ユズルの住まい。
ユズルのマンションはペット可の1LDK。
整然とかたづいてて、家具も必要最小限におさえて、部屋を広く見せている。
殺風景とかじゃなくて。
ユズルらしいなぁって、感じがする。
「へえ。キレイに片付けてるんだ」
煎れてもらったコーヒーに口をつけながら、正直な感想を述べると「必要に迫られて」との返事がかえってくる。
あ、そうか。彼女いるって言ってたもんね。
そう言うと、ユズルは何とも渋い顔をした。
「……来たことないよ」
「へえ。そ……。……は?」
「つーか来れない」
「な、なんでよ?」
ちらり、と私の腕の中のミチルちゃんを盗み見る。
「犬、ダメなんだ」
「ダメ? キライってこと?」
「アレルギーがあるんだって」
ああ。納得したものの、ちょっと複雑。
私の周りにはそんな人がいないから、考えたことがなかったけど。
彼氏がアレルギーもちだったら……キツイなぁ。
私が無類の犬好きなだけに。
……って、いやそんなことより。
いま気づいたけど。
「い、いいの? 私、来ちゃったりして」
「なんで?」
「え。だって、彼女が来ないのに、さ……」
「気にすることないよ。やましいことないんだし」
「そうは言っても……」
さっき、お隣さんと出くわしちゃったよ?
そういうふうに、何も知らない人に見られたら誤解うけるんじゃない?
「気にすることないと思うけど。……じゃ、何か聞かれたら親戚ってことにしといて。ルーに会いに来たって」
「……ルー?」
「あ。そうそう。言うの忘れてたけど。こいつ呼ぶときは今度から『ルー』って呼んで」
「……なんで?」
「母親の名前でなんて呼べるかよ」
苦く吐きすてて「オレ、寝てるから」とユズルは立ち上がる。
「……そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。ねぇ? ミチルちゃん」
「だからやめろって」
「あた。」
額に軽い手刀をくらう。
額を押さえる私に「『ルー』でならすの、大変だったんだから」とユズルはこぼした。
ミチルの名しか反応してくれなくて、それをだましだまし、どうにか「ルー」と呼べば反応するところまでたどりついたのだという。
「了解」
私の返事を確認してから、ユズルはソファに寝転がった。
室内用のボールやおもちゃでミチルちゃん――もとい、ルーちゃん……呼びにくいな。ルー、で、いっか。
ルーとひとしきり遊んで。
陽が傾いてきたし、そろそろ帰ろうか。
そう思ってソファにいくと、ユズルは見事な爆睡中。
……起こすのもなんだか気が引ける。
このまま起こさずにメモ書きでも残そうかと思ったけど。
「ねぇ。ちょっと」
と、とりあえず声をかけてみた。
目をさます気配ないから、体をゆすってみる。
気持ちよく寝てるとこ、ホント、ゴメン。
「……ん……」
半分瞼がおちた寝ぼけ眼で、ぼんやりと私を見ている。
「今日はありがと。帰るね……ぇわぁ!?」
ぼんやりとした目でじっと私を見ていたかと思うと。
ユズルはいきなり私の足……ってか太ももを両腕でつかんで、ソファに押し倒す。
は!? な、何!? 何事!?
押し倒すっていっても、私はソファに座る形で。
いきなりそんな事されたから、体と心の準備ができてなくて、背中をソファに打ち付けてしまった。
「いっつっ!」
小さな悲鳴にもおかまいなく、ユズルは私の太ももを両腕でがっちりガードしている。
「なっ……! 何してんのよ! ちょっと!」
抗議すると、ぱっとユズルは腕を話した。
よかった。話が通じた――。
みたい。と、思う間に、ユズルは座った私の太ももに、頭をのせてくる。
よーするに膝枕。なかば強引な膝枕。
しかも、自分が寝心地がいいように、頭を動かしている。
で、ベストポジションを見つけると、再び寝息をたてはじめた。
「……なんなの……?」
しばらくして、ぼうぜんと、そう、つぶやいた。