表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
背中あわせにつなぐ手を。  作者: 高月 すい
第一章 カウンターの君。
8/119

ユズルの住まい。


 ユズルのマンションはペット可の1LDK。

 整然とかたづいてて、家具も必要最小限におさえて、部屋を広く見せている。


 殺風景とかじゃなくて。

 ユズルらしいなぁって、感じがする。


「へえ。キレイに片付けてるんだ」


 煎れてもらったコーヒーに口をつけながら、正直な感想を述べると「必要に迫られて」との返事がかえってくる。


 あ、そうか。彼女いるって言ってたもんね。


 そう言うと、ユズルは何とも渋い顔をした。


「……来たことないよ」

「へえ。そ……。……は?」

「つーか来れない」

「な、なんでよ?」


 ちらり、と私の腕の中のミチルちゃんを盗み見る。


「犬、ダメなんだ」

「ダメ? キライってこと?」

「アレルギーがあるんだって」


 ああ。納得したものの、ちょっと複雑。


 私の周りにはそんな人がいないから、考えたことがなかったけど。

 彼氏がアレルギーもちだったら……キツイなぁ。

 私が無類の犬好きなだけに。


 ……って、いやそんなことより。

 いま気づいたけど。


「い、いいの? 私、来ちゃったりして」

「なんで?」

「え。だって、彼女が来ないのに、さ……」

「気にすることないよ。やましいことないんだし」

「そうは言っても……」


 さっき、お隣さんと出くわしちゃったよ?

 そういうふうに、何も知らない人に見られたら誤解うけるんじゃない?


「気にすることないと思うけど。……じゃ、何か聞かれたら親戚ってことにしといて。ルーに会いに来たって」

「……ルー?」

「あ。そうそう。言うの忘れてたけど。こいつ呼ぶときは今度から『ルー』って呼んで」

「……なんで?」

「母親の名前でなんて呼べるかよ」


 苦く吐きすてて「オレ、寝てるから」とユズルは立ち上がる。


「……そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。ねぇ? ミチルちゃん」

「だからやめろって」

「あた。」


 額に軽い手刀をくらう。

 額を押さえる私に「『ルー』でならすの、大変だったんだから」とユズルはこぼした。


 ミチルの名しか反応してくれなくて、それをだましだまし、どうにか「ルー」と呼べば反応するところまでたどりついたのだという。


「了解」


 私の返事を確認してから、ユズルはソファに寝転がった。


 室内用のボールやおもちゃでミチルちゃん――もとい、ルーちゃん……呼びにくいな。ルー、で、いっか。

 ルーとひとしきり遊んで。


 陽が傾いてきたし、そろそろ帰ろうか。

 そう思ってソファにいくと、ユズルは見事な爆睡中。


 ……起こすのもなんだか気が引ける。

 このまま起こさずにメモ書きでも残そうかと思ったけど。


「ねぇ。ちょっと」


 と、とりあえず声をかけてみた。

 目をさます気配ないから、体をゆすってみる。

 気持ちよく寝てるとこ、ホント、ゴメン。


「……ん……」


 半分瞼がおちた寝ぼけ眼で、ぼんやりと私を見ている。


「今日はありがと。帰るね……ぇわぁ!?」


 ぼんやりとした目でじっと私を見ていたかと思うと。

 ユズルはいきなり私の足……ってか太ももを両腕でつかんで、ソファに押し倒す。


 は!? な、何!? 何事!?


 押し倒すっていっても、私はソファに座る形で。

 いきなりそんな事されたから、体と心の準備ができてなくて、背中をソファに打ち付けてしまった。


「いっつっ!」


 小さな悲鳴にもおかまいなく、ユズルは私の太ももを両腕でがっちりガードしている。


「なっ……! 何してんのよ! ちょっと!」


 抗議すると、ぱっとユズルは腕を話した。


 よかった。話が通じた――。

 みたい。と、思う間に、ユズルは座った私の太ももに、頭をのせてくる。


 よーするに膝枕。なかば強引な膝枕。

 しかも、自分が寝心地がいいように、頭を動かしている。


 で、ベストポジションを見つけると、再び寝息をたてはじめた。


「……なんなの……?」


 しばらくして、ぼうぜんと、そう、つぶやいた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