高級馬車のコーチに付くサスペンション
デュラハン譚を訳していて、訳注にこう書いた。
Coach: 馬車の高級品、サスペンション付き。コーチマンかポスティリオン、あるいはその双方が制御した、少なくとも二頭立て以上の大型有蓋四輪馬車で、前席・後席・前後両側の扉を有し、御者は外の高い位置にある運転席に着く。ポスティリオンとは、馬車を引く馬に乗って誘導する人で、適当な訳語が見当たらない。「左馬騎手」というのを見かけたが、役割的には「先頭誘導員」のようである。
語源のコチ (Kocs [koʧ]) は、ハンガリー、コマーロム・エステルゴム県の町。15世紀、マーチャーシュ王の時代、この地で鋼鉄ばねをサスペンションに使った馬車の製造が始まった。この馬車はkocsi szekér(コチ・セケール、コチの馬車)と呼ばれ、のちに各国で「コチ」だけでサスペンションを備えた馬車を意味するようになった。
以上は Wikipedia を元に諸文献を繋ぎ合わせたもので、ポスティリオンを「先頭誘導員」としたところ、先頭以外にも騎乗したようだ。「馬車馬騎手」でいいのかもしれない。
コチの町で製造された高級馬車がコーチと呼ばれた史実に変わりはないものの、現地の博物館に行った人のブログに拠れば、博物館にあった懸架装置付きのコーチはバネ入りではなく、バネ入り馬車の資料もなかったらしい。その人が撮った写真は、ここに上げる訳には行かないから、欄外の連鎖先で見てほしい。
ただ、そのうち鋼製バネ入り懸架装置を備えるようになったのは変わらず、その機構を見てみたいと願っていたら、「重ね板バネ」として別記事にあった。欄外に連鎖した上で、その画像を貼ってみる。
自動車用に対しては圧倒的に華奢だけど、馬車としては十分なのだろう。異世界に行って馬車の改造に取り組む人はよく見てほしい。
板バネ式の優れている点は、構造の簡素にある。板バネ自体が、車体に対する車軸の位置決めと、緩衝器の役目を同時に果たしてくれ、ダンパーも無くていいから。コイル式では、こうは行かない。
下側の板バネをクランプ2本で車軸に結合、上側の板バネもクランプ2本で車体に結合。合わせてクランプ4本、左右合わせてクランプ8本で、車軸からバネで浮かせつつ、車体に結合できる訳である。これくらいなら異世界でも、ドワーフの親方でなくても、何とかなるのではないか。強度と柔軟を併せ持つ、粘り強い鋼鉄を使った板バネの開発は大変だけど、コチの職人にできたことが、ドワーフ親方にできないはずはない。但し規格品のネジがない世界なら、国際規格の制定を先にするべきだ。




