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背中あわせにつなぐ手を。  作者: 高月 すい
第一章 カウンターの君。
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遅れた理由は。

 もともと外食なんてあまりしないから。

 相席なんて初めてなんだけど。

 ……なんというか。

 「間」がもたない。


 はっきりいって初対面同士だし(私は見知っているけれど)、互いの素性なんて全くわからない。

 名前もどこに勤めているのかも(おそらく会社員?)、年齢だってわかんない。


 なんと声をかけていいのかわかんなくて、沈黙が重い。

 ……いや、声をかけていいものか?


 カウンターの君(って、男性に使ってもOKなもの?)にしたって、いつもあんな狭苦しいところを好んでいるんだ。

 多分、人との接触があまり好きでないのだろうから。

(……って勝手に判断)


 そんなことをぐるぐる考えていると「すみません」と彼のほうから声をかけられた。

 完全に不意をうたれて「ぅえ?」と変な声を出してしまう。


「女性と相席なんて、思ってなくて」


 と、うつむいてしごく申し訳なさそうにつぶやいている。


 ……と、いうことは。

 話してなかったのかよ、店員さん。


「気にしないでください」と私は苦笑を浮かべた。

 彼に非は……多分ない。

 確認しなかった点では、私も同罪だから。


 彼からの謝罪のひとことで、変な緊張が体から抜けた。

 もともと私は人見知りしない性格だから、一般常識のある人だとわかると、逆に声をかけていた。

 さっきは「この人、無神経?」との警戒心が先だっていたから、話しかけれずにいたけれど。


「今日は、遅かったんですね」


 私の唐突な質問に「え」と彼は目を丸くした。


 正面から初めて顔を見た。

 前も思ったけれど、年齢はやっぱり同じくらい、かな。

 真摯な眼差しも、全体的な雰囲気も、ヘンにすれた様子はなかった。

 苦手なタイプではない。


「いつもあの席にいるのに」


 言って、後方を振り返る。

 視線の先には、彼の指定席、カウンター最奥の席がある。

 今は知らない誰かが座っている。


 なぜ知っているのか。と言いたげな視線を、彼が私にむけている。

 私は苦笑しながら肩をすくめた。


「私もここの常連。いつもあの席にいるのを見てたから。で、ここが私の指定席」


 その説明に納得してくれたらしく「ああ」と体のこわばりを解いてくれた。

 実はあの席を狙っていた。……なんてことは伏せておこう。


「寝坊?」

「いや、朝は起きれたんだけれど」


 そう言ったとき、モーニングセットが運ばれてきた。

 それを見て、思わず吹き出してしまう。


 彼は注文のさい「いつもの」と告げいてた。


 その「いつもの」が私と同じなんて。


 笑う私を、彼は怪訝そうに見ている。

 ひとしきり笑って、理由を説明すると、彼も苦笑を浮かべた。


「朝、これ食べるのが習慣づいてて。これ食べないと、一日がつらい」


 同感。


「寝坊じゃなかったんなら、どうして遅れたの?」


 食事を始める彼に聞いてみた。

 いつも時間きっかりにあの席にいる彼。

 その彼が遅れた不測の事態というのが気になった。


 食べる合間をぬって、彼は話してくれた。


「ミチルが、逃げ出してね」


 ……朝から修羅場かい。


 どん引きする私の表情に気づいたのだろう。

 慌てて彼は言いつのった。


「イヌだよ、イヌ。家で飼ってる。ドアを開けたスキをついて逃げ出して。慌てて追いかけたけれど、向こうは遊んでくれてるものとカン違いして、さらにどんどん逃げるし。やっと捕まえてて、こうなったってワケ」


「へえ」


 答えながら、自分でも気のない台詞だなぁ。と思った。




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