転生した神の子供。最強の力、権能を振るう。
それが流れてきたのは、なんのためだろうか。この窮地を脱するため?大切で、一番に守るべきものを守るため?違う。この声が、意思が、人のために行動するつもりがないことは自分自身がよく知っている。何故なら、この声と意思は紛れもなく、僕/俺のものだからだ。
夢を見た。天まで届く、その圧倒的な躯体。放たれる一発の閃光は世界そのものを終焉に導くものだ。それを数百発。しかしそれを相殺……どころか、軽々と突破し巨大な躯体を一撃で破壊させた。
自分は見知らぬはずのものに、何故か懐かしさを覚えていた。朧げだが、絶対に体験したことがあると確信できることに酷い違和感を感じながら、さっきからうるさくなっている声に導かれるように、目を覚ました。
「ちょっと!早く起きなさいよね!!」
「うるさいな〜。てか、いってぇ!おい、リース!起こすときに思いっきり殴っただろ!?」
「言っとくけど、私悪くないわよ?どんだけ揺すっても起きなかった、ロックが悪いんだから。」
(へっ、あとでおばさんにリースが俺のことを思いっきり殴ったこと、チクってやる。幼馴染だからって、容赦しないからな!)
「そんな風に恨めしそうな目で見てると、簡単に考えてることバレるわよ。どうせ私のことをママに告げ口するつもりなんでしょ。そもそも、今日一緒に害獣退治に行くことは結構前から決まってたじゃない。」
確かにそうだった…。今日は7日の内の2日しかない貴重な休みの日。せっかくだし、ピクニックがてら畑を荒らす、猪や鹿を狩ることになってたんだ。ふと、時計を見ると待ち合わせの時間から既に30分も経過していた。
「頼む!ちょっとでいいから準備手伝ってくれ!」
リースの肩を思いっきり掴み頼む。
「べ、別に良いわよ?特に断る理由もないし。」
少し慌てた様子のリースだったが、すぐに手伝いを始めてくれた。俺も手早く準備を始めた。
準備を済ませた俺とリースは住んでいる村からちょっと歩いたところにある、山に来ていた。この山は何度も来ていて既に俺たちの庭みたいなものだった。
「ロック!今日はいい天気だし来れてよかったね!」
長いストレートの黒髪を揺らしながら爽やかにリースは笑う。
(うっ、普段は怖い癖にたまに可愛いんだよな…コイツ。)
「ちょっと、聞いてる?」
一瞬の動揺も逃さず突っ込んでくる。
「聞いてる!俺も今日来れて良かったよ。害獣は見当たらないしただのピクニックで終われそうで良かった。」
「なら良いんだけど。最近何かに悩んでいるみたいだったから。良い気分転換になれたら嬉しい!」
いつも一緒にいるせいか、1ヶ月前から見るやけに現実的な夢について悩んでいたのを見破られている様だった。リースは前からそうだった。数年前、親父が戦争に出て死んでしまった時、親父が死んで悲しんでいる母さんを元気づけるため、無理に明るくふるまっていた俺の苦しみに気付き、支えてくれたのはリースだった。
「あ、ああ。今日はありがとう。本当良い気分転換だよ。それにしても、思ってたより害獣の数が少ないな。」
「そうね。確かに最近目撃した情報が流れてこなかったから、そんな数居ないだろうと、思っていたけれど。」
そんな時、俺は焚火の跡のような物を発見した。
(旅人が野宿でもしたのか?でも、近くに村があるのに、危ない夜の山で一晩過ごすか?)
そんな俺の考えはリースの言葉によって止められた。
「そろそろ山頂に着くわよ。お昼にしましょう。今日は私がお弁当を作ってきたの。」
「ふ〜ん。お前が作ったんだ。」
「なによ?文句ある?」
ジトっとした目でリースが見つめてくる。
「べ、別に?」
文句はない。どころか、リースの作る飯はうまい。が、それを素直に口にするのはなんとなく憚られた。
「ま、別に良いけど。それより山頂に着いたことだし、早く食べてしまいましょう。やっぱりここから見る村は綺麗ね。」
俺は持ってきた木箱を地面に置き並べていく。焼き魚や、ひき肉をこねて焼いたものや、サラダにパンなどバランスよくあった。
(ゲッ、サラダにパプリカある…)
「好き嫌いせず食べなさいよ?」
ニッコリと伝えてくる。
(コイツ…。俺の嫌いなもの知ってる癖して。母さんになんか言われたな?)
