「言葉って大切だよな」
「言葉って大切だよな……」
そうつぶやいて、ユズルは遠い目をして空を見上げている。
「ねちねちねちねち。うるさい。すぎたことを引きずんないでよ」
はい。と、ユズルの手にサンドイッチを置くと、私の隣にいたタクが「食べていい?」と純真な眼差しを送ってくる。
「いいわよ。はい。いただきます」
「いただきまーす!」
子供の甲高い声をあげて、タクは嬉々としてサンドイッチを頬張った。
時は日曜、場所は近場の運動公園。
広い芝生がウリの公園は、家族づれの姿が目に付く。
そこに私とユズル、姉の子供のタクと一緒に来ていた。
喫茶店でのユズルへの頼みごとが、実はこれだった。
あの直後、ユズルはぽかんとした表情で固まっていた。
私も自分が言った意味に気づかず、ただ恥ずかしさにかまけて言葉をつらねた。
姉の子供を今度の日曜あずかることになったから、一緒に公園につきあってくれないか。と。
「ミチルちゃん同伴で」
ミチルちゃんがいなけれりゃユズルもいらない。
……とは、さすがにいえなかったけどさ。
メインはあくまでミチルちゃん。
タクもおまけだ。(ごめん)
タクの面倒を見るのに付き合ってくれないかと、ユズルに頼んだのだ。
タクが犬と遊びたがっている。
そんな口実で。
ウソじゃないけど。
早口にまくしたてる私におされて、ユズルはうなずいてしまったのだと、今日になって心境を話した。
タクは姉が私のアパートに来てあずけていった。
そのタクをつれて、待ち合わせの公園に行くと、ユズルとミチルちゃんと合流。
ミチルちゃんを見て、叫びそうになったのを、私は必死に抑えた。
話どおりの、綺麗なかわいいロングヘアーミニチュアダックフンドー!!
かわりにタクが「イヌだー!」と叫んで走りより、腕に抱きかかえようと奮闘している。
5歳のタクでは、両腕で持ち上げるのが限界だ。
私も抱きたい衝動をがまんして、つきあってくれたユズルにありがとう。と礼をいう。
ユズルは特に表情の変化もなく「どういたしまして」と頭をさげるだけだった。
ひとなつっこいミチルちゃんは、タクと駆け回って遊んでいる。
その様子を私とユズルが遠めに眺めていた。
そうしてお昼になって、木陰にシートを広げて、作ってきた昼食をみんなで食べている。
ユズルはさっきから、喫茶店での私の行動をなじってばかり。
彼いわく「交際を申し込まれたのかと思った」。
「そんなわけ、あるわけないじゃない」
私は笑ってとばそうとしたけれど、ユズルはじとりとした眼差しを向けて大げさにため息をついた。
「周りはそう思ってないよ」
「……周り?」
「喫茶店にいた人。店員。視線が集中したの、わかんなかった?」
「……うそ」
「ホント。チサトさんの声、デカかったから」
「……そう?」
「そうだったの。……って、なんでそう平然とできんの?」
「え……。だって関係ないじゃない。人がどう思おうとさ」
そう言うと、ぴくり、とユズルの眉があがったように思ったのは……たぶん気のせいじゃない。
「へえ。そう。こっちの迷惑も考えないでよく言えるよ。あの喫茶店。俺の知り合い結構出入りするんだけど」
「え?」
そこでようやく、ユズルの気落ち具合がなぜかわかった。
今後を気にしてるのだ。ユズルには、彼女もいるから。