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【長編】病んでる二人の同居人  作者: 夏目くちびる
第二章 彼女たちは、人として大切な何かが欠けている
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12縛 「ざまぁ」だなんて

「……京様は、帰っておられませんよ。薬師さん」



 矢箕家の、門の前。インターホンの呼び掛けに応じたのは、メイドの秋津さんだった。相変わらず抑揚の無い声で、まるで機械のような人だと思った。



「なら、京が何処へ行ったか分かりますか?ちょっと、緊急なんです」

「申し訳ございませんが、分かりかねます」

「嘘をつかないで下さい」



 俺は、硬い壁を叩くように両手をついて、正面のカメラを睨みつけた。



「あいつが行方不明で困るのは、他でもないあなたたちだ。もしも本当に居場所を知らないのなら、あなたが悠長にそこにいられるハズがないです」



 間延びしたノイズが、ジジ、と聞こえた。秋津さんは黙ったまま、しかし通話を切らなかった。



「お願いします、秋津さん。きっと、京は間違ってる。俺は、そんな事を望んでいないんです。あなたは、事情を知っているんでしょう?だったら、協力してください」



 ……ふと、ため息。確かに、聞こえた。



「惚れた男が、ナメられている。女にとって、これ以上に許せない事が、この世界にあると思われますか?」

「なんですって?」



 ナメられている。その言葉が、わざわざ俺に伝わるように敢えて使ったモノである事はすぐにわかった。



河野紗理(こうのさり)藤間淳平(ふじまじゅんぺい)木村聖也(きむらせいや)鹿取和(かとりなごみ)。そして、古谷桔梗(ふるやききょう)。彼女たちが犯した罪を、あなたは(ゆる)しました。確かに、それは綺麗で正しい事なんだと思います」



 名前を聞いても、俺の心は少しだって動揺はなかった。



「あなたは、とても大人だと思います。でも、大人過ぎるのです。理性とメンタルが、高校生の尋常とは明らかに違っているのです。そんなものさしで測った出来事を、京様が大人しく受け入れると思われますか?」



 受け入れない。受け入れられるハズがない。俺だって、立場が逆ならそうなるだろう。京や遥が同じ境遇にいれば、間違いなく犯人を許さない。追い詰めて、必ず同じ目に合わせてやると誓うハズだ。



「だから、京様はあなたの代わりに5人の罪を裁くのです。粛清するのです。()()()には、その力があります。ですから――」

「でも、間違ってる」



 だって、それは俺が最も嫌いなやり方だから。



「強情ですね、しつこいですよ」

「分かってます。でも、お願いします。居場所を教えて下さい。壊れている今そんな事をすれば、京が二度と戻れなくなる。何より、俺はそんな方法を絶対に選ばない」

「元より、京様は庶民と住む世界が違います。むしろ、矢箕家の人間として正しい道を選んでいます。あなたは、選ばないんじゃありません。選べないんです。ですから、京様は創元様の教えをしっかりと実践して――」

「みっともねぇから!学校にそんなやり方を持ち込むんじゃねぇって言ってるんですよ!大人は引っ込んでろ!」



 ……秋津さんは、黙った。きっと、呆れて何かを言う気にもならなかったんだろう。



 でも、俺は言わずにはいられなかった。



「確かに、社会に出ればそういう事だってあると思います。綺麗事を抜かすなと笑われて、軽くあしらわれる事になると思います。俺だって、それで何度も痛い目に合いました。もう二度と、人を信じないと思い込んだりもしましたよ」

「わかっているなら……」

「でも、今は綺麗事でいいじゃないですか。それが通用する間くらい、俺たちを綺麗でいさせてくださいよ」



 それに。



「女にフラレて、強い奴を仲間にして、相手と同じ方法でやり返すだなんて。そんなの、情けなくて耐えられないじゃないですか。明日から、どんな面して歩けっていうんですか」



 ……言うと、通話が切られてしまった。参った、完全に手詰まりだ。



「チクショウ、なんかヒントとかねぇのか」



 そう思ってスマホを手に取った瞬間、突然門が開いて、そこから一台の車が現れた。黒塗りの高級車だ。



「乗ってください。京様を、お迎えに上がります」

「……は、はい。ありがとうございます」



 どうやら、ギリギリ届いたようだ。助かった。



 この人が、『あの子』と言ったのを聞き逃さなくてよかった。あれがなければ、俺は食い下がるような事はしなかった。ましてや、本音を言う気になんて絶対にならなかっただろう。



 秋津さんは、京の事が好きで、心配している。それが、今回の勝因だ。



「埠頭の倉庫に、監禁しています。この件は、絶対に他言無用でお願いします。例え、どれだけ仲のいいご友人であってもです」

「……あの、もしうっかり喋ってしまったら?」



 前を向いたまま表情を歪めたその時、俺は秋津さんの口の中に、牙のようなモノがあったのを見逃さなかった。



「……うふふ」

「すいません。いえ、マジで何でもないです。さっきもクソ生意気な口効いてすいませんでした」

「別に、怒ってなどいません。ただ、このやり方は本来、子供が立ち入れるようなモノではないですから。引っ込んでいてくださいね」



 うわぁ、すげぇ根に持ってるじゃん。怖過ぎる。



「わかりました、すいません」

「……まぁ、あなたの生活を見れば、信用に足る人間である事は分かります。個人的には、フニャチンだと思いつつもあなたの人柄を気に入っています」

「そ、そうですか。嬉しいです」



 フニャチンて。



「今の所、私たちが生活を監視するだけに留まっているのもその成果です。くれぐれも、京様の扱いには気を付けてください」



 全部見られてた。いや、きっとそうだろうな、とは思ってたけどさ。そういうのって、暗黙の了解じゃん。ぶっちゃけられると、凄く恥ずかしいです。



 この人のことは、絶対に怒らせないようにしよう。

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