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【長編】病んでる二人の同居人  作者: 夏目くちびる
第二章 彼女たちは、人として大切な何かが欠けている
13/35

11縛 欲しかった日

 ○ ○ ○



 それは、物語のキッカケというには、あまりにも何気ない会話だった。



「そう言えば、時生さんはどうしてあのクリスマス・イヴに、あんな場所に居たんですか?」



 日曜日の、眠るたった10分前。京のなんてことの無い疑問から、それは始まったのだ。



「……え?」

「だって、雪の中を歩いて帰るには遠すぎますよね、あそこ」



 この時は、とうとう来たか。なんて、他人事のように思っていた。



 まさか、あんな大事になるだなんて。京の事を、見くびっていたなんて。こんな形で、繋がってしまうだなんて。考えてもみなかったんだ。



 だから、少しだけ理由を話してしまった。隠すよりも、納得してもらった方が楽だと思ってしまったから。俺なら、納得させられると思ったから。



 ……結論から言えば、間違いなく俺の人生でトップ3に入る失敗だ。サイコな性格は、伊達じゃない。その事を、もっと心に留めておくべきだったんだ。



「……やっと誘ってくれたね。でも、なんで釣り堀?」

「釣りができるからだ。結構楽しいんだぜ、やるか?」

「やるやる、イソメちゃんって初めてみた」



 三日後の放課後。俺は、都内のとある釣り堀に()()で来ていた。高校に入る前、仲良くしていたおっちゃんに教えてもらった趣味だ。



 京は、今日はいない。学校が終わった瞬間に、一人でどこかへ行ってしまったのだ。



「うぇ。はは、見てよ時生。変な液体だ、ひぇ〜」

「キモいよなぁ」

「そう?かわいいよ」

「変人だな、お前も」



 だから、俺はこの機を逃すまいと思い立ち、二人になれるこの場所へ遥を呼び出した。

 入り口が一つしかないから、仮に見つかっても言い訳を考える時間が出来るし。遥なら、俺の口三味線に話を合わせる事くらい、造作もないだろうからな。



「よし、やるか」



 ……ポチャン。



 ビールケースを並べて座り、餌を投げ込んで水面を見る。目の前を走るオレンジラインの電車が映って、ビルに反射した光の中の、その向こう側に魚が見える。時折、待ち切れない遥が竿を引き上げて。「修行が足りてない」なんて冗談を言い合って。



 ずっと、笑っていた。



 こんな日常が続けばいいのにと、心の底から思った。でも、そうもいかないから。俺は釣り上げた魚を針から外して、呟くように同棲の理由を説明したのだ。



「……そっか、そんな事があったんだな」

「悪いな、黙ってて」

「気にすんなよ。むしろ、怪我する前に打ち明けてくれてよかった。また、ボロッボロになってウチの病院に運ばれてくる事になったら、それこそ僕はなんの力にもなれないからね」



 その節は、大変お世話になりました。



「にしても、ならどうして今日は、矢箕さんは時生を一人にしたんだろう。おかしいよ」

「分からん。もしかすると、親が帰ってきてて、実家に呼び出されてるのかもな。連絡しても、通じなかったし」

「それなら、むしろ時生を紹介しようとするんじゃないかな。だって、夫なんだろ?」

「よせよ、そんなんじゃない」



 遥は、爽やかに笑った。



「物事には、必ずキッカケがあるんだ。時生、最近何があったか思い出してみなよ」

「最近か」



 ……めちゃくちゃになるくらい、強く抱き締めた。



「なにさ」

「いや、何でもない」



 これは、恥ずかしいから黙っておこう。



「……時生。分かってないみたいだからハッキリ言っておくけど、これはかなりの異常事態なんだぜ?些細な事でも、話しなよ」

「おいおい、大袈裟だな」

「大袈裟なもんかよ。お前を拉致軟禁して、家にまで住み着いて尽くしたがる女子高生が、何の説明もなく忽然と消えたんだ。これが異常でなければ、一体他の何なのさ」



 その意見は、最もだった。やはり、遥の頭脳はとんでもなくキレる。



「……まさか、俺が知らないうちにミスって、嫌われたって事か?」



 消されるのか、俺。マジかよ。



「その程度なら、どうとでもなったさ。最悪なのは、()()()()()姿を消しているパターンだ」



 その時、脳裏にノイズのようなモノが走った。何か、ドス黒くて嫌な音だ。



「もう一度訊く。時生。最近、矢箕さんと何か無かった?例えば、半年前のクリスマス・イヴの事を訊かれたとか」



 心臓が、跳ねた。こいつ、なんで分かったんだ。



「……訊かれたよ。どうして、あの場所にいたのかって」



 冷や汗。ポタリと垂れて、水面に波紋を作る。



「……マズいよ、時生」

「で、でも。俺は、『約束が守られなかった』って言っただけだ。だから、ちょっと傷付いただけだって。それで、歩きたい気分だったって。失恋したとも、裏切られたとも言ってない」



 それが、なんの言い訳にもなっていない事は、俺が一番分かっていた。その気になれば、京は全てを暴いてしまう。



「今すぐ、()()に連絡をしないと」

「お、俺は、京の実家に行ってみる。もしかしたら、メイドの秋津さんが何か知ってるかもしれない」

「分かった。こっちも、何か分かったら連絡する」

「頼んだ」



 そして、俺は一目散に駆け出すと、電車に乗って矢箕家の館を目指した。道中、何度か京に連絡したが、やっぱり電話は繋がらなかった。

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