夢の果てにあるもの・・・ 第一章 〜七話〜
窓から射し込む、太陽の光。
「ん……。眩しい」
永遠は目を擦ると、辺りを見渡した。
「……まだ夢の中か」
ベッドの上から窓の外を覗くと、そこには巻き割りをするエルダとそれを手伝うルットの姿があった。
ルットと目が合い、永遠は手を振る。満面の笑みを浮かべながら、ルットは手を振り返した。
「五、六歳かな?」
エルダも永遠に気付き、手招きをする。
永遠が二人の所に行こうと、客間を出ようとした時、ちょうど同じく、外に出て行こうとしていたサレナに会った。
「おはよう、トワさん。昨日はよく眠れた?」
「はい、おかげ様でぐっすりと眠る事ができました。あっ、何かアタシに手伝える事はありますか?」
サレナはゆっくりと首を横に振り、少しして何かを思いついたのか、両手でパンッと音を鳴らす。
「じゃあ、お買い物に付き合ってもらってもいいかしら?」
「はい!」
永遠とサレナはエルダに買い物に行くと告げると、街へと向かった。
街にはたくさんの人で溢れかえっていた。
「どこかのお店で何か食べましょうか。トワさん、お腹空いるでしょう?」
「いえ、そんな、おかまいなく」
言葉とは裏腹に永遠のお腹は悲鳴を上げる。
「あっ……(夢の中でもお腹って空くんだ……)」
サレナはクスリと笑うと、”遠慮しないで”と言い、永遠の腕を掴むと近くのお店へと入って行った。
二人は席に着き、店員からメニューを受け取る。
「何でも好きな物を注文してね」
永遠はメニューを開くが、
「(よ、読めない)」
昨夜、本棚でみたのと同様、永遠には理解できない文字で書かれていた。
「決まったかしら?」
「えっと、何かお勧めとかありますか?」
「そうねー、これなんかどうかしら?」
サレナはメニューの一部を指すが、やっぱり永遠には読めなかった。
「どういう料理ですか?」
「これは、生魚の中に果物や野菜を入れて焼いて食べるものなの。おいしいわよ」
「じゃあそれでお願いします」
サレナは店員を呼ぶと、いくつかの料理を注文する。
料理を待って約10分。店員が一つずつ、料理をテーブルの上へと並べる。魚の香ばしい匂いに、永遠のお腹はまた悲鳴を上げた。
「ふふ、食べましょうか」
「いただきます」
永遠は両手を合わせる。そしてフォークとナイフを手に取る。
魚にナイフで切口を開けると、果物の甘い香りが漂う。中には果物や野菜がたっぷりと詰められていた。
「おいしそう」
そう言って永遠は一口食べてみる。
「どう?」
「とっても美味しいです!」
「そう、良かった」
料理を食べ終わり、店を出ると、すぐ近くにたくさんの人が集まっていた。二人は人垣の中を割って入っていく。そして、あるものが永遠の目に飛び込んできた。
人垣の中心で鎖に繋がれ座り込んでいる一人の少女。腕や足には痛々しい程の傷があり、少女が普通の人間でない事はすぐに分かった。
金色の髪に透き通るような白い肌、そして背中に見える、白く、輝きを放つ翼。
永遠は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
永遠の隣にいるサレナが言った。
「今月に入って二人目の翼だわ。今日の晩御飯はうんと豪勢なものにしましょうね」
「あの、あの子は一体?」
サレナは永遠の問いに驚いた顔を見せる。
「翼を見るのは初めて?」
「はい。今、初めて見ました」
「翼を持つ者には不思議な力があってね。昨夜、トワさんに渡したペンに付いてた羽も、あの翼から取ったものよ。他にも、翼の血にはどんな怪我や病気をも治癒する力があるの」
永遠は翼の少女に視線を向ける。さっきまであった少女の傷は綺麗に無くなっていた。
ずっと俯いていた少女は顔を上げる。永遠と目が合った。まだ幼い顔をした小さな女の子。
そして永遠の頭の中に突然、言葉が入ってきた。
”助けて下さい”
少女の必死に助けを求める声。
「あの子は一体どうなるんですか?」
サレナは笑顔で答える。
「まず羽を毟り、それから血を抜き取るのよ」
「そんな事したらあの子は……」
「安心して、殺したりはしないわ。翼には再生能力があるから、翼を切り離すか、首を刎ねないかぎり死なないの」
残酷な事をサラッと答えるサレナに永遠は言葉を失った。
”お願いします……助けて下さい……”
嫌でも少女の言葉が永遠の中に入ってくる。
「アタシにはどうする事もできない……」
「どうかした?顔色、良くないわよ」
「ちょっと気分が悪くて」
「人混みに酔ったのかしら?とりあえず、場所を変えましょう」
二人はこの場から離れようとした、が、少女の苦しげな声が、永遠の足を止める。永遠は振り向き、少女の方へと走って行った。
「トワさん! ダメ、戻ってきて!」
サレナの必死な呼びかけも、永遠の耳には届かなかった。
「大丈夫?」
永遠は少女に問いかける。少女は涙を零しながら、永遠の胸に飛び込んできた。
永遠の行動に集まっていた街の住人達はざわめき始める。
「アイツ何してんだ?」
「早く捕まえろ!」
住人達から浴びせられる罵声、中には永遠達に向かって石を投げてくる者もいた。
「お前、どうなるか分かってこんな事をしているのか?」
少女に繋げられている鎖を握る男の問いに永遠は、
「分からない……けど、この子を見捨てる事なんてできない!」
そう叫ぶと同時に永遠は男に体当たりし、男はその場に倒れこんだ。その隙に鎖を奪い取ると、
「走れる?」
少女が頷くのを確認すると、永遠は少女の腕を掴みその場を離れようとした、が。
起き上がった男が永遠の頭目掛けて一本の長い棒を振りかざした。
「うっ……」
その場に崩れ落ちる永遠を見て、周りの住人は感嘆の声を上げる。
少女は自分の指を噛み、流れでた血を永遠の傷口に当てようとしたが、男によって少女と永遠は引き離された。
「私のせいで……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
遠のく意識の中、少女の悲痛な言葉が永遠の頭の中に響く。