夏のころ
さらさらした冷房の車を降りてドアを閉めると、じんわりあたたかい。それも束の間、もう暑くなってきて、志帆はロックした鍵をA.P.C.のエコバッグに落とした。
首すじをちょんちょんハンドタオルでふきながら、目的地への道をゆく。うちわに日差しをさえぎり、ときどき、駐車する列のすきまを縫ってゆく。
足を止めて左右を見渡すと、徐行する自動車がスピードをさらに落とし、すうっと停まってくれた。志帆は軽くぺこりとして、急ぎ足にわたる。汗はかかないように。あつい。陰にはいってもあつい。風がそよともふいていない。
お目当てのスーパーへ歩む道のり、向こうからスーツ姿の人があらわれた。このままゆけば、いやでも鉢合わせる。志帆は瞳を伏せて、ひとあしごとに入れ替わるつま先をみながら足取りをゆるめた。ふわりと波打つマキシスカートの裾から、サンダル履きの足がのぞく。つめが少し伸びている。立ちどまって手の指をみると、こちらはさっき切ったばかりで真新しい。
気配にふと顔をあげると、知らぬ人が横をすり抜けた。思わず左によろけたからだを戻して歩むうち、自動ドアが開いて、かごを取り、二つ目の自動ドアを抜けて店内にはいると生き返るほどの涼しさ。汗が刹那に冷えていく。
ふっとひと息、志帆はひと回りするともなく歩こうとして、すぐに大好きな果物に目を惹かれた。ほどなく、りんごとみかんの二つに絞ってためつすがめつしていると、横合いからぬっとあらわれた背の低い帽子。
志帆はすっと身を引いた。が、小さなキャップは一向平気なようすである。半そで半ズボンに小さな靴、キャラクターがくしゃくしゃになった靴下。幼稚園児とみた。男の子とみた。まだまだちいさい。
と、ふり向いた。やっぱりそう、当たり。志帆がにこっとすると、男の子はぽっと仰向いた顔をすぐにそらして、脇を活発に抜けてゆく。手の甲がふわりと波打つスカートをつたって過ぎる。見返ると、少年は片手にぶどうをひらひら遠のいていく。
我に返って、少しばかり腕組みをしたのち、小さめのりんごが五個つつまれたものにきめた。その袋をかごに入れて、つぎはお菓子を選ぼうとして、すぐさま店内に隣接するパン屋を思いだす。
パンの絵面がぽんぽん浮かぶ。それぞれの立ち並ぶさま。菓子パン、食パン、バゲット。あれもいいな。これもいいな。どうしようと思いつつ足はふらふらお菓子コーナーへ向かう。目の当たりにすると悩むほどもなく、志帆は決然と踵を返して、アイスクリームコーナーへ寄りいつものを選んだ。
レジへ並び、自分の順になって、かごを置く。最初でレジ袋をことわって、会計を済ませると、財布は片手に持ったまま、りんごと箱入りのシャーベットをお気に入りのエコバッグにつめて、その足はいそいそとすすむ。
パンを買って浮き浮き車に乗り込むと、ひたすら暑い。すぐにボタンを押してエンジンをかける。シートベルトをかちゃり。走り出すとたちどころに冷えがきた。どっとでた汗がひんやり気持ちいい。
早く帰って、食べよう。ドラマを見ながら涼んで食べよう。
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