宝石たちの宣言にして誓い
「うーん……。」
引き取られてから七年がたった俺はこんな年から進路を迷っていた。
俺を引き取った騎士……名前はガレス・アザレアの話では、貴族の息子という立ち位置になる俺は貴族の寄宿学校に行くのが筋らしいが、ガレス本人がその寄宿学校を嫌っていたため個人的には行かせたくないらしい。
「おーいマーラ。遊ぼーぜ!」
外から俺を呼ぶ声が聞こえる。
因みに、マーラというのは俺のコードネームを少し変えた名前だ。それにしても、あいつがくるということは……。
「……わかったよ、オーパム。」
「にししっ!」
窓から顔を覗かせていたのは光の受け方で色の変わる髪を短く切り揃え、満面の笑顔を浮かべた少年だ。
オーパム、コードネームは『オパール』俺と同じホムンクルスの一体だ。
「それで、どこを壊した。」
「今日は外壁を壊してきたよ。」
三階にあるこの部屋の窓から外を見ると確かに外壁の一部が粉砕されていた。
俺らホムンクルスには特殊な異能が植え付けられていてオーパムの場合は『肉体、物質の電子化』という現代社会の天敵みたいな能力をしている。
「マーラならすぐに直せるだろ?」
「……そうだけどよ。」
俺は窓から飛び降り、崩れた外壁の近くに行き、外壁を直す。
俺の異能は『自然界の物質の操作、創造』である。これはこれである意味反則レベルの異能で、物質を直すことは元より、この世界には存在しない物質を生み出すこともできるのだ。
……まぁ、今はオーパムが粉砕した外壁を直すことにしか使ってないけど。
「他の奴らは?」
「もう来てるよー!」
オーパムが俺の手を引っ張り、裏庭の中で建物の陰になって見えにくい場所に五人の少年少女がいた。無論、全員がホムンクルスだ。
「オーパム……全く、サフィはこれから本を読みたかったのに……!」
「……僕は外に出たくないのに……。」
「何して遊ぶの?」
「ボクもたのしみだよ!」
「こっちは訓練の真っ最中なんだから早くして。」
オーパムを叱りつける青い髪に魚の鰭のようなものが耳についた少女、サフィことコードネーム『サファイア』。
日陰に入って縮こまっている紫色の髪に顔に花のような痣がある少女のような少年、アストことコードネーム『アメジスト』。
興味なさげに持ってきた本を読む瑠璃色の髪に両腕両脚が狼のような少女、ラピスことコードネーム『ラピスラズリ』。
笑いながらオーパムに話しかける水色の髪に剣のような鋭い脚の少女、アクアこと『アクアマリン』。
ひたすらに剣を素振りする赤い髪に体の至るところに蜥蜴の鱗のような物がある少女、ルビーこと、コードネーム『ルビー』。
……うん、いつみても異形な奴らだ。てか、全員が何かしらの異能を持っているとなると小国なら一人で潰せるのでは?
「皆に聞きたいことがあってさ、皆はこれからどうするの?」
やっぱりそれか……。オーパムは一応寄宿学校に行くことになっている。俺らの中で異形の特徴を持ってないのは俺かオーパム、アストぐらいだしな。
「……サフィはオーパムと同じかな。でも、オーパムと違って『魔法科』に入るけど。」
「ボクやラピスもそうだよね?」
「……そう。」
「ぼ、僕もです……。オーパムさんと同じ騎士科です……。」
「あ、私もそうよ。」
俺を除く全員が寄宿学校か……。
ここでいう科と言うのは寄宿学校のコースのようなものだ。基本的に魔法科はこの世界独自の技術、魔法を学ぶ科で、騎士科は主に武術全般を習う科だったはずだ。
「……俺は……騎士にでもなろうかな……。」
俺はぽつりと呟き、決めた。
ガレスの道をなぞる訳でもなく、他のホムンクルスたちと行くわけではない。
寄宿学校に入るのは逃げるためだ。
寄宿学校に入り、ある程度成績を残したらさっさと退学するか、夜逃げする。そして、この世界を見て回るつもりだ。
騎士科に入るのはガレスを説得しやすくするためだ。
「そうかー!……けど、よくよく考えたら俺っちやマーラ、アストはともかく他の人たちは風当たり強くないか?」
オーパムは急に真面目な口調になった。
この世界には昔はエルフやドワーフといった他種族が存在したが、今はいない。祖先帰りでそういった種族の特徴を持った存在の世間からの風当たりが強いのも事実だ。
「最悪の場合は逃げればいいのだから問題ないよ。」
サフィはあっさりと逃げる宣言。
「……Exactly。」
何故か英語答えるラピス
「ボクたちは騎士とか研究職とかに興味ないしねー。」
蹴りを空を裂きながら答えるアクア。
「剣に生きるには騎士という型はじゃま。」
剣で素振りしながら笑うルビー。
俺たちはどうやら同じことを考えていたようだな。
「それじゃあ、宣言しますか。」
「「「「「「宣言?」」」」」」
俺は全員に伝える。
「全員が窮地に陥った時、助け合う。そんな宣言だよ。」
「「「「「なるほど。」」」」」
全員理解したようだな。
「俺たちは何があっても……!」
「「「「「「仲間を見捨てない!」」」」」」
ここに、偽りどおしの誓いが成立した。