナは睨んでいる。実際レッドベアも命の危険があったし、その他は論外レベルに強い。

とりあえず冒険者が後始末はするらしいので俺たちは帰ることにした。気付けばもう朝になっていた。

「どうしたの?」「いや、なんとなくこの角が気になって。持ち帰っていいかな?」「討伐したんだから勿論いいと思うわ。」

俺は何か力を持つドラゴンの角を持ち帰ることにした。

また魔力酔いが起きたのでレベルを確認すると70まで上がっていた。「どんどん強くなりますね、孝二さん。」とリーナが言う。

「さっきの続きがしたいんだけど、いいかな?」と甘えてくる。

結局転移魔法で部屋に戻ったあと朝食まで致す羽目になった。


王様に一連の事件とほぼ全ての属性魔法が研究済みであると報告する。「とりあえず至急王都まで帰還して欲しい。エルバンド家のクロード夫婦を除く面々も来て欲しい。」と王様が言う。

また式典かよ、、今度はどんなものが飛び出すやら。

クロードさん達を残して馬車で王都に向かう。転移魔法は使えるのは事実だが王様からの参上命令が入っているので一緒についていくほうが楽だからだ。

とりあえず、光と聖属性がわかればいわゆる属性魔法はコンプリートしたことになる。とにかくレベル上げで書けなかった部分が多いから帰ったら間違いなく論文に追われることになりそうだ。

王都につき、王城に向かう。そこで言われたのが「領地内とは言え、魔族の企みを食い止めた功績を賢者殿と一緒に表彰する」

というものだった。絶対この王様、何かある。だってそれだけならわざわざ表彰がいらないはずだから、国民に見せたい何かがあるのだ。嫌と言うほどあのときに理解させられたからな。

明日表彰と言うことで屋敷にご両親を案内する。今日はここで泊まりだ。「すごい素敵な屋敷ですね。」そう語るのはお義母さんのリズさんだ。喜んでくれて何よりだ。と、案内したところでリズさんが声をあげる。「まぁ、ウェディングドレスじゃない!素敵ね。」「あれ、これってもしかして?」リーナがアトラに確認する。嫌な予感が的中する。前の持ち主、つまり処刑された司祭の娘のウェディングドレスだったのだ。なんと結婚2日前に事件が発覚し、当然婚約破棄。ちなみに司祭の妻も関与が発覚し反逆罪で処刑されている。今はシスターとして懺悔しているというが、親のせいで一生結婚できないと言うのだ。

これを聞いたリズさんは「賢者様が許したいと言うのなら、少なくとも結婚できない縛りはなくなると思いますよ。」と言った。許すも何も、娘さんは何も知らなかったのだ。それで直前で幸せを奪われて何もしなければ彼女は一生結婚できないなんておかしいなんてものじゃない。とりあえず原因である王様に魔道具で連絡を取り、後日教会内で不当な扱いを受けないようにし、結婚できるようにすると約束した。ただ、これだけではおそらく結婚はできない。教会内部で懺悔という名目で閉じ籠っている限り、事情を知る人間は婚約などまずしないからだ。

「なので、家にメイドとして彼女を雇います。これだけでなく先輩メイドの皆さんには適宜男性を紹介できるようにしてもらう予定です。」メイドさんはどこかの家にお仕えする仕事の関係上、仕事先以外で男性を見つけるのが難しい。なので、メイドの協会に加入すれば、メイドさんと結婚してもいい男性とマッチングできる機会を設けてくれるのだ。おそらく彼女自身は入らないので、先輩達の紹介という形にはなるだろうが。

「とりあえず彼女に会わないことには始まりませんね。明日終わったあとでも教会に行くことにしましょう。」リーナがそう呟くと「まぁとりあえずご飯にしましょう。」とリズさんが言う。

夜。さすがに朝したので手を出す気分ではない。とリーナが

「実は私、とある秘密があります」え?なんだろ。

「私、受精の魔法が使えます。だから今ここには赤ちゃんがいます。」え?マジですか。女性怖すぎだろ、と思ったが

「直接受精させて着床させる魔法が使えるのは魔力量が高くて、原理をしっかり理解している女性だけです。」とのこと。異世界の女性みんなこれだったら怖くて絶対手が出せなくなるだろ、、

じゃあ、俺は10か月後には父親になるのか。

普通の妊娠の感覚と違いすぎるけど、頑張っていいお父さんにならないといけないな。

ちなみに主席で卒業した人以外でも上位の成績者は覚えられるらしい。てことは妹さん二人も、、「母も使えますよ、今の学園の理事長ですし。」リズさん、すごい人だった。というかそんな人が泊まったり魔物退治なんて大丈夫なのか?

「今は学園が休暇中なので家にいたんです。普段はバリバリ働いてますよ。」とのこと。

ちなみに妊娠中は精液が入るとまずいので避妊の魔法をかけて物理的に入らないようにするらしい。コンドームが地球にはあるが男女共に避妊魔法が一般的に存在し魔力さえあれば誰でも使えるので流行らないと思いますとリーナは言う。ちなみに男性版の避妊魔法もリーナから教わりました。魔法学校の夜の営みに対する本気度がやばい。とここでリーナから、

「さっきの件はどうするのですか?」と質問された。

「メイドにするって言ってましたけど、かなりのお嬢様育ちの娘さんがすぐにメイドの戦力になるとは思えませんよ?」

「ああ、それは表向きな。基本的には執事含め全員に客人として扱うように言ってある。ここは彼女の家でもあったのだから。」

「なるほどです。まぁお相手の男性の件は置いとくとしてもとりあえずは大丈夫そうですね。」と納得してくれた。


リズです。リーナの母です。やはりでしたか、と二人の話をこっそり魔法で聞いていました。孫が見れるのが楽しみです。

王様が呼び出した目的はわかっています。おそらく賢者様の活躍によってあれが統一になって、かつ妹達二人が嫁ぐであろうことも。じゃなきゃ王城まで二人をわざわざ呼びませんもの。

ふふふ、あの人には頑張ってもらう必要がありそうね。


一方、ドラゴン達の集落では会議が行われていた。

「調停者である我々が魔族に加担したと知られたのはまずいぞ」

「さすがに人類側もこのまま黙っている可能性は低い」

「おそらくあれは例のドラゴンかと」

「人類側にどうお詫びするつもりだ?」

「一番迷惑をかけたのは例の大賢者とやらでしょう」

「なら、その者に娘を輿入れさせるか。」

「ああ、例の娘ですかね、確かに爪弾き者ですし、ちょうど良いかと。いずれ追い出すつもりなら今がいいでしょうね。」

ドラゴンは基本的に血や家族の繋がりを大事にする種族だ。

だから、親から子にちゃんと遺伝しているのが当たり前という認識だった。遺伝しない子はつまり、不義の子とされる。

そして浮気はドラゴンの中では厳禁とされている。一夫多妻のようにちゃんと平等に愛さないと浮気とみなされ爪弾きにされる。

そう、彼らが言うことは正しいように見えるが、実際には違った。ちゃんと夫の子を産んだのに娘がその技能を遺伝していなかったので浮気と判断されて追い出されたドラゴンがいた。

彼女は魔族側に行き暮らしていたが何者かに殺されて、アンデッドとして利用された。それが彼らの言う例のドラゴンなのだ。

何も知らない娘が賢者の下に向かうことになったのだった。


翌日。俺たちは王城にいて表彰式典に出席していた。

「まず、賢者役目孝二殿はエルバンド領における魔物の討伐、しかも高ランクの魔物の討伐を成し遂げた。その際に既存魔法の解明や未知の魔法の開発までしたという。その功績は大きく、子爵相当だったものを公爵相当にまで引き上げる。続いて、エルバンド家もまたその他の魔物の討伐に大きく貢献し、魔族の企みであることまで暴きそれを防いだ功績は大きい。よって今までの辺境伯の地位から公爵に引き上げる。そのため、リーラ嬢と第2王子、フィート·アトワースとの婚約を発表する。」

まじかよ。またあの王様爆弾ぶっ込んできた。

「また、賢者殿の魔法の解明が進めば、誰でも魔法が使えやすくなるであろうことは確実である。これに伴い、騎士団の統合を行う。そして、リーゼ団長と騎士団長クーロ·ヘルズとの婚約を発表し、統合をこれから推進していくことにする。」

まだあったのかよ。妹さん2人とも結婚するのか。あ、だからこの場にいるのね。

「謹んでお受け致します。」と全員で返答する。

「ではこれにて表彰式典を終了する」

公爵にしたのはおそらく囲い込みを先にしてしまうためだろう。そのための縁戚関係で婚約が必要だったのだ。

で、後の二人はどうやら昔から知り合いだったらしく、王様としては先んじて手を打ったのだろう。

さて、例の話を先に進めますか。


俺達はサンタム教の教会に来ていた。例の件で彼女に会うためだ。彼女の名前はジューレ。話を聞いてみると全然印象が違った。なんと彼女の結婚は政略結婚で相手が10才も年上で、しかもかなりの肥満だったとか。性格面も女を権力を使って囲むなど印象は最悪。それでその前に例の事件が発覚し、婚約者も処刑されていたのだ。