「ホラ、早く食べるわよ。いただきます。」
そうして食べ始めるリースに続き、俺も食べ始めた。
「ごちそうさま!ふぅ…食った食った!」
昼ごはんを食べ終わり、お腹をさする。ご飯を食べ終わった後だからか、少し眠くなり目を擦った。
「あんた、昨日も夜遅くまでお父さんの所に、剣を習いに行ってたでしょ。」
「なんだよ?それがどうかしたのか?」
真剣な顔つきと声色になるリースに少したじろぐ。
「戦争はもう終わったのに、剣なんて持つ必要ないよ…。あんた兵士になるつもりなんてないでしょ?」
(リースは俺に傷付いて欲しくないのか…?)
自分に向けられた優しさに少しだけ嬉しくなる。でも。
「確かに戦争は終わった。でも、今後もないとは限らないし、戦争に参加した兵士が国に帰れずに、野盗化する話だってある。俺はもう、遠くから祈るだけで失うのは嫌だ。」
強くて、格好良く、そして頼り甲斐のあった親父。そんな親父は言った。
「もしものことがあったら、母さんを頼む。俺はなにがあっても帰るが、もしかしたら帰りが遅れるかもしれないからな。あと、リースちゃんは守ってあげるんだぞ。あんな良い子滅多に居ない。」
笑いながら俺の頭を撫で、親父は出て行った。あのとき親父が吸っていた、煙草の匂いは今でも思い出せる。
そんな俺の決意を感じたのか、リースは辛そうに言う。
「でも…。」
「はぁ…。ったく。分かったよ。俺は傷付かない。お前を傷付けないために。約束だ。」
小指を差し出しいう。昔から、約束をするときは決まっているのだ。リースは自分の小指を絡めて安心した様に笑った。
「ふあぁ〜。しばらく寝かしてくれ。」
「しょうがないわね。ちょっとだけよ?」
リースの膝に頭を乗せながら、俺はあの夢を見ないことを祈りつつ目を閉じた。
そして、どれくらいの時間が経ったのか体を揺すられる様な感覚で、目を覚ますとリースが泣きそうな目で村の方を指差していた。
「ロック!ロック!あれを…あれを見て!」
咄嗟のことで驚きつつ指を差されていた方を見ると、そこでは山頂からの美しい村の風景が見える筈だった。
「なんで…。なんで村が燃えてるんだ!」
それはとても火事の一言で済ませられるレベルではなかった。村全体が赤くそまり、焦げ付いた匂いはここからでも、余裕で感じ取れる。俺が呆気にとられてると、リースが声をかけてきた。
「ロック!」
「ああ」
村に向かって、駆け出す。山道を駆けるのは危険だが、何年も通った道だ。安定している道は把握している。
全力で駆けて、数十分後。いまだに燃え続けいる村についた。
「リースはそこにいてくれ。俺が見回ってくる!」
「心配しないで大丈夫。」
「でも」
「良いから。私もついていく。」
「分かった。」
取り敢えず、俺たちはリースの家に向かった。道中に死体のようなものはなかった。おそらく村に何かあったときに、決めてあったルールに従って、村とさっきまで俺たちがいた山と中間ほどにある、洞窟に身を隠しているのだろう。少しだけ、安心していると、耳に金属同士をぶつける音が入ってきた。音の元に向かうと──
「お父さん!?」
「ギルさん!」
血塗れで倒れた、ギルさんがいた。近くのは顔以外の全身を鎧で覆った大男がいた。その男の鎧についている血は、おそらくギルさんの返り血だろう。
(村に火をつけたのはコイツだ!多分コイツからみんなを逃すためにギルさんは…。)
頭に血が上るのを感じながら、害獣退治用に、腰に付けた剣を抜きつつ男に向かって突進をする。
左下から右上に、斬りあげる。それを余裕で男が受け止める。鍔迫り合いになりながら、男に問いかけた。
「なぜこんなことをした!!」
「お前は玩具で遊ぶのに、理由が必要なのか?」
目の前が真っ赤に染まり、剣を握る手により力が入った。相手は受け切れないのか体勢を崩し始め、このままいけば押し切ることができるはずだ!
