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【長編】病んでる二人の同居人  作者: 夏目くちびる
第三章 責任は、女が男を縛る最も頑丈な鎖
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27縛 リロード

 お仕置かない?責任を取らせる?こいつは、一体何を言ってるんだ?



「あれ、分からない?いつもなら、すぐにピンと来てるところじゃんか」

「すまん、頭がバグってるんだ。ヒントを頼む」

「何も、叱って言いつけるだけが方法じゃないって事さ。こういえば、分かりやすいかな」

「……もしかして、褒めて伸ばすって事か?」



 言うと、遥は人差し指を立てて俺に向け。



「その通りだよ。矢箕さんが悶え苦しむまで褒め殺してあげればいい。自尊心が芽生えて、時生から距離を置きたくなるまでね」

「でも、桔梗はどうする。俺は、あいつに……」

「死なれるようなキッカケを作ったって?そんなの、バカげてるよ。だって、時生はフラレてないんだから」

「なに?」

「忘れたの?古谷さんは、クリスマス・イヴに来なかったんだ。時生に、『さよなら』を言えなかったんだよ。悪者に成りきれない彼女が、それを忘れて時生に付き纏うなんてあり得ない。言葉の有無は、それだけ重要なんだよ」



 荒唐無稽だ、流石に、詭弁に過ぎない。



 ……だけど、もしも本当に失恋とフラれる事は、同義じゃないとすれば。



――別に、私は時生にやった事を許してほしいワケじゃない。



「あれが、噓か」

「可能性の話さ、それ探すのは時生の役目。外野の僕がガタガタ言うことじゃない」



 充分過ぎるぜ、バカヤロウ。



「要するに、彼女たちに自信を植え付けて、自己肯定感を高めてあげればいいのさ。そうすれば、心の足りない部分だって埋まるんだから。依存だって、自然となくなっていく」

「なら、俺がやるべきことは」



 二人が自信を失った理由が分かるまで褒め続けて。



「闇の根源が見えた瞬間、そいつをぶった斬る。手っ取り早くて、いい方法だろ」



 ……化物には化物をぶつけるとは、本当によく言ったモノだ。



 天才は、物事を出来るだけ還元して考えるとは聞いていたが。褒める。殺す。まさか、この状況をたった2つのファクターで解決しようとするなんて。



 尋常じゃない。そんな発想、他の誰にも出来やしないだろう。



「ただ、殺す時は生半可な『褒め』じゃダメだぜ?彼女たちが、失った自尊心を取り戻せるくらい、むしろ斬られて殺されたことにも気が付かないくらい、圧倒的で印象的なパワーの『褒め』が必要なんだ」

「つまり、普段からボルテージを上げ続けて、最後に強烈なインパクトを与えるってことか。なるほど、ぶった斬るとは言い得て妙だ」

「そうそう。やっと、時生らしくなってきたね」



 遥は、今日も終始ニコニコと笑っている。こいつはきっと、俺の逆境をゲームのように楽しんでるんだろう。だから、俺自身に深く感情移入もせず、羞恥心なんて考えもせず、こんな狂った方法を思い付いたのだろう。



 でも、遥は今までもずっとそうだった。どんな時でも、人生を心の底から楽しんでる。自分に驕らず、この学校の碩学(せきがく)として、俺の親友として、毎日を本気で幸せに生きている。



 そんな遥の言う言葉だから、俺は信じられたのかもしれない。



「……分かってるよ。時生は、今までずっと自分の足だけで立って、一人で生きて来た。だから、これが時生にとって一番残酷なやり方なのは分かってる。僕は、『お前が大人たちにしてもらえなかった事を彼女たちにしろ』って。『お前の生きてきた人生を疑え』って、そう言ってるんだから」



 持っていないモノを、くれてやれ。なるほど、屏風の中の虎を退治するようなモンだな。



「でも、何が正しいとか、何が正義とか。僕にとって、そんなことは関係ないさ。そもそも、矢箕さんや古谷さんが救われようが救われまいが、心底どうでもいいんだよ」



 ……不思議だ。



「ただ、お前が諦めるのが『らしくない』から、僕は諦めて欲しくない。それだけ」



 初めて会った頃が懐かしい。何故か、そんな事を思い出すくらい、俺は心の中に余裕が出来て、そこを埋めるようにフツフツとやる気が湧いている事に気が付いた。



 頭が、痛くない。



「……わかった。やるよ、遥」



 深く、深呼吸をした。



「大丈夫だ、やってやる。こうなったら、褒めて褒めて褒めまくって、二人を俺好みの『恥じらいのある女』に仕立て上げてやる。チクショウ、萎えてへこたれるなんて、この薬師時生の人生においてもっとも恥ずかしくて屈辱的な事だったぜ」



 大きく息を吐いて、頬を思い切り叩き、目の前に広がっていた霧を吹き飛ばした。



「そうこなくちゃ」



 言って、遥は再び笑った。



「悪かった。無様晒した上に、助けてもらっちまって」

「いいんだ。僕は、時生に一生掛かっても返しきれない恩がある。それに比べれば、全然大したことじゃない」

「まだ言ってんのかよ。たかが、血をくれてやっただけだろ」

「でも、それが無ければ僕は死んでた。紛れもない事実だ」



 ……家族がいない俺にとって、血を分けたお前が生きてる時点で、もう全部返してもらってるようなもんなのによ。



 バカなヤツだ。



「おっと、残念だけど僕に惚れないでくれよ?その気持ちには答えられない」

「ははっ、抜かしやがって」

「それに、僕もこの恋愛症候群で見つけるべき人を見つけたんだ。実を言うと、今日はその自慢をしに来たんだよ。さっきのは、モノの()()()さ」



 その軽口で、俺は久しぶり笑った気がした。



「聞くよ。自慢してくれ」

「実は、後輩の子でさ。何かよくわかんないけど、急に僕の事を好きだとか言ってきたんだよ」

「へぇ、そりゃビックリだな」



 そして、俺は時間が許すまで、遥の話を聞いていた。甘い話に、思わず空を仰ぎ見た時。ようやく、俺は今日、雨が降っていなかったことに気が付いた。

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