それで独身生活を悠々自適に送っていたところに俺たちが来たのだ。ただただ彼女は困惑していた。

「確かに結婚できなくなるのが解除されるのはありがたいのですが、もう少し独身生活を楽しみたいのです。」

それは分かるが、彼女の今の環境下では一生傷物扱いされて結婚

できない。そして俺達の家が彼女の元住まいであることとメイドとして働かないかと提案してみる。

「元の家に帰れる、、メイドじゃなくていいなら考えます。」

「聖職者はそのままでいいって言ったら?」

「行きます!」即答だった。

こうしてジューレは聖職者としてうちに客分として家に住むことになった。


ジューレです。いきなり賢者様が訪ねてきたときはびっくりしました。ウェディングドレスを見てここまで行動してくれる方なんてなかなかいないですよ、、一瞬だけ見とれそうになりましたが、隣の奥さんの目線が怖かったのでやめました。

絶対あんな男の妻としてウェディングドレスは着たくないと思っていたのでそのまま残っていたことにびっくりしました。

ちなみに奥様のリーナさんがサイズもちょうど合い、2ヶ月後の結婚式に着ていいかと確認してきたので快諾しました。こんな形で使われるならドレスも本望でしょう。私のドレスとして使う日は来るのかな、、

執事のアトラさんに屋敷を案内してもらうと帰ってきたんだと涙がこぼれました。「大丈夫ですよ」と声をかけてもらうと思いっきり泣きました。だっていくら変な男を紹介して、賢者様を裏から処分しようとしていたからと言っても、私にとっては親なんです。処刑されたと聞いたときは泣けませんでしたが、教会ではなく家に帰ってきたことでようやく感情を表に出せたのです。

自分でもはしたないと思いながらもアトラさんに謝ると、「今ようやく自分の感情を出せる場所ができたのです。ゆっくりと向き合えばいいのです。」と優しく返してくれました。

執事のイメージが前住んでたときはただ屋敷の世話と両親にしか目が行かない人としか思っていなかったので、こんなに素敵な人と会えるとは思っていませんでした。ここから執事さんにアプローチをかけていく日常が始まります。


さて、話は戻って俺は残りの原理について考えていた。しかし、聖属性は見当がついていた。回復魔法とアンデッドに対しての攻撃。一見矛盾しているように見えるが体細胞に注目すると見えてくる。体細胞は基本的にどんどん新陳代謝を繰り返して古いものはなくなり新しい細胞に変わっていく。つまり、回復魔法は後半の細胞分裂→体細胞の成長のループを早めて身体の治りを良くする魔法なのだ。反対にアンデッドに対しての攻撃は前半部分の古い細胞の消滅。アポトーシス現象と呼ばれている。あの探偵漫画の主人公を小さくしちゃったのが、アポトキシン4649であり、この現象から命名されている。

もう一つ考えられるのが、魔術を使っているので通常の生き物とは魔力の流れ方が違うと予想できる。それを正常に戻す→倒せるとなる。回復視点で考えると状態異常にかかっている場合、通常とは魔力の流れ方が異なるはずだ。それを正す魔法なのでこちらはキュア(状態異常回復)に当たる。

ヒールとキュアは考え方が違う聖属性魔法だったのだ。

続いて光属性。こちらは発光の仕方が複数存在するので、いろんなバリエーションがあると考えられる。

しかし、創作物における光属性の魔法の使われ方的に、当てはまりそうなのはエレクトロルミネセンス(EL)だ。

そもそもどうやって発光しているのかと言うと、電子にエネルギーを加えてポテンシャルが一段高い状態にする。この状態のことを励起状態と言う。この励起状態から一段下、もしくは一番下(この状態のことを基底状態と呼ぶ)に落ちることで光を発する。

で、ELはエネルギーの元が電圧である。つまり、雷魔法の親戚のように扱うことができる。ちなみにELは聞いたことある人が多いテレビの有機ELやLEDの仕組みそのものである。

要は与える電圧が大きいほど、光も強くなる。かなり大きな電圧をかけて一気に基底状態まで落とせば、光でも十分攻撃することができる。これが光魔法で攻撃の正体である。

とりあえず、光と聖属性の考察が終わったので論文を完成させられるメドが立った。ちなみに考察だけでなくきちんと使えるようになった。これで自分で回復をかけられるのでリーナの手をあまり借りずに済む。

だがすぐに「パソコンとか欲しいー!」と叫ぶこととなる。

手書きでグラフとかデータを載せる論文なんて今更できるわけないだろ!何事かとリーナと執事さんが部屋に入ってくる。

「旦那様、どうなさいましたか?」「いや、パソコンとか論文を書くのに便利な道具がなくて困ってて、、」

いくら勇者が文明を発展したとは言え、教育、医療などの人口が増加する要因にリソースをつぎ込んだせいでパソコンやプリンターなどの現代人には当たり前の道具でさえこの世界にはない。

ちなみに転移してきたときにスマホは持っていないが、ネット環境がないし仮に実現して調べるにもサーバーがないだろうから無理だ。うん、待てよ?データベースとして様々な系統の魔法書とかをまとめてくれる魔道具があれば参考文献は簡単になりそうだ。魔道具の作り方はバッテリーとなる魔石と魔法陣で形成されている。バッテリーとなる魔石は魔力を高温、高圧下で生成されるものらしく、今は貴重だ。まぁ生成条件がすでにわかっているのでわりと魔法で簡単に作れるだろう。ちなみに魔石を使えば魔力嵐みたいなものがない限り半永久的に稼働できる。これは周囲の魔力を魔石が自動的に使うためだ。(詳しくは序盤の魔力の説明を参照して欲しい。)

魔法陣は人の手を加えずに発動するために魔法を文字に起こして発動できるようにするものだ。例えば冷蔵庫なら氷と風の魔法の魔法陣を使っている。

データベースを集積するためには一旦すべての情報を集める必要がある。でも紙ベースの本から情報を抜き出す時間があるわけではない。なら本の内容を覚えさせるのだ。しかも国中の図書館の中の本全部。すべての記憶を忘れさせる忘却魔法をリーナが発動するところを俺は見ている。なら逆の「記憶魔法」を魔法陣に組み込んであげれば、あら不思議。ネット環境があるかの如く調べ物が簡単にできてしまった。あとの問題は書類だ。様々なグラフとかデータを入れたものをどう作るか。

俺が思い付いたのは「図形魔法」だ。パソコンでグラフやデータは基本図形扱いだ。で、対応する文字を入れることで自動的に手書きなのに最適な場所に配置してくれる魔法だ。そもそも関数が複雑だとグラフさえ書けないものが多いのでこれはかなりありがたい発見だった。

こうして何とか手書きとは言えそれなりに便利に書ける環境を整えた俺は論文を終わらせにかかった(少し触れているが、孝二は書ける部分はすでに書き始めている。ちなみに彼が論文に集中する関係で彼らの結婚式までサブキャラがメインになる。)。


その日の夜。

リーナ達姉妹は集まって騒いでいる。

「まさか二人ともすぐ結婚するとは思わなかったよ!」

「私も寝耳に水よ、第2王子と結婚するなんて。」

「絶対あの男と結婚するなんて思ってなかったよ。」

「リーゼは知り合いなんでしょ?

「知り合いというか小さい頃からライバルよ、学校こそ違ったけど騎士団に入ってからは昇進争いになった。」ちなみに騎士団は年功序列ではなく完全な実力主義。通常は2年に一度交代だ。

「お母さんから聞いたんだけど、例の魔法使ったんでしょ?」

「なんでバレてる?絶対「無音」は効いていたはずなのに」

「お母さん、レベルはお姉ちゃんに負けるけど魔法の扱いに関してはかなり先に行ってるからバレちゃったんじゃない?」

「無音」は男女がイチャつくには必須の魔法で周りに声を聞かれたくない時には最適だ。

「おめでとう。私たちも後に続くね」

「そんなすぐに求められると思うの?」

「王子はとりあえず必要だから結婚したら即だと思いますよ」

「まぁ、私はあの男のことよく知ってるからね、また勝ってやれば悔しくなるだろうから、、」

「いい加減にしなさい!もう寝る時間よ。あと会話の内容に関してもお説教が必要みたいだわ」勿論声の主は3人の母リズさん。

翌日3人ともこってりと絞られて客人がいる前ではしたない会話はしないと誓わされたのだった。


マイナです。今出てきた姉妹達の兄嫁です。

不妊症の私からリットが生まれてきたのはお義母様のおかげです。

しかし、貴族なので男の子が家としても個人としても欲しいのです。賢者様がメタルシープを倒していたとき私たちはフォレストウルフの軍団に遭遇していました。回復と防御しか私は使えないので、クロードさんが全部倒してくれました。惚れ直したと同時に上記のような発想になったわけです。

