夢の果てにあるもの・・・ 第一章 〜一話〜
部屋に時計の音が鳴り響く。永遠はゆっくりと体を起こし、時計に手を伸ばす。
「もうこんな時間か」
永遠はベッドから降りるとカーテンを開けた。眩しい太陽の光に目を少し細めながら窓を開く。窓の外に見える景色は永遠が生まれ育った、見慣れた街並。永遠は外を眺めながら昨日の夢の事を思い出していた……。
永遠が居間に行くと、母親が朝ごはんの用意をしていた。
「やっと起きてきたのね。今日、美穂ちゃんと会う約束してるんでしょ?時間は大丈夫なの?」
「うん、あとまだ一時間もあるから大丈夫だよ」
そう言って、永遠はテーブルに並べられた朝食に手を伸ばす。
「なんか顔色悪いみたいだけど大丈夫?」
「だいひょうぶだよ……寝起きだからだと思う」
母の問いに永遠はパンを銜えながら言った。
永遠は夢の話は誰にもしていない。言ってバカにされたり、心配されるのが嫌だからだ。
「いってきまーす」
「気をつけてね」
用意をすませ家を出た永遠は首に巻いてあったマフラーで口元を覆う。まだ冷えが残る2月の下旬。美穂との待ち合わせ場所にはバスで二十分はかかる。バス亭に着くと永遠はベンチに座りバスを待った。ふと空を見上げると、雪が降ってくるのが見えた。永遠はポケットに入れてあった懐炉を取り出し両手で握る。
しばらくして、バスは時間ぴったりにやってきた。
永遠はバスに乗ると一番後ろの窓側の席へと座った。しばらくは窓の外を眺めていたが、バスに揺られていると、段々と意識が遠のいていき、永遠は重たくなった瞼をとじた。
永遠が閉じていた瞼を開けると、またいつもの夢の世界にいた。しかし今回の夢はいつもと違う。街全体が赤色に包まれていた。
炎に包まれた街、逃げ待とう人々。炎はまるで生きてるかのように人々を襲っていた。街の真ん中で永遠はその光景を目の当たりにしている。昨日まで幸せそうに暮らしていた街の人々……。
「(何これ……)」
「ぎィやぁああ!!!」
声にならない叫び声が永遠の耳に入ってくる。人が生きながら焼かれてる。人体が焼ける、嗅いだ事もない臭い……永遠は手で鼻を押さえながら、その場から逃げ出した。
「(いくら夢でもこんなのひどいよ!)」
どれぐらい走っただろうか……。永遠は街から離れた場所に出ると、その場に座り込んだ。
さっきの光景が頭から離れない。
「(もうイヤ……。こんな夢見たくない)」
永遠の背後で物音がし、永遠は慌てて後ろを振り返る。。そこには一人の少年がいた。両腕には何かを抱えている。
「(誰?)」
少年には永遠の姿どころか、声も届かない。
少年はその場に座り込むと、両腕に抱えているものを力強く抱きしめた。少年の瞳から涙が流れているのに気付いた永遠は少年の抱えているものに目をやる。
「(さっきの街の子……あの炎で……)」
少年が抱えていたのは小さな子供だった。さっきの炎にやられたのだろう、皮膚がただれていて顔が分からない。男の子かも、女の子かも……。ただ分かるのは子供が息をしていないという事だけだ。
「ごめんな…ネオ……」
少年は何度もそう言いながら、涙を流し続けていた。
「……」
永遠は少年の傍にいくと優しく後ろから抱きしめた。少年の体はとても小さく、その小さな体には無数の火傷や傷があった。
少年には永遠の姿は見えていない。しかし、少年は背中に感じる、自分を包み込んでくれている温もりには気付いていた。
「……父さん?……母さん?……オレ、ネオの事守れなかった。父さんと母さんの代わりにオレが絶対に守ってやるって、ネオと約束したのに……」
少年は声を上げて泣き続けた。