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夢の果てにあるもの・・・ 第一章 〜五話〜

 どれぐらいの間、意識を失っていたのだろうか。永遠とわが目を開けるとそこには、深く青い空が広がっていた。真っ白な雲は穏やかに流れ、太陽は眩しく世界を照らしている。


 永遠は慌てて体を起こし辺りを見渡す。辺り一面に草の絨毯が広がっている。永遠がさっきまでいた場所とは明らかに違う。


「また夢の中?」


 永遠はそう思うと、立ち上がり、歩き出した。


 しばらく歩いていると、遠くの方に街がある事に気付いた永遠は、途中、休憩をしながら街へと向かった。


 街が近くに見えてきだした頃には辺りはすでに闇に溶け込もうとしていた。


「そこの娘」


 突然、背後から声をかけられた永遠はびっくりして、声の方に目を向ける。視線の先にいたのは、見た事もない乗り物(タイヤは無く、本体は地上から数cm浮かんでいる低空飛行が可能な二人乗りのバイク)に乗っている男だった。男の見た目は三十代前半でがっしりとした体には無数の傷跡があった。


「あたしが見えるんですか?」


 永遠の問いに男は眉をひそめ、永遠から目線を逸らさずにこう続けた。


「何を言ってるんだかさっぱり分からんな。お前さん、何者だ?見た所、翼は無いようだが……」


「あ、あたしは……」


「そんなに怯えなくてもよい。お前さんに翼が無いのであれば問題はない。もう辺りも暗い、わしが家まで送ってってやろうか?」


「……(どうしよう)」


 この世界に永遠の帰れる場所なんてない。永遠は今にも泣きそうになっていた。男は永遠の腕を掴むと、乗り物の後ろへと永遠を乗せた。


「何か事情があるんだろ?とりあえず、わしの家がそこの街にあるから、着いてから話を聞こう」


 街へはすぐについた。夢で見た街によく似ている。ここが夢なのか現実なのか、今の永遠には不安でいっぱいで考える余裕はなかった。


「わしはバイクを返してくるから、お前さんはここで待っててくれ」


 街の住人は物珍しそうな顔で永遠に視線を向けていた。中には、永遠と目が合うと慌てて逃げる者もいた。


 少しして、男が戻ってきた。


「よし、じゃあ行こうか」


「あの、あたし何か変ですか?皆に見られているような気がして……」


 永遠の問いに男はキッパリと『ああ、変だ』と答え、続けた。


「その服装じゃあ目立つだろうな。お前さんが住んでる街ではそういうのが流行っているのか?」


 永遠は自分の服を見る。普段から部屋着として着ている、黒色の生地にゴールドの刺繍が入ったセットアップ。周りの人達の服装を見ると、古い映画(洋画)などで出てくるような服を身に着けている。


 男の家は歩いてすぐの場所にあった。アンティーク風なレンガで造られた家。男がドアを開けると、小さな子供が走ってきて男に飛びついた。


「パパお帰り!」


 男は笑顔で子供を抱きかかえると、永遠の方に振り向いた。


「息子のルットだ」


 ルットは永遠を見ると、少しテレながらニコっと笑顔を作る。


「わしは着替えてくるから、お前さんはそこの部屋の椅子にでも座って待っててくれ」


 永遠は言われた通りに、居間のような所にある椅子に腰をかけた。


「(ここは何処なんだろう。いつになったら現実に帰れるのかな……)」


 永遠は気付かぬうちに浅い眠りへとついていた。


「ん……」


「ごめんなさい。起こしてしまったわね」


 永遠の目の前に一人の女性がいた。優しそうな顔をした女性。手には毛布を抱えている。


「なにか飲み物を持ってくるわね」


「あっ、お邪魔しています。(まだ夢から覚めてないんだ)」


「事情はあの人から聞いたわ。ゆっくりしていって下さいね」


 女性はニッコリと微笑むと、毛布を永遠に渡し部屋を後にした。

 女性が部屋を出て行くと、永遠は辺りを見渡す。

 TVなどは無く、壁に飾られている沢山の写真、赤い火を放っている暖炉、本棚に並べられている本は見た事もない字で書かれていてタイトルが分からない。。

 永遠は本を一冊手に取り、中を開いた。タイトルと同じで、永遠には何一つ読める文字はなかった。


「これ何語なのかな?言葉は通じるのに。まぁ夢だし、ね。あんまり気にする事でもないかな」


 この時の永遠は所詮は夢だとあまり気にしていなかった。すぐに元の現実の世界に帰れるだろうと……。


 永遠が本を棚に戻すと同時に、男が部屋の中に入ってきた。


「お、目を覚ましたか。よっぽど疲れてたんだな」


 男はそう言うと、テーブルを挟んだ永遠の向かいの席に座った。少しして、女性も戻ってきた。手に持ったトレイの上にティーポットとカップが三つ並んでいた。


「まずは、自己紹介だな。わしはエルダ。んでこっちが妻のサレナだ」


 サレナは軽く頭を下げると、カップをテーブルへと並べた。ティーポットからカップに紅茶が注がれ、部屋に紅茶の香気が広がる。

『有難うございます』と言う永遠にサレナは……。


「熱いので少し冷ましてからお飲み下さいね」


 と言い、エルダの隣の席に腰を下ろした。

 エルダは永遠の方に目を向けると笑顔で言った。


「今度はお前さんの番だな」


「遅くなってすみません。わたしは永遠といいます」


「トワ?服装だけじゃなく、名前も変わっているな」


「あなた!」


 サレナは隣で笑うエルダを睨み付けると永遠の顔を見て頭を下げる。


「いや、悪い悪い。別にバカにしたわけじゃないぞ。ただ珍しいと思ってだな」


「ところでトワさん、ご家族に連絡しなくて大丈夫?心配してらっしゃるかもしれないわ」


 サレナの質問に、


「えっと、その……(本当の事言ってもどうせ信じてもらえないだろうし)」


 永遠は困惑していた。”ここは私の夢の中で”なんて言えるはずがない。

 黙っている永遠にエルダが言った。


「言えない事情でもあるのか?まぁ無理に聞く気はないがな」


「あの、しばらく此処に泊めてもらえませんか?私に出来ることなら何でもお手伝いしますので」


 エルダとサレナは互いに顔を見合わせる。そしてサレナが永遠を見ると、口を開いた。


「ええ、かまわないわ。ただ……」


「ただ?」


「ご両親にきちんと連絡すること。いいかしら?」


「はい!分かりました」


 そう言うと、サレナは”これでいいでしょ”とエルダに顔を向ける。エルダは”ああ”と短く答えると、ニカッと笑った。

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