時は熟した?
相席の一件から、ユズルとは話すようになっていた。
っていうか、私が積極的に声をかけていた。
それには理由があった。
下心満載で、ユズルとの何気ない会話から少しずつさぐりをいれていた。
ユズルとの関係も好調。
少なくとも、私が声をかけて、一緒の席で食事をとっていても、嫌がるそぶりは目にしない。
……時は熟した。
そうして私は計画を実行に移したんだ。
いつものカフェに行くと、ユズルの指定席には他の人が座っていて、私の指定席を見ると真向かいにユズルが座っている。
これも慣れてしまった日常だ。
いつのころからか、ユズルはカウンター席が埋まっていると、私の向かい側に座るようになった。
私も暗黙のうちに受け入れていたんだけど、まさかチャンスが向こうからやってくるとは思わなくて、少しドキっとしてしまう。
な、なんか緊張してきた……。
汗ばんできた手を握りしめて、そんな素振りを見せないように気をつけながら、いつもの指定席に向かう。
気配に気づいたユズルが顔を上げる。
その彼に軽く挨拶をして席に座った。
いつものモーニングセットを頼むと、同じメニューが机に二つ並んだ。
ユズルも食べ始めたばかりだ。
世間話を交わしてワンクッションおいたあと、私は小さく息をのんで「ねぇ」とつぶやいた。
声音の違いに気づいたのだろう。
ユズルが怪訝な面持ちで顔をあげる。
「お願いが、あるんだけど」
「……なに?」
「……その前に、その変なもの見るような目、やめてくれない?」
ユズルは思いきり眉間に皺を寄せている。
ユズルのそんな態度に、私は半眼でうめいた。
「だって」とユズルは眉間に皺を寄せたままつぶやく。
「チサトさんの猫なで声。気持ち悪い」
「わ、悪かったわね! かわいくなくて」
「そうじゃなくて。似合ってないから」
「同じじゃない」
「同じじゃないよ」
……なんて、平行線をたどる会話をひとしきりして、ふと二人で「……なんの話、してたっけ?」と首をかしげる。
ユズルとの会話ではよくあることだ。
「あ、そうそう。だからお願いがあるの」
「……きくかどうかわからないけど、一応聞いとく。なに?」
「何よ。その長い前置き」
「ろくなことじゃなさそうだから。聞くまえに断ろうかとも思ったけど、一応聞いてあげる」
「あげるって――」
「なんか下心ありそうだから」
言ってスープをすすりながら、上目遣いでちらりと私を見るユズル。
私は思わず「う」っと言葉に詰まった。
それだけでユズルの言葉を肯定してるもんなんだけど。
なんでそう鋭いのよ、あんたは。
そんな私を見て、ユズルは深いためいきをついた。
「チサトさんって、隠し事できないタイプだろ」
「そんなことっ」
……よく言われるけど!
けど、会って日の浅いユズルには言われたくない!
「だから聞いてあげる気になったんだよ。そんなチサトさんの下心って、興味あったから」
そう言って静かに私を見つめる眼差しに。
私はいつもとらわれる。
いつもぽんぽん出てくる言葉が、堰止めされたように詰まってしまう。
いつもは私が先導をとっているけれど、この時ばかりは舵とりはユズルに移ってしまう。
私は居心地の悪さに、うつむいてしまった。
「……って……」
その拍子にもれた言葉も、かぼそいものだった。
「え?」と聞き返すユズルに、私は顔を上げると、勢いにまかせて告げていた。
「私に付きあって!」