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背中あわせにつなぐ手を。  作者: 高月 すい
第一章 カウンターの君。
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カフェ仲間。

 相席の一件から、カウンターの君。とは少しずつ仲良くなっていった。

 初めは店で顔を合わせたとき、互いに会釈する程度だったけれど、今ではときどき、私が彼の指定席の隣に行ったり、彼が私の指定席の真向かいに座ったり。

 そんな日々が増えている。


 互いの名前も年齢も判明した。


 彼の名は「三島譲(みしまゆずる)」。

「『ジョウ』じゃないから」と、名を紙面に書いて見せられたとき、前もって釘をさされた。


 彼いわく「名前でさんざんからかわれた」。

 某ボクシングマンガのことだろうと、予想はつくけどさ。


 年は私より一つ下。正直な年齢を答えると「ああ」と妙に納得されてしまった。


 え? 何でよ?


「フツー、そこは驚くトコじゃない?」

「え? なんで?」

「いや、なんでっていうか。同じ年じゃないとわかって何で敬語を使わないの。今までタメ口で話してたでしょ。『年上とは思わなくて失礼しました』って、改めるものじゃないの?」

「……改めてほしい?」

「そんなんじゃないけど。でも……なんかねぇ……」


 何というか、一つのけじめが欲しかった。互いの年齢を認識したってことで。

 だから体裁だけでも、一言、欲しかったってのが本音。これからずっと。なんて要求してないから。


「でも俺、ずっとチサトさん、年上と思ってたから」


 彼は私を「チサトさん」と呼ぶ。

 私の名前は柏木千里(かしわぎちさと)

 年齢は二十四歳。


 ちなみにユズルは二十三歳。


 彼が私を「チサトさん」と呼ぶのは、そうしつけたから。

 話すようになってユズルは「チサト」と呼びすてにするようになった。


 それを私がやめるように告げたのだ。

 恋人でもない異性に呼び捨てにされるのは、好きじゃない。同性の友人はかまわないんだけどね。


 そう告げると、ユズルは目をしばたたせていたけど「ふうん」と納得してくれた。


「いろいろあったんだ」


 ぐっ……!

 変なところで鋭いヤツ!


「否定はしない。そういうわけだから、呼び捨てはやめて。変な誤解もうけたくないしね」


 たかが名前。されど名前。


 カン違いのすえ、当時の恋人とケンカしたこともあるし、片思いの相手に「相手がいる」と誤解をうけたこともある。


 呼び捨てにさせないことでのメリットは、私には多い。「さん」づけがキライな人は苗字で呼べばいいことだし。姓まで敬称をつけろなんて言ってないから。


 言いにくいなら「柏木」で呼んで。

 ユズルにもそう言ったけど、彼は「チサトさん」で通すことにしたらしい。


「誤解を受けたくない人がいるってことか」


 またまた痛いところを突かれて、私は言葉に詰まる。

 なんでそうわかるのよ、あんたは。


「そういうこと。そんなわけだから、協力、よろしく」


 こういうときは、下手に隠すより正直に答えるほうがいい。


 気になる人がいるから。と、正直に答えると「そうなんだ」とユズルは相槌をうった。


 あまり興味がないようで助かった。詳しく聞かれても困るしね。


 そんないきさつでユズルは私を「チサトさん」と呼ぶ。

 私は彼の希望で「ユズル」と呼んでいた。


 私が敬称づけで呼んだときも姓で呼んだときも、ユズルは何とも渋い顔をした。


「チサトさんには合わない」


 ……って。それ、どういう意味よ。


「毅然としてて胸張ってて。上から人を見下ろして指令出すってイメージがあるから」

「……あんたねぇ」

「……って! なんで怒んの」


 軽くユズルの頭をはたくと「理不尽だ」と言いたげな眼差しを向けられた。


「失礼なこと言ってんだから。怒って当然でしょ」

「失礼? ほめたんだけど」

「ほめた? ……どこが」


 眉をよせて問い返すと、ユズルはしごく真面目な顔で「本当なんだけど」とつぶやいた。


 ユズルとはときどき、感覚のずれを感じる。

 私の感覚が人と違うのか、ユズルの感覚が人と違うのか。

 ……できれば後者であってほしい。


 ときどきユズルとの会話は平行線をたどったりするけど。彼との話は、けっこうおもしろいんだ。


 私が見落とすところに気づくから、新たな発見をしたみたいで、少し気分がよかったりする。


 彼いわく「テキパキ物事こなすの見て、年上かなって思ってた」。

 だから私が年上と知っても、特に驚きはなかったのだそうだ。


「なんていうの? ……ボス的……存在?」

「ボスって……あんたねぇ」


 なんだか「ジャイアン」って言われてる気がするけど。


「……じゃなくて。……アネゴ……はだ?」

「いや私に聞かれても」


 そんな感じで。

 ユズルと話してると、こっちの肩の力も抜けてきて。

 ヘンに気をはらずにすむんだ。


 それが、けっこう心地よかったりする。





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