「このまま、押し切れるとでも?!」
その瞬間、あっさりと押さえてつけていた剣は弾かれ、自分も空中に浮き上がる。その隙を狙って、男は腹部を蹴り付け、俺を吹き飛ばした。
「ぐわぁっ!」
背中とお腹にそれぞれ、鈍い痛みが走る。それを必死に押し込め、剣を杖にしながら立ち上がる。
「ロック!もう駄目早く逃げるの!そんなボロボロで戦ったら、死んじゃう!!」
悲痛な声でリースは叫ぶ。しかし、その声を無視し剣先を男に向け、いつでも攻撃をできるように準備をする。
「ロック!もうみんな逃げてるのよ!貴方が戦う必要なんてないじゃない!?」
「何言ってんだ!ギルさんが…!お前の親父がまだ!」
「分かってる!お父さんも助けたい…。でも、ロックにも傷ついて欲しくないの!分かって…?」
「だから、俺がやるんだ!俺は傷つかない。そして、お前の親父を、ギルさんを助ける!」
親を目の前で、殺されるなんてこと絶対に駄目だ!リースには笑っていて欲しい。自分を照らしてくれた太陽は、俺が守る!覚悟を決めて、走り出す。痛む体を無理矢理加速させ、男の目の前にまで来た時に、剣を振り上げ、そして、
投げた。
「な!?」
顔の前に、投げつけられた剣を咄嗟に、男は剣で払った。その隙を狙い、男の頭上を思いっ切りのジャンプで飛び越し、首に腕を絡ませ締める。
「このままおちろ!」
いける!この手は絶対離すつもりはない。こいつが気絶するまで、渾身の力で締め続ける!勝利を確信した瞬間、男は
「このままやられて、たまるかよぉ!」
掴んだ俺ごと高く跳び、背中から地面に落ちていった。
「うわぁあああああ」
既にボロボロだった体に、鉄の鎧でのプレスが加わり思わず、大きな悲鳴を上げた。
「へっ!首から手を離していれば、潰されずに済んだものをよぉ!へっそんなにボロボロじゃ、しばらく動けねぇよな?せっかくだから、お前にそこの娘が酷い目に遭う姿を見せてやるぜ?ありがたく思えよ。」
そう言い、男はリースの元へと歩み始めた。力を振り絞り、「逃げろ」と叫ぼうとしたがそんな力すら、残っていなかった。
(でもっ…!諦めちゃダメだ!俺がここで折れたら、リースはっ!)
もう動かない体を無理矢理動かせ、立ち上がろうとするが、足は生まれたての小鹿のようにプルプルと震え、立つことすらままならない。少しでも、男の足を緩めようと、力を振り絞り男に小石をぶつける。しかし男はチラリとも振り返ることはなく、リースの元へ歩みを進める。
(くそっ!最初からリースだけを逃しておけば…!)
頭の中は後悔でいっぱいだった。だが、後悔なんてしている暇はない。俺がすべきことは、すぐ立って男に立ち向かい倒すことだ。幸い弾き飛ばされた剣は男の後ろ側に落ちている。
(くっ…。やることは分かっているのに!体がついていかねぇ!)
「ぐぉっ…!かっ…」
突然頭痛が走る。あいつに押しつぶされた時に打った頭が今更になって痛むのか、ジクジクと何かが、脳を侵していくのを感じる。そして過去の記憶がフラッシュバックするかのように、全く知らない映像が、連続して写し出される。
「こんなときだってのに…。」
「違う…。こんなときだからだ。」
自分でも何を言っているのか分からなかった。分かることは、リースの命があと数歩だということ。
なのに自分は立ち上がることをせず、頭の中で写し出される、映像を見る。数秒の映像を見るたびに自分が消えていく感覚がありながら、見ることはやめられなかった。そんな俺が、脳内の映像から引き剥がされたのはリースの叫び声のおかげだった。俺が映像なんかに夢中になっているうちに、奴はリースのところまでたどり着いてしまっていた。リースは奴の剣を間一髪で避けることが出来たのか、服は剣で切り裂かれた様な痕があった。
(俺は、馬鹿だ!痛みなんて、リースを守るためなら問題にすらならないのに…。でも、身体強化の魔術を使えば、あいつに追いつけることはできる。魔術?なんだ…?なんで俺は、そんな技術を?でも、今はっ!)
「ドーピング!」
僕は久しぶりに使う魔術による体の変化を確かめる。痛みはあるが、大した問題はないことを確認する。
(そうだ!リースを助けるためなら、痛みなんて!)
