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【長編】病んでる二人の同居人  作者: 夏目くちびる
第三章 責任は、女が男を縛る最も頑丈な鎖
32/35

29縛 オーバーラン

「何考えてるの?」



 思わず笑ってしまうと、桔梗に問い詰められてしまった。不審がられただろうか。



「何でもない」



 考えなくても、二人は戦っているんだ。ここでどちらかの不利になるような事を言えば、出し抜かれたと感じて自分を傷付ける可能性がある。下手な事を言うのは下策だ。



 道が開けたとはいえ、厄介なのには変わりないな。



「何でもなくないでしょ?」



 言いながら、桔梗は徐に俺に抱き着いて、それに続く形で京も逆から俺の腕を抱いた。なるほど。この7日間の事はあんまり覚えていないけど、俺は二人とこんなに近い距離で接していたのか。そりゃ、飲み込まれておかしくなっちまうワケだ。



 まずは、人形から脱しないと。好きになってくれた俺に戻らなきゃ、それも裏切りになるだろうし。



「ここいらで、ハッキリさせておきたいんだけど」

「なんですか?」

「お前ら、どうして喧嘩してるワケ?」

「えぇ……。そういうのって、絶対に訊かないのがこういう関係のセオリーなんじゃないの?」

「知らねぇよ、当事者になった人間がドロドロを放置してられるか。俺は、なんとかしてぇんだよ」



 二人が俺を抱く力が、少し弱くなった。



「まぁ、私の方が時生さんの事を好きですけど、古谷さんも時生さんを好きだからじゃないんですか?」



 京も京で、言いにくい事をハッキリ言うヤツだ。だから、桔梗だけが質問の答えを口に出来ないでいる。



 だが、それはある意味当然の事だった。



 何故なら、桔梗は失恋を目的としてしまったからだ。言葉通りに受け取るなら、そもそも俺を自分の物にしたい京と、俺から離れたい桔梗の間に争いが起きること自体が矛盾しているのだ。だから、何を言っても理由になり得ないと理解してしまったのだろう。



 ならば、彼女たちを引き合う力は一体何なのか。それを、俺の口から言うのは(はばか)られる。



「もう、認めればいいじゃないですか」



 ……俺は、初めて京と桔梗が互いを見て話をしたのを見た。



「何をですか?」

「時生さんの事、好きなんですよね?なら、失恋したいとか、昔の事とか、そういうのに囚われて勝負を掻き回すのは止めましょうよ」

「意味が分からないです」

「張り合いが無いと言ってるんですよ。勝負を長引かせる事が目的なら、ここから出て行ってください。時生さんにそうしたように、私との勝負だって答えを出さずに去ればいいんで」

「……うるさいです」

「安心してください、私は時生さん程優しくないので、思い出しもしませんし責任も感じませんから」



 怒っている。それも、明確に。



「ズルいですよ。過去(むかし)の話を持ち出して、現在(いま)から目を逸らそうとするなんて」

「うるさい」

「時生さんが私に向けている感情が、私とはきっと違うと分かっていても。私は、必死で現実を見ているのに」

「うるさい!分かってるよ!そんな事!!」



 突然の、引き裂くような声だった。



「じゃあ、どうすればよかったのか教えてよ!私だって、最初からあんな事やりたかったワケじゃないの!時生が、時生が何やっても怒らないから!私の事全然気にしてないんじゃないかって心配しちゃったの!仕方ないでしょ!?いつも違うところにいるような気がして、だから不安になったって仕方ないでしょ!?」



 俺を見る目は、潤んでいて。



「ねぇ、分かる!?優しいだけじゃ寂しいの!迷惑かけてくれないと、信用されてないんじゃないかって不安になるの!!それなのに、近衛さんには頼って頼られて、私だってそういう風に見て欲しかった!なんで分かってくれないの!?なんで怒ってくれないの!?時生にとって、女ってなんなの!?見下さないでよ!何でもかんでも責任責任って、そうやって私を一人ぼっちにしないでよ!!自己中にエッチな事してよ!何でもないって誤魔化さないでよ!そういう風に見てないなら、最初から好きだなんて言わないでよぉ!!」



 肩を落とすと。



「なんで、好きにさせるのよ。好きになっちゃったら、もう他の(ひと)の事なんて好きになれるワケないじゃん。ばか……」



 静かに、涙を流した。



 狂ったフリだったのか、狂いきれていないのか、そこのところは分からない。ただ、二人の言う男の甘さってのは、今の俺の事を言うのだろうと思った。俺は、桔梗に何も言ってやることが出来なかったからだ。



 しかし。



「不純ですね。別に過去の不幸自慢をする気はありませんが、私だってそれなりに苦労しましたよ」



 京は、そうではなかったようだ。一つの迷いもなく、バッサリ切り捨てたのだ。



「……時生に好かれた事も無いクセに、何が苦労よ」

「はぁ!?」



 あれ、流れ変わったな。



「だって、そうじゃん。最初から同情されてるあんたと、恋愛から同情に変わった私を一緒にしないでよ。立場に甘えてるのは、そっちの方でしょ?」

「さ、さ、最初から同情って、違います。時生さんは私に……」



 傘を差した。あれが同情でないと言い張るには、少しだけ無理があると他人事のように思った。

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