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立案

「知らなかったー! すごいねデオルグ。どこで教わったの?」


 魔法使いのバンドが好奇心をくすぐられたのかしきりにデオルグの周りをウロウロしながら質問攻めにしている。


「ギルドの解体場でアルバイトをさせていただいた事があったので……」


 デオルグは話をしながら手元も見ずにコボルトの皮をテキパキと剥いでいった。


「お、おいデオルグ。コボルトの皮なんざ剥いでも換金出来無ぇぞ? 手間と時間の無駄だ」


「買い取ってくれますよ?」

「何い?」


「皮革卸のペネロープさんの所で……いくらでも持って来いって言われました」


「あんのガンコジジイ! 俺に言ってた事と全然違うじゃ無ぇか!」


 憤慨するストックの傍でわずか一分程の時間で剥ぎ取られた毛皮の裏側にデオルグは大きな葉を貼り付ける。


「何だそりゃ?」


(なめし)の葉って言われてますけど正式名称はわかりません……この葉っぱの薄皮を剥いで皮の内側に貼り付けると皮が硬くならずにペネロープさんの所に持ち込めるんです」


 僅かな時間で皮の始末を終えたデオルグは今度はコボルトの前足にナイフの刃を立て始めた。


「それは?」


「三年くらい前から東の都でコボルトの前足が縁起物として流行しているらしくて……行商の方が買い取ってくれるんです」

「はああ?」


「なんでも都の女子学生が巾着袋にぶら下げて歩いているそうなんです……」

「でもなあ、コボルトの前足って角質化されててカチカチに硬くなってるんだからそう簡単には……」


 デオルグがコボルトの手首にあたる部分に浅く切り込みを入れて、踵で体重をかけるとポキンと軽快な音を立てて折れる。


「慣れてやがんな……」

「お金になる素材はこれだけです……あと……」


 毛皮を剥がれて丸裸になったコボルトの尻尾のあった近辺を解体用ナイフで抉り取ると小さな袋状の臓器が取り出された。


「これ……コボルトの肛門線なんですが……潰すと物凄い臭いが立ち込めて、嗅ぎつけたコボルト達が無限に引き寄せられますが……どうします?」


「ちょ、ちょっと待て! 先ずは飯を食おう! 食いながらミーティングだ! いいな? まだそいつを潰すなよ?」


 デオルグはポケットの中から小さな竹筒を取り出して、コボルトの肛門線を潰さない様に慎重に入れて蓋を閉じると、一メートル程の穴を魔法で掘るとコボルトの亡骸を放り込んだ。


『閃光』のメンバーは狩場予定地から街道に向かって移動をしながらこれからの予定を話す。


「一度街道まで戻ってそこで作戦会議だ。もうすぐ陽が沈むから夜明かしするかどうかだが……」


 ストックがチラリとデオルグを見やると相変わらずオドオドした態度で手を挙げた。


「あの……夜はコボルトが活発に活動していますが、今夜はそれ程散らばってはいないと思うので、街道付近まで下がれば安全だと思います……明日早朝から引き狩を始めれば夕方にはそこそこ目処がつく気がします……」


「理由を聞いて良いか?」

「あの……先程草刈りをした時にかなりの数の兎がコボルト集落に追い込まれましたので……」


「ははっ、成る程! コボルトも今夜は新鮮な兎で宴会って事か! 危ない橋を渡ってまで人間を襲う可能性は低いな。決まりだ!今夜は街道付近まで下がって夜明かしをする。コボルトと違って新鮮な兎は食えないが街に戻ったら俺達も宴会だ」