俺は、脚に全力の魔力を込めて男に突進する。脚が、溢れそうになる何かに耐えきれず爆発しそうになるのを感じる。この魔術ならば、あいつを倒すのには十分だ。しかし、これは全快時ですら10分が限界だ。
(時間内にケリをつける!)
「そこをどけぇぇぇぇぇ!」
剣など拾う必要もない。あんな鈍より、直接殴った方が遥かに
「ぐがぁぁーーーー!」
───強い。
男の鎧を貫通して、拳は男の鳩尾に入ったあと数メートルの距離、男を飛ばした。普通の人間なら、とっくに意識を失っているはず。だが、まだ驚異は去ってはいなかったことは感じれた。
「ほう。貴様、魔術使いか。そういうことなら、弄ぶのはやめだ。これから、はじまる俺の楽しみを邪魔されちゃたまらねぇ。お前は俺の最強で、殺す。」
ふむ、あの魔力の流れは雷炎か。なら、雷で相殺可能だな。問題はこの体がもつかだが、もたないなら保険を発動させるまでだ。
あいつ、何をしようとしているんだ…?何をしようとしているのかは分からないけど、リースを守るためなら!
「いくぜ!受け止めれるなら、受け止めてみな!俺の最強を!雷炎!」
その光が走ったとき、俺は今までの自分を捨てる覚悟をしていた。そして、思い出される過去の記憶。これから、俺を殺す者の記憶ではなく紛れもない、ロックとしての過去。俺の人生は誰にも胸を張って幸せだったと言える。それは間違いなく、リースのおかげだ。だから、彼女のためなら自分自身すら、惜しくない。だから、彼女に伝えてくれ。リースを守るためなら、どんな傷も傷もじゃない。親父に堂々と見せびらかすことができる勲章だと。
「雷」
転生魔術はようやく成功か。転生先の体に、ちょっとづつ魔力を送り込み、最後に魔術を使わないと、発動しないとは、面倒な魔術だな。とりあえず、目の前のゴミを片付けるか。僕は一刻も早く、強くなって神王を潰さなければいけない。とりあえず、この体を回復するか。今の僕には使えるだろう。
「権能」
ふむ、『権能』は問題なく、使えるのか。回復するついでにあいつも倒せたのはよかっただろう。今はスタート地点にたったばかりだ。とりあえず、この世界で最強の生物を探し、それを倒すところからだな。
「ロック!聞いてるの!?なんでさっきから、無視するの?というか、傷は?あの光は何?どういうこと?」
「リース。僕はしばらく出かけるから、心配しなくてもいい。」
「ねぇ…。貴方ロック?」
ふむ。めんどくさいことになってしまった。あの子は神の落とし子だ。極たまに、神が人と交わり生まれる子供。どうやらこの世界では呪いの子として、恐れられている様だけれど。
「返して!ロックを返して!偽物!入れ替わったの?少なくとも、あいつが魔術を使うまではロックだった。」
面倒くさいことになった。このまま黙ってて、権能を暴発されたらたまったもんじゃないな。
「悪いけど、君のロック君は僕の目的を達成するまで眠っていてもらう。僕はロック君の代わりになった者だ。」
その瞬間空気が変わるのを感じた。
「あんたなんかの目的のためにロックは、居なくなったの!?自惚れないで!あんたなんかにロックの代わりが務まるわけないでしょ!」
彼女は泣きながら叫んだ。それから、しばらくして彼女は泣きやみ、僕に告げた。
「ねぇ。ロックは貴方の目的が達成されるまで、眠るのよね?」
「うん」
「じゃあ私も、それを助けるわ。早く目的を達成すれば、ロックはその分早く帰って来るのよね?」
「まぁそういうことになるかな。」
「なら、連れていって。」
まぁ、1人でやっても2人でやっても大して変わるまい。
「良いよ。」
こうして、僕達は旅立った。神々の王。幾多の世界を束ねる神々をも凌駕する王を倒すために。
ロック…。私ね。私がロックに優しくしたのは、呪い子として村の子供達や、ほかの村の人達に虐められていたとき、自分よりもっと可哀想なロックに優しくすれば、私は不幸じゃなくなるって思えたからなの。
ロックは、そんな私の気持ちをどこかで分かっていたよね。それでも私と一緒にいてくれて、私本当に救われた。私は早くロックに会いたい。
───約束を破ったロックは絶対許さないんだから。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。