ただクロードさんは私にあの魔法を持っていることを知っていて尻込みしています。賢者様夫婦みたいにラブラブとはいきません。「リットがもっと大きくなってからにしたい」とすぐ次とは行かないかと思っていました。しかし屋敷が家族三人になったことで遠慮がいらなくなります。メイドさんに協力してもらい残しておいたレッドベアの肉を夕食に混ぜてもらいました。

あの魔物、実は滋養強壮の作用と興奮の作用が含まれています。

クロードさんは気づいていてあのときは回避しましたが、今度は逃がしません。男の子が産まれる魔法をすでにお義母様から聞いていたのでお役目を果たしてもらうとしましょう。ちなみに翌日クロードさんは昨日の自分をひどく後悔していました。


リズです。学園にいない理事長、でも普通の学校はやってます。

これはうちの学園が夏に冷却魔法をガンガン使って快適にして登校する代わりに梅雨にかかるこの季節をお休みしてモチベーションを保ってもらう作戦です。

魔力嵐以外にも爆弾低気圧があったりするこの異世界では梅雨は賢者様の世界よりもしんどいです。あのときの魔力嵐は威力が強すぎるので賢者様が消しましたが、魔力が使いにくくなる現象が起きることには変わりがなく、魔法使いにとっては非常に憂鬱な季節なのです。

ところで話題は変わってかつての勇者様は教育を大事にとこの学園にも来て地球の知識を教えてくださりました。当学園では普通の教育、魔法教育は勿論のこと、貴族の淑女のみが通う学園なので性教育にも力を入れています。それを前提に男女の産まれる仕組みなども教えてくださりました。マイナさんに教えたのも勇者様の知識が加わった強化版です。ただ命に関わることはあんまり他の人に試すと倫理的な問題があることも勇者様からも言われています。なので、さらに改良した魔法を自分で試します。

実はボールさんにとっての私は第2夫人であり、クロードさんは母親が違います。(医療技術が発達する前だったために夫人は産んですぐに亡くなった。)なので私自身は男の子を出産した経験がありません。だから夫で試してみたいのです。ちなみに賢者様がメタルシープと対峙していたときは私たちはゴブリンの上位種と戦闘してました。キングの死んだときに逃げた残党でしょうが夫が魔法で一撃で仕留めていました。

ちなみに私の年齢は43でリーナは24才で姉妹は3年ずつずれてます。このときからあれはあったので家族計画をしていった結果です。でも、全員結婚して家を離れてしまいますからね。

色々重なった結果が今ここにあるわけです。

でも夫は領主で忙しい日々。ですが、今は夫婦揃って王都にいるわけです。賢者殿には屋敷を利用して悪いですが、夫に手を出してもらいます。リーナには説教のふりをして作戦を説明していました。屋敷の夫人である娘が頼めばメイドさん達を動かせますからね。リーナは「弟ができるのは大歓迎よ」と作戦を快諾。

夫には特製の幻惑キノコを入れた料理を提供しました。

この幻惑キノコは性欲の上昇に加えて異性がさらに魅力的に見えると言う効果つき、さらに幻惑だけあって配偶者でさえ顔がわからなくなるのです。

夫のベッドに裸で待機していると激しく襲われました。狙い通りです。翌日効果の切れた夫が裸の私を見て「恥ずかしいから早く服を着ろ」と言ってました。おそらく私と昨日襲った女性が一致しなかったのでしょう。突然妊娠して驚かせようと思います。更なる改良の効果はもう少し後でわかります。


論文を必死に書いている裏でとんでもないことが行われていた、

とは全く知らずに俺は作業をしていた。エルバンド家の皆さんは一週間前に帰った。とそのとき、外が騒がしい。さすがに作業を中断して屋敷の外に出る。すると二匹のドラゴンが立っていた。

「アンデッドドラゴンを討伐しご迷惑をかけた賢者様にご報告があります。魔族側についたことで調停者として人間に迷惑をかけたので、人間側で迷惑をかけた賢者にこのドラゴンを輿入れさせる。」は?結婚?ドラゴンと人間ってそもそもサイズ違い過ぎ、

、と思ったら「はじめまして、ラジーナと申します。」と人間サイズに縮んで挨拶した。魔法か?これ。すっごいこの仕組み気になる。なにしろ質量保存全無視だし。

「それではこれにて失礼いたします。竜の里には娘の帰る場所はありませんのであしからず。」と使者らしきドラゴンはさっさと帰ってしまった。おい、俺にはすでにリーナという自慢の奥さんがいるんだぞ。俺も確かに今は貴族だけど2か月前はバリバリ一般人で彼女なしの一人暮らしだ。それに一夫多妻って男の夢みたいに語られてるけど研究してる俺からしたら普通に多いのはめんどくさい。

とりあえず俺は取り残された女の子、ラジーナに声をかける。

「あのドラゴンからなんて言われてきたの?」

「賢者様のお嫁さんになるように言われてきました。私、なぜか里でよく分からないけど除け者にされてて、人間に嫁げば誰もいじめなくなると言われたんです」

ああ、これが追放か。嫁とかいいつつ完全に捨てにきている。

するといつの間にか隣にいたリーナが怒りをあらわにしていた。

「ふざけてますよね。ラジーナちゃんがあまりにも可哀想です」

これは間違いない。ところで勝手に嫁認定された件については

「貴族ですから別に一夫多妻は気にしてませんよ。それよりも何が原因なんでしょうかね、、」と懐に入れてあった角が反応する。これは、まさか。「ラジーナ、この角見覚え、」

「お母さん!アンデッドドラゴンはやっぱりお母さんだったんですね!」興奮気味に話すラジーナ。

「落ち着きなさい。なぜお母さんが亡くなったのにそんなテンションなのですか?」「お母さんもまた里を追い出されたんです」

それからラジーナは経緯を説明してくれた。

どうやら彼女のスキルが不義の子とされた最大の理由らしいな。

とりあえず『分析』。すると、

『ラジーナ、君『全魔法適正』を持っているのか?』「はい」

「賢者様のスキルも全魔法適正なんですよ」「え!」

ラジーナはひどく驚いていた。無能の烙印を押される決定打になったスキルがこの人は有効活用できているのだ。

ラジーナは無属性のブレスしか魔法が使えなかったらしい。

適正と言うのが厄介なのだ。おそらく普通のドラゴンは何も教えなくても3属性程度は魔法が使える。でも彼女は違った。

でも、俺が開発した魔法は同じスキルを持つ彼女なら絶対使用できる。竜の里は活用できなかったけど、俺の元でなら力を発揮できる。なら、彼女と結婚しない理由はない。彼女をおそらく色々なことに使っていく以上は責任を取る必要がある。

レベルも上がっているのでリーナも分析できるはずだ、どれどれ、、え!レベル130なのに驚いたわけではない。レベルだったらラジーナのほうが150と高い。驚いたのは状態だ。リーナは受精の魔法を使ったと言っていたので妊娠していること自体は驚いていない。問題は、、『双子?!』そう、彼女が身籠っているのは双子だったのだ。さすがにまだ性別は不明だ。

王様にラジーナの件を報告する。「なら、一緒に挙式すると言うことでいいか?」と聞いてきた。妻なら2人並んで出て欲しいと思うのは当たり前だ。事情はどうあれ、俺はラジーナを家族として迎え入れることを決めた。だからもう言い訳はしない。

「今日からラジーナがここに住むことになった。みんなよろしく。彼女はドラゴンで空を飛ぶことができる。だから私の移動手段の一つとして使うことになるだろう。」

「ラジーナです。皆さんよろしくお願いします。」と挨拶をする。「ラジーナさんは奥様の一人なのですよね?」とアトラが確認する。「そうです。」と返事する。「かしこまりました。部屋にご案内します」とアトラがラジーナを連れていく。

「ところで彼女との営みはどうするんですか?」リーナが耳でみんなに聞かれないようにこっそりと呟く。確かに体力値が高いし研究では体力は削れないぶん性欲はそのまま、ってことは多い。

今まではリーナだったがこれから彼女は妊娠している以上身重になり、営みもできなくなるのだ。高い性欲を生殺しにするよりは彼女とできるようになったのはよいことだ。

「彼女、基本的にドラゴンなのでステータスも高いのであなたの手助けになるはずです。ある程度教えたら私の代わりに護衛もできるでしょう。」あ、そっちもできるのか。飛べるし便利過ぎる。無理やり押し付けられたのにすっかり彼女はうちの一員として考えていたし馴染んでいた。

