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【長編】病んでる二人の同居人  作者: 夏目くちびる
第三章 責任は、女が男を縛る最も頑丈な鎖
31/35

28縛 混乱

 × × ×



 さて、俺の元気は復活して、二人に自信を付けるため褒め殺す事が決まったワケだが。ならば、先に二人にやってもらわなければいけない事がある。



 それは、褒める理由を作ってもらう事だ。



 遥は、物事には必ずキッカケがあると言った。ならば、逆説的に物事を作るには必ずキッカケが必要と言うことになる。



 疑っても疑いきれない、真理にも似た木の根っこの部分。しかし、きっと勉強や見た目を言っても何も嬉しくないだろう。同年代である以上、俺よりも優れているところを認めたところで、それは『褒め』でなく『憧れ』になってしまうからだ。



 さぁ、どうしようか。



「今日のお昼は、近衛さんと随分楽しそうに話してたみたいですけど」



 夕方。家に戻ってくると、京だけが部屋にいた。なるほど。冷静になって見てみると、京はスペシャルな美人が持ち腐れるほど辛気臭かった。というか、何が深淵だコノヤロー。顔色が悪くて、黒目がデカいだけじゃねぇか。



 ……しかし、意識一つでここまで見え方が変わってくるとは。世界ってのは、案外単純なのかもしれない。



 まぁ、色々と試してみるか。



「羨ましいだろ」

「どっちがですか?」

「俺が」

「なら、羨ましくありません。それより、時生さんが見ていない間、私は粗相を犯しました。お仕置きしてください」



 京は、やはり意味の分からない能書きをこいて、俺からの『お仕置き』を貰おうとしていた。まぁ、こういう事を言い出すって分かってたから萎えたワケだけど、今となってはむしろ好都合だ。



 アホめ。お前は、俺の罠にハマってんだよ。



「なら、皿洗いでもやってもらおうか。朝飯の茶碗が、水に浸かりっぱなしだ」

「そ、そういうことなんですか?もっと、私にやらせたい事とか無いんですか?というか、今朝と様子が違くないですか?なんでですか?まさか、近衛さんと話をしたからですか?私より、あの男の方が好きだっていうんですか?」

「お仕置きが終わったら、教えてやるよ」

「……意味が分かりません」



 とかなんとか言いながら、京はスポンジに洗剤を落として弁当箱と一緒に朝の食器を洗った。俺は、ラジオを付けて壁により掛かり、逆に京をジッと見ていたが。……そろそろ、終わるみたいだ。



 褒めてやる。覚悟しろ。



「終わりましたけど」

「そうか、ありがとうな。こっちおいで」



 手招きをすると、京は「あれ?何かおかしいぞ?」的な表情を浮かべながらも俺の目の前に正座した。



「ほら、頭撫でてやるよ。それとも、手にクリームを塗ってやろうか。さっき、薬局で買ってきたんだ」

「う、うへへ。……じゃなくて、なんですかいきなり」



 照れたな。ありきたりなようで、実は新鮮な反応だ。



「なんてことは無い。皿を洗ってくれたんだ、その感謝をしてるだけさ」

「それがおかしいんです。だって、最近はうわ言のように肯定するだけだったのに」

「気が変わったんだよ。なんだ、いらねぇのか」



 姿勢を直して、少しだけ目線の高いところから言うと、京はそっと手の甲を差し出してきた。か細くて、爪が短い。



「夏は大して乾燥しないだろうけど、ケアしとくに越したことはない」

「は、はい……」



 手を取ると、京は少しだけ指を動かした。



「金持ちだと、中々皿洗いなんてやらないだろ」

「まぁ、そうですね。ここに来るまでは、一度も」



 クリームを少し取って、優しく塗る。



「お前の母ちゃんって、洗濯とか出来んの?」

「分かりません。少なくとも、家事をしてるところは見たことがありません。秋津がやってくれますから」

「なら、母ちゃんより京の方が家庭的なのかもな」

「か、家庭的だと何かいいんですか?」

「その方が、魅力的だ。……ほら、終わったぞ」



 手を離して顔を見ると、瞬きを2回してから。



「そうなんですか」



 呟いて、京はゆっくりと近付いて来た。



「よくやったな」

「別に、時生さんはずっと一人でやってたことです」

「なんだよ、こういう時は素直じゃねぇんだな」

「だって……」



 だって。その先の言葉は、思い浮かばなかったようだ。だから、俺は彼女の瞼にかかっている前髪を耳に掛けて目尻をなぞってから。



「まぁ、せっかく同棲してるんだ。一緒に頑張ろうぜ」



 一回だけ、頭を撫でた。



「……そんなこと言われるの、初めてです」

「あんだけ、周りに人がいるのにか?」

「はい」



 ……一瞬だけ、京の中に何かが見えた気がした。しかし、その正体は朧気で、名前をつける事は出来なかった。



「なぁ、京」

「なんですか?」



 言いかけた時、桔梗が帰ってきた。相変わらず、狙いすましたかのようなタイミングで現れるヤツだ。



「ただいま、何してんの?」

「何も。それより、遅かったじゃねぇか。どうかしたのか?」

「別に、ちょっと用事があっただけだけど。……え?どうしたの?朝と違くない?絶対なにかあったでしょ。ねぇ、近衛さんに何言われたの?」



 帰ってくるなり、二人揃って近衛さん近衛さんと言いやがる。こいつら、実はかなり遥の事を意識してるみたいだが、それにしては今日も危害を加えるような事はしなかった。まるで、あいつを恐れているみたいだ。

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