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背中あわせにつなぐ手を。  作者: 高月 すい
第一章 カウンターの君。
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「言葉って大切だよな」


「言葉って大切だよな……」


 そうつぶやいて、ユズルは遠い目をして空を見上げている。


「ねちねちねちねち。うるさい。すぎたことを引きずんないでよ」


 はい。と、ユズルの手にサンドイッチを置くと、私の隣にいたタクが「食べていい?」と純真な眼差しを送ってくる。


「いいわよ。はい。いただきます」

「いただきまーす!」


 子供の甲高い声をあげて、タクは嬉々としてサンドイッチを頬張った。


 時は日曜、場所は近場の運動公園。

 広い芝生がウリの公園は、家族づれの姿が目に付く。


 そこに私とユズル、姉の子供のタクと一緒に来ていた。

 喫茶店でのユズルへの頼みごとが、実はこれだった。


 あの直後、ユズルはぽかんとした表情で固まっていた。

 私も自分が言った意味に気づかず、ただ恥ずかしさにかまけて言葉をつらねた。


 姉の子供を今度の日曜あずかることになったから、一緒に公園につきあってくれないか。と。


「ミチルちゃん同伴で」


 ミチルちゃんがいなけれりゃユズルもいらない。

 ……とは、さすがにいえなかったけどさ。


 メインはあくまでミチルちゃん。

 タクもおまけだ。(ごめん)

 タクの面倒を見るのに付き合ってくれないかと、ユズルに頼んだのだ。

 タクが犬と遊びたがっている。

 そんな口実で。


 ウソじゃないけど。


 早口にまくしたてる私におされて、ユズルはうなずいてしまったのだと、今日になって心境を話した。


 タクは姉が私のアパートに来てあずけていった。

 そのタクをつれて、待ち合わせの公園に行くと、ユズルとミチルちゃんと合流。


 ミチルちゃんを見て、叫びそうになったのを、私は必死に抑えた。


 話どおりの、綺麗なかわいいロングヘアーミニチュアダックフンドー!!


 かわりにタクが「イヌだー!」と叫んで走りより、腕に抱きかかえようと奮闘している。

 5歳のタクでは、両腕で持ち上げるのが限界だ。


 私も抱きたい衝動をがまんして、つきあってくれたユズルにありがとう。と礼をいう。

 ユズルは特に表情の変化もなく「どういたしまして」と頭をさげるだけだった。


 ひとなつっこいミチルちゃんは、タクと駆け回って遊んでいる。


 その様子を私とユズルが遠めに眺めていた。

 そうしてお昼になって、木陰にシートを広げて、作ってきた昼食をみんなで食べている。


 ユズルはさっきから、喫茶店での私の行動をなじってばかり。

 彼いわく「交際を申し込まれたのかと思った」。


「そんなわけ、あるわけないじゃない」


 私は笑ってとばそうとしたけれど、ユズルはじとりとした眼差しを向けて大げさにため息をついた。


「周りはそう思ってないよ」

「……周り?」

「喫茶店にいた人。店員。視線が集中したの、わかんなかった?」

「……うそ」

「ホント。チサトさんの声、デカかったから」

「……そう?」

「そうだったの。……って、なんでそう平然とできんの?」

「え……。だって関係ないじゃない。人がどう思おうとさ」


 そう言うと、ぴくり、とユズルの眉があがったように思ったのは……たぶん気のせいじゃない。


「へえ。そう。こっちの迷惑も考えないでよく言えるよ。あの喫茶店。俺の知り合い結構出入りするんだけど」


「え?」


 そこでようやく、ユズルの気落ち具合がなぜかわかった。

 今後を気にしてるのだ。ユズルには、彼女もいるから。



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