「でも勝手に妻を増やしたら許しませんからね、私が一番でしょ?」嫉妬か。可愛い。もちろんだとも。


ラジーナは一通り屋敷を案内してもらうと部屋でのんびりしていた。「まさか賢者様が同じスキルを持ってたなんて、、」と独り言を呟いていた。母親がアンデッドドラゴンになって迷惑をかけたからと嫁ぐことになった。賢者様夫妻に気に入られてこの家に正式に住むことになった。とここで客分として住んでいるジューレが挨拶にやってきた。

「はじめまして、ジューレって言います。」「ラジーナです。賢者様の二番めの妻になりました。よろしくです。」

「え、それじゃ賢者様のこと大好きなの?」「もちろんです!」

ラジーナは今日来たばかりだと言うのに賢者様が大好きになっていた。孝二もまた、ラジーナに対して好感を持っていた。リーナとは最初こそ護衛と護衛対象でしかなかったが、結婚を王様から言われたことでうまい感じに二人とも意識するようになり、告白してからは普通の夫婦以上にラブラブな関係になった。

もうすでに子供も授かってる。ラジーナはそこに無理やり割り込んだはずなのにお互いに好感を持った状態からスタートしてしっかり結婚することをお互いの意思で決めた。

ジューレがこう尋ねる。

「夫婦ってことだけどその、、夜伽はどうするの?」後半は小声で聞いた。「もちろんさせて頂きます。特に奥様が妊娠しているとあれば私が代わりになる必要が出てくるでしょうし。」

「双子を授かってる以上身重になるまでが普通の人より早くなるはずです。奥様があとで色々教えてくれることになってるので、代わりに色々できるようになりたいです。」

ちなみにドラゴンは人間形態であったとしても非常に妊娠はしにくいようにできている。ドラゴンは長命なので月経の間隔が非常に長く、パンダのように繁殖期と合わなければほぼ妊娠しないようになっている。長命種が個体数が増えすぎたらバランスがおかしくなるので当然ではあるが、同じく長命なエルフも数が少ない。だから代わりにやっていたとしてもしばらくは妊娠しないだろうとラジーナは考えていた。ちなみにドラゴンが妊娠すると胎児を守るため何があっても変身ができなくなる。変身なんてできたら赤ちゃんはどうなってしまうかは容易に想像できてしまうが。「そう、邪魔して悪かったわね。」とジューレは部屋を出ていく。このあと、ラジーナはリーナに会いに行く。


リーナです。賢者様に新しく妻ができました。

しかもドラゴンで賢者様と同じスキル持ち。強力なサポートが期待できますが、知識がないので今から仕込みます。

「ラジーナです、奥様入ります」とラジーナが入ってきた。

「今から貴女には私の代わりに賢者様を支えられるように知識を教えます。護衛としての心得や技術、あとは営みの知識ですね」

「ドラゴンは妊娠期間が違うことと妊娠が非常にしにくいと言うことは奥様は知っていますか?」とラジーナが尋ねる。

「初耳ですね。どれ位妊娠しているのですか?」

「ドラゴンのあの巨大な体になれるようにゆっくり2年程度はかかります。ちなみに妊娠中は絶対に変身できなくなるのでわかります。」なるほどです。でも2年間かかるとなるとスケジュールを調整しないとまずいですね。避妊の魔法と受精の魔法で期間をコントロールする必要があります。

「周期以外でしたところで妊娠はほとんどしませんよ?」とラジーナは言うが予定外の妊娠をされるとまずいのでちゃんと避妊魔法を使うように言います。そしてドラゴンの子供ができにくい理由を解決する魔法があることも。

「すごい魔法ですね!」と言いますが、彼女は身体の仕組みを理解していないので妊娠の原理をラジーナに説明します。こうしないと魔法が使えないからです。

魔法を教えたので次に孝二さんのお仕事について説明します。

「あの方は様々な魔法のメカニズムの解明と新魔法開発をしています。王様や国の人達にとって非常に大切なお仕事です。魔道具や魔法自体の威力向上は発展に絶対欠かせないのです。」

「聞いてます、本当に鍵を握る方なのですね。絶対にお守りします。」「そうです。貴女はドラゴンですので賢者様はおそらく論文が書き終わり次第、一緒に旅に出て世界の謎を探るでしょう。」「え?しばらくこの家に帰って来ないんですか?身重の奥様をおいて?」「いいえ。あの方は転移魔法が使えますから夜には常にこの屋敷に戻ってきます。これは私達だけの秘密ですよ?」「今転移魔法って言いました?凄い方なんですね。」

「賢者様曰くスキルのおかげなので貴女もできますよ、ちなみに私も使えるよう練習して使えるようになりました。」

孝二さんは二回転移魔法を使用しました。彼が教えてくれたイメージに合わせて猛特訓した結果なんとかものにしました。

そもそものイメージがかなり複雑で難解なものだったからです。

ダンジョンの転移ポータルなどの便利なアイテムと異なり、一から練り上げることになるのと、孝二さんの語っていた量子力学をそもそもお勉強する必要があったからです。まぁ何もなしで一度行ったところに飛べるのですから当然でしょう。ちなみにお勉強には孝二さんの記憶を全て記憶魔法で記録した魔道具からできました。記憶魔法便利過ぎませんか?これ教育とかの常識が180度変わりますよ。で、行ったことがない場所はそもそもそこにいる自分をイメージできないので転移魔法は使えません。孝二さん曰く地球の創作物ではこの設定は定番だとか。

ちなみにこの量子力学の勉強がのちに異世界の常識を覆すほどの大発見に繋がるとはこの時には思っていませんでした。


???「俺はあの女に負け続けてきた。」

「このまま騎士団にいてもやつに勝てないと思った俺はダンジョンに潜り素材をダンジョン内のギルドで換金する生活を繰り返してレベルをひたすら上げてあの女に勝って結婚するんだと思っていた。」

「しかし3か月ぶりに地上に出てみるとあの女は騎士団を辞めて結婚式を挙げるとか。しかも相手は異世界からやってきた賢者で国の英雄だとか。許せねぇ、横から女をかっさらっていくんじゃねぇ。まず、奴を倒す。それからあいつも倒して結婚相手を変えてやる。」あまりにも支離滅裂で歪んだ思いを持つ男が賢者の生活をガラリと変えようとしていた。


あと一週間でいよいよ結婚式だ。双子を身籠っているだけあり、リーナはだいぶつわりが激しいようだ。籠ってばかりいても仕方ないので俺は外に出た。さすがに国の英雄と言われているので隠蔽の効果を持つローブを羽織って外に出る。これなら顔で判断

されないし姿自体を隠さなくていいので買い物もできる。

今日は掘り出し物市だ。俺としては『分析』でお宝を探りたいと

ころ。ちなみにお金だが、王様からの給金の額がえげつないので正直この国なら一生遊んで暮らせるだけのお金は持っている。

俺は根っからの研究好きなので研究資料や研究に必要な魔道具(俺には作れない失われた魔法を持つとされる通称アーティファクトと呼ばれる存在だ。)があれば金に糸目をつけず購入する予定だ。

話を戻して市場で掘り出し物を探していると広場で何やら騒ぎが起きていた。何者かが暴れている。「賢者はどこだ!」と叫びながら。騎士団もすでに駆けつけているのだが、全く歯が立たないみたいで取り押さえることができてない。

あの男、相当の手練れだ。分析するとレベル90もある。

しかも元騎士団所属の人間らしく対人戦、複数戦闘も慣れている。絶対関わりたくないがここで運悪く騎士団の1人が俺を賢者様と呼んだことであの男にばれてしまう。

「お前が賢者か」「ああ、そうだ。」「お前に決闘を申し込む。草原エリアで今から行うから来い。あとお前の女も連れてこい」台詞を言いながらも捕まえようとした騎士団の団員を軽く魔法で吹き飛ばす。殺気が凄い。

隠密をかけて転移魔法で屋敷に戻りリーナに説明する。

「大丈夫か?」と問いかけると「あの男ですか。覚えています。私の因縁ならば私が見守って万が一が出ないようにしなければいけません。貴方を失うことは私が悲しいだけでなくこの世界の損失です。」俺たちは敵が待つ草原エリアへ。

「ほう、転移魔法が使えるか。」敵はそう頷く。

ちなみに騎士団や影が取り囲んでいるが決定打が打てずいまだに捕まらない。危機察知や気配探知で全てかわしているのだろうとリーナは言う。ここでリーナを見た敵が「俺を覚えているか。お前に負け続けて惨めな俺を。俺はお前に勝つために修行した。でもお前は勝手に結婚してた。その相手もろともお前を倒す、そして、お前に俺を認めさせる。」

「ふざけないでください。誰が貴方となんて付き合うもんですか。だいたい賢者様に勝てると自惚れている貴方が勝てるはずありません。」いや、レベル自体は相手のほうが上だけどな。

