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【長編】病んでる二人の同居人  作者: 夏目くちびる
第二章 彼女たちは、人として大切な何かが欠けている
23/35

京の世界②

 ○ ○ ○



 きっと、人は完璧であるほど、誰にも愛されないのでしょう。



 『出来の悪い子ほど可愛い』だったり、『報われない人ほど愛おしい』だったり。この世界の人たちは、不完全で欠けているモノを好んでいるようです。苦労や努力を重んじて、結果の出ない者ほど慰められ、励まされるようです。



 少なくとも、私はそうではありませんでした。



 お父様の教えを守って行動し、お母様の望む理想の人間になりました。言われるがままにこなして、望まれるままに生きて、みんなが思う理想の人間として実力を身に着けていきました。



 ですから、悪い子でも、不運でも無かったのだと思います。どんな言い付けでも守り、どんな困難でも乗り越えました。努力は実り、結果となって。トロフィーや賞状が、客観的な事実として積み重なっていきました。



 その一つ一つが、私がみんなから遠ざかって行く理由であるとも知らずに。



 やがて、結果を出すたびに段々と周囲の反応が変わっていきました。最初は珍しかった表彰も、数を重ねるごとに当たり前へ変化していき、遂には常識として私にのしかかりました。犬は撫でれば喜ぶ、と誰もが知っているように。私は、結果を出すのが当たり前だと知られたようでした。



 もしも、こうなる前に失敗の一つでもしてみれば、私は誰かに慰められ、励まされたのでしょうか。お父様とお母様は、心配して帰ってきてくれたのでしょうか。今となっては、分からないことです。



 ただ、それを思えば、私が私を知らない人と出会いたいと思う事は、ごく自然の流れだったのだと思います。

 今あるイメージに囚われず、矢箕京を見てくれる人。そんな誰かであれば、きっと私を慰めてくれて、叱ってくれるだろうと思ったのです。



 だから、私は町へ出掛けるようになりました。私を救ってくれる、誰かと出会う為に。



 最初に求めたのは、共感でした。しかし、すぐにそれは手に入らないモノだと再確認させられました。同じ年頃では、男性も女性も常識の違いを知った後、すぐに周囲と同じ反応を見せるからです。



 そのせいで、町を彷徨ううちに、寂しさは更に加速していきました。これだけたくさんの人がいるのに、誰一人私を分かってくれない。そう思うと、次には優しさを求めるようになりました。



 そして、その願いを叶えてくれるのが年上の男性であるだろうという事は、容易に想像が付きました。だから、私は少しだけ、悪い子になろうと思ったのです。



 しかし、良識のある大人というのは、得てして見知らぬ女子高生と関わりを持ちたがらないモノでした。道で困っているフリをしても、交番へ案内されるだけです。助けてくれても、連絡先を訊けば断られるだけです。



 優しさに触れても、指の隙間からすり抜けていく。今までよりも近づいて、しかしやはり離れていく。

 この事実は、私の心に酷い焦燥(しょうそう)を生みました。やがて、思い通りに行かない事を知って、もうどうしていいのかが分からなくなってしまいました。



 私は、暗い路地裏の隙間に挟まって膝を抱え、町を往く楽しそうな人たちを羨ましく見る事しか出来ませんでした。痩せている自尊心と佗しさに、私の積み上げたモノはあまりにも不相応だったのです。



 狭い穴蔵から、出られなくなってしまった山椒魚。それが、本当の私の正体でした。



「だれか、たすけて……」



 優しさへの飢えに耐えきれず呟いた時、どこかから一枚のフライヤーが私の足元へ落ちてきました。思わず目を向けると、そこには決して安くない金額と、『出会い』という文字がありました。



 それが、私が知らない誰かに存在を認めて貰える唯一の方法だと理解したのは、罪悪感からの涙を一粒だけ流した後です。



 ここは、歌舞伎町。もうすぐ雪の降りそうな、寒い夕方の事でした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自分でも自分が歪だとは分かっていたのかね。 やりきれない話だけれども、親子関係と言える関係が無いもんだからね。それに、隣にいるのはあのサイコメイドと来た。 優しさに飢えてらっしゃる…
[一言] 歌舞伎町で出会いなんて言ったら京そら壊れますわ
[一言] 本当にそういうとこ行く前に、監視の人が止めそうやけど。
感想一覧
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