夢の果てにあるもの・・・ 第二章 〜一話〜
「……おい」
「ん……」
目を開けると、一人の青年が心配そうに永遠の顔を覗きこんでいた。真紅の髪色と瞳を持つ青年。黒いタンクトップから出ている腕にはたくさんの傷跡があった。
「こ……こは?」
青年は安堵した表情を浮かべると、”立てるか?”と言い、永遠に手を差し伸べる。
永遠は差し伸べられた手を掴み、立ち上がる。
青年は永遠の頭の傷に気付くと、腰に吊ってある袋の中から薬草のような物を取り出し、永遠に手渡した。
「それで傷口押さえとけ」
永遠は言われるまま、受け取った薬草を傷口に当てる。
「痛っ」
傷口に沁みる痛みに永遠は顔を歪めた。
「安心しろ、すぐに痛みは消える」
青年の言う通り、少しずつ痛みは和らいでいった。
「それにしても……お前、こんなトコで何してたんだ?」
青年の問いに、永遠は辺りを見渡した。
深い森の中、地面に倒れこんでいる無数の人々。風が吹くと、永遠の鼻先に血の臭いが届く。
「助かったのは、オレ達だけみたいだな……」
青年は寂しげな表情を浮かべた後、握り拳を作り、力強く地面を叩きつける。
「くっそ……翼の奴等め」
永遠は、恐る恐る青年に尋ねた。
「あの、一体何があったんですか?それに翼って?」
永遠の問いに青年は訝しげな表情を浮かべる。
「……何、言ってんだ?」
「えっ」
「お前、何者だ?翼を知らないのか?」
青年の顔は険しくなっていく。
「本当に何も分からないんです。気付いたらここに倒れていて、それまでの記憶がまったく……覚えているのは自分の名前だけで、自分が何処から来たのかも思い出せません」
涙を浮かべながら蹲る永遠を見て、青年は短く呟いた。
「記憶喪失?」
不安気に自分の顔を見つめる永遠に青年は一瞬考え込み、そして溜息を吐くと、
「そう言う事なら仕方ない。お前の記憶が戻るまでオレが面倒みてやるよ」
青年は永遠の腕を掴み、立ち上がらせる。
「いいんですか?」
恐る恐る尋ねる永遠に青年は答えた。
「気にするな、それより……!?」
後ろの草むらに人の気配を感じ、青年は永遠を自分の背に隠すと、背中に吊ってある剣を片手で握ぎる。
「誰だ!?」
青年の問いに返事はない。
「お前はここにいろ」
永遠にそう告げると、青年は片手に剣を持ちながら、ゆっくりと草むらの方へと足を進めた。
「くっ、何だ!?」
突然、頭の中に電気のようなものが走り、青年はその場に倒れ込んだ。永遠は青年の元に駆け寄り、体を揺する、が、青年の意識は戻らない。
草むらがざわざわと揺れている。永遠は震える手で青年の剣を取ると、両手でしっかりと握った。剣は重く、永遠の体はフラつく。
草むらから人影が飛び出してきた。永遠は力を振り絞って、剣を振り上げる。と同時に飛び出してきた人影が両手を挙げて叫んだ。
「待って!切らないで下さい」
人影の正体は一人の小さな少年だった。年は9、10歳ぐらいでハニー色の髪に、翠色の綺麗な瞳が印象的だった。
「え、あ」
少年の姿に安堵し、永遠は剣を地面に置く。
「驚かしてしまってすみません」
少年は頭を下げると、青年の方へと近づく。
「こんなに怪我して」
「その人を知ってるの?」
永遠の問いに少年は少し間を置いて答えた。
「僕の兄です」
「兄弟?(あまり似てないな)」
「はい。翼と闘うと聞いていて、心配で様子を見にきたんです……こんなに傷だらけになって」
少年は心配そうに兄の顔を覗きこんでいる。
そして永遠の方に振り向き、
「兄を運ぶの手伝ってもらってもいいですか?えっと……。お名前を聞いてもいいですか?」
「アタシはトワ。あなたは?」
「トワさんですね。僕はネオ《・・》と言います」
「ネオ、くん?」
何処かで聞いた事のあるような名前に永遠は一瞬首を傾げ考え込んだ。
「どうかしましたか?」
永遠は首を横に振ると、
「ううん、気にしないで。それより早くお兄さんを安全な所に」
「はい、ここから大分離れた場所にですが、街がありますので」
永遠とネオは青年を背負い、ゆっくりと歩き出した。
第二章まで読んで頂き有難うございます!