でも、絶対に勝たないといけない。お腹には子供がいるのにみすみす奪わせたりなんてしない。

「行くぞ!」戦闘が始まった。両者魔法の打ち合いをして牽制する。こっちの種はまだ見せていないからなんとかなるはず。しかし肉体強化をして剣を持った敵が寸前まで迫っていた。物理障壁でなんとか凌ぐ。あっという間に障壁を破壊した敵が剣で相変わらず迫ってくる。賢者含めて基本的に魔法職は接近戦闘が大の苦手だ。そして、敵は俺の腕を切り落とそうとしていた。ここで俺がとっさに考えた手は、、腕を切り落とそうと剣が触れた刹那、もの凄い大電流が敵の身体を流れた。腕を半分切られたのですぐに回復魔法をかけて戻す。

そう、雷属性魔法を全身にかけて剣を通じて敵に攻撃したのだ。

まさに肉を切らせて骨を断つである。しかしレベル90の化け物はこの程度では簡単には死ななかった。しかし、動けなくなったチャンスを見逃すほど騎士団の皆さんはアホではない。すぐに拘束され魔力封じの手錠がかけられる。この手錠は魔力の遮断の仕組みを応用して作られており、一切の魔力が使えなくなる。

このあとリーナから「心配しました!あんな無茶な魔法なんて使わないでください!」と説教を食らうことになる。お母さんの貫禄がもうすでに出ているな。実際雷属性魔法を全身に流したことでこちらの身体もかなりの反動ダメージを受けていた。剣で切ってくることを前提とした諸刃の剣の魔法なのだ。

魔道具で連絡を受けた王様からも「なんと無茶をする!リーナ殿が言う通り挑発になど乗らなければよかったのだ、この国の発展にそなたは欠かせぬ、無茶を言うなら護衛をさらに増やすぞ」と脅された。ちなみにラジーナがリーナの下でお勉強をして護衛としての働きが期待できるようになったのですでに護衛としてラジーナは選任されている。

転移魔法で家に戻ると体力がだいぶ減った影響で倒れてしまう。

気がつくとリーナとラジーナがそばにいた。

「ここは?」「自宅ですよ。戻ってきたら倒れてしまったので」

「メイドさんや執事さんが慌てふためいてましたよ。リーナさんが事情を話して落ち着かせて私に運ばせました。」

「身体を見たら全身大火傷をしてるじゃないですか。リーナさんから何をやったか聞いてこっちまでショックになったんですからね?」ちなみにその火傷のあとはリーナが丁寧に消してくれた後らしい。だいぶみんなに迷惑をかけてしまったな。

「本当にすまなかった。みんなに心配をかけてしまって」

「謝るのなら、私に手を出していないこともですよ?」

そうだ。基本的に妊娠していても俺はリーナのことを愛している。もちろん互いに避妊の魔法を使って胎児への影響は0にしている。ただ、タイミングが難しいのもあった。この手の話題をいつ切り出すかというのは雰囲気の問題もある。

ラジーナ達曰くドラゴンが妊娠すると変身できず飛べなくなるのでしばらくは避妊する方向で行くそうだ。なにしろ2年間もかかるのだから。じゃあ手を出す必要なんてないんじゃ、、と思っていたが彼女達の見解は違った。

「きちんと愛し合っている証が営みなんですから、ちゃんと彼女のことも妻とするなら責任を取ってください。」リーナの意見だ。ごもっともだ。なので当日手を出すことになった。

彼女のレベルが高くて体力も大きいので一晩中する羽目になった。完全に搾り取られた俺は昼間まで眠ることになった。


サキュバスです。作品違うんじゃと思った貴方。よく聞いてください。この作品の避妊の魔法と受精の魔法は我々一族が完成させたものなのです。

我々サキュバスは常に男の精液が生命維持のため必要です。

そのため、直接調達ができない場合は非常に困るわけです。

だから、男達が意図せずに我々のために使える精液を垂れ流す方法が避妊の魔法なのです。

避妊の方法は人間に渡すときには絶対秘密で、かつ魔力を持つ人間全員が使えるような仕組みになっています。

で、肝心の方法ですが、魔法を使うと精液が異空間に飛んで膣内に一切残らないようにするのが避妊の魔法です。これは男性版、女性版ともに仕組みは同じです。

基本的に女性からの収入が圧倒的に多いです。妊娠したいと望んでいない限りこの魔法は常時発動です。男性版の場合、オナニーもこの魔法を知っていた場合異空間に飛んで汚れずに済むのでラッキーと思われているようです。

で、なぜ受精の魔法も開発したかと言うと、サキュバス自身の繁栄のためです。サキュバスは精液を食糧にしてますが、一部の男性の精液のみですが受精することが可能です。ちなみに当然ですが賢者様の精液なら受精することが可能です。この作品で賢者様が積極的に交わるようになった結果、少なくないサキュバスが妊娠しました。そう、賢者様は知らないところでサキュバス達の父親にもなっていたのです。


一方、とある場所において。

???「次の種は撒きました。どうやって対処するのか見物です。ああ、それと例の姫だけは悲劇的に死んでもらう必要がありそうですので刺客を差し向けました。」


結婚式前日。ラジーナ用のドレスが届いた。

「どうですか?似合いますか?」と嬉しそうだ。

彼女は人間形態でもドラゴンとしての特徴としてしっぽと角が生えている。ただ、一時的な魔法としてなくすことができる。

普通に寝たり、致すときには邪魔になるためだ。

「奥様もお似合いですよ」とジューレが言う。元々は彼女のウェディングドレスだ。妊娠によってサイズが変わってしまわないか心配ではあったが、感覚が違いすぎるだけでまだリーナは妊娠2か月だ。地球でようやく妊娠が発覚するタイミングだ。そこまでお腹は出ていない。

「ありがとう、でも貴女もまた結婚したいんでしょ?あの方と」

「そうですね。」え?誰だ。ジューレに好きな人もういたんだ。

でも、心当たりがない。普通に彼女は聖職者としているので彼氏探しをしている雰囲気はないのだが。

(前も書いたが孝二は婚約して新居に来るまでリーナの気持ちに全く気が付かなかった超がつくレベルの鈍感である。)

「賢者様もタキシードお似合いですよ」そう語るのは執事のアトラだ。「ありがとう。」「結婚式楽しみですね」とラジーナが入ってくる。俺も楽しみだ。

アトラはジューレに張り付かれて困っている。「ジューレ様、やめてください」「なに?私だってあれをされて意識しないわけなんだからね?」一体何をしたというんだ、、というか相手はアトラか。さすがに距離が近いから分かる。でもアトラ自体は明らかに乗り気じゃなさそうだが。

とリーナが部屋に入ってきて、「アトラさんがお話を聞いてあげていたら彼女が思いっきり泣くことができたんです。親や婚約者の処刑は彼女の心に少なからず影を落としてますから」

確かに彼女の両親や婚約者は俺を消そうと画策して実行に写し、反逆罪で処刑された。反逆罪は王様だけでなく要人に対してのものも適応される。だが、日本ではまずあり得ない感覚だ。殺人未遂だけで死刑が適応されるなど普通に重すぎる。

殺人未遂こそ重大な犯罪だけど死刑になるほどではない。

おそらくそれこそが彼女の心に深く刺さっている闇と関係しているのだろう。

「少し彼女と二人きりで夜お話します」とリーナが言う。

「ところで論文のほうはいかがですか?」と話題を急に変えてきた。「あと少しで公表できる範囲内の研究は書き終わる。そしたら前から計画していた旅に出る予定だ。」

そう、ラジーナが来てくれたことでかなり自由に外に冒険が可能になった。だからまだ見ぬ魔法、未知なる現象を求めて旅に出ることが可能になったのだ。しかも転移魔法があるので夜家でイチャイチャできるだけでなく朝すぐ続きから冒険を再開することができる。何より危険になったらすぐに帰ることができるのは精神衛生上大事なことだ。あの決闘以降妻達から「賢者様に何かあったら困るので危なくなったらすぐに家に帰ってくるように」と強く念を押された。まぁあの姿を見てもなおどんな危険なことがあるかわからない冒険の旅をさせてくれるのだ。自分でも愛されているんだなと感じるし、そんな妻達をいとおしく思えるのだ。

だから、きちんと毎回帰ってくる決意を胸にした。

その夜。ジューレはリーナに部屋に来るように言われていた。

「アトラさんのことが好きなのよね?」そう聞かれた。

「そうです。あんな泣いたのに普通に接してくれました。それが何より自分には嬉しかったんです。教会では誰も慰めてくれませんでしたし、ひたすら祈りを捧げるしかできなかったですから。」「アトラさん困ってたね。でも、おそらく嫌いになったとかそういうわけではなさそうよ?」「え?」「彼が言うには両親とかもそうなんだけど代々執事とメイド同士で結婚し続けるのが嫌なんだって。ずっと誰かに仕え続ける使命を次の世代にも継承させたくないんだってさ。」「でも、私メイドじゃないですよね?なのになぜ」ここで気付きました。彼はおそらく、執事としての仕事には誇りを持っているのでしょうが、その在り方に関しては否定的です。だから家にいる私でもあまり変わらないと思っているのだと感じました。かなり矛盾してますが、それが誇りなんでしょう。だったら、、