 ストックはパーティーメンバーを鼓舞するかの様に宴会を目の前にぶら下げて士気を高めると、いつの間にかデオルグの手には兎がぶら下がっている。


「その兎は?」


「昼に移動した時に兎の通り道をいくつか見つけたので……罠を……」

「あの短時間で仕掛けたのか?」


「兎の罠は歩きながらでも簡単に作れるので……農家さんのアルバイトで、兎の被害が深刻だったので……」


 デオルグは自生している蔓で作ったくくり罠をストックに見せる。


「美味そうだな……」

「この先にも数箇所仕掛けてあるので……」


 兎肉のローストでパーテイーの士気は確実に上がる事となった。



 各自手持ちの岩塩を振りかけて、デオルグがまた何処からか調達して来た薬草の一種を火で炙った後にパリパリと砕いて振りかける。

 ジュージューと脂の踊る音を聞きながら、もぎ取った兎の脚にかぶり付くと口の中からあふれる様な肉汁がたっぷりと染み出て来る。

 薬草のおかげだろうか食べても食べても胃にもたれる事も無く、普段は少食なエルフのウエイトですら兎をペロリとたいらげた。


「時期が良かったんですね、若い兎ばかりだったので一人一羽づつでも丁度良い大きさでしたね」


 余韻を楽しむ様に焚き火の中に食べ終わった後の骨を焼べて香りを楽しむストック達にデオルグが鍋を差し出した。


「グリーンウッドの木を見つけたので新芽を少し摘んで来ました」


 鍋から香る清々しい香りににエルフと魔法使いが素早く反応して自分のカップを差し出した。


「ああ、こんな山の中でお茶が飲めるなんて」

「精霊が喜んでいる」


 全員にお茶がまわったところでストックが明日朝からの動きについてミーティングが始まった。


「明日の動きだが、デオルグ何か案はあるか?」


 口元をおさえて魔法使いのバンドが笑いをこらえる。


「バンド、言いたい事があるなら言え」

「今回の依頼はデオルグさん中心に動いているなって思っただけだよ」


 斥候のバルブもニヤニヤと笑っている。


「いつも通りにしても良いんだぞ?」


 バンドとバルブはブルブルと首を振り口を閉じた。


「あの……生意気な事を言う様ですが、バンドさんは水系統の魔法は得意でしょうか?」

「水なら任せてよ! 水弾の魔法ならちょっとした威力を持ってるよ!」


「あ、いえ……水操作の魔法で良いのですが、僕が狩場の周りに穴をいくつか掘って水を溜めますので、それを操作して噴水を操作していただければ……狩が楽になるかも知れないなと……」

「はあ? 水操作って初等科の頃に夏休みの課題で出されたヤツだから丸一日でも可能だけど……」


 困惑するバンドを遮る様にストックが言葉を挟み込む。


「なあ、デオルグ。お前の言葉を馬鹿にする奴はここにはもういねぇ。だがお前は言葉足らずだ。俺達にも理解出来る様に教えてくれないか?」


 パーテイーメンバーがストックの言葉に頷きながらデオルグに注目するとデオルグはポツリポツリと言葉を紡ぎ始めた。


「するってえと、コボルトは水を怖がるって言うのか?」


「いえ、全部ではないんです。群れがあると四割から五割の個体が水を怖がるらしいので……コボルトを番犬に使えるか研究していた農家さんが水を利用していたらしいです。そのうち普通の番犬まで狂った様に気性が荒く水を怖がる様になったので、解体場の主任さんはコボルトみたいな犬種特有の病気なんじゃないかと話していました。全ての個体に当てはまる事柄では無いので、ギルドの公式情報として流す訳にはいかないとも言ってました。なので狩場を噴水みたいな物で囲んでしまえば一気に押し寄せて来る事は無いかな?と……」


「まあ、どっちにしろ殲滅が目標だから試してみる価値は充分にあるな、じゃあこうしよう。デオルグが刈り取った草むらを囲む様に噴水を配置してバンドは噴水で結界の維持。噴水を抜けて来た個体をバルブが引きつけながら白い棒まで誘導。ウエイトは木の上から今日教わったコボルト三白を狙ってくれ、デオルグのフックの範囲内でだ。俺は棍棒で一匹足りとも後ろに逸さん。以上だ。質問は?」


 パーテイーメンバー全員が肯定の沈黙を返した。





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