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「………ま」
なんだろう…?
「……さま」
誰か…呼んでる…?
「…じょ…さま…!」
もう…もう少し寝かせてよ…車に跳ねられて身体中痛い………あれ?…痛くない…
「お嬢様!!」
「ひゃっ!?!?何!?」
「お嬢様!!!良かった…!お目覚めになられて…!いきなりお倒れになられたのですよ!?」
専属メイドのアンナが泣きそうな顔をして私を見ている。
頭がぼーっとする。なんだか長い長い夢を見ていたみたいな、そんな感じ。…いや、あれは夢でもなんでもない。私の前世。エステル・コーデリアになる前の記憶。
「お嬢様…?やはりどこかお怪我でも…!?」
慌てふためくメイドに大丈夫よと言うように微笑む。
「少し頭がぼーっとしているだけよ。大丈夫だから何か飲み物をお願いできるかしら」
その様子にホッとした表情を見せ、すぐにお持ちします!と一礼して部屋から出て行った。
少し頭の整理をしよう。
ここは乙女ゲームの世界で、魔法が主となる物語だ。生まれた時に鑑定士から属性判断の儀式を受ける。どの家庭も幼い頃から魔力を制御する方法は一通り習うが魔法には様々な使い道がある。その使い道を勉強するため貴族は必ず魔法学園へと入学しなくてはならない。
私はその乙女ゲームの悪役令嬢エステル・コーデリア。主人公を魔法や嫌がらせにより孤立させようとする腹黒最悪な令嬢だ。
乙女ゲームの主人公はアリア・マグネストム男爵令嬢。アリアは男爵と平民の間にできた子どもで平民として暮らしてきたが、15歳を機に男爵に引き取られ魔法学園へと入学する。
今私は14歳、来年には魔法学園へと入学する。
その前に前世の記憶を思い出せて良かった…
やるより前にこのゲームの結末等が気になりすぎて親友に色々聞いていたから悪役令嬢の末路も知ってる。
やりすぎた嫌がらせにより私は牢屋行き、そして処刑される…なんて末路だ…
魔法学園へと入学するまで1年ある。
なんとかしないと…でも…何すればいいかわかんないよ〜…
とりあえず…甘いもの食べたいなぁ…
そんなことを考えているとドアをノックする音が聞こえた。
「入って」
「失礼致します。お茶のご用意が出来ました。ついでに少しばかりのクッキーをお持ちしました」
「まぁ!ちょうど食べたいと思っていたの。ありがとう」
エステルはあまりお菓子というものを食べなかった。理由は太るから。
そんなの運動すればいいだけなのに…勿体無い。
私は気にせず食べるわよ!!!
紅茶のおかわりを入れながらメイドが話す。
「明日はハロルド王太子殿下がいらっしゃいますね」
ハロルド・ファン・ミッシェルボルト王太子殿下
私の婚約者にして、主人公にベタ惚れする王子様だ。
記憶を取り戻す前はあんなに大好きだったのに、記憶を取り戻してからは全然興味が湧かない…
主人公に嫌がらせしたのもハロルド様が主人公を構うから嫉妬心でやったことなのだけど、この状態だと大丈夫な気がしてくるわ。
「お嬢様…?大丈夫ですか?」
「え?えぇ、大丈夫よ」
「そうですか…」
メイドの顔から不安が消えず思わずなぜそのような顔をするのか聞いてみた。
「お嬢様、いつもハロルド王太子殿下がお見えになるときは喜んで着る洋服や髪型などお決めになっていたのに…今日はどうなさったのですか?」
なるほど…たしかにその通りだ。
殿下がお見えになるときこれでもかってくらいにおめかしをしていた。
なんていうべきかしら…
「…このところよく考えるのよ。私とハロルド様は不釣り合いなのではないか…と。私のこの性格では一緒になるハロルド様に迷惑がかかってしまうのではないか…だからハロルド様にはもっと相応しい方と幸せになるべきだと思うの」
なんてね〜…でも幸せになってもらいたいのは本当だ。
小さい時に出会って今まで一緒に育ってきた。だからこそ幸せになってもらいたい。
「お嬢様…お嬢様は素敵な方ですよ!!私が保証いたします!!!」
アンナの声に少しびっくりしてしたが、アンナの気持ちがとても嬉しい。
「…ありがとう。…さぁ明日はハロルド様がいらっしゃるから早めに寝てお出迎えしなくては…今日はもう遅いから寝るわ。おやすみなさい、アンナ」
「はい、おやすみなさい。お嬢様」
2人で笑い合い、アンナは部屋を出ていき、私はベットへと横になる。
今の私がハロルド様に会ったらどんな気持ちになるのかな…今は興味ないけど会ったら違うのかな…そんなことを考えながら眠りについた。