「結婚式の後、彼とデートしたいんですがどこがいいと思いますか?」「そうね、、あ、映画とかどう?勇者様が残していった文化の中でもカップルに人気なんだって。」

そうです。彼を「執事」ではなく1人の男性として扱うことでその縛りはないんだ、ということをわからせる作戦にしたのです。

思う存分振り回して、執事にこだわる彼の考えを正面切って壊すのです。結果それでやめたとしても大丈夫と奥様からのお墨付きも得ましたし、明日が楽しみです。


いよいよ俺達の結婚式だ。ちなみに別会場では前発表のあった妹さん2人の結婚式が行われる。俺達は恋愛結婚に結果的にはなったが、向こう2組はバリバリの思惑ありの政略結婚だ。ちなみに王様は息子である第2王子が出るリーゼさんの式に出るが、俺達の式には名代として第一王子夫妻が出席するそうだ。臨月のアーミア妃も出るのはまずいだろ、と思う。というか国民にすら正体が知られていない妃が初めて公の場に出てくるのだ。なんでメルド第一王子はひた隠しにして、なぜ臨月のこのタイミングで公表するのか。まるっきり意味がわからない。

俺達の式は無事執り行われた。しっかりとキスをして誓いの言葉を述べた。え?大事なはずのシーンなのになぜカットかって?あまりに普通なのも理由だが、大事件が起きたからだ。

式が終わったあと、第一王子が名代として王様の言葉を代弁する。隣にはアーミア妃もいるが臨月のため椅子に座っている。

しかしアーミア妃を直接見た俺はようやく隠していた理由とタイミングやらが理解できた。彼女は魔族だったのだ。

出産がもう間近というこのタイミングで発表したのは式典の関係もあるが一番は人類と魔族の友好を現す跡継ぎができると言うことをアピールするためだったのだ。勇者によって無理やりではあるが友好関係になると発表したときに秘密裏に婚約したのが魔族側の姫様であるアーミア姫だったのだ。これでアトワース国と魔王国は密命という形ではあるが同盟を結んだ。これを国民に発表できるタイミングを待っていたと思われる。魔族への嫌悪感がある間に発表しても逆効果だと思われるからだ。だいぶ薄れてきたタイミングで妊娠発覚したのが俺が来た翌日。訓練の1ヶ月+結婚式の今で3ヶ月で臨月だから妊娠発覚も安定期まで待っていたのだ。もっと早く発表してもよかっただろとは思うのだが、そのあとの展開まで読んでいたのならさすがとしか言えない。

「王の名代としてやってきたメルドだ。まずは賢者殿、リーナ殿、ラジーナ殿、結婚おめでとう。そして今隣にいるのが妻のアーミアであと1ヶ月後には出産が控えている。魔族と人間との友好は少しずつ行われて今はほぼ人間と魔族は敵対関係ではなくなった。だからようやく発表、、」とそのとき、アーミア妃に向かって何かが投げられる。暗器だ。暗殺が起きようとしていた。だが影がガードし、投げた本人は影の逆召喚魔法で瞬殺された。

いや影強すぎだろ。その後も暗殺者は直接も間接も暗殺がかなわず、全員殺された。直接は影の数の暴力で、間接も打つ前の殺気を感知されて逆召喚で倒された。会場は暗殺騒動で結婚式のお祝いムードどころではない。辺りは騒然としていた。と隣のリーナが叫ぶ。「何かがこちらに向かってきます!皆さん避難を!」

ただでさえパニック状態なのにさらに拍車がかかった。

カオス状態の中、リーナに尋ねる。「何が飛んできてる?」「大砲の弾ですね。おそらく爆発魔法が仕組まれていて着弾すれば会場一帯が爆発します。」おいおい、やばすぎだろ。弾なんて早く飛んできていて一刻も猶予はないだろとか思っていると、

「なめないで欲しいですね、私のことを。魔法騎士団長に登り詰めた人間を爆発魔法の爆弾一つで殺せるなんて甘く見すぎです。」そう言うとリーナは弾の周りに物理障壁を展開して完全に空中でストップさせてストーンバレットで破壊した。上空で爆発したが地上にはダメージは0だ。「ところで孝二さん、どこから飛んできたかわかりましたか?」「ああ、ここだな。」弾を分析してどこから飛んできたかは分かるようになっていた。

俺は地図や地理を知らないのもあったがこれから旅をするのに地点を説明できなかったり、目的地がどこか地名だけではわからないのでは困るので、地図魔法をあらかじめ準備しておいたのだ。

そもそも記憶魔法に国中の図書館の図書を記録できた時点でこの世界の地図は準備完了していたのだ。あとは地理情報が必要なときに表示できるような魔法に変換しただけだ。カーナビが衛星なしにできる魔法か、これもまた大活躍間違いなしだな。

「わかりました。孝二さんが使っていたギガボルトを落とします。」えげつない。リーナは自分が使えない魔法があると絶対にすぐに練習してできるようにする努力家だ。転移魔法でさえ、量子力学を俺の記憶を写した魔道具で勉強してマスターしてしまった。あのブラックホールも何もないところで成功できるようにしていたらしいから驚く。

数十分経っても次は飛んでこなかったのでギガボルトで大砲を破壊できたのだろう。というかそいつら死んでるな。嫁さんを怒らせたら怖いってことはわかってるけど本当夫婦喧嘩だけは避けよう。リーナが脅威が去ったことを説明して披露宴に入りお祝いムードに戻ってきた。

「それじゃあ、デートに行ってきます!奥様達もお気をつけて。」とジューレがアトラを無理やり連れて出掛けていってしまった。どこに行くんだろう。

エルバンド家は娘全員が結婚してるので会場を行ったりきたりで大忙しだ。ちなみにあの後の発表は仕切り直しで行われて、魔族の姫であるアーミア妃が嫁いだこと、そしてお腹の子は男の子であり友好の象徴であることを発表した。国民ももう1つの結婚式として盛り上がった。やっと結婚発表だからな。ちなみに縁談が秘密にしていた分大量にメルド王子にはやってきていて、王様は処理に苦労したりすでに婚約者がいることを匂わせて丁重に断っていたらしい。

ちなみに他の会場では何事もなく結婚式が終わっていたようだ。

「賢者様、皆様に挨拶を」とリーナに言われたので、

「皆様はじめまして、役目孝二です。この度私はリーナとラジーナという二人の妻と結婚することになりました。どうぞよろしくお願いします。そして、研究論文がもうまもなく完成します。この研究によって異世界の魔法の発展が期待できます。あともう少々お待ちいただければと思います。」

席から歓声があがった。勇者の発展を継げるのは賢者しかいない。そうこの場にいる誰もが感じていたからだ。

実際このすぐ後に発表された論文は異世界の常識というものを大きく変えていくことになる。火属性はより火力の高い魔法が使えて生活の魔道具としても幅広く活用されることになる。風属性は魔道具の開発に欠かせないのと、ほぼ誰でも扱える高威力ウィンドカッターは騎士団の性能向上に大きく貢献した。その親戚の圧力魔法も発表されていた。圧力魔法とは気体の気圧を調整する魔法である。これだけ聞くと?で頭で一杯になるだろうが、気圧を変えることで物体を浮かせたり、地面の圧力と気体の圧力を変えて土壁を作ったりもできるので建築分野にとって欠かせない魔法となった。

岩属性魔法は召喚魔法としての基礎として確立され、攻撃以外にも身を守る防御系統の魔法として使われていく。水属性は魔道具に組み込まれることで夏の暑い季節に有効活用されていくことになる。雷属性は細胞の刺激に使えると言うことでスライムの増殖に使われることになった。スライムはRPGではお馴染みの敵だが、ここでは様々な用途に使われる単細胞生物として下水道処理などに使われている。微弱な電気を流すことでスライムの増殖が促進できることが発覚したので、衛生環境の改善に役に立つのだ。氷属性は液体窒素を使えると言うことで物流の品質保存に繋がった。物流自体の問題は勇者が解決していたが、物品が腐ることに関しては既存の氷魔法では解決できなかったりした。それが強力な液体窒素により、簡単には腐らなくなった。

また液体を生成できるので様々なイベントで氷を用意したいときにすぐ水から作れるので便利だ。氷魔法で凍らせると魔力を大量に消費するが液体窒素のみの生成ならたいして魔力がかからない。だから大量に作っておけばいい。

光属性は前から照明として使われてきたが、さらに強力な照明が作れるようになった。このあと登場する映画の発展にも一役買うことになる。闇は真空にする魔法なので、収納に強力な魔法として使われるようになった。アイテムボックスなんてものは存在が知られていない伝説の魔法なので今はない。

