ヒュドラとの死闘
男の次の獲物は山よりも巨大な化け物であった。
その化け物は七つの蛇の頭を持ち、二本の脚を持つーーヒュドラの先祖とも言うべきモンスターだった。
男はヒュドラに向かって吼える。
大気をも揺るがす咆哮はヒュドラにも届き、ヒュドラが男の方を向く。
男はそんなヒュドラに槍を投擲する。
ドラゴンの時と同様に音を超えるスピードで投じられた槍が唸りを上げてヒュドラの頭の一つに突き刺さり、山よりも巨大なヒュドラが僅かに怯む。
だが、並外れた巨体と耐久力を持つヒュドラにはドラゴンの時同様に倒すまでには至らなかった。
男は雄叫びを上げながら青銅の剣を手に突撃する。
そんな男に地面を砕きながら、無数のヒュドラの頭が迫る。
男はそんなヒュドラの頭の一つを横一文字に切り裂く。
二つに裂け、ヒュドラの頭の一つが地に落ちる。
しかし、それも一瞬の事である。
次の瞬間、ヒュドラの頭は二つに分かれて復活し、再度男に襲い掛かって行く。
男は雄叫びを上げながらヒュドラの頭を切り落としたり、切り裂いたり、様々な手段を投じたがヒュドラの頭は次々と増えるばかりで決定打にはならなかった。
気が付けば、ヒュドラの頭は百を超えていた。
更に男の身体に異変をもたらす。
古来よりヒュドラの血には猛毒があると云われている。
ヒュドラの血を浴びた男はみるみる衰弱していったのである。
男の本能が告げる。
このままでは殺せない、と……。
だが、男の中に逃げると言う選択肢はない。
男は頭からヒュドラの胴に狙いを定める。
百を超える頭を掻い潜り、男は有らん限りの力で剣を振るう。
剣の衝撃波が地を裂き、ヒュドラの身体を両断せんとする。
今度は致命的な一撃を与えた。
だが、そこで男の剣が砕け散る。
過酷な戦いに武器が根を上げてしまったのだ。
男は素手の戦いを強いられる。
だが、男には既にヒュドラを倒すだけの力は残されていない。
ヒュドラの尾が男を捉え、空中高々と舞い上げる。
このまま、男は終わるのだろうか?
ーー否、男の血が、魂がそれを否定する。
突如、男に噛み付こうとした頭が吹き飛ぶ。
そこから現れたのは破壊神の姿をした男であった。
男は吼える。
それだけで雲が裂け、大地が激しく揺れた。
百を超えるヒュドラの頭が再度、男を食らい付こうと襲う。
男の姿が消えたのは次の瞬間である。
ヒュドラが気付いた時には男はヒュドラの裂け掛けた胴体の近くにいた。
男の身体が縮こまり、禍々しい光が男に収縮していく。
そして、男を中心にヒュドラの全身を呑み込む程の巨大な光の爆発が生じる。
その光を受け、地が、天が、そしてヒュドラが蒸発して消えて行く。
巨大な光の円球は徐々に収縮するとそこには文字通り、何も残されてはいなかった。
天が焦げ、地が抉れる。
そんな中、唯一残されているモノがあるとすれば、巨大なクレーターの前に倒れた男位だろう。
ヒュドラの猛毒を受けた男は最早、指一本動かせなかった。
薄れ行く意識の中、男が最後に見たのは弓を持った若者達が自分に駆け寄る姿だった。
ここで男の足取りは一時的に途絶える。




