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夢の果てにあるもの・・・ 第一章 〜八話〜

「痛っ……」


 意識が戻った永遠とわは、頭部を手で押さえながら辺りを見回す。

 鉄格子の付いたドアと窓。コンクリートで出来た壁と床、部屋の片隅に置いてある一つのベッド。光といえば、窓から入る月の光だけ……。それらを見て、永遠の頭に過ぎったもの、それは……”牢屋?”


「やっと気付いたか」


 低い男の声。永遠は声の主に目を向ける。


 男は牢屋の外に立っていた。暗くてはっきりと顔は見えない。だが両腕に槍らしき物を持っているのは分かった。

この男はきっと監視官であろう。


「あの……」


「何だ?」


「あの少女はどうなったんですか?」


 男は永遠の問いニヤニヤと不気味な笑顔を作り、


「翼の事より、自分の事を心配した方がいいんじゃないか? お前の命は持って一週間だ」


「どういう事?」


「お前は重罪を犯した、処刑されて当たり前だろ」


 そう言って、男は手で首を掻っ切る仕草をする。


「そんな……」


「知らなかったのか?この街で翼を逃がそうとする者は反逆者と見做して処刑されると決まっている。まぁ、知らなかったにしろ、処刑を逃れる事はできない」


 男は笑いながら”痛みは一瞬だ”と言い残し、牢屋を後にした。



 永遠は一枚のシーツが敷かれているベッドに横になる。木で出来ているベッドは硬く、決して寝心地のいいものではない。


「夢だよね?こんなの……現実なわけない」


 独り言のように呟き、首に巻いてある美穂とお揃いで買ったネックレスを両手で握りしめる。


「お母さん、お父さん……美穂……助けて」


 永遠の悲痛な叫び声が、誰もいない牢屋内に虚しく響いた。


 もし、夢から覚める事なくこのまま処刑の日が来たら、一体どうなるのだろうか?ここで死ぬという事は、現実に戻れるのか……。


 永遠は頭の傷口に手を伸ばす。


「痛い……」


 痛みに顔を歪め、そして深い溜息を吐きながらぽつりと呟いた。


「殴られただけでこんなに痛いって事は……」


 永遠は頭を横に振り、死への恐怖に震える身をシーツで包んだ。


 次の朝


「おーい! 起きろ! いつまで寝ているつもりだ」


 男の叫び声によって、永遠は眠りから覚める。


 男は”朗報だ、お前の処刑日が決まった”と永遠に告げる。


「……」


 永遠は黙って俯いている。


「なんだよ、取り乱したりしねぇーのか?お前は死ぬんだぞ」


「いつですか?」


 永遠の冷静な口調に男はムッとした表情を浮かべ、


「明日の朝だ」


「そうですか」


 男は舌打ちをすると、”おもしろくねぇ”と言い残し、場を後にした。


 明日、処刑されると分かった永遠は意外にも冷静だった。


 昨夜、永遠はずっと考えていた。ここで死んでもきっと現実には帰れない。ここでの死は現実での死だろう。もし処刑を免れたとしても、家族や友達の居ない、知らない事ばかりのこの世界で生きていくのは無理だろう。どうせ何処かで野垂れ死にする。それなら一層、今ここで処刑された方が楽なのではないかと……。


 刻一刻と時が進むにつれ、永遠の頭には色んなものが浮かび上がってくる。


 心配性で、優しい母親の顔、いつでも永遠の味方になってくれていた父親、そして……小さい頃から共に喜び、怒り、悲しんできた、いつも隣で笑っていてくれた美穂。


 永遠は目から溢れ出す涙を拭い、鉄格子のついた窓へと近づいた。


 窓の外に見える景色は、辺り一面草原、そして離れた場所に街が見える。


 そしておかしな事に永遠は気付いた。


 紅い光が草原や街を照らしている。ふと空を見上げ、視界に入ったのは、まるで燃えているような真紅な月。


「赤い月?」


 永遠が不思議そうに月を眺めていると、突然、悲鳴のようなものが街の方から聞こえた。


「何?」


 永遠は鉄格子を掴み、悲鳴の聞こえた街の方を見るが、特に変わった様子はないようだった。

「空耳?」


 そう呟いたと同時に、また悲鳴が聞こえた。今度の悲鳴は街のように離れている所からではなく、すぐ近くに聞こえた。


「た、助けてくれー」


 声の主は昨日の監視官だった。監視官は何かから逃げるかのように廊下を走り周っている。


「どうかしたんですか?」


 永遠の声が聞こえなかったのか、それとも答える余裕がなかったのか、監視官は永遠に目もくれず走り去っていった。


「……」


 呆然と立ち尽くす永遠の前に、


「人間……こんな所にもいたか」


 漆黒の髪と瞳、そして背中に見える黒く輝く翼を持った女が現れた。


「お前達人間は罪を重ね過ぎた」


 女は腕を伸ばすと永遠の首を掴む。


「永遠の命をやろう。いや、永遠の絶望といった方が合っているか」


「くっ苦し……」


 首を掴まれた永遠は苦しさに顔を歪ませる。永遠は女の腕を掴もうとするが手に力が入らない。


「もう少しの辛抱だ」


「あっ……」


 意識が遠のき始め、もうダメだと思ったその時、


「待って下さい!」


 先ほどの、白き翼を持つ少女だった。少女は女の腕を掴むと永遠の首から引き離した。


「ゴホッ」


 永遠はその場に崩れ落ち、喉を手で押さえる。


 女は永遠から少女に目を移すと、口調を変え、


「何をしているのですか?その人間をこっちにお渡し下さい」


「嫌です!」


 少女はきっぱりと答え、女の顔を睨みつける。


「どういう事です? 私達は貴方達を守る為に生み出された。なのになぜ人間を庇うのですか?」


「この人は違います!私を助けてくれたんです」


「そんなのは関係ありません。私達はこの街の人間達全員に罰を与えるよう命じられた」


 少女は永遠の前に立ち、両手を広げた。


「やめて! 私の事はいいから逃げて!」


 永遠が叫ぶが、少女はやめようとしなかった。


「盾になったつもりですか?」


「この人だけは絶対に渡しません」


 自分に向けられる少女の真剣な眼差しに、女は溜息を吐くと片手を上に上げた。


 すると何処からともなく、一人の青年が出てきた。


 女と同じ、漆黒の髪と瞳、そして背中に見える黒き翼。


 永遠は青年の顔を見ると同時に声を上げた。


「あの時の!?」


 少し幼い顔をしているが、確かにあの時の……夢の中で会った青年だった。


 青年は永遠に見向きもせず、黒き翼を持った女に問いかける。


「どうかされましたか?」


「私はこの人間に罰を与える。お前は白き翼をあの場所・・へお連れしろ」


「はい、分かりました」


 ゆっくりと近づいてくる青年に少女は足を震わせる。


「来ないで!」


 青年は少女の腕を掴むと背中にある翼を広げた。


 少女は必死に青年の手を振り払おうとしたが、力強く掴まれた腕から離す事は出来なかった。


「早く、白き翼をお連れしろ」


 女は青年にそう命令すると、永遠の方へと歩み寄ってきた。


「すぐ楽にしてやろう」


 女の手が永遠の首に届こうとしたその時、


「やめてーーーー!」


 少女の叫び声と同時に、辺り全体が眩しく光りだした。


 眩しさに瞳を閉じた永遠だったが、段々と意識が遠のくのを感じていた。そして耳に入ってきた女の声。


「くっ、白き翼の能力か」


「(白き翼の能力?あの子が助けてくれたの?)」


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