聖属性はキュアの存在が世に知られるようになり、大きく冒険者の生存率を上げることになる。今までキュアがなかったこと自体驚いたが、考え方の違いというやつがないから+ある程度はヒールでも治せるってことが大きいからだろう。

ここにさらに記憶魔法や地図魔法など明らかに生活を変えるレベルの魔法が加わる。孝二はこれを特許として申請して誰でも使えるようにして使う際にお金を取るようにした。これでさらにお金が溜まっていくことになる。このときの大量のお金が後で役に立つことになる。


ジューレはアトラを連れて映画館に来ていた。

見るのはそもそもジャンルが乏しいというのもあるが恋愛ものだ。ジューレは聖職者として働いてはいるがお布施はほとんど取っていなかったので給料はほとんど0だ。だからリーナにお願いしてお金を借りている。そもそも二人とも浪費しないし給金が莫大な額あるので溜まる一方だった。なので実質はあげているのだ。ちなみに地球の映画館よりは狭いし、モニターも小さい。さらには見にくいの三拍子だ。

そもそもの映写機なものの出力が弱いからだ。孝二の光属性魔法の改良によって改善されるのだが、それは先のお話。

でもそんな地球の映画なんて知らないジューレにとっては映画は本当に魅力あふれる娯楽だった。映像で繰り広げられる男女の熱い恋愛模様にすっかりはまっていた。一方のアトラはこんな娯楽があるのかと感心していた。この男、プライベートは実家に帰ったところでろくな娯楽がないので執事の仕事をしてることは思えないぐらい眠ることに終始する。仕事し過ぎってことだと思う。週一しか休みがないってどこのブラックだよって話だ。それでいてろくに金も使わないので貯まっている。食事も三食全て向こうで済ましてから帰るからだ。だから彼女にお金を使うのも普段使えないお金が使えるのでいいかなと思っていた。

映画が終わったあと、「楽しかったですね!」とジューレが興奮していた。とりあえず彼女の目的は振り回すことなので色々なところに連れ回すことになる。博物館や娯楽施設など様々な体験をしていく中でアトラは気付く。彼女はもっと広い世界があるんだよと伝えたいのだと。生まれたときから執事の教育を受けて、完璧な執事を目指していたが、ここ最近は父親達のような存在になりたくないと在り方に疑問を持っていた。ようやく外の世界を知り、自分を解放してくれそうな人に出会えた。

夜、照明が広がる広場に二人はいた。

「執事の仕事だけがあなたの世界じゃないんです。もっと自由にあなたには生きて、そして私と一緒にその時間を過ごして欲しいんです。」ジューレの精一杯の告白だった。

彼女はすべてわかった上で自分を受け入れようとしている。

「わかりました。あなたと共に自由になれる時間を増やしてもらえるよう私から頼みます。」告白の返事としては失格だが、とりあえずは彼としてはイエスを選択した。

「そんなみっともない返事じゃさすがにまずいだろ。」そこには孝二がいた。実は地図魔法で二人の動きはリーナとラジーナとともに見ていた。で、隠蔽のローブに着替えて転移してさっきの話を聞いていたというわけだ。もちろん妻たちも。

「そうね。あなたがどうしたいかよ、ジューレと。」

「賢者様は別に執事を辞めて欲しいと思ってませんが、執事は替えが効きますがあなたは1人です。だからそこを踏まえて返事すべきですね。」リーナとラジーナも援護する。

しばらくしてアトラは絞り出すようにして言った。

「ええ、よろしくお願いします。」

すると、ジューレは抱きついた。「恋人としてこれからいろんな経験していきましょうね。今日から屋敷に住んで欲しいです。」

と懇願した。アトラは仕事場で寝泊まりとか勘弁って思ったが、これからはわからない。だってもっと自由になれるんだから。

協議の結果、屋敷には二人で住むことになった。執事はこれまで通り続けるが、休みが週一から週3日になった。別に仕事なんて代わりはいるのだ。メイドさん達だって交代制でやってるのだ。

そしてその3日を使ってデートをしたりして少しずつ関係を深めることにした。


そして、今日は結婚初夜。孝二も例に漏れず二人の相手をしていたがいつも通りなので割愛。

まず一組めであるリーラとフィート王子のところを見てみよう。

フィート王子は今年20才で結婚したリーラとは二才差だ。

彼もまた王族なので縁談が山ほど来ていた。しかしあまり彼には女性に興味がなかった。知り合った女性が権力やお金とか表面的なものしか見ていなかったので幻滅して基本的にすべて断っていたせいでこの年まで婚約者がいなかった。

エルバンド家はあまり出世に興味がない家だったので一切縁談を出さずに娘3人を全員騎士団に入れてしまう変わり者の家だった。だから美人だったとかの噂さえ知らなかった。

で、話は婚約が発表されたあとまで遡る。政略結婚だから当然リーラもまたお金とか権力に興味があるような女性だと考えていた。しかし、家を見ればわかる通りのそんな女性達とは正反対にリーラは育った。

魔物が多く出る領地でその素材収入で稼ぐ家であり、お金には困っていないし、もらったところで使い道もない。

権力もまた、こんな辺鄙な土地の貴族が目立っても仕方ないと娘を貴族の道から外したぐらいだ。全く興味なんてない。

だから金銭も王子の婚約者になっても全く喜ばない彼女を見て、フィートは衝撃を受けた。そしてこう思った。

「リーラなら私のそのままを見て愛してくれる」と。

婚約者として二人はそのまま距離を縮めていった。何も特別なことはしてなくても、二人は非常に相性が良かった。

例えば彼は王子でありながら全く継承問題には関わらないとわずか10才で宣言した。平凡に生きたいと思い、身分を隠して王立学校以外の学校に通ったのだ。そういう様は凄い姉を持っていて自分は才能があまりないと自覚していたリーラと重なった。

すっかりフィート王子から愛されるようになったリーラは秘密を打ち明ける。そう、受精の魔法が使えることだ。

「継承権なんてとっくに捨てたけど、君との子供が確実に生まれてくるのであればもっと君と幸せに生きていけると思うんだ。」

そんなことは関係なかった。王族だから確かにお世継ぎは必要。だけど確実に妊娠できる女なんてあまり愛されないんじゃ、とリーラは考えていたのだ。でもそれすらも彼は気にしない。

リーラは覚悟を決める。

「最初この結婚は嫌でした。騎士団も辞める必要があったし、王族なんてと勝手に思ってました。でもあなたは私のすべてを愛してくれた。だから私もあなたの全てを愛していきたいです。」

二人は抱き締め合っていた。さすがに王族が初夜前に手を出すのはまずいのでキスのみに留めたが。

そして時系列は初夜まで戻る。

「本当にいいんですか?子供が必ずできても。1人ならともかく、複数人だったとしても」「かまうもんか。必ず君と子供達全員を愛して、守りきってみせる。」二人は激しく交わる。

「激しすぎて死んじゃうかと思いました。」とリーラは語るのだった。


そして、2組め、クーロとリーゼのペアだ。ちなみにクーロが25才で4才差である。

クーロは騎士団長に抜擢されたのは最近だ。理由は賢者がかかわったあの襲撃事件。あそこで陣頭指揮を取り、教会に突撃して証拠を処分される前に確保したことが決め手だった。

そんなクーロはリーゼのことを常にライバルとしていた。

クーロがリーゼを知るきっかけになったのが、かつてあったスタンピート事件だ。エルバンド領は先ほども言った通り、魔物がたくさん出てくる土地だ。その性質上、魔物が大量に溢れてくるスタンピートは周期的に起きる。そこに騎士団見習い、冒険者として訪れたのがクーロである。このとき15才。

そんな中領主家族が討伐に加わっているのだ。しかも当時11才のリーゼを連れて。(リーナは魔法学校に通っていて、クロードは当時王都で騎士団に入っていた。跡継ぎなのに勝手に入っていたのが後にばれて怒られて戻ってくることになり次期領主となり今に至る。リーラは8才で魔法もそこまでではないのでお留守番)

どう考えても無茶だとクーロを含む周りの人間誰もが思った。

しかし、ボール、リズ、リーゼは他の冒険者が苦戦するような魔物に対しても怯まない。3人で一チームになり、ボールがメインで倒してリズが援護魔法と攻撃魔法でサポート。そしてリーゼは二人の死角を埋めるように魔法を打ち、剣も使って魔物を倒す。とても11才の少女とは思えない大活躍をすることになる。

クーロもまた15才とは思えないほどの実力で剣で魔物を倒していたがリーゼが倒した数のほうが明らかに多かったのだ。領主一家の活躍によりスタンピートは早期に終息した。

そしてこの少女の名前を絶対忘れないように名前を聞く。

「君の名前は?」「リーゼよ、リーゼ·エルバンド。よろしくね。あなたは?」「僕の名前はクーロ·ヘルズだ。よろしくな。」こうは言っているがライバル心むき出し。

そもそもリーゼがここまで魔物を狩れるのは、リーナやクロード達と一緒に幼いころから魔物を退治していて、レベルが普通の人より高くなっていたからだ。両親もそれをわかっていてスタンピートに大切な娘を出せたのだ。

