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背中あわせにつなぐ手を。  作者: 高月 すい
第一章 カウンターの君。
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時は熟した?

 相席の一件から、ユズルとは話すようになっていた。

 っていうか、私が積極的に声をかけていた。


 それには理由があった。

 下心満載で、ユズルとの何気ない会話から少しずつさぐりをいれていた。


 ユズルとの関係も好調。

 少なくとも、私が声をかけて、一緒の席で食事をとっていても、嫌がるそぶりは目にしない。


 ……時は熟した。

 そうして私は計画を実行に移したんだ。


 いつものカフェに行くと、ユズルの指定席には他の人が座っていて、私の指定席を見ると真向かいにユズルが座っている。


 これも慣れてしまった日常だ。

 いつのころからか、ユズルはカウンター席が埋まっていると、私の向かい側に座るようになった。


 私も暗黙のうちに受け入れていたんだけど、まさかチャンスが向こうからやってくるとは思わなくて、少しドキっとしてしまう。

 な、なんか緊張してきた……。


 汗ばんできた手を握りしめて、そんな素振りを見せないように気をつけながら、いつもの指定席に向かう。


 気配に気づいたユズルが顔を上げる。

 その彼に軽く挨拶をして席に座った。

 いつものモーニングセットを頼むと、同じメニューが机に二つ並んだ。

 ユズルも食べ始めたばかりだ。


 世間話を交わしてワンクッションおいたあと、私は小さく息をのんで「ねぇ」とつぶやいた。

 声音の違いに気づいたのだろう。

 ユズルが怪訝な面持ちで顔をあげる。


「お願いが、あるんだけど」

「……なに?」

「……その前に、その変なもの見るような目、やめてくれない?」


 ユズルは思いきり眉間に皺を寄せている。

 ユズルのそんな態度に、私は半眼でうめいた。


「だって」とユズルは眉間に皺を寄せたままつぶやく。


「チサトさんの猫なで声。気持ち悪い」

「わ、悪かったわね! かわいくなくて」

「そうじゃなくて。似合ってないから」

「同じじゃない」

「同じじゃないよ」


 ……なんて、平行線をたどる会話をひとしきりして、ふと二人で「……なんの話、してたっけ?」と首をかしげる。

 ユズルとの会話ではよくあることだ。


「あ、そうそう。だからお願いがあるの」

「……きくかどうかわからないけど、一応聞いとく。なに?」

「何よ。その長い前置き」

「ろくなことじゃなさそうだから。聞くまえに断ろうかとも思ったけど、一応聞いてあげる」

「あげるって――」

「なんか下心ありそうだから」


 言ってスープをすすりながら、上目遣いでちらりと私を見るユズル。


 私は思わず「う」っと言葉に詰まった。

 それだけでユズルの言葉を肯定してるもんなんだけど。

 なんでそう鋭いのよ、あんたは。


 そんな私を見て、ユズルは深いためいきをついた。


「チサトさんって、隠し事できないタイプだろ」

「そんなことっ」


 ……よく言われるけど!

 けど、会って日の浅いユズルには言われたくない!


「だから聞いてあげる気になったんだよ。そんなチサトさんの下心って、興味あったから」


 そう言って静かに私を見つめる眼差しに。

 私はいつもとらわれる。

 いつもぽんぽん出てくる言葉が、堰止めされたように詰まってしまう。


 いつもは私が先導をとっているけれど、この時ばかりは舵とりはユズルに移ってしまう。


 私は居心地の悪さに、うつむいてしまった。


「……って……」


 その拍子にもれた言葉も、かぼそいものだった。


「え?」と聞き返すユズルに、私は顔を上げると、勢いにまかせて告げていた。


「私に付きあって!」




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