クーロは騎士の家系で剣術を訓練していて魔物をあまり退治しない生活だった。それが魔物相手に剣術も魔法も得意でバンバン倒していたリーゼに衝撃を受けた。しかも4才も年下の少女。

ここからリーゼが魔法騎士団に入るまでは絶対あの子に負けないように魔物を狩ったり、騎士学校で魔法で勉強をして魔法でも負けないようにする。それが彼の目標だった。

リーゼという少女はおそらく冒険者か騎士になるだろう。姉リーナが魔法騎士団に入っていたことを知ると魔法騎士団に彼女も入ってくるのだろうと思っていた。そのときには彼女に勝ちたいと。ちなみに当のリーゼはここまで徹底的にライバル視されていたことを知るよしもなかった。このときまでに騎士団にエースと呼ばれるほどクーロは実力をつけていた。

そして、リーゼが魔法騎士団に入ると早速決闘を申し込んだ。

いきなり入った新人に騎士団のエースが真っ向勝負を仕掛ける。

騎士団の他の兵士はぼこぼこにするための儀式か何かと思っていた。当の本人は大真面目なのだが。リーゼも困惑していた。

決闘前日、リーナに理由を尋ねると

「リーゼが大活躍してたのをバネにしてここまで頑張ってきたかららしいよ」と言われて、確かにそんなことあったな、と思っていたがそんな過去の話を蒸し返すような男なんて倒してやると逆に燃えた。

決闘は激しいつば競り合いとなった。剣術ではお互いの間合いをキープしながらひたすら打ち込んでガードしたり、受け流したり避けたりと高度な戦いになった。魔法の打ち合いですら互角で決着がつかずに引き分け。リーゼはこの戦いで勝ちきれなかったことを後悔し、クーロもまた倒せなかったことを後悔することになり、騎士団では毎年一回行われる戦いになった。ちなみに一勝一敗1引き分けと今年までは完全五分だった。

騎士団と魔法騎士団というジャンルが違うのに常に磨き合い続ける二人は2つの騎士団のエースとなる。男女で決闘してることで周りからは付き合っているだの、常に相手のことを考えて行動してるから結婚もできるんじゃないとか色々噂されるが、その度に『違います!』と否定するのがお約束だった。

でも二人とも戦いに対しての臨みかたは似ているし、とっても負けず嫌いなのだからいざくっついたらあとは早いんじゃないか、と姉のリーナを含む周りの人間は思っていた。そしてこの件は有名だったので王様の耳にも届いていた。

で、作中の賢者の活躍である。火属性魔法の仕組みを聞いた時点で賢者の魔法に対する理解が進めば、わざわざ騎士団を分ける理由も薄いだろうと王様は思っていたのだ。

そして賢者を含めたエルバンド家全員の魔族の暗躍に対しての大活躍に報いる形で騎士団の統合と団長同士の婚約が発表されたわけだ。

当の本人同士は当然困惑していた。しかし周りからすれば

「さっさとくっつけと思っていたペアがようやく(無理やりだけど)くっついたんだな」程度にしか思っていなかった。もう周りにはカップル的な目で見られていたのだ。

とりあえず、ずっと戦ってきたのに全然お互いのことを知らなさすぎた二人は婚約を機に少しずつお互いのことを知っていく。

すると、次男と次女でお互いに兄や姉の存在が大きいことや(クーロの兄は王族を警護する近衛騎士団長)、性格もよく似ていることも明らかになっていく。

「俺達、似たもの同士で絶対に負けたくない巨大な壁が近くにいたってことだったんだな」とクーロがつぶやく。リーゼも

「お姉様があれだけ賢者様とラブラブに暮らしているので私たちもまたそういう関係になれたらいいですね。」と返す。

このペアは長い付き合いで心のどこかではこの人と相性がいいんだろうなと思いながらも意地を張って突っぱねていただけだったのだ。それがなくなると仲良くなるのはあっという間だった。

騎士団の訓練の最中、

「こうしたらもっと強くなれると思うんだ」「ではこのメニューをこう改良したらどうですか?」と二人が訓練の改良について話し合っていた。ただ、周りからはどれだけ真剣を装ってもイチャイチャしているようにしか見えない。「くそぉ!」と騎士の1人が悔しそうに真剣に練習に励んでいるのを見て、

「あれは独身に見せるには危険」「訓練中に愛を育まないで欲しい」と噂されることになる。本人達ははてなが浮かぶほど何のことか理解してなかった。

そして、初夜まで時間は戻る。

「お前さ、本当に俺でいいの?別の男と付き合うことだってその美貌ならできたんじゃ?」「あら。あなたは7年もの間私が騎士団に入るまで待ってくれた素晴らしい殿方ですから、これ以上の方なんてまず見つかりませんよ。」「でも、、」「でもじゃないです。団長なんだからちゃんと自信を持ってください。じゃないと子供にいい父親になれませんよ?」ちなみにリーゼもまた受精の魔法が使えることを話しており、クーロはこの日必ずするので1児の父親になることが確定していた。だからこその上記のセリフである。「だな、この国を守る剣として、家族も守ってみせる。だから、そばにいてくれ。」


数日後。エルバンド家から連絡が届いた。ここに来て欲しいと。

転移の魔法で一瞬で移動する。ラジーナをエルバンド家には紹介してなかったので、紹介する。

「ラジーナです。皆さんよろしくお願いします。」

「で、お話って何ですか?」

「マイナさんとうちの妻のリズが妊娠した。」

えええ?何が起こったら、いや何をしたかは分かるけど、二人とも妊娠することになるのさ。あ、もしかして、、

「浮気です?」「いいえ。間違いなくお義母様も私も夫との子供ですよ。」マイナさんが答える。俺は受精の魔法のことを知ってる男というのはほぼ子供が欲しいと思わない限り自分で性欲を処理して奥様にそういうことはしないはずだと考えた。ボールさんもクロードさんもどう見ても性欲に走りそうなタイプには見えない。むしろ真逆だ。

するとリーナが秘密を教えてくれた。すでに種を知っていたようだ。「実はあのとき賢者様が仕留めたレッドベアには興奮と滋養強壮の効果があります。」マジかよ。リーナに手を出したのは急激なレベルアップのせいだけじゃなかったんだ。

「おそらくその残りを食べさせて衝動を押さえられなくなったのでしょうね」いや、怖すぎ。種馬としか思っていないのか?

「いや、単純に男の子が欲しかったからですね。貴族家系では普通のことです。」リーナがそう言う。なるほどね。

え?じゃあボールさんは?と思うとこっちも知っていたようだ。

「母が言うには自分が改良した魔法を試す相手が自分ぐらいしかいなかったことと、簡単に命を弄んではいけないということのようでした。」ちなみに改良型は男の子を選択して産み分けられるものらしく、貴族女性にはもってこいだ。しかも、、

さらに改良を加えてリズさんは双子になるようにできる魔法を作ったらしい。怖すぎるわ。これは勇者知識の賜物らしい。

で、自分で試すことになったのは分かるけどどうやってボールさんに手を出させたかだが、、

「婚約発表の翌日、私が母に怒られてたでしょ?そのときに録音の魔法で妹二人に怒っている自分の音声を流して私にだけ作戦を説明していたの。それでメイドさん達に幻惑キノコを混ぜた料理を父に出すように伝えたわけ。」幻惑キノコはエルバンド領の奥地で取れるキノコで性欲上昇と異性の魅力上昇、配偶者でさえ見知らぬ顔になるほどの強力な幻覚作用を持つらしい。いややってることサスペンスドラマだろ、これ。そのキノコを毒に変えれば簡単に殺せるわけで。で、裸で待機していたリズさんに手を出してしまいまんまと術中にはまったわけだ。というか俺の家でやるな。これは男性陣と仲良くしないとな、女性に嵌められたもの同士。「大変でしたね」「ええ、あれ以降毎日です」「食べ物には注意しないといけませんね、お互い。」「全くです。」

妻被害者の会ができた瞬間だった。でも妻を愛していることには全員変わらないのだが。

次回、本格的な彼の旅がスタートする。





第1章、どうでしたでしょうか。

正直、書いているときにはこんなに恋愛要素てんこ盛りな展開になるとは思ってませんでした。

前書き通り、この作品はあくまでも研究がメインなので、次から始まる冒険も恋愛要素でさえオマケでしかありません。

しかし、キャラクターに没入できるように書いていった結果がこの小説です。正直かなり考察の部分ははしょってます。専門的過ぎても理解が難しくなってしまうからです。

ちなみに次回はスタンピートや、異世界テンプレ魔法のアイテムボックス、主人公も持つ分析「鑑定」、「異世界言語翻訳」の考察を中心に行っていきます。

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